サイバー攻撃は、脆弱性だけでなく、設定ミス、権限の過剰付与、公開資産の把握漏れ、運用の穴など「露出(Exposure)」の積み重ねから現実のインシデントに発展します。CTEM(Continuous Threat Exposure Management)は、こうした露出を“見つけて終わり”にせず、優先順位を付け、検証し、組織を動かして改善を回すための継続的な枠組みとして整理されています。
CTEMは「継続的な脅威露出管理」を意味し、組織のIT環境に存在する露出(攻撃につながり得る弱点)を継続的に洗い出し、リスクに応じて対処を進める考え方です。単に脆弱性スキャンの結果を積むのではなく、攻撃者目線で“いま問題になりやすい露出”を見極め、改善のサイクルを回す点に特徴があります。
「露出」には、未修正の脆弱性だけでなく、公開設定の誤り、使われていないが外部公開されている資産、不要に強い権限、認証・アクセス制御の不備、サードパーティ経由の抜け道などが含まれます。CTEMは、こうした多様な露出を横断的に扱い、セキュリティ投資や運用判断を“現実のリスク”に寄せていくことを目指します。
CTEMは"Continuous Threat Exposure Management"の略で、継続的に露出を評価・是正するためのフレームワークとして語られます。実務的には「どこまでを対象にするか(範囲)」「何が露出か(定義)」「何を優先するか(優先度)」「本当に悪用できるか(検証)」「改善を回す(実行・定着)」までを一連の運用として設計します。
CTEMの目的は、露出を“継続的に”管理し、限られた人員・予算の中で、現実に起き得る被害を減らすことです。期待できる利点は、次のように整理できます。
CTEMはツール単体では成立しません。意思決定と実行が回るように、最低限のガバナンス(責任分界・合意形成・KPI/指標)が必要です。一般に、CTEMは以下のような段階(フェーズ)で説明されます。
この流れが回り始めると、「検出→放置」の積み上がりよりも、「重要な露出が確実に減っていく」状態に近づきます。
CTEMを運用として成立させるには、次の条件が欠けないことが重要です。
CTEMが狙うのは、「見えていない露出が残る」「優先順位が決まらない」「直せないまま積み上がる」といった運用上の詰まりです。露出管理を“継続プロセス”として扱うことで、守りの手数を増やすのではなく、守り方を整理していく方向に寄せます。
従来のセキュリティ体制では、EPP/EDR、ファイアウォール、脆弱性管理などが個別最適になりがちです。その結果、次のような弱点が生まれます。
CTEMは、露出の発見だけでなく、優先順位付けと検証、そして実行・定着までを前提に設計します。これにより「重要な露出が放置される」「担当部門が動けない」といった状態を減らし、改善が継続しやすくなります。
特に優先順位付けでは、限られたリソースを最大効果に寄せる発想が強調されます。たとえば「外部公開されていて、重要システムに到達でき、かつ既知の悪用が多い」露出を先に潰す、といった判断が取りやすくなります。
CTEMが定着すると、リスクマネジメントは「点の管理(個別の指摘)」から「流れの管理(攻撃シナリオと露出の連鎖)」に近づきます。結果として、経営・業務側に対しても「どの露出が、どの事業影響につながるのか」を説明しやすくなり、投資判断や優先順位の合意形成が進みやすくなります。
事業継続の観点では、「重要な露出が残ったまま大きなインシデントに発展する」確率を下げることが狙いになります。CTEMは、露出の棚卸し→優先度付け→検証→改善の反復により、被害が大きくなりやすい経路を先に潰しやすくします。
CTEMを導入する際は、ツール選定よりも先に「範囲」「責任」「回し方」を決めるほうが失敗を減らせます。いきなり全社最適を狙うのではなく、重点領域(例:外部公開資産、基幹業務、重要データに接続する経路)から始めるのが現実的です。
準備段階では、次を整理します。
実装では、露出の発見(Discovery)と優先順位付け(Prioritization)をまず形にします。例としては、ASM(攻撃対象領域の管理)、脆弱性管理、クラウド設定評価、ID/権限の棚卸しなどを組み合わせ、露出の“一覧”を作ります。その後、資産重要度と到達性、悪用可能性を加味して、対応順を決めます。
ここで重要なのは、「検出件数を減らす」より「重大な露出を減らす」に寄せることです。結果として、指摘がゼロにならなくても、リスクが下がっている状態を作りやすくなります。
CTEM戦略は、セキュリティ部門だけのルールにしないことがポイントです。たとえば、次のように“動く形”に落とし込みます。
継続運用では、Validation(検証)とMobilization(実行・定着)が効きます。検証で「実際に攻撃が成立する条件」を確かめ、実行で「担当者が動ける形」に落とし込みます。これを反復することで、露出が“減り続ける状態”を作るのがCTEMの狙いです。
CTEMは単一の用途に閉じません。露出を横断的に扱うため、セキュリティ運用・監査対応・リスク管理の接点になりやすいのが特徴です。
攻撃面(外部公開資産・クラウド・ID)を継続的に見直し、露出の変化を追います。新規に公開された資産や設定変更が「いつの間にか穴になる」事態を減らす狙いがあります。
規制や社内基準に対して、現状がどうズレているかを把握し、優先順位を付けて是正します。監査のために帳尻を合わせるのではなく、日常の改善として回すことで、負担の偏りを抑えやすくなります。
露出を“業務影響”に結び付けて説明することで、リスク受容・追加投資・対策優先度の判断材料が揃いやすくなります。技術的な指摘を、意思決定できる言葉に翻訳しやすい点もメリットです。
重要業務に影響が出やすい露出(例:認証基盤、基幹システムの外部到達経路、バックアップ運用の穴)を継続的に点検し、重大事故に育つ前に潰していく運用に向いています。
CTEMの成果は「導入した」では出ません。露出を減らす意思決定と改善の反復が回ったときに、初めて実感しやすくなります。
メリットは、重要な露出に集中して対処しやすくなる点です。発見・優先度・検証・実行を一本の流れとして設計できるため、検出結果が“積まれていく状態”から抜け出しやすくなります。
デメリットとしては、運用設計と定着にコストがかかる点が挙げられます。ツール費用だけでなく、棚卸し、優先度合意、検証、改善の回路づくりに、一定の人手と時間が必要です。
よくある落とし穴は、発見とレポート作成に寄りすぎて、実行が詰まることです。露出は継続的に増減するため、運用が止まると「未対応の山」ができやすくなります。もう一つは、優先順位の基準が曖昧で、現場が納得できず改善が進まないケースです。優先度は“説明できる”形にしておくことが重要です。
CTEMは、脆弱性管理や攻撃面管理、クラウド設定、ID管理などを“露出”という軸で束ね、改善サイクルを回しやすくする考え方として位置付けられます。運用が定着すれば、セキュリティ対策が「点の強化」から「攻撃経路の分断」へと寄りやすくなり、意思決定も速くなります。
脆弱性だけでなく、設定ミスや権限、公開資産など幅広い「露出」を対象にし、優先順位と検証、改善の定着までを一連で回します。
攻撃につながり得る弱点全般を指し、脆弱性、設定不備、不要な公開、過剰権限、連携の抜け道などを含みます。
資産が多く変化も速い組織や、検出結果は多いのに優先順位が決められず改善が進みにくい組織に向いています。
ツールだけでは不十分で、対象範囲、責任分界、優先順位の基準、改善の回し方を運用として設計する必要があります。
資産の重要度、外部からの到達性、悪用されやすさ、想定被害などを組み合わせ、先に潰すべき露出を決めます。
指摘が本当に攻撃に使えるか、どの経路で被害が出るかを確認し、机上の重大度と現実のリスクのズレを減らします。
外部公開資産や重要業務に関わる経路など、影響が大きい領域に絞って始め、成果を出してから横展開するのが現実的です。
発見とレポートに偏って実行が詰まることと、優先順位の基準が曖昧で現場が動けないことが典型的な失敗要因です。
役立ちます。日常の改善サイクルとして是正を回すことで、監査対応を“突貫作業”にしにくくなります。
重大露出の残数、平均修正日数、再発率、重要領域の露出減少など、ビジネス影響に結び付く指標で追います。