情報セキュリティリスクを「ゼロ」にすることは現実的ではありません。だからこそ、リスクの発生を抑える予防、起きた兆候を見逃さない検知、被害を広げずに立て直す是正を、バランスよく組み合わせることが重要です。
本記事では、管理策タイプ(予防・検知・是正)の考え方を整理したうえで、各タイプの代表例、導入・運用のポイント、ありがちな落とし穴までを解説します。読み終えたときに「自社では何が不足しているか」「次に整備すべき順番は何か」を判断できる状態を目指します。
管理策タイプとは、情報セキュリティマネジメントにおいて、リスクに対処するための管理策を「目的」で分類した考え方です。管理策は、リスクの発生を未然に防ぐ「予防」、リスクの発生や兆候を早期に捉える「検知」、発生したリスクの影響を抑えて復旧・再発防止につなげる「是正」の3つに整理できます。
ポイントは「対策の種類(ツール名)」ではなく「その対策が何を達成するためのものか」で分類することです。同じツールでも、設定や運用方法によって予防にも検知にも是正にもなり得ます。
各管理策タイプの定義を、実務で迷いにくい形に言い換えると以下の通りです。
「予防=事前」「検知=途中」「是正=事後」と覚えるとわかりやすい一方、実際には検知と是正はセットで機能します。検知できても対応(是正)が弱ければ被害は拡大しますし、是正手順が整っていても検知できなければ対応開始が遅れます。
管理策タイプを適切に組み合わせることで、「起こさない努力」と「起きたときの備え」を両立し、リスクを現実的な水準にコントロールできます。特に現代の情報システムでは、ゼロデイ脆弱性、サプライチェーン、内部不正、設定ミスなど、予防だけで抑え切れない要素が増えています。
そのため、予防偏重になりすぎず、検知と是正で被害を小さく・短くする設計(早期発見と迅速復旧)を組み込むことが、事業継続と信頼維持の観点でも重要になります。
管理策タイプは、リスクマネジメントの「リスク対応(Risk Treatment)」に直結します。一般的な流れに沿って整理すると、次のように理解しやすくなります。
| リスクマネジメントプロセス | 管理策タイプとの関係 |
|---|---|
| リスクの特定 | 業務・資産・脅威・脆弱性を洗い出し、どこに手当てが必要かを決める土台 |
| リスクの分析・評価 | 発生可能性と影響度を見積もり、「予防・検知・是正」の投資配分の判断材料にする |
| リスク対応策の決定 | 予防・検知・是正を組み合わせ、許容できる残余リスクへ落とし込む |
| リスク対応策の実施 | 技術・運用・人・プロセスとして実装し、責任分界と手順を明確化する |
| モニタリングとレビュー | 主に検知が中心だが、是正の訓練・改善、予防の見直し(脆弱性や設定)も含めて回す |
重要なのは「検知=監視ツール」だけに限定しないことです。監査、棚卸し、設定レビュー、訓練結果の振り返りなども、広い意味での検知(見つける仕組み)に含めて設計すると、運用が現実に寄ります。
予防型管理策は、情報セキュリティリスクの発生確率を下げるための管理策です。「攻撃されても大丈夫」より前に、「攻撃・事故が起きにくい状態」を作ることを狙います。
ただし、予防は万能ではありません。脆弱性が未公開の段階で悪用される、正規の認証情報が盗まれる、内部の操作ミスが起きるなど、予防だけでは取り切れない領域が必ず残るため、検知・是正と併せて考える必要があります。
予防型は「入口を狭める」「壊れにくくする」「ミスを起こしにくくする」観点で整理すると理解しやすくなります。
「予防=ツール導入」と捉えるより、業務プロセスに織り込んで事故率を下げる視点が重要です。例えば、特権IDの棚卸しを定期化する、変更管理を厳格にする、といった運用も強力な予防になります。
予防型は、やみくもに増やすと運用負荷が上がり、形骸化しやすくなります。優先順位を付けて段階導入するのが現実的です。
予防の強みは「そもそも起こりにくくする」ことですが、限界も明確です。
そのため、予防だけで安心するのではなく、「抜ける前提」で検知と是正を整備するのが、実務的なセキュリティ設計です。
検知型管理策は、異常や侵害の兆候を早期に見つけ、対応開始を早めるための管理策です。予防で防ぎ切れなかった事象を「小さいうちに見つける」ことで、被害規模と復旧時間を抑えます。
検知の価値は「見つけること」そのものではなく、見つけた後に是正へ繋げ、被害を抑えることにあります。つまり、検知は是正(対応)とセットで設計する必要があります。
検知は「何を観測し、どう異常を判断するか」が核心です。代表例を実務目線で整理します。
検知の設計では、重要資産に対して「通常」と「異常」を定義することが欠かせません。例えば、管理者権限の深夜利用、短時間の大量ダウンロード、通常と異なる国・端末からのログインなど、業務実態に合わせて判断基準を作ります。
検知は「導入して終わり」になりやすい領域です。アラートが鳴り続けて疲弊し、結局見なくなる、という失敗を避けるために、運用を前提に整備します。
検知の限界を踏まえると、「見つけたら、どこまで・何分で・誰が動くか」を決めることが、検知の価値を実務で成立させる鍵になります。
是正型管理策は、インシデントが発生した後に、被害を最小化し、復旧し、再発防止へつなげる管理策です。重要なのは「復旧する」だけで終わらせず、封じ込め・復旧・恒久対策までを一連の流れとして回すことです。
インシデント対応は、平時の準備がないと現場が混乱しやすい領域です。是正型管理策は「いざというときに動ける組織能力(レジリエンス)」そのものだと言えます。
是正は「事後対応」ですが、準備がなければ機能しません。特にバックアップは、取得していても復元できないケースが起こり得るため、復元テストまで含めて設計します。
是正対応は、状況によって前後しますが、基本の型を持つことでスピードと品質が上がります。
この流れの中で「封じ込め」と「証跡保全」はトレードオフになる場合があります。即遮断するとログや揮発性データが失われることがあるため、判断基準(優先順位)を事前に定めておくと迷いが減ります。
是正の強さは、最終的に「同じ事故を繰り返さない」ことに表れます。是正で得た学びを、予防(入口対策)と検知(監視設計)へ戻すところまでを、運用サイクルとして回すことが重要です。
管理策タイプ(予防・検知・是正)は、情報セキュリティリスクを現実的にコントロールするための基本概念です。予防で発生確率を下げ、検知で早期発見し、是正で被害を抑えて復旧・再発防止へつなげることで、多層的な対策が成立します。
実務では「予防だけ」「検知だけ」にならないよう、重要資産に対して三つのタイプが揃っているかを点検し、足りない部分から順に整備していくことが、システムの安全性と信頼性を高める近道になります。
セキュリティ対策を「起こさない(予防)」「早く気づく(検知)」「広げず戻す(是正)」の目的で分類する考え方です。
十分ではありません。未知の脆弱性や認証情報の窃取など、予防だけでは取り切れないため検知と是正が必要です。
検知だけでは不十分です。検知後に誰が何をするか(是正)が整っていないと被害は拡大します。
含まれます。封じ込め、復旧、原因分析、再発防止までを通して是正として扱います。
使えます。設定ミス、誤送信、端末紛失などの事故にも同じ枠組みで整理できます。
重要資産に絞ってルールを見直し、しきい値や条件を調整して運用負荷を下げることが有効です。
復旧の要ですが、それだけでは不十分です。改ざんされない保管方式や復元テストまで含めて設計する必要があります。
優先順位を付けて段階的に揃えるのが現実的です。重要資産から予防・検知・是正が一通り回る形を作ります。
作るだけでは不十分です。定期的な見直しと訓練で、実際に動ける状態にしておく必要があります。
重要資産ごとに「予防があるか」「検知できるか」「是正で戻せるか」を点検し、欠けている部分から整備します。