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EHRとは? わかりやすく10分で解説

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目次

はじめに

EHRとは?

EHR、またはElectronic Health Recordは、一般に電子健康記録または生涯医療記録と呼ばれています。この記録は既往歴やアレルギー情報、さらには検査結果などの医療情報が電子化された形で一元化され、医療サービスの提供者間で共有が可能となるシステムを指します。

EHRの定義と機能

具体的には、EHRは患者の健康情報をデジタル化し、これらのデータは情報システムに記録され、管理されます。その結果、医療提供者はデータをリアルタイムで確認し、患者のケアをより効率的に行うことができます。

さらに、EHRは患者のすべての医療情報を一元的に管理し、複数の医療機関での診療や異なる治療方法に対する患者の反応を記録します。これにより、医療サービス提供者が更なる予防策を立てたり、治療方法を改善したりするのに役立ちます。

したがって、EHRは医療機関だけでなく、患者自身にとっても、重要な情報を効率的に管理できる強力なツールとなり得ます。

EHRの目的と重要性

EHRは医療情報を時間や場所の制約なくアクセス可能にし、医療機関間での情報共有を可能にすることを目的としています。この情報共有により、重複した検査や不必要な薬の処方を削減することにつながり、より効率的な医療を提供することが可能になります。

さらに、患者が自分自身の医療情報の管理に直接参加できるとともに、「生涯の健康記録」として機能します。これにより、患者自身が自分の健康についてより深く理解し、自己管理することを促すことができます。

EHRはまた、健康に関する情報を継続的に追跡し、管理することにより、健康結果の改善につながります。

EHRの利点と対象者

EHRの利点は多岐にわたります。医療プロバイダーは、EHRにより患者の診療情報をすぐに取得でき、速やかに適切な治療を進めることが可能です。さらに、EHRは複数の医療機関やより広範なヘルスケアネットワークとの情報共有を可能にし、効率性の向上や情報の信頼性を高めます。

一方、患者にとっても、自らの医療情報へのアクセスが容易になり、自己管理が向上するとともに、治療方法や結果への理解が深まるなど、さまざまな利点があります。

したがって、EHRの対象者は医療プロバイダーだけでなく、患者自身も含みます。

EHRの普及状況と障壁

EHRの導入は私たちの生活に根本的な変化をもたらしていますが、全ての医療機関がすでにEHRを使用しているわけではありません。特に、小規模な医療機関やクリニックでは、導入の困難さや高コスト、ITインフラの欠如などがEHR導入の障壁となっています。

しかし、新型コロナウイルス感染症の流行やデジタル化の進展は、EHRの導入の重要性をより明らかにしています。今後、導入が進むことで、より効率的で高品質な医療サービスが実現され、患者の医療体験が改善されることが期待されています。

以上が、EHR(電子健康記録)についての基本的な解説です。

EHRの導入と影響

近年、EHRElectronic Health Record)の導入は世界中の医療機関で進んでいます。このセクションでは、その導入手順と、導入後にどのような影響が起こったのか、そしてEHRが医療にどのような貢献をしているかについて詳しく見ていきましょう。

導入のステップ

EHRの導入は、まずシステム選択から始まり、続いてシステム導入データ移行スタッフ教育という手順を踏みます。その際、システム選択時には、必要な機能、コスト、運用性などを充分に比較・検討し、データ移行時には、既存のデータへの影響を最小限に抑える必要があります。

導入後の変化

EHRの導入後、医療機関は情報管理の効率化、医療エラーの減少、診療報酬請求のスピードアップなど、多くの改善を実感していると報告されています。しかしながら、適切な教育が必要であること、システムの継続的な更新と維持が必要であること、プライバシー保護とセキュリティ確保の課題なども出てきます。

医療への貢献と効果

EHRは、医療の質を高めるだけでなく、患者の安全を確保し、医療費節約も可能にするとされています。また、医療研究においても、患者データの統計分析が容易に行えるため、疾患の予防や新たな治療法の開発に寄与しています。

医療の未来

EHRの導入は、医療のデジタル化を象徴するものであり、これからはAI(人工知能)との連携など、更なる進歩が期待されています。具体的には、AIを用いた画像診断の精度向上や遺伝子情報の解析など、高度化する医療の中で情報管理の柱となるEHRの役割はますます重要になるでしょう。

EHRと他の電子健康情報システムとの比較

電子健康記録(EHR)と他の電子健康情報システム(EMR、PHR、HIS)との違いを明確にし、さらに、EHRに求められる機能や必要性について解説します。

それぞれのシステムが持っている特性や機能、利用の範囲や目的は大きく異なっています。

これらの理解を深めることで、適切な電子健康情報システムの選択や利用、改善策の検討に役立てることができます。

EMR(電子医療記録)の違い

EHRは患者の健康情報を詳細に記録し、共有することを目的としています。それに対して、EMR(電子医療記録)は特定の医療機関内での診療情報を記録し、管理することが主目的です。

EHRは患者が訪れるすべての医療機関で利用可能な情報を持つため、医療提供者間のコミュニケーションを容易にし、医療の質を向上させることが期待されています。

それに対して、EMRは個々の医療機関における医療過程を効率的に実行することを中心に考えています。

PHR(個人健康記録)の違い

EHRとPHR(Personal Health Record:個人健康記録)との主な違いは、誰が情報を管理し、どこから情報を取得しているかです。

EHRは医療機関が提供する情報をベースにしており、医療専門家の手により情報が追加・管理されます。一方で、PHRは患者自身が管理し、自己の健康情報を追加したり、更新したりすることができます。

EHRとPHRを適切に連携させることで、医療機関と患者自身が保有する情報を最大限に活用し、質の高い医療を提供することが可能になります。

HIS(医療情報システム)の違い

EHRとHIS(Hospital Information System:医療情報システム)との違いは、その中心となる情報の範囲と目的にあります。

HISでは、医療機関の経営や運営に必要な情報全般を管理し、効率的な業務運営を支援します。一方、EHRでは、患者の健康情報と治療の履歴を中心に情報が集約され、医療の連続性と質を保つことが主目的となります。

つまり、HISは医療機関の経営をサポートするのに対し、EHRは個々の患者に対する医療の質や安全性を第一に考えるという違いがあります。

セキュリティとプライバシー

医療情報をデジタル化して管理するEHRでは、個人情報が大量に含まれるため、情報セキュリティとプライバシーの保護が極めて重要となります。ここでは、EHRの情報セキュリティ対策やHIPAA法との関連、そして個々のプライバシー情報の保護について解説します。

EHRの情報セキュリティ対策

EHRは、患者の診療情報や検査結果、薬の情報など、個人を特定できるデータを保有しています。そのため、これらのデータが不正アクセスや漏洩によって露出しないよう、適切なセキュリティ対策を施すことが不可欠です。一般的には、データの暗号化や、アクセスログの管理、脆弱性対策などが行われます。

EHRとHIPAA法(健康保険移搬性及び説明責任法)

アメリカでは、HIPAA法が制定され、EHRに含まれる患者情報の扱いについて厳格な規制が設けられています。この法に基づき、EHRの運用・管理には患者情報の機密性を保護する義務が課せられています。具体的な措置としては、限定された範囲での情報開示や、患者への情報利用・開示の通知が求められます。

EHR上のプライバシー情報保護

EHR上のプライバシー情報保護も重要な課題です。これは、不適切な情報漏洩の防止だけでなく、個々の患者のプライバシー選択を尊重することも含まれます。患者は、自身の選択により、EHRの一部情報を非公開にすることができます。このような権利を保障するため、システム上でも各患者のプライバシー設定が可能となるよう配慮が求められています。

EHRとパーソナライズドメディシン

EHRとパーソナライズドメディシン(個別化医療)との関係も注目されています。個人の遺伝子情報や生活習慣などをもとにした個別化治療策の策定を可能にするパーソナライズドメディシンは、EHR上の豊富な医療情報をもとに進められます。ただし、これには個人の遺伝子情報などのデリケートな情報が含まれるため、その保護には十分な配慮が必要です。

日本におけるEHR

日本におけるEHR、すなわち電子健康記録の取組みは、デジタル化の波に乗り、民間、公的研究機関などで活発に進行しています。しかしながら、その一方で、情報連携の難しさや、情報セキュリティ、プライバシー保護といった問題も指摘されている。本章では、具体的な取組みとその成果、そして課題と対策について解説します。

日本におけるEHRの取り組み

日本では各医療機関や研究機関がEHR導入を進めており、患者の直接的な医療情報や所見、検査結果などを統一したフォーマットで管理し、効率的な医療提供を可能としています。さらに、EHRの導入により、病名や処置、薬剤等の医療情報の共有化も進んでおり、医療提供の効率性だけでなく、医療の質の向上にも寄与しています。

また、COVID-19のパンデミックが一部でEHR導入への関心を高める一方で、既存のEHRでは防疫のためのデータ収集、患者管理など、新たなニーズに対応するための改良も求められています。

日本におけるEHRの課題

一方、EHR導入の課題も存在します。その一つが、医療機関間の情報連携の難しさです。現状のEHRシステムでは、異なる医療機関間での情報連携が難しい場合が多いです。

これに対する解決策の一つとして、全国医療情報プラットフォームの構築が考えられています。これは、全国の医療機関に散在する医療情報を一元管理し、必要に応じて情報を提供することを目的としています。

医療DX推進とEHR

医療分野でのDX(デジタルトランスフォーメーション)もEHRに影響を与えています。政府は「医療DX令和ビジョン2030」を推進しており、EHRはその中心に位置付けられています。

強力な政策推進と、それに伴う社会的な認知の向上は、EHRの普及に大いに寄与しています。しかし、DX推進に伴って浮上したセキュリティやプライバシー保護という課題に対する解決策も求められています。

未来の医療とEHR

EHRの発展は医療の未来を大きく左右します。データをより豊富に、より具体的に取得することで、より高度な医療サービス提供が可能となります。また、AIの進歩により、大量のEHRデータから的確な診断や治療方針の提示、管理が可能となります。

一方で、EHR発展のためには、セキュリティ強化やプライバシー保護といった課題の解決が不可欠です。これらの課題を克服し、効率的かつ質の高い医療サービス提供の実現に向けてEHRが進化を続けることが期待されています。

世界のEHR事情

私たちの日本以外にも、世界各国で取り組まれているEHR(電子健康記録)の動向は日本の医療業界にも大きな影響を与えるものです。それぞれの地域でいかにEHRが導入され、どのような利用がなされているのかを見ていきましょう。

また、EHRシステムを使った先進的な取り組みについても深掘りしていきます。医療業界がどのようにデジタル変革を進めるか、そのヒントを得ることができるでしょう。

さらに、これらの取り組みが今後どのように発展していくのか、その可能性についても考えていくことが重要です。

アメリカ

アメリカは、EHRの先駆者とも言える国です。近年では意思決定サポートツールや病気の予防、患者と医療者のコミュニケーションの向上といった方向性を重視しています。これは、医療データが単なる記録から一歩進んで積極的な役割を果たすことを期待する動きです。

また、アメリカのEHRは患者の参加を積極的に推奨しています。これにより一般の人々が自分自身の健康状態を把握し、改善に向けた行動を自主的にとることを可能にしています。

さらに、他の医療機関との情報共有にも力を入れています。これにより、効率的な連携が可能となり、患者の治療結果の向上に貢献しています。

ヨーロッパ

ヨーロッパでは各国でEHRの導入が進んでいますが、体制や状況は国により様々です。しかし、共通しているのはプライバシーの保護やデータセキュリティに対する強い配慮です。GDPRやEUの規制をクリアするための厳格な安全対策が求められています。

また、言語や文化が異なる多様な国々を持つヨーロッパでは、相互運用性の確保が重要です。これにより、どこで医療を受けても一貫した情報が提供できるようになっています。

これらの取り組みが進み、EHRの全面導入が進んでいる国もあれば、また途上の段階にある国もありますが、全体としては着実にデジタル化が進んでいます。

アジア

アジア地域では、各国によってEHRの導入率や活用の仕方は大きく異なります。新興国ではまだEHRの導入が進んでいない場合もありますが、一方で、シンガポールや台湾などはEHRの高度な活用を進めています。

シンガポールや台湾では、全国規模でのEHRシステムの構築を進めており、これにより一貫した情報管理全国的なヘルスケアの質向上につながっています。

また、EHRの導入途上国では、基盤となるICTインフラの整備や医療データの標準化などが課題となっています。このような課題解決に取り組むことで、アジア地域全体のEHR導入が加速することが期待されます。

EHRの今後

先進的なEHRシステムとしては、AIや機械学習を活用した解析ツールが開発されつつあります。これにより早期発見や診断の精度向上、より個別化した治療の提供などが可能となると考えられています。

さらに、これらの先進的な取り組みは新しい医療サービスの創出医療従事者の労働環境の改善にも繋がります。例えば、AIが予測モデルを作成することで、予防医学の発展に寄与したり、労働強度の高い医療従事者の負担を軽減してくれる可能性があります。

また、個人情報の保護やデータの安全性の確保などに関しては、高度な技術や適切な法規制の下での取り組みが求められます。これらについても継続的に考え続ける必要があります。

記事を書いた人

ソリトンシステムズ・マーケティングチーム