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ネットワークスライシングとは? わかりやすく10分で解説

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5Gの普及により、同じ通信網の上で「高精細動画」「工場の制御信号」「多数のIoTセンサー通信」など、性質の異なる通信を同時に扱う場面が増えています。こうした混在環境で、用途ごとに必要な通信品質(帯域・遅延・信頼性・同時接続数など)をそろえつつ、ネットワーク全体の運用が行き詰まらないようにする考え方がネットワークスライシングです。

本記事では、ネットワークスライシングの定義、仕組み、5Gとの関係、具体的な活用像、導入・運用でつまずきやすい課題を整理します。用途に対して、どのようなスライス設計が向くのか、またメリットの裏で必要になる運用要件は何か、といった観点で読み進められる構成です。

ネットワークスライシングとは

ネットワークスライシングは、1つのネットワークインフラを、複数の論理的(仮想的)なネットワークに分け、用途ごとに必要な通信品質や機能を作り分けるアプローチです。ここでいう「分割」は、ケーブルや基地局を物理的に増やすことではなく、共通の設備(RAN、トランスポート、コアネットワークなど)上に、用途別の「論理ネットワーク」を構成するイメージに近いものです。

ポイントは、スライスが単なる帯域制御ではなく、通信品質(QoS)・優先度・経路・コア機能の構成・セキュリティ境界などを含めて、用途に合わせてネットワークの振る舞いを変えられる点です。1つの物理ネットワークを共有しながら、用途ごとに運用上の単位を分けやすくなります。

ネットワークスライシングは5Gで扱われる代表的な要素の1つとされ、5Gが求められる高速大容量、多数同時接続、高信頼・低遅延といった要求を、用途ごとに現実的な形で満たすために活用されます。

メリットとデメリット

ネットワークスライシングのメリットは、サービス提供者が顧客や用途の要件に合わせて、通信品質や機能を用途単位で設計・提供できることです。たとえば「映像配信用に帯域を厚くし、遅延も一定以下に抑えたい」「工場制御は小容量でもよいが遅延と安定性を優先したい」「IoTは多数同時接続を優先し、端末ごとの通信は細くてよい」といった要件を、同じ設備上で同時に扱えます。

また、物理リソースを用途別に割り当てやすくなるため、設備の利用効率を高められます。さらに、スライスごとに運用ポリシー(優先制御、監視の閾値、障害時の扱い)を分けられるため、ある用途で混雑や障害が起きても、他用途への影響範囲を抑えやすい点も利点です。

一方のデメリットは、設計と運用が高度化することです。スライスは「作って終わり」ではなく、SLA(遅延・帯域・可用性などの目標)を満たすために、監視・制御・変更管理・容量計画を継続的に回す必要があります。加えて、スライスをまたぐシステム連携や、課金・契約・責任分界(通信事業者/企業/アプリ側)の整理も必要になり、導入のハードルが上がりやすい点は注意が必要です。

なお、標準や概念自体は整理が進んでいる一方で、商用としての提供形態(提供範囲、SLAの定義、マルチベンダー運用、課金モデル、業界別の要件適用)にはばらつきがあり、現場では「何をどこまで保証するスライスなのか」を具体化する作業が重要になります。

基本的な機能と用途

ネットワークスライシングは、ネットワークの特性(帯域、遅延、パケット損失、優先度、接続数、冗長性など)を用途ごとに制御し、最適化するために利用されます。代表的な用途としては、高精細映像配信、物流の追跡・制御、スマート工場、公共インフラ監視、遠隔支援・遠隔医療などが挙げられます。

たとえば映像配信では、ピーク時でも一定の映像品質を維持するために、帯域と優先度を確保したスライスを割り当てる設計が考えられます。一方、工場の制御や監視では、帯域そのものは大きくなくても「遅延の揺らぎが小さい」「瞬断しにくい」ことが価値になり、異なる設計方針が必要になります。

また、既存の企業ネットワークやクラウド基盤と接続して利用する場合は、スライス側だけでなく、企業側のネットワーク設計(冗長化、セキュリティ境界、クラウド接続経路)とセットで考えることで、全体としての通信品質と運用の一貫性を確保しやすくなります。

ネットワークスライシングと他のネットワーク技術

ネットワークスライシングは、ネットワーク仮想化(NFV)ソフトウェア定義ネットワーク(SDN)といった技術と組み合わせて実現されます。NFVはネットワーク機能(ファイアウォール、ゲートウェイ、コア機能など)を仮想化して柔軟に配置・拡張する考え方で、SDNは制御と転送を分離し、経路やポリシーをソフトウェアで制御しやすくする考え方です。

これらと比べたときのネットワークスライシングの特長は、単に機器や機能を仮想化するだけでなく、用途ごとに「論理ネットワークとしての振る舞い」を設計し、運用単位として切り分けられる点にあります。言い換えると、NFV/SDNはスライシングを支える基盤技術であり、スライシングはそれらを使って「用途別ネットワークを提供する」ための上位概念だと整理すると理解しやすくなります。

ネットワークスライシングの仕組み

ネットワークスライシングは、単純な「帯域の小分け」ではなく、要件に応じてネットワーク機能や制御ポリシーまで含めて組み立てる技術です。ここでは、仕組みを4つの観点から整理します。

ネットワークの分割と制御

ネットワークスライシングでは、1つの物理ネットワーク上に、複数の論理ネットワーク(スライス)を構成します。各スライスは用途に合わせて、優先度、QoSのクラス、帯域上限、遅延目標、冗長化方針、アクセス制御などを個別に設定できます。

ここで注意したいのは「完全に独立した物理ネットワーク」になるわけではない点です。物理設備は共有されるため、隔離の粒度は設計に依存します。隔離を強くするほど、保証はしやすくなる反面、柔軟性や効率は下がりやすくなります。スライシング設計では、このトレードオフを前提に、どの要件をどこまで保証するのかを明確にすることが重要です。

仮想ネットワークと物理ネットワーク

スライスは、物理的な基地局や回線の上に論理的に構成されます。ユーザーやアプリケーションから見ると、用途専用のネットワークが用意されているように見えますが、内部では共有された設備の上で、制御ポリシーとリソース割り当てによって見かけ上の専用性を実現します。

したがって、スライスの価値は「物理的に分けること」ではなく、「共有しながら、用途ごとに必要な振る舞いを再現し、運用上の単位として管理できること」にあります。

スライスの割り当てとスケジューリング

スライスは、用途ごとに求められる属性(帯域、遅延、信頼性、同時接続数など)を前提に設計され、端末やアプリの通信がどのスライスに収容されるかは、ネットワーク側の制御と端末側の設定(利用する通信の性質)を組み合わせて決まります。

運用面では、スライスの割り当てや収容制御を「静的に固定する」のか、「混雑状況に応じて動的に調整する」のかで設計が変わります。動的にすれば効率は上がりますが、予測しづらい揺らぎが生まれる可能性もあるため、SLAの性質(厳密保証か、ベストエフォートに近いか)に応じて方針を決める必要があります。

スライス間のコミュニケーション

スライスは論理的に分離されますが、現実の業務システムでは「業務アプリはスライスA、監視はスライスB、認証は共通基盤」といった形で、スライスをまたぐ連携が発生します。したがって、スライス間の通信を「禁止する」のではなく、「必要最小限で、境界を明確にし、監査できる状態にする」設計が現実的です。

また、障害時や輻輳時に「重要通信だけ別スライスへ逃がす」といった運用を検討する場合は、切替条件、影響範囲、責任分界を事前に定義しておかないと、平時は便利でも有事に混乱しやすくなります。

ネットワークスライシングと5G

5Gは多様な通信要件を同時に扱うことを前提に設計されています。しかし、すべてを単一の「共通品質」で提供しようとすると、用途間の要求が衝突しやすくなります。そこで、用途ごとに最適化する仕組みとしてネットワークスライシングが重要になります。

5Gとの関連性

5Gの価値は「速い」だけではありません。高精細映像のように帯域が必要な通信もあれば、IoTのように同時接続数をさばくことが価値になる通信もあります。さらに、制御系では遅延や揺らぎが問題になり、別の性質が求められます。ネットワークスライシングは、この要求の違いを前提に、同じ設備の上で用途ごとに最適化するための手段です。

5Gの特性とネットワークスライシングの役割

たとえば、オンラインゲームのように遅延に敏感な通信には、低遅延を重視した設計が向きます。一方、IoTデバイスは「大量に接続できること」「省電力で細い通信でも成立すること」が重要になり、同じ最適化ではうまくいきません。スライシングによって、目的に合ったネットワーク特性を割り当てやすくなり、用途間の干渉を抑えつつ全体を運用できます。

5G用途例とスライスの割り当て

スマート工場では、多数の機器接続に加え、制御や監視のリアルタイム性が求められることがあります。この場合、低遅延や信頼性を重視したスライスと、センサー系の多数接続を重視したスライスを分け、用途ごとに要件を満たす設計が考えられます。

遠隔支援や遠隔医療では、高画質映像と安定した通信が必要になりますが、すべてを「最高品質で固定」するとコストも設備も膨らみがちです。どの品質を保証し、どこを許容するのかを明確にしたうえで、用途に合うスライスを割り当てることで、現実的な運用に近づけられます。

ネットワークスライシングによる5Gのパフォーマンス最適化

スライシングの狙いは、ネットワーク資源を用途別に割り当て、必要な品質を満たしつつ、全体の効率も落としすぎないことです。用途を分けずに運用すると、混雑時に「全部が遅くなる」現象が起こりやすくなりますが、スライス設計が適切であれば、影響を限定しやすくなります。

ただし、最適化は自動的に得られるものではありません。SLA目標、監視項目、アラート設計、容量計画、変更管理をセットにして初めて、運用として成立します。ここが曖昧なまま導入すると、運用負債が増えるリスクがあります。

ネットワークスライシングの応用

ネットワークスライシングは、用途別の要件をネットワーク側で扱える形に落とし込み、提供形態として組み立てられる点が特長です。ここでは、ビジネスモデル、サービス最適化、カスタマイズ提供という観点から整理します。

ビジネスモデルでの活用

ネットワークスライシングは、用途や業界ごとの要件を明確にしたうえで、品質や機能を前提としたサービス設計を可能にします。たとえば「低遅延を一定範囲で保証する」「特定拠点間の通信を優先する」「監視・レポートを含めて提供する」といった形で、通信そのものを要件ベースのサービスとして提供しやすくなります。

サービス最適化の例

映像配信であれば、プレミアム向けは高画質を維持しやすいスライス、一般向けはコストを抑えたスライス、といった分け方が考えられます。ポイントは「品質差を作る」ことよりも、混雑時に互いの影響を減らし、運用上のコントロールをしやすくすることです。

カスタマイズネットワークの提供

企業向けには、拠点・工場・倉庫など特定領域の通信要件を前提に、専用スライスを設計するケースが想定されます。ここでいう「専用」は物理専用を意味しない場合も多く、論理的な分離、監視、SLA、運用手順まで含めて「専用として扱える状態」を整えることが価値になります。

ニーズに応じたスライスの割り当て方

スライス割り当ては、用途要件を整理し、要件の衝突を避けることが出発点になります。たとえば、遠隔医療や自動運転のように信頼性が重要な通信は、混雑や障害の影響を受けにくい設計を優先します。一方、映像配信やゲームのようにトラフィックが大きい通信は、帯域と混雑制御の設計が鍵になります。ここで無理に「万能スライス」を作ると、結局どの要件も中途半端になりやすいため、用途の整理が重要です。

ネットワークスライシングの将来性

ネットワークスライシングの将来性は、通信品質を用途別に制御できること自体よりも、「用途要件を前提にネットワークを提供・運用する」という考え方が、産業のデジタル化と相性が良い点にあります。ここでは、産業への影響、技術進化、IoT連携、課題の観点で見ていきます。

産業での影響

産業用途では、通信の価値が「速さ」よりも「止まらない」「遅延が読める」「品質が一定」といった性質に移る場面があります。ネットワークスライシングは、こうした要件を前提に設計しやすいため、医療、物流、製造、社会インフラなどでの活用が見込まれます。

ただし、業務側が必要とする「品質」を数値として定義できていない場合、スライスを作っても評価できず、運用が形骸化しやすくなります。成果につなげるには、要件定義と運用設計が不可欠です。

スライシング技術の進化と影響

スライシングの成熟に伴い、より細かな要件への対応、監視・制御の自動化、スライスのライフサイクル管理の高度化が進むと考えられます。これにより、導入・運用の負荷が下がり、現場で扱いやすくなる方向が見込まれます。

一方で、分割が細かくなるほど運用対象は増えます。自動化が進んでも、例外処理や責任分界が曖昧なままだと運用は難しくなるため、「誰が何を保証し、どこまでを監視するのか」という基本設計は引き続き重要です。

ネットワークスライシングとIoTの連携

IoTは端末数が増えるほど、通信要件が多様化します。センサーは小容量でも数が多く、制御は遅延が重要、映像は帯域が重要、といった具合に、要件が分かれます。スライシングを活用することで、要件が異なるIoT通信を同じ基盤で扱いやすくなり、IoT基盤全体の安定運用に寄与しやすくなります。

ただし、IoTは端末側のセキュリティや管理も含めて設計しないと、ネットワーク側の分離だけでは守り切れません。スライスをセキュリティの万能な対策として扱わず、端末管理、認証、監視、インシデント対応まで含めて考えることが前提になります。

ネットワークスライシングの課題と解決策

ネットワークスライシングの課題は、大きく運用セキュリティに集約されます。運用面では、スライスごとにSLAや監視項目を定め、障害時の切り分けや復旧手順を整備する必要があります。スライスが増えるほど、監視・変更・容量計画の負荷が増えるため、運用自動化や標準化が鍵になります。

セキュリティ面では、論理分離が前提になるため、隔離設計と監査性が重要です。特に、スライス間連携が発生する場合は、境界の通信制御、認証・認可、ログの扱い、データの流れの可視化が欠かせません。「分けたから安全」ではなく、「分けたうえで、境界を管理できる」状態を作ることが要点です。

これらの課題に対しては、要件定義(何を保証するか)と運用設計(どう監視し、どう復旧するか)を先に固め、そのうえでスライスの設計に落とし込むのが現実的です。ネットワークスライシングは次世代ネットワークの有力な手段ですが、成果を出すには技術だけでなく運用も同じ重さで設計することが欠かせません。

Q.ネットワークスライシングは何を「分割」する技術ですか?

物理回線を分けるのではなく、共通インフラ上に用途別の論理ネットワークを構成する技術です。設備を共有したまま、用途ごとに特性や運用単位を分けられます。

Q.ネットワークスライシングは5Gで必須ですか?

必須ではありませんが、多様な要件を同時に扱う場面で有効な手段です。用途間の干渉を抑えたい場合に検討されます。

Q.スライスは完全に独立したネットワークになりますか?

物理設備は共有されるため、独立性や隔離の強さは設計方針に依存します。どこまで保証するかをSLAと合わせて決めます。

Q.スライシングは帯域制御と同じですか?

帯域だけでなく、遅延・優先度・機能構成・運用ポリシーまで含めて作り分けます。用途に合わせてネットワークの振る舞いを設計します。

Q.NFVやSDNがあればスライシングは実現できますか?

NFVやSDNは基盤技術であり、スライシングは用途別提供のための上位概念です。両者を組み合わせて実装・運用されます。

Q.ネットワークスライシングの最大のメリットは何ですか?

用途ごとに必要な通信品質と運用単位を設計し、干渉を抑えやすくする点です。混雑や障害の影響範囲を整理しやすくなります。

Q.ネットワークスライシングの導入で難しい点は何ですか?

SLA定義、監視、容量計画、変更管理など運用設計が高度化する点です。導入前に責任分界や運用手順を詰める必要があります。

Q.スライシングはセキュリティ対策になりますか?

論理分離は有効ですが、境界制御や監査性を設計しないと安全性は担保できません。分離後のアクセス制御やログ設計が重要です。

Q.IoTとネットワークスライシングは相性が良いですか?

要件が多様なIoT通信を同一基盤で扱いやすくするため相性は良いです。ただし端末管理や認証など、ネットワーク外の設計も必要になります。

Q.スライス設計で最初に決めるべきことは何ですか?

用途ごとの要件と、どの品質をどこまで保証するかのSLA方針です。保証範囲が曖昧だと、監視や運用が組み立てにくくなります。

記事を書いた人

ソリトンシステムズ・マーケティングチーム