UnsplashのGiammarco Boscaroが撮影した写真
インターネットの発展に伴い、コンピュータやネットワークは社会インフラとして広く普及しました。一方で、不正アクセスやマルウェア感染、DDoS攻撃などにより、企業・組織の業務が停止する被害も増えています。
この記事では、サイバー犯罪に対する刑罰の一つである「電子計算機損壊等業務妨害罪」について、概要や構成要件、典型例、企業が取るべき実務上の対策を整理します。なお、本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別案件の法的判断については弁護士などの専門家にご相談ください。
電子計算機損壊等業務妨害罪とは、他人の業務で使用する電子計算機(コンピュータ)や、その用に供する記録媒体に対し、損壊行為を行う、または虚偽の情報や不正な指令を与えるなどして、本来の使用目的に沿う動作をさせない(または使用目的に反する動作をさせる)ことにより、人の業務を妨害する行為を処罰する犯罪類型です。
本罪は刑法第234条の2に規定されており、同条第2項により未遂も処罰対象とされています。1987年(昭和62年)の刑法改正で新設され、未遂処罰規定は後の刑法改正で追加されました。
法定刑は「5年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金」です。なお、2025年6月1日施行の刑法改正により、同日以降は従来の懲役・禁錮が拘禁刑に一本化されています。
実務では、次のポイントを押さえて要件を確認すると理解しやすくなります。
ここでいう「電子計算機等」には、業務に使用するコンピュータ本体だけでなく、その用に供する記録媒体(例:HDD、SSD、USBメモリ等)も含まれます。クラウド環境であっても、業務目的で利用され、当該業務との結び付きが具体的に認められ、障害や改ざんが発生した場合に業務の遂行へ実質的な影響を及ぼすと評価される場合には、「電子計算機等」に該当し得ると解されています。
「損壊」は物理的な破壊に限られません。電子計算機等の機能を不能にする行為や、業務に支障を来す程度に機能を著しく低下させる行為も含まれます。たとえば、端末やストレージの破壊、システム破壊型マルウェアによるデータ消去などが該当します。
「業務の妨害」とは、単なる不快感や軽微な支障にとどまらず、業務の遂行が実質的に阻害されたと評価できる状態を指します。たとえば、サーバーダウンによる受注停止、基幹データベースの破壊による出荷停止、認証基盤の停止により業務に必要なログインができなくなる状態などは、業務妨害に該当するかが問題となりやすい類型です。
典型例としては、次のような行為が挙げられます。実際に該当するかどうかは、行為の目的や態様、影響、証拠関係などを踏まえて個別に判断されます。
本罪に該当しないよう注意するだけでなく、現実には「被害を受けないこと」「被害を小さくすること」「発生時に対応できること」が欠かせません。
電子計算機損壊等業務妨害罪は、業務に使用する電子計算機等に対する損壊や不正指令などにより、使用目的に沿う動作をさせない、または反する動作をさせて業務を妨害する行為を処罰する犯罪です。刑法第234条の2に規定され、法定刑は5年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金で、未遂も処罰対象とされています。
企業にとっては、刑事責任の有無にかかわらず、被害を防ぐための予防策と、発生時の被害抑止・復旧対応をあらかじめ整えておくことが重要です。万一の際には、警察や弁護士、フォレンジックなどを担う専門ベンダーとも連携し、適切な対応を進める必要があります。
他人の業務を妨害する目的で、業務用の電子計算機等を損壊したり不正な指令を与えたりして、使用目的に沿う動作をさせない行為などを処罰する犯罪です。
刑法第234条の2に規定されています。
業務に使用するコンピュータ本体だけでなく、その用に供する記録媒体(例:HDD、SSD、USBメモリ等)や、業務との結び付きが具体的に認められるクラウド環境も含まれます。
物理的破壊に限らず、マルウェアなどにより機能を不能にする、または業務に支障を来す程度に機能を著しく低下させる状態を指します。
大量通信などにより、その結果として業務の遂行が実質的に阻害されたと評価される場合には該当し得ます(成立の可否は個別事情で判断されます)。
業務用の電子計算機等に不正な指令を与える、または使用目的に沿う動作をさせない形で業務を妨害することになれば該当し得ます(個別事情で判断されます)。
成立には、他人の業務を妨害する目的をもって行為に及び、結果として業務妨害が生じることを認識・認容している故意が必要です。
5年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金で、未遂も処罰対象です。
アクセス制御、脆弱性対応、マルウェア対策、ログ監視、バックアップ、従業員教育などを組み合わせ、インシデント対応手順も整えておくことが重要です。
証拠保全を意識しつつ影響範囲を確認し、社内手順に沿って関係機関や弁護士などの専門家への相談・通報を検討します。