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損益分岐点は、黒字と赤字の境目になる売上高または販売数量です。固定費と変動費を分けて考えることで、最低限どれだけ売れば赤字を避けられるかを把握できます。価格設定、コスト見直し、事業計画に使いやすい指標ですが、単価や原価率が大きく変動する事業では、この数値だけで採算性を断定できません。
損益分岐点とは、収益と費用が一致し、利益がちょうどゼロになる地点を指します。売上高ベースで見ることも、販売数量ベースで見ることもでき、その地点を上回れば黒字、下回れば赤字です。
売上高で表す場合、損益分岐点は「損益分岐点売上高」と呼ばれます。製品やサービス1件あたりで管理したい場合は、販売数量ベースで「何個売れば固定費を回収できるか」を見ます。経営管理では、どちらを使うかを先に決めておくと、目標設定や実績比較の軸がぶれにくくなります。
損益分岐点を把握すると、「赤字を避けるための最低売上高」と「利益が出始める水準」が見えます。売上目標を決めるときに感覚だけで数字を置くのではなく、固定費、変動費率、販売単価と結び付けて検討できる点が経営管理上の利点です。
たとえば、売上は伸びているのに利益が残らない場合でも、損益分岐点と限界利益率を確認すれば、価格設定に無理があるのか、固定費が重いのか、原価率が高いのかを切り分けやすくなります。
損益分岐点は利益がゼロになる基準であり、目標売上高はそこに「確保したい利益」を上乗せして設定する数字です。赤字を避けるだけで足りるのか、投資回収や利益確保まで見込むのかで、経営判断に使う数字は変わります。
損益分岐点は、次のような場面で使われます。
損益分岐点の計算では、固定費、変動費率、販売単価などの前提をそろえる必要があります。前提が曖昧なまま計算すると、数字は出ても判断材料としては弱くなります。
損益分岐点分析では、一般に次のような前提を置きます。
この前提から外れるほど、計算結果は「厳密な答え」ではなく「採算を見るための近似値」として扱う必要があります。
売上高ベースの損益分岐点は、次の式で求めます。
損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ 限界利益率 = 固定費 ÷(1 − 変動費率)
販売数量ベースで見る場合は、損益分岐点販売数量 = 固定費 ÷(販売単価 − 単位当たり変動費)です。
ここでいう固定費は売上高にかかわらず発生する費用、変動費は売上高や販売数量に応じて増減する費用です。売上高から変動費を差し引いた金額が限界利益で、その比率が限界利益率です。
主な用語の整理は、次の表の通りです。
| 項目 | 概要 | 代表例 |
|---|---|---|
| 固定費 | 売上高にかかわらず一定額発生する費用 | 家賃・基本給部分の人件費・減価償却費 など |
| 変動費 | 売上高や販売数量に応じて増減する費用 | 材料費・仕入原価・販売手数料 など |
| 限界利益 | 売上高 − 変動費。固定費の回収と利益の源泉になる | 限界利益率が高いほど、必要売上高は下がりやすい |
たとえば、年間固定費が1,000万円、変動費率が60%の企業を考えます。この場合、限界利益率は40%なので、損益分岐点売上高は次のように計算できます。
損益分岐点売上高 = 1,000万円 ÷(1 − 0.6)= 1,000万円 ÷ 0.4 = 2,500万円
この企業は、年間売上高が2,500万円を超えると黒字に入り、2,500万円を下回ると赤字です。売上高の目標を3,000万円に置くなら、その差額500万円の中から利益と追加投資の原資を確保することになります。
損益分岐点を下げるには、「固定費を減らす」「限界利益率を上げる」の二方向で考えるのが基本です。
| 方策 | 具体例 | 採算への影響 |
|---|---|---|
| 固定費の削減 | オフィス賃料の見直し・外注費の整理・間接部門コストの削減 | 固定費が減るため、黒字化に必要な売上高も下がる |
| 変動費率の改善 | 仕入条件の見直し・生産性向上・歩留まり改善 | 限界利益率が上がり、同じ売上でも固定費を回収しやすくなる |
| 価格戦略の見直し | 値上げ・高付加価値商品の比率拡大・値引き条件の整理 | 1件あたりの限界利益が増え、必要売上高が下がる |
| 販売構成の見直し | 利益率の高い商品の販売比率を上げる | 商品ミックス全体の限界利益率が改善する |
次のようなケースでは、損益分岐点だけで採算を判断するとずれが出やすくなります。
こうした事業では、損益分岐点を月次で見直したり、複数シナリオで試算したりして、営業利益率や資金繰りとあわせて確認する必要があります。
損益分岐点は、計算して終わりではありません。価格、コスト、販売計画のどこを動かすと採算が変わるかを確認して、意思決定につなげることに意味があります。
商品やサービスの価格を決めるときは、売れるかどうかだけでなく、いくら残るかまで見る必要があります。損益分岐点と目標利益をもとに逆算すると、値引き余地の上限や、価格改定が必要になる水準を把握しやすくなります。
固定費と変動費を分けて見ると、どの費用が採算を圧迫しているかを追いやすくなります。たとえば、固定費を1割削減した場合と、変動費率を数ポイント改善した場合で、損益分岐点がどこまで下がるかを比較すると、優先順位を付けやすくなります。
新規事業や新店舗の計画では、投資後に必要となる売上規模を先に把握しておくことが欠かせません。固定費、単価、原価率、販売数量の仮説から損益分岐点を出しておけば、計画が厳しすぎないか、投資回収にどの程度の売上が必要かを検討できます。
設備投資、人員増員、拠点開設、撤退判断では、施策後に固定費や利益率がどう変わるかを確認する必要があります。損益分岐点を比較すると、投資後に必要な売上規模がどこまで上がるかを具体的に見られるため、判断根拠を共有しやすくなります。
A.収益と費用が一致し、利益がゼロになる売上高または販売数量の境目です。この地点を上回ると黒字、下回ると赤字になります。
A.一般的には「固定費 ÷ 限界利益率」、または「固定費 ÷(1 − 変動費率)」で求めます。販売数量ベースで見る場合は「固定費 ÷(販売単価 − 単位当たり変動費)」を使います。
A.変動費は売上高や販売数量に応じて増減する費用で、材料費や仕入原価などが代表例です。固定費は売上にかかわらず発生する費用で、家賃や基本給部分の人件費などが当てはまります。
A.固定費の削減と変動費率の改善が代表的です。加えて、値引き条件や商品構成を見直して限界利益率を高めると、必要売上高を下げやすくなります。
A.使えます。売上単価、変動費率、固定費を整理すれば、必要な売上高や客数の目安を出せるため、価格設定や販促計画の検討に役立ちます。
A.商品構成比を前提に平均的な限界利益率を置き、全体としての損益分岐点を試算する方法が一般的です。主力商品ごとの採算も別に見ておくと判断しやすくなります。
A.単価や原価率が一定という前提で計算するため、価格変動、商品ミックスの変化、在庫増減が大きい事業では実態とずれることがあります。シナリオ別試算や他の指標との併用を前提にしてください。
A.価格改定、固定費増減、大きな投資、商品構成の変化があったタイミングでは見直してください。少なくとも予算策定時や月次管理の節目で確認すると、ずれを早くつかめます。
A.生産量ではなく販売量ベースで分析する必要があります。売上高と売上原価を基準に、実際に販売された数量を前提として計算してください。
A.月次の損益計算書から、売上高、変動費、固定費を分けてみることです。厳密に分けきれない費用は仮置きでもよいので、まず現在の損益分岐点売上高を計算し、改善余地を見つけてください。
損益分岐点は、黒字化に必要な最低売上高や販売数量を把握するための基準です。固定費、変動費率、販売単価の関係を見える化できるため、価格設定、コスト削減、投資判断の土台として使えます。
一方で、単価変動、商品ミックス、在庫増減、準固定費の存在によって、計算結果が実態からずれることもあります。月次で前提を見直し、シナリオ別試算や営業利益率、資金繰りとあわせて確認すると、判断の精度を上げやすくなります。