ヒューマンエラーは、ときに重大な事故を引き起こし、多大な損失を招く危険性があります。ただし、ヒューマンエラーを単なる個人の過失やプロ意識の欠如として捉えるだけでは、本質を見誤ります。まずは「ヒューマンエラーとは何か」を、定義と種類から整理していきましょう。

ヒューマンエラーとは、人間が原因となって起こる失敗や過誤のことです。簡単に「人為的ミス」と言い換えることもできます。
もう少し厳密に定義するなら、「すべきことをしなかった」「すべきでないことをした」などの人間の行為によって、意図しない結果が生じることといえます。
現場で起きるミスは、当人の注意力だけで説明できないことが多々あります。たとえば「確認する時間がそもそも確保できない」「判断材料が散在している」「例外処理が多い」「誰が責任者か曖昧」など、作業環境・手順設計・組織の運用がミスの発生率を押し上げることがあります。
そのため再発防止では、ミスを「ゼロにする」よりも、ミスが起きにくい条件に寄せる/起きても影響を小さくするという2つの方向で考えるのが現実的です。
ヒューマンエラーには、「本人がまったく意図していないのに発生するもの」と、「本人がある程度の意図を持って行動した結果、発生するもの」があります。分類方法はいくつもありますが、ここではこの2つの違いに沿って説明します。
本人はまったく意図していないのにミスをしてしまうタイプです。よくある原因としては、知識不足、スキル不足、不慣れ、思い違い、不注意などが挙げられます。
本人の未熟さだけが原因とは限りません。連絡・連携不足、情報の伝達漏れ、前提条件の共有不足、勘違いなど、「適切な目標を掲げていたにもかかわらず、誤った行動になってしまう」ことが、このタイプの特徴です。
本人がある程度の意図を持って行動し、その結果ミスが起きてしまうタイプです。
たとえば規則や手順があるにもかかわらず、疲労や単調作業による集中力低下、時間的プレッシャーなどを背景に、手順を省く・別の方法で済ませる、といった行動が起点になります。マニュアルの形骸化、手順無視、いわゆる「手抜き(この程度なら問題ないという判断)」も同様です。
このタイプは違反行為に近い側面があります。本人に多少なりとも「まずいかもしれない」という感覚があっても、「少しくらいなら大丈夫だろう」が勝ってしまい、結果としてミスを引き起こします。
現場で原因を切り分ける際には、「意図の有無」に加えて、次の観点で整理すると対策が立てやすくなります。
同じ「設定ミス」でも、スリップならUI・手順の誤りやすさ、ミステイクなら知識・判断材料の不足、違反なら現実に守れないルールというように、対策がまったく変わってきます。
実務では、次のようなパターンで発生しやすい傾向があります(原因は複合することが多い点に注意してください)。
ヒューマンエラーは、単一原因で起きるよりも、複数の弱点が同時に存在して起きることが多いです。たとえば「時間がない(省略)」「判断材料が散在(勘違い)」「レビューがない(見落としが通る)」が重なると、たまたまではなく再現性のある事故になります。
この観点では、原因を個人に帰すのではなく、弱点が重なって事故になる“穴の連鎖”を断つ(穴を小さくする/穴が一直線に並ばないようにする)という考え方が有効です。
ヒューマンエラーと似ていますが、ヒューマンエラーとはいえないケースもあります。
意図しない行動によるヒューマンエラーと、意図した行動に起因するヒューマンエラーでは、取るべき対策が異なります。
いずれにせよ、ヒューマンエラーはミスした本人を叱るだけで改善できるものではありません。原因を深掘りし、エラーが起きにくい仕組みと環境を作り、少しずつ減らしていくことが重要です。
人間はミスをします。ヒューマンエラーを完全にゼロにすることは難しい一方、発生頻度と影響を小さくすることは可能です。今一度、ヒューマンエラー対策を見直してみてはいかがでしょうか。
ファイルサーバは複数人で共有ファイルを編集・保存するため、認識違いや連携不足、操作ミスによって「データを消してしまう」「保存場所を変えてしまう」「最新版が分からなくなる」といった事故が起きやすい領域です。
こうした事故を減らすには、「やってしまった後でも戻せる」設計が有効です。たとえば、復元手段の整備(バージョン管理やバックアップ)、操作ログの取得、権限設計の見直しなどに不安がある場合は、環境全体の点検をおすすめします。
ファイルサーバの事故は、削除や上書きのような可視化しやすいものだけではありません。権限設定や共有設定が原因で、本来見えないはずの人に見えてしまう(内部漏えい)や、誤って外部に持ち出される(外部漏えい)といった事態も起こり得ます。
このため、ファイルサーバの対策は「バックアップ」だけでなく、権限設計(認可)と監査(ログ)をセットで考えることが重要です。
「戻せる」「追える」「そもそも漏れにくい」設計に寄せることで、ヒューマンエラーが発生しても事故の大きさを抑えやすくなります。
さまざまな企業で、ヒューマンエラーによる情報漏えいが発生しています。なぜヒューマンエラーによる情報漏えいが起きるのか、どのような防止策が有効なのか。セキュリティ対策と同様に重要な「ヒューマンエラー対策」について解説します。

情報漏えいというと、不正アクセスやマルウェア感染など、外部攻撃によって情報を盗み取られるケースを思い浮かべる方も多いでしょう。一方で、実務上は、運用のミスや誤送信など、ヒューマンエラーに起因する事故も少なくありません。
たとえば「紛失・置き忘れ」「誤操作」「管理ミス」「設定ミス」といった要因は、いずれも日常業務の延長で起きやすく、対策が“人任せ”のままだと再発しやすいのが特徴です。情報漏えい対策を考えるときは、外部脅威への備えと同時に、こうした内部運用の事故にも目を向ける必要があります。
ここでは代表的なパターンを紹介します。
個人情報や顧客情報が入ったノートPCやUSBメモリを紛失したり、置き忘れたりして情報漏えいが生じるケースです。出先や自宅で作業する機会が増えるほど、リスクは高まります。最近では業務用スマートフォンやタブレットの紛失・置き忘れも増えています。
よくあるのが、重要データが含まれるメールを誤った宛先に送ってしまうケースです。宛先の選択ミスだけでなく、間違った書類を添付する、CC/BCCの扱いを誤る、といった事故も起こり得ます。
メール以外でも、ファイルサーバ上の重要データを作業のためにローカルPCへ保存し、作業後に削除したつもりが残っていた、バックアップがないデータを誤って削除した、といった誤操作も考えられます。
作業手順やデータの扱いに関するルールが未整備、あるいはルールはあるものの守られない、といった理由で情報漏えいが起きてしまうケースです。紛失・置き忘れも、そもそも重要データの持ち出し可否の設計が不十分だった、という背景がある場合も少なくありません。
また、社用PCをセキュリティ性の低い公衆Wi-Fiに接続する、重要情報を保存していた媒体を「削除しただけ」で廃棄してしまう、なども管理ミスの典型です。
設定ミスはさまざまな局面で起こります。たとえば自動送信メールの設定ミスで誤送信が発生する、ファイルサーバのフォルダ権限設定を誤って外部から閲覧可能になっていた、などです。
また、セキュリティ設定が複雑すぎると、ユーザー側での設定ミスが増える可能性があります。クラウドストレージの共有設定や公開範囲は、意図せず外部公開になりやすいポイントのひとつです。
多くの企業では、ヒューマンエラーによる情報漏えいを防ぐためのルールを定めています。重要なのは、ルールが実態に合っていて、かつ運用として守られることです。
情報漏えいを防ぐには、主要な原因の一つであるヒューマンエラーを減らすことが重要です。外部脅威への対策と同時に、運用の事故を減らす取り組みも、手間と時間をかけて本腰を入れて進めていきましょう。
企業のセキュリティ上の問題や不祥事の背景には、社員のITリテラシーの低さが関係していることがあります。また、ITリテラシーが低い会社は、業務の生産性も低くなりやすいともいわれます。ITリテラシーとは何か、何を行えば向上させられるのか、ポイントを紹介します。

ITリテラシーとは、コンピュータやインターネット、さらにそれらを通じて得られる情報を使いこなすための知識や能力のことです。
もともとリテラシー(Literacy)は読み書きの能力(識字能力)を表す言葉です。日本ではそこから派生して、特定分野の利用能力を表す言葉として使われるようになりました。
ITリテラシーに近い言葉には、情報リテラシー、ネットリテラシー、メディアリテラシーなどがあります。ITの知識や活用能力があり、マナーやルールにも通じている状態を「ITリテラシーが高い」、逆を「ITリテラシーが低い」などと表現します。
社員のITリテラシーが低い場合、会社で次のような問題が起こる可能性があります。
SNSを利用して企業アカウントから情報を発信する際にも、ITリテラシー(もしくはネットリテラシー)はたびたび問題になります。担当者のリテラシー不足がきっかけで不適切な発言・対応をしてしまい、炎上に発展するケースもあります。この場合、SNSの機能や操作方法だけ知っていればよいわけではありません。ネット上のコミュニケーションにおけるマナー、言葉遣い、配慮、スタンス、コンプライアンス知識なども重要です。
また、社員がプライベートでSNSを使う場合でも、勤務先が分かる形で投稿し、かつ不適切な発言をしたことが炎上につながることがあります。
ITリテラシーが求められる領域は幅広いですが、最低限、使用するハードウェアやソフトウェアの基本操作、インターネットや業務システムの基礎知識、ネットコミュニケーションのルール、セキュリティに関わる注意事項は押さえておく必要があります。
セキュリティ事故は、派手な攻撃よりも、日々の小さな判断(添付を開く/共有設定を変える/例外を通す)が積み重なって起きることがあります。知識として理解していても、忙しさや慣れで手順を省略すると事故につながるため、教育では「知っている」から「できる」「続けられる」へ移行する設計が重要です。
ITリテラシー向上のメリットは、大きく「生産性・効率性の向上」と「安全かつ適正なIT運用」の2つに整理できます。
PCやスマートフォン、業務システム、クラウドサービスなどを使いこなせるほど、業務の生産性は向上します。ショートカットや便利機能の活用だけでなく、トラブル発生時に社内SE等へ状況を正確に共有し、対処内容を理解して実行できるかどうかでも差が出ます。
インターネットやデータベースの扱いに慣れていれば、必要な情報を素早く探し出し、信頼性の高い情報を選びやすくなります。誤情報に惑わされにくくなる点も重要です。
メールやWebの扱い、IDとパスワードの管理、端末や記憶媒体の運用など、ITリテラシーの高さがセキュリティ強化に直結する場面は数多くあります。たとえばパスワードを付箋に書いてモニターに貼るような行為は、典型的なリスク行動といえるでしょう。
個人情報の取り扱い、ソフトウェアライセンス管理、SNSやチャットツールの運用、ネットコミュニケーションのマナー、その他ITに関連したコンプライアンス知識が身についていれば、IT絡みの不祥事の防止につながります。
社員のITリテラシーを高めるには、日常業務の中での指導に加え、教育を受ける機会を意識的に設けることが有効です。
すでにリテラシーが高いと思っている人でも、油断が事故につながることがあります。ITリテラシーが求められる状況は変化する前提に立ち、継続的に底上げしていくことが重要です。
A. うっかりミスはヒューマンエラーの代表例ですが、ヒューマンエラーはそれだけではありません。知識不足、勘違い、手順省略、設定ミスなど幅広い要因を含みます。
A. 注意だけでは再発しやすいのが実情です。原因が「仕組み・手順・教育・環境」にある場合が多いため、再発防止には運用設計や環境整備が重要になります。
A. オミッションは「本来やるべきことをしない」ミス、コミッションは「やるべきでないことをしてしまう/やり方を誤る」ミスです。どちらも対策の立て方が変わるため切り分けが有効です。
A. ルールは重要ですが、それだけでは不十分です。ルールが現場で守れる内容か、形骸化していないか、守られているかを確認する仕組みが必要です。
A. 宛先確認の習慣化に加え、送信前確認、添付ファイルの自動チェック、誤送信時の影響を小さくする運用(暗号化・期限付き共有など)を組み合わせると効果的です。
A. 設定を複雑にしすぎないことが重要です。権限設計をシンプルにし、テンプレート化・標準化、レビュー(複数人チェック)を取り入れるとミスを減らせます。
A. 「やってしまった後でも戻せる」設計が有効です。バックアップやバージョン管理、復元手順の整備、操作ログ取得、権限見直しなどを組み合わせると再発時の影響も抑えられます。
A. 十分とは言いにくいです。役職・部門で必要な知識が異なり、脅威やツールも変化します。定期研修や事例共有など、継続的な仕組みが効果的です。
A. フィッシングへの対応、パスワード管理、端末・媒体の扱い、共有設定の判断など、日常業務の小さな判断が事故につながるためです。基本動作が揃わないと、対策の抜け漏れが発生しやすくなります。
A. まずは「起きたら影響が大きい事故」を洗い出し、そこに関わる手順・権限・持ち出し・共有設定などのルールと環境を点検するのが現実的です。次に教育と監査(点検)で運用を回し、改善を継続します。