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LACPとは? わかりやすく10分で解説

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目次

はじめに

LACPとは?

LACP(Link Aggregation Control Protocol)は、複数の物理リンク(複数のポート/ケーブル)を束ねて、1本の論理リンク(リンクアグリゲーション)として扱うための制御プロトコルです。これにより、冗長性(片系断でも通信を継続)と、複数リンクを活用した帯域の有効利用を両立できます。

基本的な定義

LACPは、リンクアグリゲーションを構成する両端機器(スイッチ/サーバーNICなど)が、どのポート同士を束ねるか束ねた状態が正常かをネゴシエーションし、必要に応じてメンバーリンクの追加・削除(障害時の切り離し等)を自動化するために使われます。

なぜLACPが必要か?

1本のケーブル/1ポートだけに依存すると、そのリンクに障害が起きた時点で通信断になります。LACPを使ったリンクアグリゲーションなら、複数リンクのうち一部が切れても残りで通信を継続でき、障害に強い構成を作れます。さらに、複数リンクを束ねることで、全体として扱える帯域(同時通信の受け皿)を増やすことも可能です。


LACPの仕組み

ここでは、物理ポートと論理ポートの関係、そして通信(トラフィック)がどのように流れるのかを整理します。

物理ポートと論理ポート

物理ポートは、機器に実在するLANポートです。LACPを使うと、複数の物理ポートを1つの論理インターフェース(LAG:Link Aggregation Group)としてまとめられます。OSや上位のネットワーク機能から見ると、LAGは「1本のリンク」として扱われるため、ルーティングやVLAN設定なども論理インターフェース側で管理しやすくなります。

ネットワークトラフィックの分散(ロードバランシング)

リンクアグリゲーションでは、トラフィックを複数の物理リンクへ分散します。ただし分散は「完全に均等」になるとは限りません。一般的には、送信元/宛先MAC、IP、TCP/UDPポートなどを使ったハッシュ方式(フロー単位)でリンクが選ばれます。

そのため、単一の大きな通信(1フロー)の速度は、基本的に1本の物理リンクの速度を超えません。一方で、複数の端末や複数セッションが同時に流れる環境では、全体として複数リンクを活用でき、混雑しにくくなります。

冗長化(フェイルオーバー)の動き

メンバーリンクの一部に障害が起きた場合、LACPはそのリンクを束から外し、残りのリンクで通信を継続します。結果として、帯域は低下しますが、通信断を避けやすくなります(設計と設定、上位構成にも依存します)。


LACPの特徴

LACPが広く採用される背景には、標準化された仕組みであること、そして運用面の扱いやすさがあります。

標準規格との関係

LACPは、リンクアグリゲーションの標準仕様の一部として定義されています。歴史的にはIEEE 802.3adとして知られ、現在は仕様体系の整理によりIEEE 802.1AXとして扱われることが一般的です。標準規格に基づくため、異なるベンダー機器間でも互換性を確保しやすい点が強みです(ただし実装差や推奨設定の違いがあるため、事前検証は重要です)。

冗長性とパフォーマンスの両立

LACPの価値は「速くする」だけではありません。リンク断に備えた冗長性を持たせつつ、並行する通信が多い環境では複数リンクを活用して混雑を緩和できます。つまり、安定性とスループットの現実的な底上げを狙う技術だと言えます。


LACPの設定

ここでは、動作モード(Active/Passive)と、設定前に押さえるポイントを整理します。実際のコマンドやGUIは機器ベンダーにより異なるため、本記事では考え方に絞ります。

ActiveモードとPassiveモード

LACPには、主に次の2つの動作モードがあります。

  • Active:LACPの制御フレームを積極的に送信し、相手とネゴシエーションを開始する
  • Passive:相手からのLACPを受けたときに応答し、必要に応じてネゴシエーションする

一般に、片側がActiveであれば形成されやすく、両側Passiveだと成立しない(もしくは成立しにくい)構成になりがちです。運用では「片側Active、片側Passive」または「両側Active」が選ばれることが多いでしょう。

設定の要件と基本ステップ

設定前に確認したい代表ポイントは次の通りです。

  • 両端機器がLACPに対応していること
  • 束ねるリンクの速度/デュプレックスなどの条件が揃っていること
  • VLAN、MTU、STPなど周辺設定の整合性が取れていること
  • 分散方式(ハッシュのキー)を要件に合わせて選べるか

基本ステップのイメージは次の通りです。

  1. LAG(Port-Channel、Bondingなど)を作成する
  2. 束ねる物理ポートをLAGのメンバーとして登録する
  3. LACPモード(Active/Passive)を設定する
  4. 論理インターフェース側にVLAN等の設定を行う
  5. 状態確認(LACPが成立しているか、メンバーが期待通りか)を行う

LACPの利点と欠点

帯域の有効活用(スケールアウト)

複数リンクを束ねることで、複数端末・複数セッションが同時に通信する環境では、全体としての処理能力を高められます。特にサーバー集約、仮想化基盤、ストレージアクセスなど、同時アクセスが多い環境で効果が出やすいでしょう。

冗長性の確保

メンバーリンクの一部が断になっても、残りのリンクで通信を継続しやすくなります。重要なのは「通信断を避ける」ことであり、障害時は帯域が減る点も含めて設計します。

考慮すべき点(落とし穴)

  • 単一フローは1本分が上限:大きな1通信を速くする目的だと期待とズレることがある
  • 設定不一致で成立しない:片側だけLACP/片側静的、VLANや速度の不一致など
  • 分散偏り:ハッシュの偏りにより、特定リンクだけが混むことがある
  • 機器依存の差:推奨設定や表示項目、タイマーなどに差があるため検証が重要

LACPの適用と他技術

LACPの適用例

LACPは、データセンターやクラウド基盤だけでなく、オフィスの上位スイッチ間接続、サーバーのアップリンク冗長化などでもよく使われます。特に「止めたくない」「混ませたくない」リンクに対して、シンプルに冗長性と実効スループットを底上げできる点が評価されています。

他のリンク集約技術との比較

リンク集約にはLACP以外の選択肢もあります。代表例は次の通りです。

  • 静的リンクアグリゲーション:LACPのネゴシエーションを使わず、両端で固定的に束ねる方式(構成管理が重要)
  • PAgP:特定ベンダー由来の方式として知られる(互換性・採用状況は要確認)

一般には、マルチベンダー環境や標準化を重視するならLACPが第一候補になりやすいでしょう。


LACPの今後

ネットワークの高速化・自動化が進む中でも、リンクアグリゲーションの考え方自体は「基本技術」として残り続けます。今後は、構成の自動化、監視・可視化の高度化、より高速なインターフェースでの運用最適化(偏りの抑制など)が、現場のテーマになっていくはずです。


LACPの使用とトラブルシューティング

実際の使用例

たとえばサーバーのアップリンクを二重化し、片系断でもサービスを継続できるようにする、といった使い方は典型的です。また、スイッチ間の上り回線を複数本束ねて、ピーク時の混雑を緩和する構成にも向いています。

トラブルシューティングの基本

「不安定」「帯域が出ない」と感じたときは、まず次を疑います。

  • LACPが成立しているか(相手と合意できているか)
  • メンバーリンクがすべてUpになっているか(物理断・エラー増加)
  • 両端の設定が一致しているか(LACP/静的、VLAN、速度、MTUなど)
  • 分散方式が要件に合っているか(偏りが出ていないか)

ログや状態表示(メンバーごとの状態、LACPネゴシエーション状況、エラーカウンタ)を確認すると、切り分けが早くなります。


まとめ

LACP(Link Aggregation Control Protocol)は、複数の物理リンクを束ねて1本の論理リンクとして扱い、冗長性と帯域の有効活用を実現するための標準的な仕組みです。設定の整合性、トラフィック分散の特性(フロー単位で偏り得る点)、単一フローの上限などを理解したうえで設計すると、安定したネットワーク運用に役立ちます。

よくある質問

LACPとリンクアグリゲーション(LAG)の違いは何ですか?

LAGは「複数リンクを束ねた論理リンク」という仕組み全体を指し、LACPはその束ね方を両端でネゴシエーションして管理するための制御プロトコルです。

LACPを使うと通信速度は必ず倍になりますか?

必ずしも倍にはなりません。一般にフロー単位で分散するため、単一フローの最大速度は1本の物理リンク相当です。複数フローが同時に流れるときに効果が出やすいです。

Active/Passiveはどう選べばよいですか?

一般には「少なくとも片側をActive」にします。両側Passiveだと成立しない(または成立しにくい)ことがあるため、運用では両側Active、または片側Active・片側Passiveが無難です。

片側がLACPで、片側が静的リンクアグリゲーションでも動きますか?

機器や設定によってはリンクUpに見えても、意図通りに束ねられず不安定になることがあります。基本は両端で同じ方式(LACP同士、静的同士)に揃えるのが安全です。

LACPで冗長化すると、リンク断のときに通信は止まりませんか?

メンバーリンクの一部断であれば、残りリンクへ切り替わり、通信断を避けられることが多いです。ただし、上位の構成(STPやL3冗長、設計)や障害箇所によって挙動は変わります。

分散(ロードバランシング)はどのように行われますか?

送信元/宛先MAC、IP、TCP/UDPポートなどを元にしたハッシュでメンバーリンクが選ばれるのが一般的です。均等になるとは限らず、偏りが出ることもあります。

LACPを組むとき、束ねるポートは何を揃える必要がありますか?

速度やデュプレックス、VLANやトランク設定、MTUなど、機器が求める条件を揃える必要があります。条件が不一致だとLACPが成立しない、またはメンバーから外される原因になります。

LACPが成立しているかはどう確認しますか?

機器の状態表示で、LAGのUp/Down、メンバーリンクの参加状態、LACPのネゴシエーション状態(同期・タイムアウト等)を確認します。加えてエラーカウンタやログも有効です。

PAgPとLACPはどう違いますか?

LACPは標準規格に基づく方式として広く使われます。PAgPは特定ベンダー由来の方式として知られ、互換性や採用状況は環境により異なるため事前確認が重要です。

「帯域が出ない」ときに最初に疑うべき点は何ですか?

LACPが成立しているか、メンバーリンクがすべてUpか、エラーが増えていないか、分散方式が偏りを生んでいないかを最初に確認します。単一フローが上限に当たっているケースもよくあります。

記事を書いた人

ソリトンシステムズ・マーケティングチーム