製造業では「作りたい数」だけでなく、「そのために必要な部品が、いつ、いくつ揃っているか」が生産の成否を左右します。MRP(資材所要量計画)は、製品構成(BOM)と在庫、リードタイムをもとに、必要な部品を時間軸で逆算し、調達・製造の手配を整えるための考え方です。
本記事では、MRPの基本、計算の考え方、MRP IIやERPとの関係、導入時につまずきやすい点までを整理し、読了後に「自社にMRPが効く領域」と「導入で押さえるべき前提条件」を判断できる状態を目指します。
MRP(Material Requirements Planning:資材所要量計画)は、製造業において製品の生産計画を起点に、必要な材料・部品を「いつ」「どれだけ」手配すべきかを計算し、在庫と欠品の両方を抑えながら生産を回すための計画手法です。一般に、BOM(部品表)、在庫データ、基準生産計画(MPS)を用いて、部品の所要量を時間軸で算出します。
MRPは「部品の必要量を出すだけ」の仕組みではありません。発注から入荷までのリードタイム、ロットサイズ、発注点、安全在庫などの条件を踏まえ、現場が実行できる形(発注提案・製造指示の提案)に落とし込むことが目的です。

MRPは、1960年代にコンピュータの業務利用が進む中で、複雑化する製品構成と部品点数に対応するために発展してきました。MRPの原理を体系化した代表的な文献として、ジョセフ・オーリッキー(Joseph Orlicky)の著作(1975年刊)があります。
MRPは資材(材料・部品)を中心に計画しますが、やがて設備能力(Capacity)、人員、コストなど「製造資源」全体を統合的に扱う考え方へ拡張され、MRP II(Manufacturing Resource Planning)へ発展しました。さらに企業全体の業務(販売・購買・会計・人事など)を統合するERP(Enterprise Resource Planning)へと広がっていきます。
重要なのは、MRP/MRP II/ERPが「別物」ではなく、扱う範囲(統合の広さ)が段階的に拡張した系譜として理解すると整理しやすい点です。MRPは今も、ERPの中核ロジックの一部として実装されていることが一般的です。
MRPの考え方は、突き詰めると次の一文に集約できます。
「必要な部品を、必要なタイミングで、必要な量だけ確保する」
ただし現実の製造では「必要な量」は一意に決まりません。発注単位、歩留まり、不良率、工程の制約、調達のばらつきなどが絡むため、MRPは前提条件(マスタ)を置いて計算し、計画を回しながら前提を更新する運用が前提になります。
BOMは単なる一覧ではなく、「最終製品 → サブアセンブリ → 部品」という階層構造を持つ点が重要です。MRPはMPSを起点に、このBOMを上位から下位へ展開(いわゆる“BOM展開”)し、下位部品の所要量を算出します。
この構造が曖昧だと、計算結果がそれらしく見えても、現場の手配と一致しません。MRP導入で最初に苦労しやすいのは、実はシステム設定よりもBOMと品目マスタの整備です。
MRPの計算は「未来の需要(MPS)に対して、部品が足りるか」を時間軸でチェックし、足りない分をいつ補うかを決めるプロセスです。一般に次の流れで整理できます。
MRPの結果は、単なる数量表ではなく「時間で区切られた計画」です。たとえば、ある部品が第4週に必要で、調達リードタイムが2週間なら、第2週までに発注していないと間に合いません。ここに、発注単位や安全在庫、輸送遅延のリスクを織り込んでいくのが運用上の工夫になります。
MRPは予測や受注に基づくMPSを入力にするため、需要が大きく変動する業態では、計画の更新頻度や凍結期間(計画を変えない期間)の設計が重要です。需要予測の精度向上は有効ですが、現実には「100%当てる」よりも、外れたときに素早く計画を更新できる運用が効いてきます。
MRPには明確な利点がある一方、前提条件が整っていないと期待した効果が出にくい側面もあります。導入判断では、両方を同じ重さで押さえることが重要です。
MRPの代表的な効果は、欠品や過剰在庫の抑制です。必要時点を基準に手配を組むため、勘や経験に依存した「多めに持つ」判断を減らし、在庫を合理的に説明できる状態に近づきます。
また、生産計画の面では、部品の手配遅れによるライン停止を減らし、納期遵守率を高めやすくなります。ただし、これはMRPが魔法のように解決するのではなく、手配の前倒しが必要な箇所を早期に見える化することで、現場が動けるようになる効果だと捉えると現実的です。
MRPが機能し始めると、調達・生産・在庫の情報が共通言語になります。たとえば「欠品の理由」が属人的な説明ではなく、「どの品目が、いつ、どの計画変更で不足したか」という形で追えるようになります。部門間の議論が“感覚”から“データ”に寄りやすくなる点は、導入価値として見落としにくいポイントです。
近年、IoTやAIの文脈でMRPが再び語られることがあります。ただし、これは「MRPがAIで置き換わる」というより、MRPが依存するデータの鮮度と精度が上がり、計画の更新が現実に追いつきやすくなる方向性として捉えると、誤解が少なくなります。
製造設備や倉庫からリアルタイムで実績データが取れるようになると、在庫差異や工程遅延の把握が早くなります。その結果、MRPの前提(リードタイム、歩留まり、仕掛量など)を現実に近づけやすくなり、計画の精度と信頼性が上がります。
AIが得意とするのは、需要の変動パターンや外部要因の関係を見つけ、予測を改善することです。需要予測の精度が上がれば、MPSのブレが抑えられ、結果としてMRPの手配変更も減りやすくなります。
一方で、AIを使っても、BOMが不整備だったり、在庫実績が合っていなかったりすると、結局は誤った計画になります。AI活用は、MRPの代替というよりMRP運用を安定させるための補助輪として考える方が現場に馴染みやすいでしょう。
MRPは導入して終わりではなく、日々の運用で価値が決まります。導入の成功確率を上げるには、「システム選定」より先に、運用の前提と責任範囲を固めることが効果的です。
MRPは、製造現場のすべての問題を自動で解決するものではありません。突発停止、供給制約、設計変更、歩留まり悪化などは起きます。そのときに重要なのは、MRPの結果を「正解」として押し付けるのではなく、例外を早く見つけ、対処の選択肢を並べる道具として使う姿勢です。
たとえば部品点数が多い組立型製造では、欠品が1点あるだけで最終製品が出荷できません。MRPを段階導入し、ボトルネック部品や納期影響が大きい部品から手配提案を運用に乗せることで、欠品起因の遅延が減り、結果として在庫を「増やす」のではなく「狙って持つ」方向に改善していく、という進め方が現実的です。
MRPは、製造業の計画と手配を「経験」から「再現可能な手順」へ寄せるための基盤です。BOM・在庫・リードタイムなどの前提データをもとに、必要な部品を時間軸で算出し、欠品と過剰在庫の両方を抑えながら生産を安定させます。
一方で、MRPはデータ品質と運用設計に依存します。導入効果を出すには、マスタ整備、在庫精度、例外対応フロー、段階導入の設計が欠かせません。AIやIoTはMRPを置き換えるのではなく、MRPの前提データを現実に近づけ、更新を速めることで、運用を支える技術として位置づけると理解しやすいでしょう。
MRPは資材・部品の所要量計画が中心で、ERPは販売・会計・人事など企業全体の業務まで統合する仕組みです。
MRP IIは資材に加え、設備能力や人員など製造資源全体を計画に取り込む考え方です。
基準生産計画(MPS)、部品表(BOM)、在庫記録、リードタイムが必須です。
部品所要量の計算が崩れ、欠品や過剰手配が発生しやすくなります。
使えますが、計画更新の頻度と凍結期間、例外対応の運用設計が重要になります。
予測や計画(MPS)を起点に部品を手配するため、需要の実績に引かれる「プル型」と区別されます。
BOMや在庫、リードタイムなどのマスタ精度不足と、例外時の意思決定フロー未整備が主因です。
部品点数が多く欠品影響が大きい場合は有効です。対象品目を絞った段階導入が現実的です。
実績データの取得が早くなり、在庫差異や遅延を反映して計画前提を更新しやすくなります。
置き換えるより、需要予測や異常検知でMRP運用を安定させる補助として機能します。