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スロットリングとは? 10分でわかりやすく解説

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UnsplashKevin Kandlbinderが撮影した写真      

急増するトラフィックや大量のリクエストによって、Webサービスやアプリケーションがダウンしてしまうことはありませんか?この記事では、そうした問題を未然に防ぐための手法である「スロットリング」について、初心者にもわかりやすく解説します。スロットリングの基本的な仕組みから具体的な実装方法まで、体系的に学ぶことで、安定したシステム運用のための知識が身につきます。

スロットリングとは何か

スロットリングの定義と概要

スロットリングとは、システムへの過度な負荷を防ぐために、一定期間内に処理できるリクエストやトラフィックの量を制限する手法のことを指します。大量のリクエストが同時に発生した場合、サーバーやアプリケーションに過剰な負荷がかかり、パフォーマンスの低下やシステムダウンにつながる可能性があります。スロットリングは、こうした事態を未然に防ぐための重要な制御手法の一つです。

スロットリングが必要とされる背景

近年、インターネットの普及とともに、Webサービスやアプリケーションの利用者数は飛躍的に増加しています。同時に、大量のリクエストが集中するイベントや、DoS攻撃などのサイバー攻撃も増加傾向にあります。こうした状況下では、システムの安定性とパフォーマンスを維持するために、適切な負荷分散と制御が不可欠です。スロットリングは、こうした課題に対応するための有効な手段の一つとして注目されています。

スロットリングの目的と効果

スロットリングの主な目的は、以下の通りです。

  1. システムの安定性とパフォーマンスの維持
  2. サービスの可用性の向上
  3. リソースの効率的な利用
  4. DoS攻撃などのサイバー攻撃の影響を最小限に抑える

スロットリングを適切に実装することで、システムへの過度な負荷を防ぎ、安定したサービス提供を実現できます。また、リソースを効率的に利用することで、コスト削減にもつながります。

スロットリングの基本的な仕組み

スロットリングの基本的な仕組みは、以下のようなステップで構成されています。

ステップ内容
1. リクエストの監視システムへの入力リクエストを監視し、一定期間内のリクエスト数をカウントする。
2. 制限値の設定一定期間内に許容するリクエスト数の上限(制限値)を設定する。
3. リクエストの制御リクエスト数が制限値を超えた場合、新たなリクエストを一時的に拒否するか、処理を遅延させる。
4. 制限の解除一定期間が経過し、リクエスト数が制限値を下回った場合、制限を解除し、通常の処理を再開する。

スロットリングの具体的な実装方法は、システムの特性や要件に応じて異なります。適切なスロットリング戦略を策定し、柔軟に調整することが重要です。

スロットリングの具体的な手法

スロットリングを実装する際には、さまざまな手法が用いられます。ここでは、代表的な4つの手法について詳しく解説します。

リクエスト数による制限

リクエスト数による制限は、一定期間内に受け付けるリクエストの総数に上限を設ける手法です。例えば、1分間に100件までのリクエストを受け付け、それ以上のリクエストは一時的に拒否するといった方法が考えられます。この手法は、比較的シンプルで導入しやすいという利点があります。ただし、リクエストの内容や処理時間を考慮していないため、柔軟性に欠ける面もあります。

処理時間による制限

処理時間による制限は、一定期間内におけるリクエストの処理時間の合計に上限を設ける手法です。例えば、1分間の処理時間の合計が30秒以内に収まるように制限するといった方法が考えられます。この手法は、リクエストの内容や処理の重さを考慮できるため、より柔軟で効果的なスロットリングが可能です。ただし、処理時間の計測や制御が複雑になる場合があります。

ユーザー単位での制限

ユーザー単位での制限は、個々のユーザーごとにリクエスト数や処理時間の上限を設ける手法です。例えば、1人のユーザーが1分間に10件までのリクエストを送信できるように制限するといった方法が考えられます。この手法は、特定のユーザーによる過度な利用を防ぐのに効果的です。ただし、ユーザーの識別や管理が必要となるため、システムの複雑性が増す可能性があります。

優先度に基づく制限

優先度に基づく制限は、リクエストの重要度や緊急度に応じて、処理の優先順位を決定する手法です。例えば、重要なリクエストを優先的に処理し、それ以外のリクエストは一時的に保留するといった方法が考えられます。この手法は、リソースの効率的な利用と、重要なタスクの確実な実行を両立するのに役立ちます。ただし、優先度の判断基準の設定や、複雑な制御ロジックが必要となる場合があります。

以上の4つの手法は、それぞれ特徴や利点が異なります。システムの要件やニーズに合わせて、適切な手法を選択し、組み合わせることが重要です。また、スロットリングの設定は、運用状況を見ながら継続的に調整し、最適化していくことが求められます。

スロットリングの実装方法

スロットリングを実装する際には、システムのアーキテクチャや要件に応じて、さまざまな層で制御を行うことができます。ここでは、アプリケーション層、ミドルウェア層、インフラ層での実装方法と、設定やチューニングのポイントについて解説します。

アプリケーション層でのスロットリング

アプリケーション層でのスロットリングは、アプリケーションのコード内で直接制御を行う方法です。この方法では、リクエストを受け付ける際に、一定期間内のリクエスト数や処理時間をカウントし、制限値を超えた場合にリクエストを拒否するロジックを実装します。アプリケーション層での実装は、きめ細かな制御が可能である一方、アプリケーションの複雑性が増す可能性があります。

ミドルウェア層でのスロットリング

ミドルウェア層でのスロットリングは、アプリケーションとインフラの間に位置するミドルウェア製品やフレームワークを活用する方法です。例えば、APIゲートウェイやロードバランサー、Webサーバーなどのミドルウェアに、スロットリング機能を組み込むことができます。この方法では、アプリケーションのコードを変更することなく、一元的にスロットリングを管理できるという利点があります。

インフラ層でのスロットリング

インフラ層でのスロットリングは、ネットワーク機器やクラウドサービスの機能を利用して制御を行う方法です。例えば、ファイアウォールやトラフィック制御装置、クラウドのセキュリティグループなどを用いて、特定のIPアドレスやポートに対するアクセスを制限することができます。この方法は、システム全体のトラフィックを制御するのに適しています。ただし、アプリケーションレベルでの細かな制御は難しい場合があります。

スロットリングの設定とチューニング

スロットリングを効果的に機能させるためには、適切な設定とチューニングが不可欠です。制限値の設定では、システムの処理能力や予想されるトラフィック量を考慮し、適切な上限値を決定する必要があります。また、制限値を超えたリクエストの扱いについても、単に拒否するのではなく、一時的に保留したり、優先度に応じて処理したりするなど、柔軟な対応が求められます。

運用開始後は、実際のトラフィックや処理状況を監視しながら、スロットリングの設定を継続的に見直し、最適化していくことが重要です。システムの負荷状況や応答時間、エラー率などの指標を定期的にチェックし、必要に応じて制限値や制御方式を調整します。また、急激なトラフィック増加やDoS攻撃などの異常事態に備え、緊急時の対応手順を用意しておくことも推奨されます。

スロットリングの実装は、システムの安定性と可用性を確保する上で欠かせない取り組みです。アプリケーション層、ミドルウェア層、インフラ層のそれぞれで適切な手法を選択し、設定とチューニングを丁寧に行うことで、システムを過負荷から保護し、安定したサービス提供を実現することができるでしょう。

スロットリング導入の留意点

スロットリングによる影響の把握

スロットリングを導入する際は、システムやサービスへの影響を十分に把握することが重要です。リクエストやトラフィックを制限することで、一部のユーザーにとっては利便性が低下する可能性があります。また、スロットリングの設定によっては、本来処理すべきリクエストまで拒否してしまうリスクもあります。事前にシステムの特性を分析し、スロットリングがもたらす影響を予測しておく必要があるでしょう。

適切なしきい値の設定

スロットリングを効果的に機能させるためには、適切なしきい値(制限値)を設定することが不可欠です。しきい値が低すぎると、通常の利用でも制限が発動してしまい、サービスの利便性が損なわれます。逆に、しきい値が高すぎると、過負荷の防止効果が十分に得られません。システムの処理能力や予想されるトラフィック量を考慮しながら、最適なしきい値を見極めていく必要があります。また、運用状況に応じて柔軟にしきい値を調整できる仕組みを用意しておくことも重要です。

エラーハンドリングの設計

スロットリングが発動した際には、適切なエラーメッセージやステータスコードを返すことが求められます。単に「リクエストを拒否した」というだけでは、ユーザーにとって分かりにくく、混乱を招く恐れがあります。スロットリングによって制限された旨を明確に伝え、必要に応じて代替手段や再試行のタイミングを提示するなど、ユーザーフレンドリーなエラーハンドリングを設計することが重要です。また、エラーログを適切に記録し、システムの監視や改善に役立てることも忘れてはいけません。

スロットリング状況のモニタリングと改善

スロットリングの運用開始後は、その効果や影響を継続的にモニタリングし、必要に応じて改善を図ることが大切です。スロットリングの発動頻度や、制限されたリクエストの内容、システムのパフォーマンスなどを定期的にチェックし、しきい値の再設定や制御方式の見直しを検討します。また、ユーザーからのフィードバックにも耳を傾け、サービスの利便性とシステムの安定性のバランスを適切に保つよう努めましょう。スロットリングは固定的な仕組みではなく、状況に応じて柔軟に進化させる必要があります。

スロットリングは、システムを過負荷から守るための強力な手法ですが、導入には十分な注意が必要です。影響範囲の見極め、適切なしきい値の設定、分かりやすいエラーハンドリング、継続的なモニタリングと改善など、様々な視点から入念に設計し、運用していくことが求められます。

まとめ

スロットリングは、システムへの過度な負荷を防ぎ、安定したサービス提供を実現するための重要な制御手法です。リクエスト数や処理時間、ユーザー単位での制限、優先度に基づく制御など、様々な手法を状況に応じて適切に選択し、アプリケーション層、ミドルウェア層、インフラ層のそれぞれで実装することが可能です。スロットリングの導入には、影響範囲の把握、適切なしきい値の設定、分かりやすいエラーハンドリング、継続的なモニタリングと改善が不可欠です。スロットリングを効果的に活用することで、システムの安定性と可用性を高め、ユーザーに質の高いサービスを提供し続けることができるでしょう。

記事を書いた人

ソリトンシステムズ・マーケティングチーム