ネットワークとは、さまざまな機器やシステムを接続するための基盤であり、24時間365日、安定して通信できる状態を保つことが重要です。ネットワーク機器の故障や不慮のトラブルによる通信断を回避するために、ネットワークの冗長化は欠かせません。
本記事では、ネットワークの冗長化について、概要からメリット、代表的な冗長化の方法までを整理して解説します。
冗長化とは、必要とされる設備・機能をあらかじめ余分に用意しておき、事故や障害が発生してもシステムを継続して稼働できるようにする考え方です。IT分野では主にサーバーやネットワーク機器に対して冗長化が行われます。
ネットワークはサーバーやパソコンなどを接続し、相互にデータをやり取りするための「経路」です。さまざまなシステムやサービスを提供する上で欠かせません。
ネットワークを川の流れに例えると理解しやすいでしょう。どこか一部で詰まりが起きて流れが止まると、その下流で生活や仕事に支障が出ます。ITシステムにおけるネットワークも同様で、ひとたび通信が止まると業務・サービスに影響が出ます。
そのため、仮に一部で問題が発生しても通信の流れを止めないよう、別の経路や代替手段を用意することが「ネットワークの冗長化」です。冗長化により、システムやサービスを停止することなく提供し続けやすくなります。
ネットワークを冗長化する最大のメリットは、通信断を回避しやすくなる点です。近年は多くの業務がネットワーク前提で動いているため、ネットワークが利用できなくなると業務が停止するリスクがあります。冗長化によって、障害時の影響を抑え、業務停止のリスクを下げられます。
冗長化しておくと、片系を止めて機器交換や設定変更を行い、もう片系で通信を維持する、といった運用がしやすくなります。結果として、計画停止の範囲を小さくできる場合があります(構成や切替方式によっては瞬断が発生することもあります)。
サーバーやサービスを公開している場合、アクセス集中による遅延や停止が課題になることがあります。冗長化した経路・機器の設計を組み合わせることで、負荷を分散する仕組み(ロードバランシング)を取り入れやすくなります。
DDoS攻撃や障害を完全に防ぐことは難しいものの、冗長化により「単一障害点(SPOF)」を減らし、影響範囲を局所化しやすくなります。ただし、冗長化自体がセキュリティ機能ではありません。冗長化は可用性(止めない)のための設計であり、ファイアウォールやWAF、DDoS対策、監視・運用体制などの対策とセットで考えることが重要です。
ネットワークの冗長化は、大別すると「物理的な冗長化」と「論理的な冗長化」に分けられます。特に論理的な冗長化は、OSI参照モデルでいう各層で考え方や代表的な方式が異なります。ここでは層ごとの代表例を整理します。
OSI参照モデルに関しては、こちらの記事で詳しく解説しています。
物理層における冗長化は、ネットワーク機器やLANケーブルなどを物理的に二重化する方法です。例えば、別ルートの配線を用意する、別筐体のスイッチを用意する、といった形が該当します。
大規模向けの機器では、電源の冗長化(電源ユニット二重化)や回線の引き込み経路分離なども重要になります。物理層の冗長化は地味ですが、障害時の影響が大きい領域でもあるため、現場要件に合わせて優先度を付けて検討します。
チーミング(NICチーミング)やボンディングは、複数のネットワークアダプター(NIC)を束ねて冗長化する考え方です。片方のNICに障害が起きても、もう片方へ切り替えて通信を継続しやすくなります。
リンクアグリゲーションは、複数の物理ポートを論理的に束ね、1つのリンクのように扱う技術です。冗長化に加えて帯域確保にもつながります。一般的にはLACP(Link Aggregation Control Protocol)を使う構成が多いでしょう。
ネットワークをループ状に構成すると、ブロードキャストストームなどの問題が起きる可能性があります。STPは、ループを検出して不要な経路をブロックし、ループを回避する仕組みです。障害時に別経路へ切り替えることで、冗長構成を成立させます。
なお、STPには複数の種類(例:RSTP/MSTP など)があり、収束時間や設計思想が異なります。要件(収束速度、規模、運用体制)に合わせて選定します。
VRRP(Virtual Router Redundancy Protocol)やHSRP(Hot Standby Router Protocol)は、複数台のルーターを論理的に1台のように扱い、デフォルトゲートウェイを冗長化する技術です。稼働系に障害が発生した場合、待機系が引き継ぐことで通信を継続します。
マルチホーミングは、外部ネットワーク(例:インターネット)への接続回線を複数持つことで、回線障害時の迂回や負荷分散を狙う考え方です。回線の引き込みやプロバイダ、経路制御の方式など、設計の自由度が高い一方、運用難易度も上がりやすい点に注意が必要です。
トランスポート層の文脈では、ファイアウォールやロードバランサなどのネットワーク機器に搭載されているHA機能が代表例です。HAは「フェイルオーバー」と呼ばれることもあります。2台の機器を稼働系(Active)と待機系(Standby)として構成し、通常時は稼働系で処理します。稼働系に障害が発生した際には、自動的に待機系に切り替えることで通信を継続します。
HAに関して詳しく知りたい方は、こちらの記事もおすすめです。
冗長化しても、切替時に瞬断が発生することがあります。また、冗長化の方式によってはセッションが引き継がれず、アプリ側の再接続が必要になる場合もあります。求める可用性(どれくらい止められないか)を具体化したうえで、構成・機器選定・運用を決めることが重要です。
ルーターやスイッチを二重化しても、上流回線、電源、配線経路、設定ミス、運用手順などが単一障害点になることがあります。「機器は冗長化できたのに、結局そこが止まった」とならないよう、全体のつながりで点検します。
冗長化は構成が複雑になりがちで、設定ミスや運用ミスのリスクが上がることがあります。監視・障害対応手順・切替テストの計画まで含めて「運用できる設計」になっているかを確認しましょう。
ネットワークの冗長化は、通信断による業務停止リスクを下げ、安定したサービス提供を支えるための重要な考え方です。冗長化には物理・論理の両面があり、OSI参照モデルの各層で代表的な方式が異なります。
「どこまで止められないのか」「どこが単一障害点になり得るのか」「運用として回せるか」といった観点を踏まえ、自社環境に合った冗長化を選択しましょう。
ネットワークの冗長化とは、障害が発生しても通信を止めない(止まりにくくする)ために、経路や機器などを二重化・多重化して代替手段を用意することです。
同じではありません。冗長化は障害時に通信を継続するための可用性の考え方で、負荷分散は処理や通信を複数経路・複数装置に分けて性能や安定性を高める考え方です。構成によっては両方を同時に実現できます。
絶対に止まらないとは言い切れません。切替時の瞬断や、回線・電源・設定ミスなど別の単一障害点が原因で停止することもあります。求める可用性に合わせた設計と運用が必要です。
機器やケーブル、電源などを物理的に二重化することです。例えば、別ルートの配線を用意する、別筐体のスイッチを用意する、電源ユニットを二重化するといった対策が該当します。
NICチーミング(ボンディング)やリンクアグリゲーション(LAG/LACP)、ループ制御のためのSTPなどが代表例です。目的(冗長・帯域・ループ回避)に応じて選びます。
主にデフォルトゲートウェイ(ルーター)の冗長化に使います。稼働系のルーターに障害が起きた場合、待機系が引き継いで通信を継続しやすくします。
2台以上の機器を稼働系と待機系に分け、稼働系に障害が起きたら待機系へ自動的に切り替えて通信を継続する仕組みです。ファイアウォールなどのネットワーク機器でよく使われます。
冗長化そのものは可用性(止めない)を高める設計であり、セキュリティ機能ではありません。ただし、単一障害点を減らし、影響範囲を抑える設計は結果的にレジリエンス向上に寄与します。セキュリティ対策は別途、ファイアウォールやWAF、DDoS対策、監視運用などと合わせて検討します。
メンテナンス時の計画停止を小さくできるなど、運用がしやすくなる面があります。一方で構成が複雑になり、設定ミスや切替テストなど運用の難易度が上がることもあるため、手順整備と監視が重要です。
「どれくらい止められないか(求める可用性)」を具体化することです。許容できる停止時間や瞬断の可否、切替時にセッションを維持する必要があるかなどを整理すると、必要な方式や機器、運用が決めやすくなります。