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企業の経営活動を支えるうえで、情報システムとIT基盤は「あるだけ」では十分ではありません。データの整合性が取れていない、部門ごとに数字が違う、必要な情報が必要なタイミングで出てこない、といった状態では、業務の非効率化や意思決定の遅延につながります。本記事では、MISIの基本概念から導入の進め方までを整理し、「自社で何を整えるべきか」「どこから着手すべきか」を判断できる状態を目指します。
MISIとは、Management Information System and Infrastructureの略称で、経営情報システム(MIS)と、それを支えるインフラストラクチャーを一体として捉える考え方です。経営戦略の立案、意思決定、業務遂行を支援するために「情報が流れる仕組み」と「その仕組みを安定運用する土台」を合わせて設計・運用します。
MISIは、以下の2つの要素から構成されます。
MISIのポイントは、業務アプリケーションだけでなく、ネットワーク・セキュリティ・運用体制まで含めて「経営に必要な情報を、継続的に使える状態」をつくることです。例えば、レポートを作れる仕組みがあっても、データ更新が止まる、権限管理が曖昧で監査に耐えない、障害時に復旧できない、といった状態では経営判断を支えられません。
MISIは「特定の製品名」ではなく、経営活動を支えるための設計対象の範囲を指します。一般的には次のような要素が含まれます。
自社の課題が「情報が見えない」のか「システムが止まる」のか「運用が回らない」のかで、優先すべき設計ポイントは変わります。MISIは、この優先順位を整理するための枠組みとしても有効です。
MISIの概念は、1960年代に普及し始めた経営情報システム(MIS)に源流があります。当時は大型コンピューターによる集中処理が中心でしたが、1970年代以降のPC普及で分散処理が広がり、1990年代以降はインターネットにより企業内外の情報共有が現実的になりました。現在はクラウド、データ分析、AI、自動化の進展により、システムとインフラを「変化に合わせて継続的に最適化する」ことが求められる局面に入っています。
MISIの主な目的は、次のとおりです。
「データがある」だけでは不十分で、正確性、鮮度、参照のしやすさ、権限管理、運用継続性が揃ってはじめて意思決定に使える情報になります。MISIは、その条件を満たす仕組みづくりを目的とします。
| 特徴 | 説明 |
|---|---|
| 統合性 | 部門ごとに分断された情報やシステムを連携し、同じ指標を同じ定義で扱える状態を目指す。 |
| 柔軟性 | 組織変更、事業拡大、拠点追加、制度変更などに合わせて、構成や運用を見直せる。 |
| 拡張性 | データ活用や自動化など、段階的に機能を追加しやすい設計を重視する。 |
| セキュリティ | 情報資産を守るために、認証・権限・ログ・監視・復旧を含めて設計する。 |
MISIの導入と運用には、IT部門だけでなく業務部門・経営層の関与が不可欠です。経営戦略とIT戦略の整合性、データ定義の合意、運用ルールの徹底が揃わないと、統合が逆に混乱を招くこともあります。
企業には、会計、販売、購買、人事、在庫、生産など、業務ごとに最適化されたシステムが存在します。これらを連携させることで、同じ顧客・商品・拠点・期間に対して一貫したデータを参照できるようになり、二重入力や突合せ作業を減らせます。
統合の成否は、技術だけでなく「データ定義の合意」と「運用で守れるルール設計」に左右されます。
情報システムは業務を回す道具である一方、経営戦略を実現するための手段でもあります。MISIを設計する際は、経営が重視する指標(KPI)や意思決定の頻度、必要な粒度(拠点別、製品別、顧客別など)を明確にし、それを支えるデータ収集・可視化・運用の形を定めます。
ここが曖昧なまま導入を始めると、ツールは整っても「結局、何を見ればよいのか」が定まらず、活用が進みにくくなります。
MISIは、経営層から現場までの意思決定を支援します。重要なのは、データを大量に並べることではなく、判断に必要な情報を、誤解の少ない形で提示することです。例えば、次のような情報が典型例です。
この条件が揃うと、会議のための資料作成が減り、議論が「数字合わせ」から「打ち手」に寄りやすくなります。
部門単位の最適化だけでは、全体最適は実現しません。MISIでは、部門間の情報連携や業務プロセスのつながりを前提に、企業全体のパフォーマンスを高めることを目指します。
組織全体の最適化には、ルール作りと定着が欠かせません。システム導入と並行して、権限管理、変更管理、教育、運用手順といった「守れる仕組み」を整えることが現実的です。
MISIの導入効果は、ツールや構成だけで決まるものではなく、設計と運用の成熟度で変わります。ここでは代表的な効果を、起きやすい改善点と合わせて整理します。
MISIにより、データの二重入力や転記、突合せ、資料作成などの間接作業が減りやすくなります。
効率化で生まれた時間を、分析や顧客対応、改善活動に回せるようになると、導入効果が見えやすくなります。
MISIのコスト効果は「単純にIT費を下げる」だけではありません。運用・保守・人手のかかり方を含めて、コスト構造を改善する観点が重要です。
短期的には投資が先行しやすいため、どの指標で効果を測るか(例:作業時間、欠品率、リードタイム、監査対応工数)を事前に決めておくと評価がしやすくなります。
MISIが整うと、会議の直前にデータをかき集める負担が減り、意思決定が「確認」から「判断」に移りやすくなります。
ただし、スピードを上げるほど誤差や暫定値の扱いが重要になります。速報値と確定値を区別し、意思決定の種類によって使い分ける運用が現実的です。
MISIは、データを根拠に改善を回し続けるための土台になります。継続的に改善が回ると、結果として競争力に影響します。
競争力への寄与を明確にするには、「どの改善が、どの顧客価値に結び付くのか」を言語化しておくことが重要です。
MISIの導入は、システム導入というより「経営に必要な情報を、継続的に使える状態にするための整備」です。段階ごとに目的と成果物を明確にして進めると、途中でのブレが減ります。
まず、現状の業務プロセス、既存システム、データの流れ、運用体制を棚卸しします。特に、次の観点を具体的に洗い出します。
現状分析の目的は「理想像を語ること」ではなく、導入で解くべき課題を特定し、優先順位を付けることです。
現状の課題を踏まえ、MISIで実現したい状態を要件として定義します。要件定義では、次の点を明確にし、関係者で合意します。
要件定義が曖昧なまま進むと、導入後に「欲しかったものと違う」というギャップが生まれやすくなります。早い段階で判断軸を揃えることが重要です。
要件に基づき、アーキテクチャ、データ連携、インフラ構成、運用設計を行います。設計は技術要素だけでなく、運用で守れる形にすることが要点です。
「設計どおりに運用できるか」を確認するために、運用手順や責任分界点(誰が何をやるか)を文書化しておくと、導入後の混乱を抑えやすくなります。
設計に基づき、段階的に導入を進めます。大規模な切り替えはリスクが高いため、優先度の高い領域から導入し、効果測定と改善を回しながら範囲を広げる進め方が現実的です。
MISIは導入して終わりではなく、経営環境の変化に合わせて改善し続けることが前提です。定期的に「目的に対して情報が足りているか」「運用が形骸化していないか」を点検する仕組みを持つと安定します。
MISIは、経営情報システム(MIS)とインフラストラクチャーを一体として捉え、経営判断と業務遂行を継続的に支えるための基盤です。適切に設計・運用できれば、業務効率の改善、コスト構造の見直し、意思決定の迅速化、競争力強化につながります。導入にあたっては、現状分析から始め、要件を合意し、運用まで含めた設計を行い、段階的に導入と改善を回すことが成功の近道になります。
経営情報システムとITインフラを一体で設計・運用する考え方です。
MISに加えてネットワークやセキュリティなど基盤全体まで含めます。
現状の業務・データ・運用を棚卸しして課題の優先順位を付けることです。
IT部門に加え、経営層と業務部門が目的と指標を合意して進めるべきです。
作業時間、突合せ工数、欠品率、リードタイムなど事前に指標を決めて測ります。
目的とデータ定義が曖昧なままツール導入を進めることです。
必須ではありませんが、柔軟性や拡張性を高める選択肢になります。
認証・権限・ログ・監視・復旧を含め、経営情報を守る設計まで扱います。
終わりではなく、運用しながら継続的に見直して改善していきます。
優先度の高い領域から段階的に導入し、効果測定と改善を回す方法です。