データのバックアップは、企業や組織の大切な情報資産を守るための基本的なプロセスです。しかし、具体的に「何を」「どのような頻度で」「どこに」バックアップすればよいのか、迷われている方も多いのではないでしょうか。本記事では、データバックアップの定義や目的・重要性を整理したうえで、フルバックアップや差分・増分バックアップといった代表的な方式、頻度やタイミングの考え方、バックアップデータの管理と復元テストのポイントまでを体系的に解説します。自社のバックアップ方針を見直したい企業の皆さまにとって、実務でそのまま活用できる観点をご紹介します。
データのバックアップとは、システム障害や誤操作、災害などの不測の事態に備え、重要データの複製をあらかじめ作成しておく取り組みです。単に「コピーを残す」だけでなく、必要なときに確実に元の状態へ戻せるようにしておくことまでを含めた仕組みとして捉えるとよいでしょう。
データのバックアップとは、 コンピュータシステムで使用されているデータを複製し、別の記憶媒体や場所に保存することを意味します。 これにより、システムの障害やデータの破損、誤って削除してしまった場合でも、バックアップからデータを復元することが可能になります。一般的には、ファイル単位のバックアップだけでなく、サーバーやアプリケーション全体の状態(設定・OSを含むイメージ)をバックアップするケースもあります。
データのバックアップを行う主な目的は、以下の通りです。
これらの目的を達成するために、 定期的にデータのバックアップを取得し、世代を管理しながら保管することが推奨されています。
現代のビジネス環境において、データは企業の競争力や信頼性を支える重要な資産です。顧客情報、財務データ、取引記録、設計データなど、事業運営に欠かせない情報は、一度失われると元に戻せなかったり、復旧までに多大なコストと時間を要します。
そのため、 データのバックアップは、企業のリスク管理や事業継続計画(BCP)において非常に重要な役割を果たしています。 バックアップを適切に設計・運用することで、「どこまで遡って復元できるか(RPO:目標復旧時点)」や「どのくらいの時間で復旧できるか(RTO:目標復旧時間)」をあらかじめコントロールし、重大なトラブルが発生した際の影響を最小限に抑えられます。
データのバックアップを効果的に行うためには、システム特性や業務要件に応じて適切なバックアップ方式を選択することが重要です。ここでは代表的な方式と、それぞれの特徴を整理します。
フルバックアップは、 バックアップ対象として指定した全データを一度にバックアップする方法です。 この方法では、バックアップ対象のデータを丸ごとコピーするため、復元が必要な際には、通常は最新のフルバックアップのみを使用すればよいという利点があります。バックアップ時点の完全なスナップショットを取得できるため、復元手順も比較的シンプルです。
一方で、データ量が多い場合にはバックアップに長い時間がかかり、バックアップ用のストレージ容量も多く必要になるというデメリットがあります。そのため、他の方式と組み合わせて利用されることが一般的です。
差分バックアップは、 前回のフルバックアップ以降に変更のあったデータのみをバックアップする方法です。 フルバックアップと比較すると、バックアップ対象が絞られるため、処理時間と容量を抑えられます。
復元の際は、対象時点より前の最新フルバックアップと、その後に取得した差分バックアップを順番に適用します。増分バックアップと比べると復元手順が簡潔で、バックアップ時間と復元時間のバランスが取りやすい方式です。
増分バックアップは、 前回のバックアップ(フル・差分・増分のいずれか)以降に変更のあったデータのみをバックアップする方法です。 差分バックアップよりもさらに対象が絞られるため、バックアップ時間と必要な容量を最も小さくしやすい方式です。
その一方で、復元の際は、最新のフルバックアップと、その後行われたすべての増分バックアップを時系列に沿って適用する必要があるため、復元作業が複雑になりやすい点には注意が必要です。RTO(どれだけ早く復旧したいか)の要件と照らして導入を検討するとよいでしょう。
リモートバックアップは、 ネットワーク経由で、別の場所にあるサーバーやストレージにデータをバックアップする方法です。 自社オフィスとは別拠点のデータセンターやクラウドストレージなどにバックアップを保管することで、火災・水害・地震などによる物理的な損傷からデータを保護できます。
一方で、ネットワーク回線の速度や安定性に依存するため、大容量のデータを短時間でバックアップするのは難しい場合があります。回線帯域の制御や、夜間などトラフィックの少ない時間帯にスケジュールするなどの工夫が有効です。
以上のように、データのバックアップ方法にはそれぞれ特徴があります。 システムの規模や要件、データの重要度、復旧までに許容できる時間(RTO)や許容できるデータ喪失量(RPO)を踏まえ、最適なバックアップ方式を選択することが重要です。 また、フルバックアップと差分・増分バックアップを組み合わせるなど、複数の方式を組み合わせることで、より強固かつ現実的なバックアップ体制を構築することも可能です。
さらに、オンサイト(社内)とオフサイト(別拠点・クラウド)を組み合わせる「3-2-1ルール」(3つのコピーを2種類の媒体に保存し、1つは別拠点に保管する)を参考にすると、災害やランサムウェアなどへの耐性を高めることができます。
データのバックアップを適切に行うためには、「どのくらいの頻度で」「いつ」バックアップを取るのかという設計が欠かせません。ここでは、データの重要度に応じたバックアップ頻度、定期的なバックアップスケジュールの設定、バックアップのタイミングの考え方、および自動バックアップの設定方法について解説します。
バックアップの頻度は、データの重要度や更新頻度によって異なります。 業務に欠かせない重要なデータは、より高い頻度でバックアップを取ることが推奨されます。 一方、重要度や更新頻度の低いデータは、バックアップの頻度を抑えることで、バックアップにかかる時間とリソースを節約できます。以下は、データの重要度に応じたバックアップ頻度の一例です。
| データの重要度 | バックアップ頻度の目安 |
|---|---|
| 非常に高い(基幹システム・受発注・顧客情報など) | 1日1回以上(場合によっては数時間ごとや継続的バックアップ) |
| 高い(部門システム・社内ポータルなど) | 週に1回以上 |
| 中程度(社内共有資料など) | 月に1回以上 |
| 低い(長期保管のみの参照データなど) | 四半期に1回以上 |
自社の業務プロセスを踏まえ、「どのデータが失われるとどの程度の影響が出るか」という観点から、優先度付けを行うことが重要です。
バックアップを確実に実行するためには、 定期的なバックアップスケジュールを設定し、日々の運用に組み込むことが重要です。 スケジュールを設定する際は、以下の点に留意してください。
バックアップのタイミングは、データの変更頻度や業務サイクルに合わせて設定することが重要です。 データの変更が頻繁に行われる場合は、より高い頻度でバックアップを取ることが推奨されます。 また、業務サイクルに合わせて、以下のようなタイミングでバックアップを取ることも効果的です。
「障害が発生したとき、どの時点までデータを戻す必要があるのか」を考え、その要件から逆算してタイミングを設計すると、実務に即したバックアップ計画が立てやすくなります。
手動でのバックアップ作業は、担当者の負荷が高くなるだけでなく、作業忘れなどの人為的ミスが発生する可能性があります。これを防ぐために、 自動バックアップを設定することをおすすめします。 自動バックアップを設定する方法は、使用しているバックアップソフトウェアやシステムによって異なりますが、一般的な手順は以下の通りです。
自動バックアップを設定することで、バックアップ作業の手間を減らし、ミスを防ぐことができます。ただし、 自動バックアップが正常に実行されていることを、ログや通知を通じて定期的に確認することも忘れずに行ってください。
バックアップは「取得したら終わり」ではなく、保管・管理・復元までを含めて初めて意味を持ちます。ここでは、バックアップデータの安全な保管方法、整理と管理、データ復元の手順、およびバックアップからの復元テストの重要性について解説します。
バックアップデータを安全に保管することは、データ保護の観点から非常に重要です。以下は、バックアップデータを安全に保管するための推奨事項です。
バックアップデータを複数の場所に保管することで、災害などによる物理的な損傷リスクを分散できます。 また、暗号化やアクセス権管理を適切に行うことで、不正アクセスやデータ漏洩のリスクを軽減できます。
バックアップデータの整理と管理は、必要なときに迅速かつ確実に復元するための基盤となります。以下は、バックアップデータを整理・管理するための推奨事項です。
バックアップデータを適切に整理・管理することで、必要なデータを迅速に見つけ出し、復元作業を円滑に進められます。 また、世代管理を行うことで、不要になった古いバックアップを計画的に削除し、ストレージを効率よく利用することができます。
データ復元の手順を事前に確立しておくことは、障害発生時に迅速かつ確実なデータ復旧を行うために不可欠です。以下は、データ復元の一般的な手順です。
データ復元の手順を文書化し、関係者で共有しておくことが推奨されます。 これにより、担当者が変わっても一定の品質で復元作業を行うことができ、トラブル発生時の混乱を防げます。
バックアップからの復元テストは、「いざというときに本当に復旧できるのか」を確認するために欠かせません。以下は、復元テストの重要性と推奨事項です。
復元テストを定期的に実施することで、バックアップ・復元システムの信頼性を高め、実際のデータ復旧の際に円滑な対応が期待できます。 また、テストを通じて見つかった課題をフィードバックし、設定や手順を継続的に改善していくことが重要です。
データのバックアップは、企業の重要な情報資産を守るための基盤となる取り組みです。システム障害や誤操作、災害、マルウェアなどのリスクに備え、データの複製を定期的に作成し、安全な場所に保管しておくことが求められます。フルバックアップ、差分バックアップ、増分バックアップといった方式の特徴を理解し、自社の業務要件に合わせた組み合わせで設計することがポイントです。
あわせて、データの重要度に応じたバックアップ頻度や、業務サイクルを踏まえたタイミングの設計、自動バックアップによる運用負荷の軽減も重要です。さらに、バックアップデータの安全な保管方法や整理・管理、復元手順の文書化と定期的な復元テストを通じて、「取って終わり」ではないバックアップ体制を整えることが求められます。
まずは、自社のバックアップ方針や運用状況を棚卸しし、「どのデータを、どの頻度で、どこに、どのように復元する前提でバックアップするのか」を明確にするところから始めてみてはいかがでしょうか。段階的に体制を整えることで、万が一の事態に備えた、より強固なデータ保護・事業継続の仕組みづくりにつながります。
システム障害や誤削除、災害、マルウェア感染などでデータが失われた場合でも、業務を継続できるように復元するためです。
フルは全データ、差分は前回のフル以降の変更分、増分は前回のバックアップ以降の変更分のみを保存する方式です。
基幹系など重要データは1日1回以上、それ以外は週次や月次など、データの重要度と更新頻度に応じて頻度を決めます。
社内と別の場所にバックアップを置くことで、災害や物理的な事故が発生してもデータを保護しやすくなります。
バックアップは復旧目的の複製であり、アーカイブは長期保管や証跡保存を目的としたデータ保管です。
RPOはどこまで遡って復元できればよいか、RTOはどのくらいの時間で復旧できればよいかを示す目標値です。
作業忘れなどの人為的ミスを防ぎ、決めた頻度とタイミングで確実にバックアップを実行できるようになります。
暗号化やアクセス制御を行ったうえで、オンサイトとオフサイトを組み合わせて複数拠点に保管することが推奨されます。
半年に1回程度を目安に定期的な復元テストを行い、実際に復旧できるかと復旧時間を確認することが望ましいです。
重要データの洗い出しとバックアップ頻度の決定、外付けストレージやクラウドを用いた自動バックアップの仕組み作りから始めると効果的です。