企業の業務は、SaaS、クラウドストレージ、Web会議、基幹システムなど「ネットワークが使えること」を前提に成り立っています。しかし実務では、インターネット回線を引いただけでは業務は回りません。端末・サーバー・クラウドを安全かつ安定してつなぎ、障害や攻撃が起きても被害を広げにくい社内ネットワーク(イントラネット)の設計が必要です。
この記事では、社内ネットワークの定義と仕組み、構成要素、構築の進め方を整理しつつ、2週目として「判断に使える」観点(要件の決め方、落とし穴、運用で詰まりやすい点)まで踏み込みます。
この章で分かること:社内ネットワークの定義、インターネットとの違い、家庭内LANと同列に扱うと起きやすい問題が分かります。
社内ネットワークとは、「社内イントラネット」とも呼ばれる、企業内で閉じられたネットワークのことです。おもに、パソコンやプリンタなどのOA機器が接続され、会社のデータ(人事、会計、顧客情報)を扱うシステム、ファイル共有サーバー、グループウェアへのアクセスに利用されます。社内に限定されたネットワークを持つことで、情報資産をより安全に取り扱いやすくなり、業務の効率化も図れます。
一方で、社内ネットワークは「社内だから安全」という発想だけでは成立しません。クラウド利用やリモートワークが当たり前になった現在、社内外の境界は曖昧になりがちであり、侵入経路はメール・Web・端末・認証情報の漏えいなど多岐にわたります。社内ネットワークは、単に機器をつなぐ土台ではなく、可用性(止まらないこと)、セキュリティ、運用性を満たす「業務インフラ」として設計する必要があります。
インターネットは不特定多数が接続する外部ネットワークであり、社内ネットワークは企業内の利用を前提に制御されたネットワークです。実務上の違いは「閉じているかどうか」よりも、誰が、どの端末で、どのリソースに、どんな条件でアクセスできるかを組織として設計・運用できる点にあります。
例えば社内ネットワークでは、端末の種類(業務端末、個人端末、IoT、来客端末)や利用目的に応じてネットワークを分離し、認証や権限、ログ取得の方針を揃えます。これが曖昧だと、トラブル時の切り分けが難しくなり、事故や侵害時に影響範囲が広がりやすくなります。
小規模なイントラネットは家庭内にもあります。自宅ではインターネット回線を契約し、ホームネットワーク(家庭内LAN)を構築して複数の機器を接続している方も多いでしょう。ただし、社内ネットワークは家庭内LANと比べて、規模だけでなく求められる可用性やセキュリティレベルが大きく異なります。
業務ネットワークでは、止まると業務が止まるだけでなく、復旧に時間がかかったり、復旧途中にデータ破損や二次被害が発生したりします。さらに、認証情報の漏えい・不正アクセス・マルウェア感染などのリスクに対して、「侵入は起こり得る」前提で被害を抑える設計が求められます。
この章で分かること:LAN/WAN、社内ネットワークの基本階層、通信が成立するための要素(アドレス、名前解決、経路、認証)が整理できます。
社内ネットワークは、拠点内を中心としたLANと、拠点間をつなぐWANに大きく分けられます。
LANは、おもに単一拠点(本社や工場など)で構築されるネットワークです。対してWANは、離れた拠点同士を結ぶ広域ネットワークであり、例えば「東京の本社LAN」と「大阪の支社LAN」をつなげて、ひとつの社内ネットワークとして運用できます。WANの実現方法は、専用線だけでなく、閉域網、拠点間VPN、SD-WANなど、要件(コスト・品質・冗長性)により選択肢が複数あります。
WANを選定するときは、単に「つながればよい」ではなく、次の観点を言語化しておくとブレにくくなります。
LANの接続方法には、有線LANと無線LANがあります。無線LANは利便性が高い一方で、電波が届く範囲にリスクが広がるため、認証・暗号化・運用を前提に設計することが重要です。
有線LANは「ケーブルを挿せばつながる」設計になりがちですが、業務端末だけでなく、複合機、会議室機器、IoT、工場機器など、接続対象が増えるほど「誰でも挿せば入れる」状態はリスクになります。無線LANに限らず、有線でも端末認証やネットワーク認証を設計に含めることが、現代の社内ネットワークでは重要です。
社内ネットワークは機器の集合体ですが、運用や障害対応の観点では、通信を成立させる要素を分解して理解しておくと切り分けが速くなります。
例えば「クラウドにだけつながらない」「特定拠点だけ遅い」といった現場の困りごとは、DNS、経路、FWのポリシー、端末のプロキシ設定など、複数要素が絡むことが多いです。設計時点で要素を整理し、運用でも観測できる状態にしておくことが、2週目の品質に直結します。
この章で分かること:主要機器の役割と、設計で詰まりやすいポイント(分割、冗長化、境界、可視化)を把握できます。
社内ネットワークは、複数の機器を組み合わせて成り立ちます。代表例は次のとおりです。
これらを組み合わせた通信基盤の上で、業務システムや各種サービスが動作します。そのため「つながる」だけでなく、止まりにくい・守りやすい・運用しやすい設計が重要になります。
社内ネットワークでは、端末や用途をひとまとめにせず、VLANやサブネットで分割して、通信の範囲を意図的に狭める設計が基本になります。分割の狙いは次の2つです。
分割は増やせばよいわけではありません。分割が細かすぎると、例外通信が増え、運用が複雑化し、結果として「誰が何を許可したか」管理しにくくなります。2週目の設計品質では、分割の目的と運用できる粒度を合わせることが重要です。
可用性を高めるには、単に機器を二重化するだけでは不十分で、故障時に「どのように切り替わるか」まで含めて設計します。例えば、回線冗長、機器冗長、電源冗長、経路冗長をどう組み合わせるかは、業務影響とコストのバランスで決まります。
また、冗長化は「切替が起きたときに初めて動作が分かる」ことが多いため、導入時のテストと、運用中の定期的な確認が重要です。冗長化のつもりが、実際には片系でしか動いていないケースは珍しくありません。
ネットワークは障害が起きる前に兆候が出ることがあります。例えばエラーカウンタの増加、回線の輻輳、無線の干渉、CPU/メモリの逼迫、認証失敗の増加などです。監視の目的は「障害の検知」だけでなく、平常時の基準を作り、異常を早く見つけることにあります。
運用で現実的に回すには、監視の対象とアラートの基準を絞り込み、一次切り分けに使える項目を揃えることが重要です。誰が見ても判断できる形にしておくと、属人化を減らせます。
この章で分かること:失敗しやすい落とし穴を、セキュリティとトラフィックの両面から「判断材料」として整理できます。
社内ネットワークは「社内向け」とはいえ、外部との通信が発生する以上、マルウェア感染や不正アクセスなどのリスクは避けられません。さらに近年は、クラウド利用やリモートワークの普及により、社内外の境界が曖昧になりやすく、従来よりも強固な対策が求められています。
とくにリモートアクセスを前提にする場合は、「誰が・どの端末で・どこへ」アクセスできるのかを設計し、必要に応じてVPNや認証強化、端末の健全性チェック、アクセス範囲の制限を組み合わせて運用することが重要です。
ネットワークの規模が大きくなるほど、トラフィックにも注意が必要です。ルーターやスイッチなどの機器には処理できるトラフィックが定められており、性能を超えると混雑が起き、通信遅延や切断などの障害につながります。
映像を取り扱う企業や大容量ファイルの転送が多い企業では、影響が顕在化しやすい傾向があります。監視・可視化を前提に、ボトルネックを早期に発見できる状態を作っておくと安心です。
この章で分かること:構築の流れを、要件の決め方と失敗しにくい実務手順として整理できます。
新規構築でも更改でも、まず現状を調査して把握することが重要です。たとえば次のような点を洗い出します。
「社内ネットワークで何を実現したいのか」「何を解決したいのか」を明確にしておくと、後工程がスムーズになります。現状調査は、単なる棚卸ではなく、要件定義の根拠になります。
現状調査の結果をもとに、要件を固めます。例としては次のとおりです。
要件は「現状の延長」で決めると、数年後に破綻しやすくなります。端末増やクラウド利用増など、変化の方向性を織り込んだ上で、運用可能なレベルに落とすことが重要です。
要件に基づき、ネットワーク構成を設計し、機器設定・配線・無線設計などを行います。構成図は「全体」「拠点」「セグメント」の粒度で作っておくと、移行や障害対応もスムーズになります。
設計では、性能や冗長化だけでなく、運用の観点も入れておくことが重要です。例えば、設定変更の手順、設定バックアップ、機器の監視項目、ログの保管先、障害時の一次切り分けまで、後工程で必ず必要になります。
導入前に、通信が想定どおりか、性能は足りるか、切替が機能するかなどを確認します。とくに業務影響が大きい環境では、障害時の挙動まで含めてテストすることが重要です。
IT環境は「一度構築したら終わり」ではありません。トラブルを前提に、運用を整えておくことが重要です。
あわせて、監視を行うことで、問題の早期発見や再発防止につながります。トラフィック増や端末増は避けられないため、定期的に「設計時の前提が崩れていないか」を点検し、必要な投資や分割、運用変更につなげるのが現実的です。
この章で分かること:社内ネットワークを「つながる環境」ではなく「業務インフラ」として成立させるための要点を整理できます。
企業活動において、社内ネットワークは業務の根幹を支える重要インフラです。単に「つながる」だけでなく、障害時にも止まりにくい可用性、情報資産を守るセキュリティ、将来の増加に耐える拡張性、そして運用しやすさまで含めて設計することが重要になります。
まずは現状調査で目的と課題を明確にし、要件決定、設計、構築、テスト、運用の流れで、自社に合った社内ネットワークを整備していきましょう。特に2週目の観点では、構成の正しさだけでなく、判断材料と運用で回る形を先に作っておくことが、後の安定運用と事故耐性を左右します。


社内ネットワークは企業内の利用を前提に制御されたネットワークで、社内システムやファイル共有などに使われます。インターネットは外部のネットワークであり、社内ネットワークは境界で制御しながら必要に応じて接続します。
LANは拠点内のネットワーク、WANは拠点間を結ぶネットワークです。本社や支社など複数拠点をまとめて運用する場合、拠点ごとのLANをWANでつないで全体を構成します。
現状調査です。通信の課題、利用サービス、端末数、拠点構成、将来計画を把握し、何を実現したいかを明確にすると要件と設計がぶれにくくなります。
電波が届く範囲にリスクが広がるため、認証や暗号化、運用を前提に設計する必要があります。ただし有線も挿せば入れる状態だと不正接続に弱くなるため、端末や利用目的に応じた制御が重要です。
境界の制御、端末の防御、認証とアクセス制御、ネットワークの分離と制限、ログと監視の整備が基本です。人のミスや侵入を前提に、被害を広げにくい設計にします。
VPNは有効な手段ですが、それだけで安全が完結するわけではありません。認証強化、端末の状態確認、アクセス範囲の制限、ログ監視などを組み合わせた運用が重要です。
通常時だけで見積もってしまい、全社配信やバックアップ、クラウド同期などピーク時にボトルネックが出るケースです。余裕を持った設計と、監視による継続的な見直しが有効です。
業務影響の大きさによります。停止が業務停止に直結する場合は冗長化の優先度が高くなります。重要度とコスト、復旧体制のバランスで判断します。
障害対応の手順と連絡系統、問い合わせ対応フロー、新規端末の接続手順、変更管理、ログの扱いなどです。属人化を避けるために文書化して共有します。
規模にかかわらず、業務データや社内システムを扱うなら設計は必要です。無理のない範囲で、セキュリティ、運用しやすさ、将来の拡張を意識して整備します。