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在庫管理や販売管理において、重要度に応じて商品や顧客を分類し、どこに優先的に時間やコストをかけるべきか分からずお困りではないでしょうか。この記事では、ABC分析の基本概念から導入・運用までを体系的に解説します。ABC分析を活用することで、限られた経営資源を効果的に配分し、売上や利益の向上につなげることが可能になります。ぜひ、この機会にABC分析の考え方を整理し、自社の業務改善に役立ててください。
ABC分析とは、在庫管理や販売管理において、重要度に応じて商品や顧客を分類し、優先的に管理すべき対象を明確にする手法です。この分析手法は、イタリアの経済学者ヴィルフレド・パレートが提唱した「パレートの法則(80:20の法則)」に基づいています。
ABC分析では、売上や利益への貢献度などを基準に、商品や顧客を次の3つのクラスに分類します。
実務上は、「売上金額の累積構成比」を基準に上記の割合で線引きするケースが多い一方で、「品目数」ベースで、A:上位20%前後、B:次の30%前後、C:残り50%前後という目安を併用することもあります。いずれにしても、全品目を一律に扱うのではなく、メリハリをつけて管理するための考え方である点がポイントです。
このように分類することで、限られた経営資源を効果的に配分し、重要な商品や顧客に注力することが可能になります。
ABC分析の主な目的は、次のように整理できます。
たとえば、在庫管理ではAクラス商品に重点を置いて欠品を防ぎつつ、Cクラス商品は過剰在庫にならないよう圧縮する、といった運用が可能になります。販売管理では、Aクラス顧客に対してきめ細かなフォローや提案を行い、Cクラス顧客には標準的な対応にとどめるなど、営業リソースの配分も変えられます。
ABC分析の結果を活用することで、経営資源の適切な配分、在庫管理の最適化、販売戦略の改善などが可能となります。これにより、企業の競争力強化と収益性の向上が期待できます。
ABC分析の基となるパレートの法則は、19世紀末にイタリアの経済学者ヴィルフレド・パレートによって提唱されました。パレートは、社会における富の分布が不均等であり、全体の約20%の人々が約80%の富を保有しているという傾向を発見しました。
この「少数の重要な要因が、結果の大部分を決めている」という考え方は、その後品質管理や在庫管理などの分野にも取り入れられ、ABC分析として発展しました。1950年代には、アメリカのゼネラル・エレクトリック社が在庫管理にABC分析を導入し、在庫圧縮とサービスレベルの両立に成功したことで、この手法は広く知られるようになりました。
ABC分析は、主に「売上や利益への貢献度」に着目した分析手法です。一方で、他にも似た目的を持つ分析手法が存在します。
これらの分析手法は、それぞれ着目するポイントが異なりますが、いずれも限られた経営資源を効果的に活用するための手段という点では共通しています。ABC分析は「貢献度」、XYZ分析は「需要変動」、RFM分析は「顧客の行動パターン」というように、目的に応じて使い分けたり、組み合わせて活用したりすることが有効です。
ABC分析を実施する際は、次のステップで進めていくと分かりやすく、抜け漏れも防ぎやすくなります。
まず、ABC分析に必要なデータを収集・整理します。分析対象となる商品や顧客の売上データ、利益データ、取引頻度などを準備しましょう。データの集計期間は、季節性の影響も含めて全体を俯瞰できるよう、通常は1年間程度の実績を用いるケースが一般的です。
データの収集にあたっては、社内の販売管理システムや基幹システム、会計システムなどを活用します。複数システムからデータを引き出す場合は、品目コードや顧客コードの整合性に注意し、重複・欠損がないように確認することが大切です。必要に応じて、関連部門と連携し、正確かつ網羅的なデータを入手するようにしてください。
次に、収集したデータを元に、商品や顧客を売上金額や粗利益額などの基準で降順に並べ替えます。そのうえで、全体に対する売上金額や利益額の累積比率を算出し、ABC分類を行います。
一般的には、売上金額や粗利益額を基準とし、次のような累積構成比で線引きするケースが多く見られます。
こうした分類はあくまで「目安」であり、自社の業種・商品特性に応じて境界値を調整して構いません。データの分類と集計は、表計算ソフト(Excelなど)のソート機能やピボットテーブルを活用すると、効率的かつ再現性の高い形で行えます。
ABCランクを設定する際は、企業の方針や分析目的に合わせて、ランクの境界値を決めることが重要です。たとえば、以下のような検討が考えられます。
ランクの設定にあたっては、次の点もあわせて考慮するとよいでしょう。
ランク設定は一度決めたら終わりではなく、分析の目的や得たいアウトプットに応じて見直していくことが、運用上のポイントです。
ABC分析の結果がまとまったら、各ランクの特徴を踏まえて具体的な施策に落とし込んでいきます。
Aクラスの商品や顧客に対しては、重点的な管理と投資を行い、売上や利益の維持・拡大を図ります。在庫切れを起こさない発注ルールの構築、販促活動の強化、顧客との関係強化などが代表的な施策です。
Bクラスの商品や顧客に対しては、適度な管理と投資を行い、「将来のAクラス候補」として育成します。売上や利益の伸びしろがある商品や顧客を見極め、クロスセル施策や販売チャネルの見直しなど、効果的な打ち手を検討します。
Cクラスの商品や顧客に対しては、管理コストの削減と効率化を図ります。不採算商品の削減や在庫の圧縮、低頻度顧客に対する標準対応への切り替えなどを検討し、経営資源の無駄を抑えていきます。
ABC分析の結果は一度きりではなく、定期的に見直して施策の効果を検証することが大切です。市場環境や顧客ニーズの変化に合わせて、ランク構成や施策内容を柔軟に更新していくことが、継続的な成果につながります。
在庫管理においては、ABC分析を活用することで、重要な商品の在庫を適正に管理し、欠品リスクと在庫過多の両方を抑えることが可能になります。
Aクラスの商品は、需要が高く売上・利益に大きく貢献するため、優先的に在庫を確保し、欠品を極力防ぐ必要があります。安全在庫を厚めに設定し、発注頻度を高めるといった運用が検討されます。
一方、Cクラスの商品は、需要が比較的低く、在庫を持ちすぎると保管コストや廃棄リスクが高まります。このため、発注ロットの見直しや受注生産化、取扱い中止の検討など、在庫のスリム化が重要なテーマとなります。
ABC分析を在庫管理に活用する際は、次の点に注意しましょう。
販売管理においては、ABC分析を活用することで、重要な顧客や商品に対して、メリハリのある販売戦略や営業活動を展開することができます。
Aクラスの顧客に対しては、専任担当者の配置や定期訪問、共同企画の提案など、手厚いフォローを行うことで、取引の継続・拡大を図ります。Aクラス商品についても、販促キャンペーンや特設コーナーの設置など、優先的な施策を検討します。
一方、Cクラスの顧客や商品については、営業訪問の頻度を抑えたり、オンライン対応を基本としたりすることで、営業コストをコントロールします。標準的なキャンペーンや自動メール配信など、効率的な施策と組み合わせることで、全体最適を目指します。
ABC分析を販売管理に活用する際は、次の点に注意が必要です。
ABC分析は非常に実用的な手法ですが、売上や利益といった「定量指標」に強く依存しているため、次のような限界や注意点があります。
たとえば、現時点の売上は小さいものの、将来の成長セグメントに属する商品や顧客は、単純なABC分析だけではCクラスに分類されてしまうかもしれません。こうしたケースでは、他の分析手法や現場の知見と組み合わせ、総合的に判断することが重要です。
ABC分析の効果を最大限に引き出すためには、次のようなポイントを意識するとよいでしょう。
ABC分析は、限られた経営資源を効果的に活用するための強力なツールですが、「数字で見える部分」と「数字では見えにくい部分」の両方を踏まえて運用することがポイントです。継続的な改善活動を通じて、ABC分析を企業の競争力強化につなげていきましょう。
ABC分析を導入し、日常業務の中で定着させるためには、導入手順と運用体制をあらかじめ整理しておくことが重要です。
ABC分析を導入する際は、次のステップに沿って進めるとスムーズです。
導入の初期段階から、「どのような意思決定に使うのか」を意識して進めることで、ABC分析を単なるレポート作成で終わらせず、実際の改善行動につなげやすくなります。
ABC分析を継続的に活用するためには、日常業務の中で回し続けられる運用体制が不可欠です。運用体制を構築する際は、次のような点に留意しましょう。
適切な運用体制を構築することで、ABC分析を「一度きりのプロジェクト」ではなく、「日常的な管理指標」として定着させることができます。
市場環境や顧客ニーズは常に変化しており、商品構成や顧客構成も時間とともに変わっていきます。そのため、ABC分析の結果も定期的に見直し、改善していくことが重要です。
こうした見直しと改善のサイクルを回すことで、ABC分析の精度や現場での納得感が高まり、施策の効果も高めやすくなります。
最後に、ABC分析の導入がどの程度効果を上げているかを測定・評価することも重要です。評価にあたっては、次のような観点が参考になります。
定量指標だけでなく、「重要顧客との関係性が深まった」「在庫に関する会話が部門間でしやすくなった」といった定性的な効果も含めて評価し、改善点と成功パターンを組織で共有することが、継続的な運用の鍵となります。
ABC分析は、重要度に応じて商品や顧客を分類し、優先的に管理する手法です。売上や利益への貢献度に着目して、Aクラス(重要)、Bクラス(中程度)、Cクラス(低い)に分類することで、限られた経営資源を効果的に配分し、重要な商品や顧客に注力できます。
在庫管理では、Aクラス商品の欠品防止とCクラス商品の在庫圧縮を両立させることができ、販売管理では、重要顧客や主力商品の可視化を通じて、営業活動の優先順位を明確にできます。一方で、ABC分析は定量指標に依存するため、定性的な要因や将来性が十分に反映されないという限界もあります。そのため、他の分析手法や現場の知見と組み合わせて総合的に判断することが重要です。
ABC分析を導入・運用する際は、明確な目的設定、データの正確性確保、定期的な見直しと改善、関連部門との連携が鍵となります。こうしたポイントを押さえつつ、継続的な改善サイクルを回すことで、ABC分析を企業の競争力強化と収益性向上につなげていくことができるでしょう。
いいえ、必ずしも固定する必要はありません。売上や利益の累積構成比として「A:70〜80%」「B:90〜95%」といった目安がよく使われますが、自社の業種や商品構成に合わせて調整して問題ありません。重要なのは、分類基準を社内で共有し、継続的に比較・改善できるようにすることです。
一般的には、季節性を含めた全体像を把握するために、直近1年間のデータを用いるケースが多いです。ただし、短期的な傾向を把握したい場合は四半期ごと、長期的な傾向を見たい場合は複数年分を比較するなど、目的に応じて期間を変えることも有効です。
どちらも一長一短があります。売上ベースの分析は直感的で分かりやすい一方、粗利率の低い商品がAクラスに入ってしまうことがあります。利益ベースの分析は収益性を重視できますが、データ取得や計算がやや複雑になることもあります。可能であれば、売上ベースと利益ベースの両方で分析し、結果を比較して判断することをおすすめします。
はい、どちらにも活用できます。在庫管理では商品を対象に、顧客分析では取引先を対象にして同じ考え方を適用できます。ただし、顧客分析では売上や粗利だけでなく、将来性や戦略的重要度なども考慮する必要があるため、RFM分析など他の手法と組み合わせて判断することが有効です。
一概に切り捨てる必要はありません。Cクラスには「戦略的には重要だが現時点で売上が少ない商品」や「将来の成長が期待される顧客」が含まれる可能性もあります。Cクラスの中身を確認し、「縮小・終了すべき対象」と「育成対象」を見極めたうえで、方針を決めることが重要です。
はい、Excelだけでも十分に実施可能です。売上データを商品や顧客ごとに集計し、ソート機能で降順に並べ替えたうえで、累積構成比を計算していけば、A・B・Cクラスを判定できます。ピボットテーブルや関数を活用すると、更新や再分析も効率的に行えます。
事業の特性や環境変化の速さにもよりますが、少なくとも年1回、できれば四半期〜半期に1回程度の頻度で実施することが望ましいです。頻度が低すぎると、環境変化に対応した在庫・販売戦略が打てなくなる可能性があります。
必ずしも専用システムが必要というわけではありません。まずは既存の販売管理システムや会計システムからデータを抽出し、Excelなどで分析するところから始める企業も多くあります。そのうえで、分析対象や頻度が増えてきた段階で、BIツールや専用システムの導入を検討するとよいでしょう。
ABC分析は「貢献度」、XYZ分析は「需要の変動性」に着目する手法です。両者を組み合わせることで、「売上への貢献度は高いが需要変動が大きい商品」や「貢献度は中程度だが需要が安定している商品」といった特徴を把握できます。在庫戦略や発注ルールをよりきめ細かく設計できる点が大きなメリットです。
いきなり「Cクラスは削減します」と打ち出すのではなく、まずは現状把握と可視化のツールとしてABC分析を導入し、現場の意見を聞きながら方針を検討することが重要です。また、「人や部門を評価するためのものではなく、リソース配分を最適化するための共通言語である」という位置づけを明確にし、結果の使い方を丁寧に説明することで、納得感を得やすくなります。