CTI(Computer Telephony Integration)は、電話(音声)とコンピュータ(データ)を連携させ、通話対応を業務プロセスとして最適化するための技術です。コールセンターだけでなく、営業・サポート・受付など「電話が発生する業務」全般で、対応品質の平準化や作業時間の短縮に効きます。この記事では、CTIの基本、代表的な機能、構成要素、導入・運用の注意点までを整理し、自社の用途に合う形を判断できる状態を目指します。
CTI(Computer Telephony Integration)とは、電話システム(PBXやクラウド電話など)とコンピュータシステム(CRM、顧客DB、チケット管理など)を連携させ、通話と業務データを一体的に扱えるようにする技術の総称です。通話の発着信情報をトリガーに、顧客情報の表示、履歴の記録、担当者への振り分けなどを自動化できるため、電話対応を「個人のスキル」だけに頼らず、組織の仕組みとして安定させやすくなります。
コールセンターやカスタマーサービスの現場では、着信と同時に顧客情報を表示したり、問い合わせ履歴と紐づけて対応したりする用途で活用されます。結果として、聞き返しや転送の回数が減り、応対時間や後処理(ACW)の短縮にもつながります。
また、CTIは「既存の電話環境に業務アプリ側の利便性を持ち込む」役割を担います。電話単体では難しい業務の可視化(誰が・いつ・何件対応したか)や、応対プロセスの標準化(IVRやルールベースの振り分け)を実現しやすい点が、業務改善の観点で評価される理由です。
CTIの考え方は、コンピュータ技術と通信技術の融合が進んだ1980年代から徐々に形になっていきました。初期は専用機器や特殊なインターフェースが必要で、導入コストも運用負荷も高い傾向がありました。
その後、ネットワーク技術の成熟とソフトウェア化の進展により、連携の方式が標準化され、導入のハードルは下がっていきます。特にIP電話やVoIPの普及は、音声をIPネットワーク上で扱えるようにし、CTIの構築や拡張を現実的にしました。
現在では、クラウドPBXやコンタクトセンター基盤(CCaaS)が一般化し、CTI機能はクラウドサービスとして提供されることが増えています。これにより、席数や拠点の増減に柔軟に対応しやすく、在宅オペレーションにも適用しやすい構成が取りやすくなりました。
CTIが提供する価値は「電話対応を業務フローに組み込み、手作業や属人性を減らす」点にあります。代表的な機能を整理します。
着信番号や顧客IDをキーに、CRMや顧客DBから情報を検索し、オペレーター画面に自動表示します。本人確認の手間を減らし、状況を把握したうえで会話を始められるため、応対の品質が安定しやすくなります。
CRMやリスト画面の電話番号をクリックするだけで発信できます。番号の打ち間違いを防ぎ、発信作業を効率化します。アウトバウンド業務では、作業の無駄が減り、オペレーターの負荷軽減にもつながります。
IVR(Interactive Voice Response)で用件を選択してもらい、ACD(Automatic Call Distribution)で適切なスキルや部門へ配信します。問い合わせの分類が整理され、転送回数の削減や待ち時間の短縮を狙えます。
通話録音や通話履歴(着信・発信・保留・転送など)を保存し、品質管理やトラブル対応に活用します。運用ルール(保存期間、アクセス権、マスキングなど)を整えることで、監査対応や応対品質の改善にもつなげられます。
Unified Communications(UC)は、電話・チャット・メール・Web会議など複数チャネルを統合し、ユーザーが状況に応じて使い分けやすくする考え方です。CTIは主に「電話と業務アプリ連携」を担い、UCは「複数チャネルの統合」を担うことが多く、併用によって連絡手段の分散を抑えやすくなります。
CTIは「電話が発生する業務」に横展開できます。コールセンターでは待ち時間の削減や応対の平準化に、営業では発信効率の改善や履歴の一元化に、受付・代表電話では担当者の探索や取次の最適化に役立ちます。
また、顧客体験(CX)の観点では、問い合わせの背景(過去の購入履歴、直近の障害情報、前回のやり取りなど)を踏まえた対応がしやすくなり、「何度も同じ説明をさせられる」体験を減らす方向に寄与します。
さらに、在宅や複数拠点での業務でも、クラウド型CTIやクラウドPBXを活用することで、場所に縛られない体制を作りやすくなります。ただし、ネットワーク品質や端末管理、認証などの前提条件は事前に確認が必要です。
CTIは「電話(音声)側」と「コンピュータ(データ)側」をつなぐ仕組みです。ここでは、実務で押さえたい技術要素を整理します。
CTIでは、顧客データの検索・表示、通話ログの保存、ワークフローとの連携など、データ処理が中心になります。CRMやチケット管理(問い合わせ管理)、MA(マーケティングオートメーション)などと統合することで、通話が「点」ではなく「履歴」になります。
また、ACDやIVRは電話機能だけで完結する場合もありますが、業務ルール(顧客属性による優先度、営業時間、担当者のスキルなど)をデータとして扱えるほど、振り分けや自動化は精度が上がります。
電話側の基盤としては、オンプレミスのPBX、IP-PBX、クラウドPBX、あるいはコンタクトセンター基盤(CCaaS)などが該当します。これらが提供する発着信制御、保留・転送、キュー制御などの機能を、アプリ側に連携させるのがCTIの役割です。
近年は、SIP(Session Initiation Protocol)を中心としたIP電話の仕組みが一般化しており、音声をIPネットワーク上で扱うことで拠点間連携や在宅運用が実現しやすくなりました。なお、アウトバウンド業務ではプレディクティブダイヤラーなどの機能が使われることもありますが、運用ルール(誤接続・無言電話の抑制、時間帯ルール、法令・ガイドライン順守など)まで含めて設計が必要です。
音声とデータを同じネットワークで扱う場合、品質設計が重要になります。音声は遅延やジッター、パケットロスの影響を受けやすく、ネットワークが混雑すると通話品質が落ちやすいからです。QoS(優先制御)や回線設計、拠点ごとの帯域、在宅環境の条件などを含め、運用に耐える前提を揃える必要があります。
VoIP(Voice over IP)は、IPネットワーク上で音声を送受信する技術です。VoIPにより、音声通信とデータ通信を同じIPネットワーク上で扱えるようになり、CTI連携が実装しやすくなりました。
なお、用語としてのCTIは「電話とコンピュータの統合」を指し、VoIPは「音声をIPで運ぶ」方式を指します。VoIPはCTIを支える重要な要素の一つですが、CTIそのものと同義ではない点は整理しておくと誤解が減ります。
CTIは「電話対応が業務成果に直結する領域」で特に効果が出やすい技術です。代表的な利用シーンを業界別に見ていきます。
コールセンターはCTIの代表的な導入先です。スクリーンポップ、ACD、IVR、通話録音、応対ログの自動保存などにより、応対時間の短縮、応対品質の平準化、教育の効率化を狙えます。
また、通話履歴や対応メモが自動的に蓄積されると、担当者交代や再入電時にも状況を引き継ぎやすくなります。これは顧客体験の改善と、オペレーターの心理的負荷の軽減の両面で効きます。
マーケティング領域では、顧客属性や購入履歴と通話を結び付け、パーソナライズされた提案やフォローアップを行う用途で活用されます。アウトバウンドでは発信効率の向上、インバウンドでは問い合わせ背景の把握を通じた提案精度の向上が期待できます。
ただし、発信業務を強く自動化する場合は、顧客に与える印象(過剰な架電、タイミングの悪さ)や、運用ルール順守が重要です。効率と体験のバランスを取る設計が欠かせません。
金融業界では、口座・取引に関する照会、各種申請の案内、本人確認を伴う応対などでCTIが活用されます。問い合わせ内容が複雑になりやすいため、履歴の一元化や担当者の適切な振り分けが効きやすい領域です。
一方で、取り扱う情報の重要度が高いため、アクセス権限、ログ管理、録音データの管理、認証強化など、セキュリティ設計を業務要件として最初から組み込む必要があります。
ヘルスケア領域では、予約受付、問い合わせ対応、アフターケアの連絡など、電話が業務の入口になる場面が多くあります。CTIにより、用件の分類や担当への振り分けが整理され、対応のスムーズさが上がりやすくなります。
ただし、患者情報など機微な情報を扱う場合は、表示範囲の制御や端末管理、在宅対応時の条件整備など、プライバシー保護の設計が不可欠です。
CTIは「導入して終わり」ではなく、業務フローに合わせて設計し、運用できる形に整えることが成果に直結します。ここでは構築時に押さえたい論点を整理します。
CTIの選定では、まず「何を改善したいのか」を言語化します。たとえば、待ち時間の短縮、応対品質の平準化、履歴の一元化、在宅運用への対応など、目的によって必要な機能や構成が変わるためです。
次に、既存システム(CRM、顧客DB、チケット管理、SFAなど)との連携方式を確認します。API連携の可否、標準コネクタの有無、データ同期の粒度(リアルタイムかバッチか)によって、導入工数や運用の手間が大きく変わります。
また、将来的な席数・拠点増減、ピーク時の同時呼数、海外拠点の有無など、拡張性も重要です。短期の要件だけで決めると、運用が回り始めた後に詰まりやすくなります。
導入時は、電話側の設定(キュー、スキル、IVR、営業時間、転送ルールなど)と、業務側の設定(画面設計、検索キー、入力項目、履歴の残し方など)をセットで設計します。ここが曖昧だと、現場では「便利そうなのに使いにくい」状態になりがちです。
特に、スクリーンポップの検索キー(電話番号、顧客ID、契約番号など)と、データが一致しないケースの扱い(該当なし時の手順)は、運用トラブルの起点になりやすいため、例外処理まで含めて決めておくと安定します。
オンプレミス構成ではPBXやゲートウェイ、録音装置などの機器選定が必要になります。クラウド構成でも、端末(PC、ヘッドセット)、回線品質、拠点ルータやVPNの設計など、通話品質に直結する要素は残ります。
また、在宅運用を行う場合は、個人回線の品質差が通話品質の差として出やすいため、推奨要件(帯域、遅延、Wi-Fi可否、ルータ設定の制約など)を定め、一定の品質を担保できる運用ルールを用意しておくと事故が減ります。
CTIは顧客情報や通話録音など、機密性の高い情報を扱うことが多い領域です。導入時には、アクセス権限の設計(誰が何を見られるか)、監査ログの取得、録音データの保存期間、暗号化、端末管理、認証(多要素認証の適用可否)などを業務要件として整理する必要があります。
また、業界や業務内容によっては、録音・保存に関する社内規程や説明(告知)ルールの整備も重要です。セキュリティ対策は「後から足す」ほど難しくなるため、最初から運用設計に組み込みます。
CTIはすでに成熟した領域に見えますが、周辺技術の進化により、運用の自動化や体験設計の幅は広がり続けています。ここでは代表的な方向性を整理します。
AIの活用は、応対支援の文脈で特に伸びています。通話内容の要約、対応候補の提示、ナレッジ検索の補助、応対品質の分析など、「オペレーターの判断を速くする」方向で効果が出やすい領域です。
一方で、AIによる自動応答を強く進める場合は、誤案内や説明不足が顧客体験を損ねるリスクがあります。人が介入すべき境界(エスカレーション条件)を設計し、運用で調整できる形にしておくことが重要です。
IoTデバイスの稼働状況やセンサー情報と連携し、障害予兆や異常検知をトリガーに連絡・案内を行う、といったユースケースが考えられます。重要なのは「自動で連絡すること」自体ではなく、適切なタイミングと内容で顧客の不便を減らせるかです。
IoT連携はデータ量が増えやすいため、通知の過多を避ける設計(優先度、抑制条件、同一事象の集約)も合わせて検討します。
モバイル化の進行により、担当者が固定席で電話対応する前提は崩れつつあります。クラウドCTIやソフトフォンの活用により、外出先や在宅でも履歴参照と応対を同じ品質で行える体制が作りやすくなります。
ただし、モバイル端末は紛失・盗難リスクや通信品質の変動があるため、端末管理や認証、ネットワーク条件の整備が前提になります。
クラウド化は、拠点増減への追随、在宅運用、冗長化の容易さなどの面でCTIの選択肢を広げています。機能追加やアップデートがサービス側で継続されるため、改善サイクルを回しやすい点もメリットです。
一方で、クラウドは「設定の自由度が高い反面、設計が甘いと運用が崩れる」領域でもあります。業務フローと設定の整合を取り、変更管理(誰が・いつ・何を変えたか)を運用として回せる形にしておくと安定します。
CTI導入を成功させるには、技術面だけでなく、業務面・運用面の設計が不可欠です。ここではつまずきやすいポイントを整理します。
導入プロジェクトで起きやすい問題として、プロジェクトの遅延、想定以上のコスト増、期待した効果が得られない、といったものがあります。原因は「目的が曖昧」「業務フローが固まっていない」「例外処理や運用ルールを後回しにした」など、設計の不足であることが多いです。
また、既存システムとの互換性や、ネットワーク品質、セキュリティ要件の見落としも、導入後に大きな手戻りを生みやすい論点です。特に顧客データを扱う業務では、権限設計やログ管理の不足が重大なリスクになります。
成功の鍵は、導入前に「目標」と「評価方法」を決めることです。たとえば、平均応対時間、一次解決率、後処理時間、待ち呼数、転送回数、オペレーターの入力作業時間など、業務に合った指標を設定し、導入前後で比較できる状態にします。
また、テストでは正常系だけでなく、例外系(顧客情報が見つからない、番号非通知、混雑時、回線品質低下、CRMが落ちた場合など)を含めて確認します。現場で困るのは例外時の動きなので、ここを事前に潰しておくほど運用が安定します。
CTIが正常に動作しない場合や予期しない問題が発生した際には、切り分け手順が重要です。電話側の問題なのか、アプリ側の問題なのか、ネットワークの問題なのかを早期に判断できるよう、監視項目と一次対応の手順(Runbook)を用意します。
また、「早期発見・早期復旧」を実現するには、アラートの設計と運用体制が欠かせません。現場で対応する範囲と、ベンダー/運用部門へエスカレーションする条件を決め、迷いなく動ける状態を作ります。
導入後は、定期的な設定見直し(IVRの選択肢、振り分けルール、表示項目、入力負荷など)を行うことで効果が積み上がります。業務が変わるのに設定が固定のままだと、使われなくなったり、手作業が復活したりしやすいからです。
また、バックアップや監査ログ、録音データの管理、権限の棚卸しなど、運用として継続すべき項目も多い領域です。効果を維持するためには、改善と統制の両輪で回すことが欠かせません。
CTIは電話システムとコンピュータシステムを連携させ、通話と業務データを一体的に扱うための技術です。
使えます。営業、受付、サポートなど電話が発生する業務全般で効率化と品質向上に役立ちます。
着信と同時に顧客情報を自動検索し、オペレーター画面に表示する機能です。
画面上の電話番号をクリックして発信できる機能で、誤発信の防止と発信作業の効率化に役立ちます。
IVRは自動音声で用件を選択してもらう仕組みで、ACDは条件に応じて担当者やキューへ通話を配信する仕組みです。
同じではありません。VoIPは音声をIPで運ぶ方式で、CTIは電話と業務アプリを連携させる仕組みです。
席数や拠点増減への追随がしやすく、在宅運用にも適用しやすい点が大きなメリットです。
目的の曖昧さ、例外時の運用設計不足、既存システム連携やネットワーク品質の見落としがつまずきやすい点です。
平均応対時間、一次解決率、後処理時間、転送回数など業務に合った指標を導入前後で比較して評価します。
権限設計、監査ログ、録音データ管理、暗号化、端末管理、認証強化を業務要件として最初から組み込むことが重要です。