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UXデザインの五段階モデルとは? 10分でわかりやすく解説

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目次

ユーザー中心のデザインアプローチであるUXデザインの五段階モデルは、ユーザーの行動や心理を深く理解し、それに基づいてサービスやシステムを設計するための体系的なプロセスを提供します。五段階モデルを活用することで、思いつきや属人的な判断ではなく、筋道だったプロセスに沿ってユーザーのニーズに合った体験を設計し、結果としてユーザー満足度やビジネス成果の向上につなげることができます。本記事では、UXデザインの五段階モデルの概要や目的、各段階の内容と進め方、実務に落とし込む際のポイントについて、初学者にも分かりやすい形で解説します。

UXデザインの五段階モデルとは?

UXデザインの五段階モデルとは、ユーザー体験(UX)をデザインする際に用いられる代表的なフレームワークの一つです。このモデルは、ユーザーの行動や心理を理解し、より良いユーザー体験を提供するためのプロセスを5つのステップに分解し、上流から下流までを一連の流れとして整理したものです。

UXデザインの五段階モデルの概要

UXデザインの五段階モデルは、一般的に次の5つのステップで構成されています。

  1. 戦略(Strategy)
  2. 要件(Scope)
  3. 構造(Structure)
  4. 骨格(Skeleton)
  5. 表層(Surface)

上から順に、ビジネスとユーザーの目的を定める抽象度の高い層から、画面やビジュアルといった具体的な層に向かって進んでいくイメージです。各ステップでは、ユーザーのニーズや課題を理解し、それに基づいた解決策を少しずつ具体化していきます。このモデルは、ユーザー中心のデザインアプローチを前提としており、「まずユーザーを理解し、そのうえで解決策を設計する」という順番を重視します。

UXデザインの五段階モデルの目的

UXデザインの五段階モデルの主な目的は、次のように整理できます。

  • ユーザーのニーズや課題を深く理解する
  • ユーザー中心のデザインアプローチを組織として定着させる
  • ユーザー価値に基づいたソリューションを一貫したプロセスで生み出す
  • デザインの質と再現性を高める
  • 開発プロセスを見える化し、関係者間の合意形成をしやすくする

このモデルを活用することで、「何となく良さそう」に見えるUIではなく、ユーザーにとって本当に価値のあるプロダクトやサービスを、説明可能なプロセスに基づいて創出しやすくなります。

UXデザインの五段階モデルの重要性

現代のビジネス環境において、優れたユーザー体験を提供することは競争力に直結します。ユーザーの期待に応えられない製品やサービスは、選択肢の多い市場の中で継続的に利用されにくくなります。UXデザインの五段階モデルは、ユーザーのニーズを理解し、それに基づいたデザインを行うための体系的なアプローチを提供し、属人性に頼らないUX改善を支援します。

また、このモデルを採用することで、デザイナー・エンジニア・企画担当者など、役割の異なるメンバー同士で「いまプロジェクトのどの段階にいるのか」「何に合意できているのか」を共有しやすくなります。各ステップで得られた知見を明文化・共有することで、開発チーム全体でユーザー中心のデザインを追求しやすくなり、プロジェクト全体の進行管理もスムーズになります。

UXデザインの五段階モデルを理解するメリット

UXデザインの五段階モデルを理解し、実務で使えるレベルまで落とし込むと、次のようなメリットが期待できます。

メリット説明
ユーザー理解の向上ユーザーの行動や心理を深く理解するプロセスが組み込まれており、感覚的な想像ではなく、調査やデータに基づいたソリューション検討がしやすくなります。
デザインの質の向上ユーザー中心のデザインアプローチを採用することで、見た目だけでなく「使いやすさ」「分かりやすさ」といった体験全体の質を高められます。
イノベーションの促進ユーザーのニーズや課題に基づいたアイデア出しを行うことで、機能追加ではなく体験全体を再設計するような、より大きな発想の転換が起こりやすくなります。
開発プロセスの効率化プロトタイプやユーザーテストを通じて早い段階でフィードバックを得ることで、実装後の大きな手戻りを減らし、開発コストや期間の最適化につなげられます。
チームコミュニケーションの改善モデルのステップに沿って議論することで、チーム内で共通言語が生まれ、認識のズレを減らしながら連携を強化できます。

このモデルを通じて、ユーザー中心のデザインアプローチを組織として取り入れ、ユーザーの満足度とビジネス成果の両方を高める製品やサービスの開発を目指すことができます。

UXデザインの五段階モデルの各段階を解説

UXデザインの五段階モデルは、ユーザー体験を段階的に具体化していくためのフレームワークです。ここでは各段階の役割と主な活動内容について、少し踏み込んで解説します。

第1段階:戦略(Strategy)

戦略段階では、プロジェクトの目的や目標を明確にし、どのユーザーに対してどのような価値を提供するのかを定義します。ここでビジネス側のゴールとユーザー側のゴールを切り分けて整理し、両者のバランスを取ることが重要です。主な活動例は次の通りです。

  • ユーザーリサーチ(インタビュー、アンケート、ログ分析など)の実施
  • ユーザー像を具体化するペルソナの作成
  • 競合サービスや代替手段の分析
  • ビジネスゴールとUXゴールの整理、成功指標(KPI)の検討

この段階でゴールや前提が曖昧なままだと、後続の設計が場当たり的になりやすいため、時間をかけて方向性を固めておくことが、結果的には近道になります。

第2段階:要件(Scope)

要件段階では、戦略段階で定義したゴールを踏まえ、プロジェクトの範囲を具体的な「やること・やらないこと」として整理します。機能要件やコンテンツ要件を洗い出し、優先順位を付けることが中心となります。主な活動は次の通りです。

  • ユーザーが達成したいタスクに基づく機能要件の定義
  • 画面に必要な情報やコンテンツの列挙
  • リリース段階ごとの対応範囲や優先順位の決定
  • スコープ外とする項目の明確化

ここでの判断が曖昧だと、後から機能追加が続きスケジュールや品質に影響しやすくなります。ユーザー価値とビジネスインパクトの両面から、無理のない範囲でスコープを定めることが重要です。

第3段階:構造(Structure)

構造段階では、ユーザーがどのような流れで情報にアクセスし、タスクを達成するかという「体験の骨組み」を設計します。情報やコンテンツをどのような構造で整理し、どの順番で提示するかを決める段階です。主な活動は次の通りです。

  • 画面遷移図やユーザーフローの作成
  • 情報の階層構造(カテゴリー、グループ)の設計
  • ナビゲーション方針(グローバルナビ、ローカルナビなど)の検討
  • 主要なユースケースごとのシナリオ設計

この段階で「探している情報にたどり着けるか」「迷わずタスクを完了できそうか」という観点で検討しておくと、後の画面設計がスムーズになります。

第4段階:骨格(Skeleton)

骨格段階では、構造段階で設計した体験の流れを、実際の画面レイアウトとして視覚的に表現します。どこに何の要素を配置するか、ユーザーの目線や操作の流れを意識しながらワイヤーフレームを作成していきます。主な活動は次の通りです。

  • 画面ごとのワイヤーフレーム作成
  • ボタン、フォーム、リンクなどインターフェース要素の配置検討
  • レイアウトパターンやコンポーネントの整理
  • 簡易プロトタイプを用いたユーザーテストの実施

ここでは、色や装飾にこだわる前に、「情報の優先度が反映されているか」「迷わず操作できるか」といった観点で検証と改善を繰り返すことがポイントです。

第5段階:表層(Surface)

表層段階では、骨格段階で作成されたレイアウトに、色、タイポグラフィ、アイコン、画像などの視覚的要素を加え、最終的な見た目を仕上げます。ブランドらしさや世界観を反映しつつ、可読性やアクセシビリティにも配慮しながらデザインを完成させます。主な活動は次の通りです。

  • ブランドガイドラインに沿った視覚デザインの作成
  • 色彩、タイポグラフィ、アイコン、イメージ素材の選定
  • ホバーやアニメーションなどのマイクロインタラクション検討
  • デザインデータの整理と、開発チームへの引き継ぎ(デザインシステム化など)

視覚デザインは「最後の飾り」ではなく、情報の優先度を伝えたり、安心感や楽しさを演出したりと、体験全体に大きな影響を与える要素です。骨格で検討した使いやすさを損なわないよう注意しながら仕上げていくことが重要です。

UXデザインの五段階モデルを理解し、各段階で適切な活動を行うことで、ユーザー中心のデザインプロセスを無理なくプロジェクトに組み込むことができます。

UXデザインの五段階モデルの実践方法

UXデザインの五段階モデルは、概念として理解するだけでなく、実際のプロジェクトに適用してはじめて価値を発揮します。ここでは、五段階モデルを使ったプロセスの進め方や、各段階で押さえるべきポイント、実務で意識したい連携と反復、活用イメージとなる事例を紹介します。

五段階モデルを使ったUXデザインプロセスの進め方

五段階モデルを使ったUXデザインプロセスを進める際には、次のような手順で段階をつないでいくことが一般的です。

  1. プロジェクトの目的・背景・成功指標を整理し、関係者間で合意する
  2. ユーザーリサーチを実施し、ユーザーのニーズや課題を把握する
  3. ペルソナやカスタマージャーニーを作成し、ターゲットユーザー像と利用文脈を具体化する
  4. 競合分析や既存サービスの調査を行い、差別化の方向性を検討する
  5. 機能要件や情報アーキテクチャを定義し、実装範囲と優先度を決める
  6. 画面遷移・フロー・ワイヤーフレームなどを作成し、体験全体の構造を設計する
  7. プロトタイプを作成し、ユーザーテストやステークホルダーレビューを実施する
  8. フィードバックを踏まえてデザインを改善し、最終的なデザインと仕様を確定する

この流れを一度で完璧に終わらせるのではなく、小さなサイクルで試しながら進めることで、リスクを抑えつつ品質を高めていくことができます。

各段階で押さえるべきポイント

五段階モデルの各段階には、押さえておきたい観点があります。代表的なポイントをまとめると次の通りです。

段階ポイント
戦略プロジェクトの目的・背景・成功指標を言語化し、ビジネス側とユーザー側の視点を両方整理する。関係者全員が同じゴールを共有できているかを確認します。
要件ユーザーのタスクに基づいて機能要件やコンテンツを洗い出し、優先順位を明確にする。「今回はやらないこと」も合わせて決めておくと、後のスコープブレを防ぎやすくなります。
構造ユーザーが迷わず目的を達成できるフローになっているかを重視し、情報の階層構造やナビゲーションを設計する。複数のパターンを比べて最適な構造を検討します。
骨格レイアウトやインターフェース要素の配置によって、情報の優先度や操作の流れが適切に伝わるかを検証する。ワイヤーフレーム段階でユーザーテストを行うと、大きな手戻りを防ぎやすくなります。
表層ブランドらしさと使いやすさのバランスを意識しながら、視覚デザインを仕上げる。コントラストや文字サイズなど、アクセシビリティの観点も忘れずに確認します。

各段階でこれらのポイントを意識することで、ユーザー中心のデザインプロセスを形だけでなく、実質的な成果につながる形で運用しやすくなります。

段階間の連携と反復作業の重要性

五段階モデルを実践する上で、「一度決めたら終わり」ではなく、段階間で行き来しながら反復することが非常に重要です。ユーザーテストや関係者レビューを通じて新たな気づきが得られた場合、必要に応じて前の段階に戻り、戦略や要件、構造を見直します。

例えば、プロトタイプのテストでユーザーが意図した行動を取っていないことが分かった場合、画面レイアウト(骨格)の問題だけでなく、そもそもの情報構造やナビゲーション設計(構造)に課題がある可能性もあります。このように、「どの段階の前提に問題があるのか」を意識しながら原因をたどることで、表面的な修正にとどまらない改善が行いやすくなります。

また、各段階でチーム内のコミュニケーションを密にし、ドキュメントや図で情報共有を行うことも重要です。デザイナー、開発者、ビジネス担当者など、異なる専門性を持つメンバーが互いの視点を持ち寄ることで、より現実的でユーザーに寄り添った解決策を導きやすくなります。

五段階モデルを活用した成功イメージ

五段階モデルは、業種やサービス形態を問わず幅広いプロジェクトで活用できます。例えば、あるWebサービス企業では、戦略段階でユーザーリサーチを徹底し、既存ユーザーの離脱要因を特定しました。そのうえで要件・構造・骨格を順に見直した結果、ユーザーが目的の情報にたどり着くまでのステップ数が減り、改善後は利用継続率の向上につながったといったケースがあります。

また、ある製造業の企業では、社内業務システムの使い勝手の悪さが業務効率低下の要因になっていました。そこで五段階モデルの考え方を用い、戦略段階で「どの職種のどの業務を優先的に改善するか」を整理し、従業員インタビューを通じて要件を明確化しました。ワイヤーフレームとプロトタイプを用いたユーザーテストを繰り返し行いながらデザインを改善した結果、入力作業の時間短縮やミスの減少といった形で業務効率が向上し、トレーニングコストの削減にもつながったと報告されています。

このように、五段階モデルは新規サービスの立ち上げだけでなく、既存サービスや社内システムの改善にも応用できる汎用的なフレームワークです。

まとめ

UXデザインの五段階モデルは、戦略・要件・構造・骨格・表層という5つの段階を通じて、ユーザーのニーズや課題を深く理解しながら体験を設計していくフレームワークです。このモデルを活用することで、感覚や思いつきに頼らず、筋道だったプロセスに沿ってユーザー中心のデザインを実現しやすくなります。

自社のシステムやサービスをより良くしていくためには、ビジネス目標とユーザーのニーズのバランスをとりつつ、各段階で得られた学びを次の段階に活かし、必要に応じて前の段階に立ち戻る「反復」を続けることが重要です。五段階モデルを自社の開発プロセスに取り入れ、チーム全体で共通言語として活用していくことで、より一貫性のあるユーザー体験の設計と、継続的な改善が行いやすくなるでしょう。

Q.UXデザインの五段階モデルとは何ですか?

戦略・要件・構造・骨格・表層の5段階で、ユーザー体験を段階的に設計していくためのフレームワークです。

Q.五段階モデルの順番は必ず守る必要がありますか?

基本的な流れとして上流から下流へ進みますが、実務では必要に応じて前の段階に戻る反復を行うことが前提です。

Q.アジャイル開発でも五段階モデルは使えますか?

使えます。スプリントごとに五段階を小さく回しながら、段階的に体験を改善していく運用が適しています。

Q.既存サービスの改善にも五段階モデルは有効ですか?

有効です。現状の課題を整理したうえで、戦略や要件から再定義すると、部分的な改修にとどまらない改善がしやすくなります。

Q.小規模なプロジェクトでも五段階モデルを使うべきですか?

規模に応じて簡略化しながら適用することで、小規模プロジェクトでも方向性のブレを防ぐのに役立ちます。

Q.ユーザーリサーチが十分にできない場合はどうすればよいですか?

既存データの分析や簡易インタビューなど、可能な範囲のリサーチから始め、検証と改善を小さく繰り返すことが有効です。

Q.BtoBの業務システムにも五段階モデルは適用できますか?

適用できます。業務フローや権限などBtoB特有の要件を踏まえつつ、ユーザーの作業負荷を減らす設計に活用できます。

Q.デザイン思考と五段階モデルは何が違いますか?

デザイン思考は発想や問題発見の考え方であり、五段階モデルはUX設計を具体化するためのプロセスフレームワークという位置付けです。

Q.社内で五段階モデルの導入を進めるコツはありますか?

まずは小さなプロジェクトで試し、成果や学びを共有することで、徐々に共通言語として広げていくことが効果的です。

Q.五段階モデルを使う際によくある失敗パターンは何ですか?

戦略や要件を曖昧にしたまま下流工程に進んでしまい、後から手戻りが多発するケースが代表的な失敗パターンです。

記事を書いた人

ソリトンシステムズ・マーケティングチーム