IT用語集

ITSとは? わかりやすく10分で解説

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目次

交通事故や渋滞、環境負荷といった交通課題は、道路や車両を増やすだけでは解決しにくくなっています。そこで重要になるのが、情報通信技術を使って「人・車・道路」をつなぎ、交通の流れそのものを賢く最適化するITS(高度道路交通システム)です。本記事では、ITSの基本から主要技術、解決できる課題、そして自動運転との関係や今後の論点までを整理し、読者が「ITSで何ができ、何が課題として残るのか」を判断できる状態を目指します。

はじめに

ITSとは

ITSはIntelligent Transportation Systemsの略で、日本語では高度道路交通システムと呼ばれます。情報通信技術を用いて、人・道路・車両をネットワークで結び、交通事故や渋滞といった道路交通の課題を減らすことを目的とした取り組みの総称です。

ITSの重要なポイントは、「車両単体の賢さ」だけではなく、道路側の設備や交通管制、さらには周辺車両や歩行者の情報も含めて交通全体を最適化しようとする点にあります。たとえば、事故や工事で車線規制が起きたとき、ITSはその情報を収集・分析し、ドライバーや交通管理者へ提示することで、回避ルートの案内や信号制御の調整などにつなげます。

また、ITSは安全面に加え、燃料消費やCO2排出の削減といった環境面にも関係します。渋滞の緩和や無駄な迂回の抑制は、走行時間の短縮だけでなく、排出量低減にもつながるためです。

ITSの歴史

ITSの概念は、カーナビゲーションや交通情報提供、料金収受の自動化など、交通を支えるICTが普及していく流れの中で発展してきました。1990年代にカーナビやETCといった車載システムが広く利用されるようになり、交通情報の活用が一般化したことが、ITSの基盤を形づくったと言えます。

その後、通信技術の進化とともに、リアルタイム性や双方向性が強化され、車両と道路、車両同士が情報をやり取りする発想が現実味を帯びてきました。近年はAIやビッグデータの活用が進み、交通量の予測、危険地点の推定、信号制御の最適化など、より高度な運用が可能になりつつあります。

ITSを構成する基本要素

ITSは大きく分けて、情報収集情報処理情報提供の3要素で捉えると理解しやすくなります。交通に関する情報を集め(収集)、分析して意味のある判断材料に変換し(処理)、利用者や運用者へ届ける(提供)ことで、交通の安全性と効率性を高めます。

たとえば渋滞情報であれば、道路センサーや車両データで混雑の兆候を捉え、分析により「どの区間が、どの程度混雑しているか」を推定し、ドライバーには迂回ルート、交通管制には信号制御の調整案として提供します。単なるデータの羅列ではなく、意思決定に使える形に整えて届けることがITSの価値です。

ITSを支える情報通信技術

ITSを成立させる技術要素には、GPSなどの測位技術、車載センサー、道路側センサー、モバイル通信、Wi-Fi、専用無線、クラウド基盤、AIによる解析などが含まれます。これらが組み合わさることで、交通状況を広い範囲で捉え、リアルタイムに近い形で判断へ反映できます。

ただし、「通信が速いほど良い」「データが多いほど良い」と単純には言えません。交通の安全に関わる用途では、遅延や途切れが許容できるか、誤差がどこまで許されるかといった適用条件が重要です。ITSは多様な用途の集合体であり、用途ごとに必要な品質(信頼性・遅延・精度)が異なります。

ITSの主要技術

ITSは複数の技術の集合体であり、単体ではなく連携したときに効果が出る点が特徴です。ここでは、代表例としてVICS、ETC、測位とナビ、ビッグデータ解析という軸で整理します。

道路交通情報サービス

道路交通情報サービスは、渋滞、事故、規制、所要時間などの情報を運転者へ届け、ルート選択や運転判断を支援する仕組みです。道路側のセンサーや交通管制の情報、車両から得られる走行データなどを統合し、状況を可視化します。

ここで重要なのは、情報が「正確」なだけではなく「意思決定に使える形」であることです。たとえば、渋滞の有無だけでなく、発生区間・原因・解消見込み・迂回した場合の所要時間など、判断に必要な材料が揃っているほど、利用者は適切な行動を取りやすくなります。

自動料金収受

ETCに代表される自動料金収受は、料金所での停止や減速を減らし、交通流を滑らかにする技術です。料金所付近はボトルネックになりやすく、停止と発進の繰り返しが渋滞の引き金になることがあります。自動収受により流れが維持されると、渋滞の抑制だけでなく、燃料消費や排出量の低減にもつながります。

また、運用面では料金収受のデータが交通分析にも使われ、時間帯別の交通量推定などに活用されます。決済の効率化にとどまらず、交通の見える化にも寄与する点がポイントです。

測位とカーナビゲーション

GPSなどの測位技術は、車両の位置を把握し、目的地までの案内や所要時間推定の基盤になります。カーナビは地図データだけでなく、交通情報と連携してルートを動的に調整することで、移動の効率を高めます。

一方で、測位には誤差や遮蔽の問題があります。トンネル、ビル街、悪天候などで精度が落ちるケースがあり、ITSの用途によっては補完技術が必要になります。位置情報はITSの要となるため、どの程度の精度が必要かを見極めた設計が重要です。

ビッグデータと交通情報解析

車両データ、道路センサー、スマートフォン由来の移動情報など、交通に関するデータ量は増え続けています。これらを解析することで、渋滞の発生予兆、事故多発地点の傾向、イベント開催時の交通需要などを推定し、対策に結び付けられます。

ただし、ビッグデータ活用には注意点もあります。データが偏っていると推定が歪む可能性がありますし、解析結果は「確率」や「傾向」で示されることが多いため、運用側は不確実性を踏まえて判断する必要があります。AIの活用は有効ですが、万能ではなく、意思決定の補助として位置づける視点が重要です。

ITSが解決を目指す交通課題

交通事故の防止

ITSが目指す大きな成果の一つが事故の抑止です。車両と道路、車両同士が情報をやり取りすることで、見通しの悪い交差点での危険通知、急ブレーキ多発地点の警戒、速度超過の注意喚起など、事故につながる状況を早期に検知して行動変容を促せます。

ただし、事故防止は単に警告を出せば実現するわけではありません。警告が多すぎると慣れが生じ、重要な警告が埋もれるリスクがあります。運転者の行動特性を考慮し、必要な場面で過不足なく情報を届ける設計が求められます。

渋滞の緩和

渋滞は、道路容量だけでなく、運転行動や信号制御、突発的な事故・工事など複数要因で発生します。ITSは、交通情報の提供による経路分散、交通管制による信号制御の最適化、料金所などボトルネックの改善など、複数の手段で渋滞緩和に寄与します。

渋滞緩和で重要なのは、局所最適ではなく全体最適です。ある地点の渋滞回避を促すと別の道が混雑することがあるため、情報提供と交通管制が連携し、都市全体として交通流が安定する形を目指す必要があります。

環境負荷の削減

ITSによる渋滞緩和や最適ルート案内は、無駄な停発進や迂回を減らし、燃料消費や排出量の削減に結びつきます。また、配送や物流の最適化が進めば、車両稼働の効率が上がり、社会全体での環境負荷低減にも寄与します。

ただし、環境効果は「期待できる」一方で、地域や交通需要の特性によって結果が変わります。ITS導入の効果測定を行い、どこでどの施策が効くのかを検証し続けることが重要です。

交通インフラの効率的な利用

ITSの価値は、道路を新設するのではなく、既存インフラを賢く使って交通流を改善できる点にもあります。リアルタイムデータに基づく交通流管理は、同じ道路でも「使い方」を最適化することで混雑を抑えられる可能性があります。

ただし、「制約から解放されている場合」といった前提のない断定は避けるべきです。実際の運用では、設備投資、維持管理、人材、法制度などの制約があり、その範囲内で段階的に整備が進むのが一般的です。

自動運転とITSの関係

自動運転に必要な情報とITS

自動運転は、車載センサーや地図情報だけで完結するものではなく、道路状況や周辺車両の動き、信号情報など、外部情報があるほど安全性と快適性が高まります。ITSはまさに、その外部情報を取得・整理・提供する枠組みとして重要です。

たとえば、見通しの悪いカーブの先の事故、急な車線規制、路面状況などは車両単体では把握しづらい場面があります。道路側や交通管制が持つ情報を共有できれば、より早い段階で安全な判断が可能になります。

自動運転の課題とITSの役割

自動運転の実装には、認識精度、判断ロジック、責任分界、法制度、通信品質など多面的な課題があります。ITSは、交通状況をリアルタイムに把握し、必要な情報を提供することで、認識の補完や予測の精度向上に寄与します。

ただし、自動運転が普及すれば必ず事故が大幅に減る、といった断定は避けるべきです。事故要因は多岐にわたり、技術だけでなく運用や制度の成熟も必要になります。ITSはその基盤を支える一要素として位置づけるのが適切です。

自動運転とITSの将来像

将来的には、車両と道路、交通管制が連携し、交通流全体が最適化される方向が期待されます。たとえば、信号制御が車両の接近状況を踏まえて調整される、混雑が予測されるエリアへ事前に経路分散がかけられる、といった形です。

その実現には、技術だけでなく、標準化、データ共有のルール、セキュリティ設計、責任分界の整理が不可欠です。

ITSの日本での取り組み

各国で進むITSと日本の位置づけ

ITSは多くの国・地域で進められており、交通安全や都市機能の高度化と結びついたテーマとして扱われています。国ごとに重点は異なりますが、標準化、公共交通連携、モビリティサービスとの統合などが共通の論点になりやすい傾向があります。

日本においても、交通安全や渋滞対策に加え、物流効率化や地域交通の維持など、多様な目的と結びつきながら推進される領域です。

日本の推進の考え方

日本のITSは、交通安全の向上と社会課題の解決を両立させる視点が重要になります。車両・道路・人という従来の軸に加え、データ活用と情報通信の整備が進むほど、施策の実効性は高まります。

一方で、導入には費用対効果、自治体間の整合、運用人材、データ共有ルールなどの調整が必要です。技術開発だけでなく、運用設計と制度面の整備が同時に求められます。

企業・研究機関の役割

ITSは自動車メーカーだけでなく、通信事業者、地図・測位関連、センサー、クラウド、AI、交通事業者など多様な主体が関与する領域です。技術単体の競争だけでなく、相互運用性や連携設計が成果を左右します。

大学や研究機関は、交通流解析、通信品質、AIによる予測、セキュリティ設計など、基盤技術の研究を通じてITSを支えます。実装へつなげるには、現場データと社会実装の場が不可欠です。

ITSの今後の展望と課題

通信技術の進化とリアルタイム性

5Gなどの通信技術は、ITSのリアルタイム性や大容量データ活用を後押しします。車両からのデータ量が増えれば、交通状況の把握精度や予測の粒度も高めやすくなります。

ただし、リアルタイム性が求められる用途では、通信の遅延や途切れが安全性に直結する場合があります。用途ごとの要件を定義し、通信品質が満たされないときのフェールセーフ設計が重要です。

公共交通での活用とプライバシー

公共交通にITSを適用すると、運行の見える化、混雑緩和、乗り継ぎ最適化などの効果が期待できます。特に地域交通では、限られた資源を効率的に回すための判断材料として価値があります。

一方で、移動データは個人の行動履歴と結びつきやすく、データ管理とプライバシー保護が不可欠です。利便性と保護のバランスを取る設計が求められます。

ITSのセキュリティ課題

ITSが高度化し、交通制御や自動運転と連携するほど、サイバー攻撃の影響は大きくなります。車両・道路設備・クラウド・通信といった複数領域にまたがるため、単一の対策では不十分になりやすい点が難しさです。

設計段階からのセキュリティ組み込み、認証・暗号化、監視とインシデント対応体制など、運用を含めた全体設計が必要になります。

ソーシャル・イノベーションへの貢献

ITSは交通効率だけでなく、移動制約を抱える人の支援、地域の生活基盤の維持、災害時の交通確保など、社会課題の解決にも関係します。これを実現するには、行政、企業、市民、研究者が同じ目的を共有し、合意形成を進めることが欠かせません。

技術はあくまで手段であり、誰のどの課題を解くのかを明確にしたうえで、段階的に実装し、効果を検証し続ける姿勢が重要です。

Q.ITSとは何ですか?

人・車・道路を情報通信でつなぎ、交通の安全と効率を高める仕組みです。

Q.ITSはどんな課題を解決しますか?

交通事故の抑止、渋滞緩和、環境負荷低減、インフラ利用の最適化に寄与します。

Q.ITSの基本要素は何ですか?

情報収集・情報処理・情報提供の3要素で整理できます。

Q.VICSはITSに含まれますか?

含まれます。交通情報を収集・分析し運転者へ提供する代表的な仕組みです。

Q.ETCは渋滞に関係しますか?

関係します。料金所での停止を減らし交通流を滑らかにします。

Q.ITSと自動運転の関係は何ですか?

自動運転に必要な外部情報を提供し、安全性や快適性を補完します。

Q.5GはITSにどう役立ちますか?

大容量・低遅延通信により、リアルタイムの情報共有を強化できます。

Q.ITSでセキュリティが重要な理由は?

交通制御に関わるため、攻撃が安全に直結する可能性があるからです。

Q.公共交通でもITSは使えますか?

使えます。運行情報や混雑情報の活用で利便性や運行効率を高めます。

Q.ITS導入で注意すべき点は何ですか?

費用対効果、相互運用性、データ管理、プライバシーとセキュリティの設計です。

記事を書いた人

ソリトンシステムズ・マーケティングチーム