サーバーやネットワーク機器、製造設備などを選定するとき、「どのくらい壊れにくいか」「止まったときにどのくらい影響が出るか」は、コストと業務継続の両面で避けて通れない論点です。そこでよく登場する指標がMTBF(Mean Time Between Failures:平均故障間隔)です。ただし、MTBFは“寿命”や“故障しない保証”を表すものではなく、前提条件とあわせて読み解かないと誤解につながります。本記事では、MTBFの基本から計算方法、活用のしかた、よくある誤解、関連指標との違いまでを整理し、判断に使える形で解説します。
MTBF(Mean Time Between Failures:平均故障間隔)とは、修理して再稼働できる装置・システムを前提に、故障と故障の間にどれだけ稼働していたかを平均した時間を指します。たとえばサーバー、ルータ、スイッチ、製造設備など「故障しても修理・交換して運用を継続する」対象でよく使われます。
重要なのは、MTBFが表すのはあくまで平均的な故障間隔であり、「この時間までは壊れない」という保証でも、「製品寿命そのもの」でもない点です。運用環境(温度・湿度・負荷・電源品質)、冗長化構成、保守体制、ファームウェア更新の有無などによって実際の故障発生は大きく変わります。MTBFは“信頼性を語る材料の一つ”として、条件をそろえた比較や、運用計画の設計に用いるのが基本です。
なお、メーカーが公表するMTBFは、試験条件や推定モデルに基づく場合があります。現場の運用実績で算出したMTBFと、スペックとして記載されたMTBFは意味合いが異なることがあるため、「どの条件で算出された値か」を確認する姿勢が重要です。
MTBFは、製造業やIT運用(インフラ・データセンター運用など)で広く使われる信頼性指標です。基本的には「一定期間における稼働時間の合計」と「その期間に発生した故障回数」から算出します。
ただし、MTBFを扱うときには次の前提整理が欠かせません。
こうした定義が曖昧なままMTBFの数字だけを見ても、比較や改善の判断に使いにくくなります。MTBFは「正しい問い(定義)を立てたうえで、定量的に把握する」ための指標だと捉えると、運用に落とし込みやすくなります。
MTBFの基本式はシンプルです。
MTBF = 総稼働時間 ÷ 故障回数
たとえば、ある機器が1年間(24時間×365日=8,760時間)稼働し、その期間に3回の故障が発生した場合、MTBFは 8,760 ÷ 3 = 2,920時間 となります。これは「平均すると約2,920時間ごとに故障が発生した」と読むのが正確です。
なお、ここでの「故障回数」は定義が重要です。たとえば冗長構成で片系が故障してもサービスが継続した場合、それを故障として数えるのか(部品故障として記録するのか、サービス停止のみを故障とするのか)で、MTBFは大きく変わります。運用改善に使うなら、サービス影響(ユーザー影響)と部品故障(保守負荷)の両方を切り分けて記録することが有効です。
また、故障発生が「一定確率でランダムに起きる」ことを暗に前提としている場面が多い点にも注意が必要です。初期故障(導入直後に起きやすい不具合)や摩耗故障(寿命末期に増える故障)が混ざると、単純な平均値は実態を捉えにくくなることがあります。こうした場合は、期間を分けて傾向を見る、故障モード別に分析するなど、補助的な見方が必要です。
MTBFとセットで理解すると判断しやすい指標として、MTTF(Mean Time To Failure:平均故障時間)やMTTR(Mean Time To Repair:平均修復時間)があります。
MTTFは、修理せず「故障したら終わり(交換)」という前提の対象(例:使い捨て部品、修理しない前提のデバイス)で、故障するまでの平均時間を扱います。一方、MTTRは故障発生から復旧までの平均時間を示し、運用体制(要員、予備品、保守契約、復旧手順)によって大きく変動します。
現場で重要なのは、MTBFが長くてもMTTRが長ければ業務影響が大きくなる点です。つまり「壊れにくさ(MTBF)」だけでなく「直しやすさ(MTTR)」を組み合わせて見ることで、可用性や運用品質をより正確に評価できます。
MTBFは、製品選定・保守計画・品質改善のいずれにも使える“入り口”の指標です。たとえば、同等スペックの機器を比較するときに「故障しやすさの傾向」を推定したり、運用実績から「どの程度の頻度で故障が起きるか」を見積もったりできます。
ただし、「MTBFが高い=無条件に優れた製品」とは限りません。MTBFは平均値であり、算出条件が異なれば比較は成立しません。さらに、実運用ではファーム更新、設定変更、負荷変動、設置環境など多くの要素が絡みます。MTBFは比較の前提条件をそろえることで価値を発揮する指標であり、導入判断ではSLA要件、冗長化、保守契約、交換部品の供給期間などと一緒に確認することが重要です。
MTBFは「数字があると安心」になりがちですが、真価は運用設計と改善に落とし込めることにあります。ここでは業界ごとの典型的な使いどころを整理しつつ、どのような判断に結びつくのかを具体化します。
IT業界では、サーバーやネットワーク機器、ストレージなどの選定や、運用保守の設計にMTBFが参照されます。たとえば「同等クラスの機器で、どれが故障しにくい傾向か」を比較したいとき、MTBFは一つの材料になります。
ただし、ITでは障害=機器故障とは限りません。ソフトウェア不具合、設定ミス、証明書失効、外部サービス障害、人的オペレーションミスなど、原因は多岐にわたります。したがって、運用でのMTBFを考えるなら「機器故障のMTBF」と「サービス障害のMTBF」を分けて扱うと、改善施策が立てやすくなります。
また、ダウンタイムの影響が大きいシステムでは、MTBF単体よりも可用性(稼働率)に結び付けて評価するのが実務的です。たとえば、MTBFが長くてもMTTRが長ければ、結果として稼働率は上がりません。運用面では、予備機の有無、保守契約のレベル、交換部材の手配時間、復旧手順の標準化などがMTTRを左右し、結果として可用性に直結します。
さらに、ソフトウェアについても「クラッシュや障害の平均発生間隔」としてMTBFの考え方を当てはめることはできます。ただし、ソフトウェアは更新や変更が頻繁で、故障分布が安定しにくいことが多いため、単純な平均だけで品質を断定せず、リリース単位・機能単位での分析と併用するのが安全です。
製造業では、生産設備の停止が生産計画や品質、納期に直結するため、MTBFは保全活動の中心指標として扱われることが多いです。設備がどの程度の頻度で止まるかが分かれば、予防保全の周期、部品交換の計画、予備品の在庫量、保守要員の配置などを合理的に設計できます。
ここでのポイントは、MTBFが高い設備を選ぶだけでなく、故障モード別にMTBFを分解することです。たとえば、摩耗部品の交換で防げる停止と、突発的な電気系トラブルでは対策が異なります。停止要因を分類し、停止回数・停止時間(MTTR相当)・影響度をセットで見ることで、投資判断(センサー追加、冗長化、予備品強化)がしやすくなります。
また、顧客に対してMTBFを提示する場合もありますが、ここでも「試験条件・稼働条件」の明示が重要です。条件を示さずに数字だけを出すと、使用環境差によるトラブル(期待値のズレ)を招きやすくなります。
通信業界では、ネットワークインフラの信頼性がサービス品質に直結するため、機器のMTBFが設計・調達の重要材料になります。特にSLA(サービスレベル合意)を前提にする場合、故障頻度の見積もりは、冗長化構成、保守レベル、監視体制の設計に影響します。
ただし、SLAの観点では「機器が壊れる頻度」だけでなく、「壊れてもサービス影響を出さない構成になっているか」が重要です。通信網では冗長経路、切替時間、監視・自動復旧などが整っていれば、個々の機器MTBFが完璧でなくても全体の可用性を高く保てます。したがって、通信業界ではMTBFを単体指標ではなく設計入力として扱い、可用性設計(冗長・切替・監視)と統合して評価することが一般的です。
交通業界では、車両や信号、制御装置などの故障が安全性と定時性に直結するため、MTBFは運用と保守の設計で重要な指標になります。鉄道・航空・道路インフラでは、故障が発生したときの影響度が大きいので、「故障間隔の把握」と「故障時の復旧設計(手順・予備品・要員)」を両輪で整える必要があります。
また、交通分野では「故障が起きる前提」で安全を確保する設計(フェイルセーフ、フェイルオペレーショナル)も重要です。MTBFが高い装置を選ぶことは大切ですが、それだけで安全が担保されるわけではありません。安全側に倒れる設計、異常検知、切替、点検周期の設計などを、MTBFとあわせて評価していくことが求められます。
MTBFは製品の信頼性を評価するうえで有用な指標ですが、評価のポイントは「MTBFが高いかどうか」だけではありません。特に比較や意思決定に使う場合、算出条件をそろえ、現場条件に照らすことで初めて意味のある判断材料になります。
MTBFは、製品設計、部品品質、生産プロセス、使用環境、保守体制など、ライフサイクル全体の影響を受けます。したがって、MTBFの数字を見たら「その数字はどんな前提のもとで得られたのか」「自社の条件に置き換えたとき何が変わるのか」を確認することが重要です。
ここで注意したいのは、「MTBFを高くする方法」と「MTBF(算出値)の精度を高める方法」は別物だという点です。運用上は後者、つまりMTBFを正しく測れる状態を作ることが改善の第一歩になります。
精度を高めるには、まず故障定義と記録の一貫性が必要です。故障の分類(停止、性能劣化、冗長切替、部品交換など)を決め、発生日時、復旧日時、原因、影響範囲、暫定対処、恒久対策を同じ粒度で蓄積します。次に、運用変更(設定変更、更新、負荷増)と故障発生を紐付けられるように変更管理を整備します。
そのうえで、技術開発(設計改善)、生産管理(工程品質の安定化)、アフターサービス(フィードバックで故障モードを減らす)を回すことで、結果として“実態としてのMTBF”も改善しやすくなります。数字の精度と改善サイクルの精度はセットで考えると、運用に落とし込みやすくなります。
MTBFは異なる製品を比較する材料になりますが、比較が成立するのは条件が近い場合に限られます。たとえば、温度条件、負荷条件、稼働時間、設置環境、保守契約、冗長化構成が異なると、同じMTBFでも意味が変わります。
比較の実務では、次のような観点を併記すると判断しやすくなります。
このように、MTBFは「比較の出発点」であり、最終判断では運用・保守・構成を含めた総合評価が必要です。
MTBFを改善(実態として故障間隔を伸ばす)するには、故障原因の切り分けと対策が欠かせません。典型的には、設計改善、材料・部品の選定、生産プロセスの見直し、運用条件の適正化(温度管理、電源品質、負荷分散)などが施策になります。
ただし、運用現場で効果が出やすいのは「故障をゼロにする」発想だけではなく、「故障しても止まらない」「止まってもすぐ戻る」を設計に織り込むことです。冗長化、フェイルオーバー、監視と自動復旧、予備品配置、復旧手順の標準化などは、MTBFそのものを変えなくてもサービス影響を抑えられます。MTBF改善と可用性設計を併走させることが、現実的な信頼性向上につながります。
MTBFは便利な指標ですが、解釈を誤ると意思決定を誤りやすくなります。ここでは、よくある誤解と、正しい読み方を整理します。
まず、MTBFが大きいほど一般に信頼性が高い傾向はありますが、絶対的な信頼度を示すものではありません。また、MTBFは平均値なので、個々の機器が必ずその時間だけ故障しないという保証にはなりません。数字が大きいほど「故障しにくい可能性が高い」と推定できる程度の理解が安全です。
代表的な誤解は、MTBFが製品やシステムの寿命を示すという考え方です。MTBFはあくまで故障間隔の平均であり、「稼働できる年数」を直接表すものではありません。寿命には摩耗、消耗、部品供給、サポート終了、更新計画などが関係し、MTBFとは別の視点が必要です。
また、環境要因(温度・湿度・振動)、使用状況(負荷・稼働率)、運用(更新・設定変更)により、実際の故障間隔はMTBFから大きく逸脱することがあります。MTBFを読むときは「前提条件」と「適用範囲」を常に確認することが重要です。
MTBFと故障率の関係は、しばしば「MTBFは1/故障率」と説明されます。ただし、これは故障率が一定(ランダム故障の領域)とみなせる場合に成立する理解です。初期故障や摩耗故障が支配的な領域では、故障率が一定でないため、単純な反比例関係として扱うと誤解につながります。
現場での使い方としては、「故障が概ねランダムに起きる領域では、MTBFが大きいほど故障率が低い傾向」と理解しつつ、故障モード別の分析や期間分割で補正するのが安全です。
MTBFが大きいからといって、その製品やシステムが長寿命であるとは限りません。寿命は使用条件だけでなく、部品供給、サポート期間、法規対応、OSやファームの更新可否などの要素でも左右されます。MTBFは「壊れにくさ」の一側面であり、「いつまで使えるか」を判断するには別の情報が必要です。
(それでも、条件が同じならMTBFが大きい製品のほうが、故障に悩まされにくい傾向がある、という程度に捉えると実務に適します。)
MTBFは保守計画の参考指標になります。たとえば、故障が多い箇所を特定し、点検周期や予備品在庫、保守要員の配置を見直すきっかけになります。
ただし、MTBFだけで「いつ壊れるか」を正確に予測することはできません。保守計画では、故障の影響度(止まったらどれだけ困るか)、復旧難易度(交換に要員や時間がどれだけ必要か)、代替手段の有無、冗長構成の有無などをあわせて評価することが重要です。MTBFはその材料の一つとして、他の情報と組み合わせて使うのが安全です。
関連する信頼性指標として、MTTR(Mean Time to Repair)、MTTF(Mean Time to Failure)、MOT(Mean Operating Time)、FR(Failure Rate)などがあります。ここでは、それぞれが何を示し、MTBFとどう使い分けるかを整理します。
MTBFが「故障と故障の間隔(壊れにくさ)」を示すのに対し、MTTRは「故障してから復旧するまでの平均時間(直しやすさ)」を示します。実務では、MTBFが長くてもMTTRが長ければ業務影響は大きくなるため、両者をセットで評価します。
なお、「それぞれが高いほど信頼性が高まる」という表現は誤解を生みます。正しくは、MTBFは長いほど望ましく、MTTRは短いほど望ましいという関係です。
MTTFは「修理しない(できない)前提」の対象に対して、故障するまでの平均時間を扱う指標です。たとえば、故障したら交換する部品や、修理を前提にしないデバイスなどで用いられます。
一方、MTBFは「故障しても修理して運用を継続する」対象を前提とすることが多く、修理可能性が使い分けの大きな軸になります。ただし、実務では用語が混在することもあるため、資料や仕様書では対象と定義を明示しておくことが重要です。
MOTは、ある期間において実際にどの程度稼働したか(運転時間)を表す指標として扱われることがあります。MTBFが「故障間隔の平均」という信頼性指標であるのに対し、MOTは「稼働実績」を表すニュアンスが強く、運用状況の把握に使われます。
ただし、MOTは組織や文脈によって定義が揺れやすい指標でもあります。MTBFと並べて使う場合は、MOTが「総稼働時間」を指すのか「平均運転時間」を指すのかなど、社内定義をそろえることが重要です。
FR(Failure Rate:故障率)は、単位時間あたりに発生する故障の頻度を示す指標です。一般にはFRが低いほど望ましく、MTBFとの関係は(故障率一定の仮定が成り立つ範囲で)反比例関係として説明されます。
ただし、前述のとおり故障率が一定でない領域も存在するため、MTBFとFRを機械的に変換して断定しないことが重要です。故障モードや期間を分けて評価することで、より実態に近い判断が可能になります。
MTBFは、機器やシステムの信頼性を考えるうえで有用な指標であり、製品選定や保守計画、改善活動の入り口として役立ちます。MTBFが高い製品は、同一条件下で比較する限り、故障に悩まされにくい傾向があると考えられます。
一方で、MTBFは平均値であり、寿命や「必ず壊れない期間」を示すものではありません。算出条件が異なる数値同士を比較したり、MTBFだけで導入判断を下したりすると、期待値のズレや運用トラブルにつながる可能性があります。
MTBFを実務で活かすには、故障定義・記録・観測期間を整えたうえで、MTTRや冗長化設計、保守体制、使用環境といった要素と組み合わせて評価することが重要です。数字を「安心材料」にするのではなく、「判断材料」に変えることが、MTBFを正しく使うポイントです。
意味しません。MTBFは故障と故障の間隔の平均であり、寿命や故障しない保証を直接示すものではありません。
断定はできません。算出条件や使用環境で実際の故障間隔は変わるため、同一条件での比較材料として扱うのが安全です。
基本は「総稼働時間÷故障回数」です。故障の定義や稼働時間の定義を揃えることが重要です。
使えます。ただし単体故障とサービス停止を分けて記録しないと、数字の意味が曖昧になります。
MTBFは壊れるまでの平均間隔、MTTRは壊れてから復旧するまでの平均時間です。可用性評価では両方が重要です。
MTBFは修理して使い続ける対象、MTTFは故障したら交換するなど修理しない対象で使われることが多いです。
同じではありません。故障率が一定とみなせる範囲では反比例関係として扱われますが、前提が必要です。
条件確認が必要です。試験条件や推定モデルに基づく場合があるため、自社条件との違いを踏まえて評価します。
故障定義と記録を整えたうえで、故障原因を分類し、設計・運用条件・保守体制の改善に結び付けます。
MTTR、冗長化の可否、保守契約、交換部品の供給期間、サポート期間、使用環境条件などを総合的に見ます。