IT用語集

多層防御とは? わかりやすく10分で解説

水色の背景に六角形が2つあるイラスト 水色の背景に六角形が2つあるイラスト
アイキャッチ
目次

多層防御とは

多層防御とは、情報セキュリティにおいて複数のレイヤーにまたがる対策を組み合わせ、一つの防御が突破されても、別の防御層で攻撃を食い止めることを目指す手法です。ネットワーク、端末、アプリケーション、利用者の運用ルールなど、さまざまな段階に防御を配置し、全体としてリスクを下げる考え方です。

例えば、ネットワークの入口ではファイアウォール、その内側では侵入検知・防御システム(IDS/IPS)、端末側ではアンチウイルスやEDR(Endpoint Detection and Response)、さらにアクセス制御やログ監査といった仕組みを組み合わせて使います。これにより、一つの対策が機能しなかったとしても、他の対策が“セーフティネット”として働きます。

イメージとしては、砦や城を守る防御線に近い発想です。外堀・内堀・城壁・天守など、複数の防御ラインを用意することで、一つの防壁が破られても、次の防壁で侵入者を食い止める構造をセキュリティに応用したものだと捉えるとわかりやすいでしょう。

多層防御の定義

多層防御とは、その名称の通り、セキュリティを複数の層(レイヤー)で構成し、一つの層が突破されても、別の層が攻撃を検知・阻止できるようにする設計思想のことです。

各層はそれぞれ異なるセキュリティ対策を担当し、独立して機能しながらも、互いの弱点を補完し合うように設計されます。たとえば、ネットワーク層で侵入をブロックしきれなかった攻撃を、端末側のマルウェア対策や振る舞い検知で止める、といった具合です。

また、多層防御はネットワークやアプリケーションといった技術要素に限らず、入退室管理などの物理的な防御や、セキュリティポリシー・教育といった人的・組織的な対策も含めた、広い意味での情報セキュリティ戦略として捉えられます。

多層防御の起源と背景

多層防御の考え方は、古代から用いられてきた軍事戦略にそのルーツがあるといわれます。城郭や砦が複数の城壁や堀で守られていたのは、敵が最初の防衛線を突破しても、次の防衛線で防ぐためです。

この発想が情報セキュリティに応用され、「単一の防御策に依存するのではなく、防御を重ねることで全体の耐性を高める」というフレームワークが生まれました。現代では、企業ネットワークやクラウドサービス、個人のデバイスに至るまで、多層防御はセキュリティの基本的な考え方の一つとして広く受け入れられています。

多層防御の主な目的

多層防御の主な目的は、「前提として防御の一部は破られるかもしれない」という現実を踏まえたうえで、被害を最小化することにあります。

  • 単一障害点(Single Point of Failure)の排除:一つの防御策に依存せず、別の層でバックアップできる構造にすることで、突破されにくい体制を作ります。
  • 攻撃の検知と遅延:もし内部に侵入されても、次の層で検知・遮断することで、攻撃者が重要情報に到達するまでの時間を稼ぎ、対応する猶予を生み出します。
  • 多様な脅威に対するカバー範囲の拡大:マルウェア、フィッシング、脆弱性攻撃、内部不正など、性質の異なる脅威をそれぞれ得意とする防御層でカバーします。

このように、多層防御は「絶対に侵入させない」ことだけを目的とするのではなく、侵入を前提としながら、検知・遅延・遮断・被害の局所化まで含めてリスクをコントロールすることを目指します。

多層防御のメリットとデメリット

多層防御には、次のようなメリットとデメリットがあります。

メリット

  • 防御力の向上:一つの層が破られても他の層が保護を続けるため、単一対策に比べて攻撃を成功させるハードルが高くなります。
  • カバー範囲の広さ:ネットワーク、端末、アプリケーション、ユーザー教育など、さまざまな観点から防御を行うことで、幅広い脅威に対応できます。
  • 冗長性による安心感:一部の製品や仕組みに不具合が発生しても、他の防御層が一定の役割を果たすため、全体としてのセキュリティレベルを維持しやすくなります。

デメリット

  • 複雑性と管理コストの増大:複数の仕組みを組み合わせるため、設計・運用が複雑になり、専門的な知識や人員が必要になります。
  • 設定不整合や運用負荷:各層のルールやポリシーが整合していないと、正当な通信まで遮断してしまうなど、業務に影響が出る場合があります。
  • 投資判断の難しさ:どの層にどこまで投資するか、費用対効果を見極める必要があり、安易な「対策の積み増し」だけでは成果が出にくい点にも注意が必要です。

こうしたデメリットは、設計段階で役割分担を明確にし、運用フェーズでポリシーやルールを整理・標準化していくことで、ある程度軽減することができます。

多層防御の主要な要素

多層防御は、単一の製品や機能を指すものではなく、複数の防御要素を組み合わせた“仕組み”です。ここでは代表的な要素を取り上げます。

ファイアウォール

ファイアウォールは、多層防御における基本的な防御ラインの一つです。ネットワークの入口・出口でトラフィックを監視し、許可された通信だけを通し、不審な通信を遮断する役割を担います。

たとえば、不審なIPアドレスからのアクセスや、不正なポートを使った通信をブロックすることで、攻撃者が内部ネットワークに直接アクセスすることを防ぎます。ただし、ファイアウォールだけでは内部からの不正や高度な攻撃をすべて防げるわけではないため、他の層との連携が重要です。

侵入検知・防御システム(IDS/IPS)

侵入検知システム(IDS)と侵入防御システム(IPS)は、ファイアウォールをくぐり抜けた攻撃や、内部から発生する不審な通信を検知・遮断するための仕組みです。

  • IDS(Intrusion Detection System):不正な通信や攻撃パターンを検知し、管理者にアラートを通知します。
  • IPS(Intrusion Prevention System):検知した不正通信に対して、遮断やセッションの強制終了などの自動対応を行います。

IDS/IPSは、既知の攻撃パターンや異常なトラフィックをリアルタイムに検知し、攻撃の拡大を防ぐための「監視と即応」の役割を担います。

マルウェア対策

ウイルスやスパイウェア、ランサムウェアなどのマルウェアから端末やサーバーを守るための対策も、多層防御の重要な要素です。代表的には、アンチウイルスソフトや、振る舞い検知を行うエンドポイントセキュリティ製品などが挙げられます。

これらの対策では、ファイルのスキャンやリアルタイム監視、メール添付ファイルのチェックなどを通じて、不正なプログラムの実行や感染拡大を防ぎます。ネットワーク側の防御をすり抜けてきた攻撃を、端末側で止める最後の砦として機能させることがポイントです。

脆弱性管理

脆弱性管理は、多層防御において「攻撃の入り口そのものを減らす」役割を担います。OSやミドルウェア、アプリケーションに存在する既知の脆弱性を定期的にスキャンし、パッチ適用や設定見直しなどで解消していく取り組みです。

脆弱性が放置されていると、ファイアウォールやマルウェア対策をすり抜ける形で攻撃に悪用される可能性があります。定期的なスキャンとパッチ適用は、多層防御を実効性のあるものにするための前提条件といえます。

多層防御の戦略的な構築方法

多層防御は、闇雲に製品や仕組みを増やせば良いわけではありません。組織の業務やリスクに合わせて、戦略的に設計・運用することが重要です。

多層防御の全体設計

まずは、守るべき情報資産やシステム、想定される脅威を整理し、どのレイヤーにどのような防御を配置するかという全体像を描きます。

  • 外部からの攻撃に対する境界防御(ファイアウォール、VPN、WAF など)
  • 内部ネットワークや端末での不正検知・隔離(IDS/IPS、EDR など)
  • アクセス制御・認証強化(多要素認証、シングルサインオン、特権ID管理など)
  • ログ監査・インシデント対応(SIEM、運用ルール、手順書など)

このように、防御層ごとの役割分担と連携を意識して設計することで、過不足のない多層防御を構築しやすくなります。

セキュリティの適切な維持・管理

多層防御は、導入して終わりではなく、継続的な維持・管理によって初めて効果を発揮します。具体的には、次のような取り組みが挙げられます。

  • OS・ミドルウェア・アプリケーションの定期的なアップデートとパッチ適用
  • ルールやポリシーの見直し(不要な通信の遮断、過剰な権限の是正など)
  • ログの定期確認とインシデント対応手順の整備・訓練

これらの運用は、それ自体が一つの防御層と考えることもできます。技術的対策と運用面の対策を組み合わせることで、多層防御の実効性を高めることができます。

強力なパスワードポリシーと認証強化

多層防御を支える基本的な要素として、パスワードポリシーや認証方式の強化も欠かせません。次のような施策が代表的です。

  • 一定以上の長さ・複雑さを持つパスワードを必須とする
  • パスワードの使い回しを禁止し、定期的な変更を義務付ける
  • 重要なシステムやリモートアクセスでは、多要素認証(MFA)を導入する

強力なパスワードポリシーや多要素認証は、攻撃者による総当たり攻撃やパスワードリスト攻撃を困難にし、「なりすまし」リスクを下げるための重要な防御層です。

定期的なセキュリティ研修

最後に、多層防御の中で見落とされがちですが重要なのが、利用者に対するセキュリティ研修です。どれほど技術的な対策を強化しても、利用者がフィッシングメールにだまされて認証情報を渡してしまうと、防御が一気に崩れてしまうことがあります。

そこで、従業員や管理者に対して次のような教育を継続的に行うことが重要です。

  • フィッシングメールや不審な添付ファイルの見分け方
  • パスワードの適切な管理方法
  • インシデント発生時の報告手順

人の行動や判断を変える取り組みもまた、多層防御を支える大切な層の一部として位置づけられます。

多層防御の適用例

多層防御は、企業システムから個人利用、クラウド環境まで、さまざまな場面で活用されています。ここでは代表的な適用例を見ていきます。

企業のIT環境への適用

企業のIT環境では、社内ネットワークや業務システム、機密情報を守るために多層防御が用いられます。

  • ネットワーク境界でのファイアウォールやゲートウェイ型セキュリティ
  • 社内ネットワークでのIDS/IPSやネットワーク分離
  • 端末側でのアンチウイルス・EDR・デバイス制御
  • アクセス権限管理やログ監査、シングルサインオン

これらを組み合わせることで、外部からの攻撃だけでなく、内部からの情報漏えいや誤操作による事故のリスクも低減することができます。

個人のデジタル生活への適用

個人レベルでも、多層防御の考え方は日常的に活用されています。例えば、次のような対策です。

  • パソコンやスマートフォンへのセキュリティソフト導入
  • OSやアプリの自動アップデートの有効化
  • オンラインサービスの二段階認証・多要素認証の利用
  • 公共Wi-Fi利用時のVPN利用やアクセス先の確認

これらを組み合わせることで、フィッシングやマルウェア感染、アカウント乗っ取りといったリスクに対して、一定の多層防御を実現できます。

政府機関のセキュリティにおける適用

政府機関では、国の安全保障や住民情報、重要インフラに関わるシステムを守る必要があり、多層防御の重要性は非常に高くなります。

高度なファイアウォールやIDS/IPSに加え、機密区分に応じたネットワーク分離、強固な認証基盤、異常行動検知システム、SOC(Security Operation Center)による24時間監視など、多層的な仕組みが組み合わされています。また、法令やガイドラインに基づいた運用ルール・教育訓練も含め、技術面と運用面の両方から多層防御が行われています。

クラウド環境への適用

クラウド利用が一般化した現在、多層防御はオンプレミスだけでなくクラウド環境でも重要です。

  • クラウド事業者が提供するネットワークセキュリティ(セキュリティグループ、ACLなど)
  • 通信の暗号化(HTTPS、VPN、専用線など)
  • クラウド上のアクセス権限管理(IAM)、監査ログの活用
  • データの暗号化やバックアップ、DR(ディザスタリカバリ)対策

クラウドサービスプロバイダーと利用者が役割分担を明確にし、それぞれの責任範囲で多層防御を行うことが、クラウド時代のセキュリティを考えるうえで重要なポイントです。

多層防御の今後の展望

情報システムの高度化・複雑化に伴い、多層防御の重要性は今後も高まり続けると考えられます。特に、IoTの進展やAIの活用、モバイル利用の拡大、サイバーセキュリティ関連法の整備などが、多層防御のあり方に影響を与えています。

IoT時代の多層防御

IoTデバイスの普及により、ネットワークに接続される端末の数が急増し、それぞれの脆弱性を突いた攻撃も増えています。IoT時代の多層防御では、次のような視点が重要になります。

  • デバイス単位の認証・暗号化・ファームウェア更新
  • IoT専用ネットワークの分離とアクセス制御
  • IoTトラフィックの可視化と異常検知

これらをネットワーク層・アプリケーション層・運用ルールの各レイヤーで組み合わせることで、IoT特有のリスクに対応する多層防御が求められます。

AIを使った多層防御

AIは、大量のログやトラフィックデータを分析し、人間では気付きにくい異常パターンを検出する技術として期待されています。多層防御でも、次のような形でAIの活用が進んでいます。

  • 異常行動検知(ユーザーや端末の振る舞いから不審な動きを発見)
  • インシデントの優先度付けや自動対応の支援
  • 新種マルウェアの特徴抽出と検知精度の向上

AIを既存の多層防御に組み合わせることで、「検知の精度」と「対応のスピード」を高めることが期待されます。

モバイルセキュリティと多層防御

スマートフォンやタブレットのビジネス利用が一般化する中で、モバイル端末も多層防御の対象に含める必要があります。

  • 端末ロックや生体認証、リモートワイプ機能
  • モバイル向けマルウェア対策、アプリケーションの審査・制限
  • モバイルデバイス管理(MDM/EMM)によるポリシー適用

これらを組み合わせることで、紛失・盗難や不正アプリ、公共Wi-Fi経由の攻撃など、モバイル特有のリスクに対しても多層的な防御を実現できます。

サイバーセキュリティ法制度と多層防御

各国でサイバーセキュリティ関連の法制度やガイドラインが整備される中、企業や組織には、一定水準以上のセキュリティ対策を講じることが求められています。

ログ保全やアクセス制御、インシデント報告などの要件は、多層防御と密接に関係しており、法令・規制への準拠のためにも、多層防御を前提としたセキュリティ設計が重要になりつつあります。

今後は、技術的対策だけでなく、ガバナンスやリスクマネジメントの観点も含めた「総合的な多層防御」が、一層重視されていくと考えられます。

まとめ

多層防御は、「一つの対策に頼らず、防御を重ねることで全体としての強さを高める」というセキュリティの基本的な考え方です。ネットワーク、端末、アプリケーション、運用ルール、教育・訓練など、複数のレイヤーに防御を配置することで、さまざまな脅威に対して柔軟かつ粘り強く対応できるようになります。

一方で、複雑性や管理コストといった課題もあるため、自社の業務やリスクに合わせて、役割分担や優先順位を整理しながら設計・運用することが重要です。IoT、クラウド、モバイル、AIといった技術の進展や法制度の変化も踏まえつつ、多層防御を“アップデート”し続けていくことが、これからの情報セキュリティには求められます。

Q.多層防御とは何ですか?

複数のセキュリティ対策を異なるレイヤーに配置し、一つの防御が突破されても別の層で攻撃を検知・遮断できるようにする考え方です。

Q.多層防御と単一の強力なセキュリティ製品の違いは何ですか?

単一製品に依存すると、その製品が突破されたときに防御が成立しません。多層防御は異なる仕組みを組み合わせることで、単一障害点をなくすことを目的としています。

Q.中小企業でも多層防御は必要でしょうか?

はい。規模に応じてレイヤーや製品の数は調整できますが、「複数の対策を組み合わせる」という発想は中小企業でも有効です。

Q.多層防御の代表的な要素には何がありますか?

ファイアウォール、IDS/IPS、マルウェア対策、脆弱性管理、アクセス制御、ログ監査、セキュリティ教育などが代表的な要素です。

Q.多層防御のデメリットは何でしょうか?

仕組みが複雑になりやすく、設定や運用にかかるコスト・工数が増えがちです。役割分担を整理し、標準化された運用ルールを整えることが重要です。

Q.多層防御はゼロトラストセキュリティと両立しますか?

はい。ゼロトラストの考え方に基づいて認証・認可を強化しつつ、ネットワークや端末、ログ監査などを多層的に組み合わせることで、より強固なセキュリティを実現できます。

Q.多層防御を導入する際、最初に着手すべきことは何ですか?

まずは守るべき情報資産と想定される脅威を整理し、既に導入済みの対策とのギャップを把握することが重要です。そのうえで、優先度の高いレイヤーから順に整備します。

Q.クラウド環境でも多層防御は必要でしょうか?

必要です。クラウド事業者のセキュリティに任せきりにせず、自社側でもアクセス制御やログ監査、ネットワーク設定など複数レイヤーでの対策が求められます。

Q.多層防御において人への教育はどのような位置付けですか?

技術的な防御と同じくらい重要な「人的な防御層」です。フィッシング対策やパスワード管理など、利用者の行動を変えることで防げる攻撃は少なくありません。

Q.多層防御の効果を確認するにはどうすればよいですか?

脆弱性診断やペネトレーションテスト、ログ分析、インシデント対応訓練などを通じて、防御層ごとの機能や連携状況を定期的に確認すると効果を把握しやすくなります。

記事を書いた人

ソリトンシステムズ・マーケティングチーム