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ネットワーク設計の基本的な流れや考え方を解説

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目次

ネットワーク設計とは、端末やサーバを接続するために、配線や機器を決める作業だけを指すものではありません。企業では、どの通信を通し、どこで分離し、障害時にどこまで継続し、誰がどの手順で運用するかまで含めて設計します。社内ネットワークが業務データや認証情報を扱う以上、「つながる」だけでは不十分です。

設計の前に整理したいのは、止まると業務に影響するシステム、許容できる停止時間、接続する利用者と端末、社外接続やクラウド利用の有無です。ここが曖昧なまま進むと、過剰な冗長化でコストが膨らむか、障害や情報漏えいに弱い構成になりやすくなります。

設計前に確認する項目確認内容
業務要件どの業務やシステムが停止影響を受けるか、どの時間帯の停止を許容できるか
接続要件利用者数、端末数、拠点数、無線利用、社外接続、クラウド接続の有無
統制要件認証、分離、監視、ログ保管、変更管理をどこまで実施するか

ネットワーク設計とは

ネットワーク設計とは、パソコン、プリンタ、サーバ、無線機器などが相互に通信できる環境を構築するために、構成、機器、設定、運用方針を定めることです。家庭向けのネットワークであれば、インターネット接続ができれば足りる場面もありますが、企業ネットワークでは停止耐性、性能、セキュリティ、運用手順まで決めておかなければ、構築後の障害対応が不安定になります。

企業の社内ネットワークでは、業務システム、認証基盤、ファイル共有、会議システム、拠点間接続、クラウド接続など、用途が混在します。そのため、経路、アクセス制御、監視、バックアップ回線、運用責任の整理まで含めて検討しなければなりません。

ネットワーク設計で決める範囲

実務で設計対象になる範囲は、おおむね次の4つです。

  • 論理VLANやセグメント、IPアドレス、ルーティング、DNSDHCPの設計
  • 物理:配線、ラック、電源、機器配置、回線経路、冗長構成
  • セキュリティ:境界防御、内部のアクセス制御、認証、管理アクセス、ログ取得
  • 運用:監視、障害対応、設定変更、バックアップ、ドキュメント整備

このうちどれかを後回しにすると、「通信は通るが障害に弱い」「調査に必要なログがない」「管理手順が属人化する」といった問題が出やすくなります。

ネットワーク設計の基本的な考え方

利用目的と利用実態に合わせて要件を決める

最初に定めるべきなのは、何のためのネットワークかという前提です。オフィス業務を支える社内LANなのか、外部向けサービスを収容するネットワークなのか、工場や店舗、拠点をまたぐ広域ネットワークなのかで、求められる要件は変わります。

たとえば、社内利用が中心なら障害影響は社内にとどまる場合がありますが、外部公開サービスを含む場合は、停止や侵害の影響が顧客や取引先に及びます。要件定義の段階で、業務影響の大きいシステムを先に特定しておくと、どこに冗長化や監視を厚く入れるべきかを決めやすくなります。

停止影響の大きい業務を先に洗い出す

業務側の言葉で「止まると困るもの」を整理すると、ネットワーク要件へ変換しやすくなります。基幹システム、会議基盤、倉庫端末、レジ、認証基盤、在宅接続など、停止時の影響が大きい領域は優先度を上げて扱います。

この整理がないまま設計すると、すべてを同じ優先度で扱うことになり、必要以上に高価な構成になるか、逆に重要部分の可用性が不足しやすくなります。

拡張性と可用性を分けて考える

企業ネットワークは、一度構築したあとも利用者数、端末数、拠点数、SaaS利用量、クラウド接続量が変化します。増設や構成変更のたびに大規模な停止や再設計が必要になる構成では、運用負荷と変更リスクが高くなります。

一方、可用性は「障害が起きてもどこまで業務を継続できるか」という観点です。回線、スイッチ、電源、経路、管理系の単一障害点を減らし、復旧手順と切替手順まで含めて設計しておくと、障害時の影響を抑えやすくなります。

冗長化は優先順位を付けて設計する

冗長化は「全部を二重化するかどうか」で考えるより、停止時の影響が大きい箇所から優先順位を付けて決めるほうが運用しやすくなります。回線、コア機器、電源、上位経路、拠点間接続などは候補になりやすい箇所です。

また、機器を二重化しても、切替条件、監視、手順、保守体制が整っていなければ、障害時に期待どおり動きません。構成だけでなく、切替試験まで含めて設計対象に含めます。

トラフィック量と機器処理能力を分けて見積もる

性能設計では、回線帯域だけを見ると不足します。オンライン会議、クラウド利用、バックアップ、端末の一斉更新、VPN接続などは、時間帯によって通信量が大きく変わるため、平均値ではなくピーク値を基準に考えたほうが安全です。

さらに、ファイアウォールUTM、プロキシ、VPN装置は、暗号化通信の増加で処理能力が先に限界に達することがあります。帯域と同時に、同時接続数、セッション数、暗号処理性能も確認しておくと、導入後の性能不足を避けやすくなります。

セキュリティは後付けではなく設計条件として扱う

企業ネットワークでは、外部からの侵入だけでなく、内部不正、誤操作、管理ミスも事故要因になります。設計段階から、アクセス制御、認証、ログ保管、管理経路の分離、端末種別ごとの扱いを決めておく必要があります。

社内ネットワークの境界は、テレワークやクラウド利用の拡大で曖昧になっています。そのため、社内にいるから無条件に信頼するのではなく、ユーザー、端末、権限、接続経路、ログを基準にアクセスを判断するゼロトラストの考え方を設計へ反映しやすくなっています。

ユーザー、端末、権限、経路、ログを具体化する

ゼロトラストを採用するかどうか以前に、設計では「誰が」「どの端末で」「何に」「どの経路から」「どの条件で」アクセスできるのかを明文化します。社内端末とBYODを同じ扱いにするか、管理者作業を専用経路に限定するか、来客Wi-Fiを業務系と分離するか、といった判断がセグメント設計や認証設計に直結します。

ネットワーク設計で押さえるべき設計要素

論理設計

論理設計では、用途や権限に応じて通信範囲を整理します。代表的な対象は、業務端末、サーバ、ゲストWi-Fi、IoT機器、管理用端末、拠点間接続です。

  • セグメント設計:用途ごとに分離し、必要な通信だけを通す
  • IPアドレス設計:将来の増設を見込んだ割り当て方針を決める
  • 経路設計:拠点間、クラウド、リモートアクセスの経路と優先制御を整理する

分離は「分ける」だけで終わらせない

セグメントを分けても、許可する通信が曖昧なままだと、どこからでも通る構成になりやすくなります。少なくとも、業務端末から業務サーバへ必要な通信、管理端末から機器管理用の通信、ゲストWi-Fiからインターネットだけを許可する通信、といった単位で整理しておく必要があります。

その内容をACLやファイアウォール方針へ落とし込むことで、ネットワーク分離の効果が出やすくなります。特に、IoT機器や複合機のように更新しづらい機器は、専用セグメントで扱う構成が採用されやすくなります。

物理設計

物理設計では、配線ルート、機器の設置場所、ラック、電源、空調、回線引き込み、上位機器との接続方法を決めます。後から変えにくい要素が多いため、拠点の制約を先に確認しておく必要があります。

物理的な単一障害点を残さない

論理上は冗長化していても、配線経路が1本しかない、2台の機器が同じ電源系統に載っている、別回線のつもりが同じ経路を通っている、といった状態では障害点が残ります。可用性を求める場合は、経路、電源、設置場所まで含めて点検します。

セキュリティ設計

セキュリティ設計では、境界防御だけでなく、内部の制御と管理アクセスも対象に含めます。外部公開がある場合と、社内利用中心の場合でも、必要な統制は異なります。

  • 境界対策:ファイアウォール、UTM、プロキシ、VPN、外部公開向けの保護
  • 内部対策:セグメント分離、アクセス制御、認証、最小権限
  • 管理対策:管理経路の分離、管理端末の限定、設定変更ログの取得

管理アクセスを後回しにしない

ネットワーク機器やサーバの管理アクセスは、侵害時の影響が大きい領域です。管理用セグメント、管理端末、認証方式、踏み台の有無、ログの保管方法まで含めて設計段階で決めておくと、設定変更の追跡や障害時の調査がしやすくなります。

機器設定の世代管理やバックアップ手順まで決めておかないと、障害発生後に復旧用の設定が見つからない、変更前との差分が追えない、といった事態が起こりやすくなります。

運用設計

ネットワークは構築後の運用で品質差が出ます。監視、障害対応、設定変更、定期点検、ドキュメント更新まで含めて設計しておくと、運用開始後の混乱を抑えやすくなります。

一次切り分けに使える情報を先に決める

障害時の対応を早めるには、死活監視だけでなく、回線使用率、エラー率、遅延、無線品質、VPN同時接続数、DNSやDHCPの異常など、一次切り分けに使う指標を監視対象に含める必要があります。

あわせて、構成図、IPアドレス一覧、許可通信一覧、保守契約情報、連絡ルート、変更履歴を整備しておくと、担当者が変わっても対応の再現性を保ちやすくなります。

ネットワーク設計の基本的な流れ

1. 要件定義

要件定義では、対象範囲、利用者数、端末数、拠点数、無線利用、外部公開、クラウド接続、停止許容、復旧目標、セキュリティ要件、運用体制を整理します。ここで決めた前提が、機器選定や構成方針を左右します。

曖昧にしないほうがよい項目

  • 停止許容:勤務時間中の停止を許容できるか、計画停止をどの時間帯に置けるか
  • 復旧目標:暫定復旧と恒久復旧をどう分けるか、何分から何時間を目安にするか
  • 監視とログ:誰が確認し、どの期間保管し、いつ取り出せる状態にするか
  • 保守体制:内製か外部委託か、夜間休日の一次対応を誰が担うか

2. 基本設計・詳細設計

基本設計では、全体構成、分離方針、冗長化方針、対外接続方針、監視方針、運用責任を定めます。詳細設計では、IPアドレス、VLAN、ルーティング、ACL、NAT、無線設定、ログ転送、監視項目など、実装できる粒度へ落とし込みます。

基本設計が固まらないまま詳細設計へ進むと、構成変更のたびに設定を作り直すことになりやすいため、方針から順に固めたほうが手戻りを抑えられます。

3. 構築

構築では、設計に沿って機器を設置し、設定を投入し、回線やクラウド、リモート接続を組み込みます。この段階で、設定テンプレート、機器台帳、バックアップ方法、保守情報も揃えておくと、運用開始後の引き継ぎがしやすくなります。

4. テスト

テストでは、疎通確認だけでなく、ピークトラフィック時の性能、冗長構成の切替、不要通信の遮断、ログ出力、監視アラートまで確認します。平常時に通信できるだけでは、障害時の挙動は把握できません。

5. 運用

運用開始後は、通信量、遅延、エラー、無線品質、設定差分、ログ保管状況を継続的に確認します。利用者数やクラウド利用量の変化に応じて、機器増強や構成見直しが必要になるため、導入時の構成を固定前提で考えないほうが安全です。

定期点検では、機器のEoLや保守契約、設定変更履歴、利用率推移、管理者権限の棚卸しまで含めて確認すると、事故の芽を早めに見つけやすくなります。

まとめ

ネットワーク設計では、端末やサーバを接続するだけでなく、業務要件、停止許容、拡張計画、セキュリティ統制、運用手順まで含めて定義します。企業ネットワークでは、構築後の障害対応や変更対応まで見据えておかないと、導入直後は動いても、運用の負担が急に増えることがあります。

要件定義の段階で、止まると影響が大きい業務、必要な分離、冗長化の範囲、監視とログの取り方を整理しておくと、過剰投資と設計不足のどちらも避けやすくなります。論理、物理、セキュリティ、運用の4要素を切り分けて設計すると、判断基準が明確になります。

FAQ

Q.ネットワーク設計とネットワーク構築は何が違いますか?

A.ネットワーク設計は構成や方針、設定方針、運用手順を定める工程で、ネットワーク構築はその設計に基づいて機器設置や設定投入を行う工程です。設計が曖昧なまま構築すると、運用開始後の手戻りが増えやすくなります。

Q.社内LANでも冗長化は検討したほうがよいですか?

A.停止時の影響が大きい業務があるなら検討対象になります。回線、コア機器、電源、上位経路など、影響範囲が大きい箇所から優先順位を付けて判断する方法が一般的です。

Q.ネットワークの拡張性は何を指しますか?

A.利用者、端末、拠点、クラウド接続、サービス追加などの変化に対して、大規模停止や全面再設計を避けながら増設や変更ができる性質を指します。IPアドレス設計やセグメント設計、機器選定に差が出ます。

Q.トラフィック量の見積もりはどのように行いますか?

A.現状の回線使用率、端末数、オンライン会議、バックアップ、アップデート、VPN利用などを確認し、平均ではなくピーク時間帯を基準に見積もります。帯域だけでなく、機器の暗号処理能力も確認対象です。

Q.VLANやセグメント分割はなぜ必要ですか?

A.用途や権限ごとに通信範囲を分けることで、侵害時の横展開を抑えやすくなり、障害時の切り分けもしやすくなります。業務端末、サーバ、ゲストWi-Fi、IoT機器、管理用端末を分ける構成が典型例です。

Q.セキュリティはファイアウォールだけで足りますか?

A.足りません。境界防御に加えて、内部の分離、アクセス制御、認証、管理アクセスの制限、ログ保管、設定変更管理まで含めて設計する必要があります。

Q.ゼロトラストを意識した設計とは何ですか?

A.社内外を問わず一律に信頼せず、ユーザー、端末、権限、接続経路、ログを基準にアクセスを判断する考え方です。社外接続やクラウド利用が多い環境では、設計方針へ反映しやすくなります。

Q.設計段階で用意しておくと役立つドキュメントは何ですか?

A.全体構成図、IPアドレスとVLANの一覧、許可通信一覧、ルーティング方針、機器台帳、監視項目、障害時連絡ルート、変更管理手順、保守契約情報があると運用しやすくなります。

Q.ネットワークのテストで特に確認したい点は何ですか?

A.疎通確認に加えて、ピーク時の性能、冗長構成の切替、不要通信の遮断、監視アラート、ログ出力を確認します。障害時に追跡できる状態かどうかまで見ておく必要があります。

Q.小規模な企業でもネットワーク設計を丁寧に行う意味はありますか?

A.あります。規模が小さくても、業務停止や情報漏えいの影響は小さくありません。目的、接続範囲、運用方針を先に整理しておくと、将来の増設や障害対応が進めやすくなります。

記事を書いた人

ソリトンシステムズ・マーケティングチーム