オーバーレイネットワークとは、既存の物理ネットワーク(インターネットや社内WANなど)の上に、別の論理ネットワークを重ねて構築する仕組みです。物理構成を大きく変えずに、通信の単位(拠点・ユーザー・アプリ・セグメント)を論理的に設計し直せるのが特徴です。
「一つの大きなネットワークの中に、小さなネットワークを作れる」という説明は方向性としては近いのですが、実務ではもう少し正確に、「パケットを別のパケットで包んで(カプセル化して)運ぶことで、外側のネットワークの制約を受けにくくする」と捉えると整理しやすくなります。
オーバーレイの代表例として、VPN(IPsec/SSL-VPNなど)、SD-WAN、VXLAN(データセンターの仮想ネットワーク)、一部のSDN構成などが挙げられます。これらは共通して、アンダーレイ(物理・基盤ネットワーク)を抽象化し、論理ネットワークを柔軟に構成することを目的にしています。
オーバーレイネットワークは、主に次のような機能を提供します。
たとえばVPNは、公開インターネットの上に暗号化されたトンネルを作り、離れた拠点や端末同士を「同一ネットワークのように」つなげます。ここで重要なのは、単に「ネットワークを作る」だけでなく、通信の保護(暗号化・認証)と、論理的な到達性(ルーティング)を組み合わせて実現している点です。
オーバーレイネットワークのメリットは、物理ネットワークの制約からある程度切り離して、設計・運用を柔軟にしやすい点にあります。
一方でデメリットもあります。一般的な注意点として流してしまうと実装・運用で詰まりやすいため、実務上の論点として押さえておくことが重要です。
オーバーレイは万能ではなく、柔軟性を得る一方で、設計責任と運用上の難易度が上がりやすい技術です。
アンダーレイネットワークは、物理回線・L2/L3機器・実ネットワーク(IPルーティングや回線品質)そのものを指します。オーバーレイネットワークは、そのアンダーレイの上でトンネルや仮想セグメントを作り、別の論理ネットワークとして動かします。
両者は対立関係ではなく、役割分担です。
このため、「オーバーレイを採用したから物理は適当でよい」にはなりません。むしろ、アンダーレイの品質が悪いと、オーバーレイの暗号化やカプセル化に伴う処理の影響も重なり、体感が悪化するケースもあります。運用では、「アンダーレイの健全性」と「オーバーレイのポリシー/暗号化/経路」を分けて監視するのが基本です。
オーバーレイネットワークは、通信経路にセキュリティ要素を組み込みやすい一方、設計・運用を誤ると「守っているつもりで守れていない」状態が起こり得ます。ここでは、重要な論点を整理します。
クラウド、リモートワーク、多拠点化が進むほど、通信は「社内だけ」で閉じなくなります。オーバーレイは、こうした環境で暗号化・認証・ポリシー制御を通信経路に組み込みやすく、データの機密性や完全性の確保に役立ちます。
ただし、「オーバーレイ=安全」ではありません。安全性は、暗号方式の強さ以上に、鍵管理・認証・アクセス制御・ログで左右されます。
情報漏洩対策としては、次の組み合わせが現実的です。
ここでのポイントは、オーバーレイの暗号化で「盗聴」には強くなる一方、認証が弱いと「正規の経路で不正アクセスされる」リスクが残る、という点です。
VPNはオーバーレイの代表例で、暗号化トンネルにより盗聴・改ざんを抑止しやすくなります。とはいえ、VPN運用で問題が起きる原因は、暗号方式そのものよりも次の領域にあることが多いです。
つまり、VPNを「トンネル」としてだけ捉えるのではなく、認証・権限・端末・ログをセットで設計することが、実務上のセキュリティにつながります。
オーバーレイ自体がDDoSを「完全に無効化」するわけではありません。むしろ、終端装置(VPNゲートウェイ、SD-WAN装置、クラウドGW)が攻撃の対象になることもあります。対策としては次が基本です。
「オーバーレイのセキュリティ」は、暗号化だけでなく、終端を守る運用設計を含めて考える必要があります。
両者は「どちらが上」という話ではなく、守る対象と手段が違います。セキュリティ観点で整理すると、次のようになります。
アンダーレイは物理・基盤の世界なので、機器のハードニング、物理防護、L2/L3制御、回線の管理などが中心になります。ネットワーク境界(FW)で守る設計は、アンダーレイ側の典型です。
ただし、広域・多拠点になるほど、物理や境界だけで守り切るのは難しくなり、構成も複雑化しがちです。
オーバーレイは論理層で制御するため、暗号化や認証、セグメント分離、アプリ単位アクセスなどを組み込みやすい一方、設定や鍵管理を誤ると影響が大きくなります。強化の鍵は、設定の標準化、変更管理、ログ、監査です。
実務では、次の役割分担に整理すると運用しやすくなります。
つまり、アンダーレイを健全に保ったうえで、オーバーレイで「通信の意味」を設計することが、セキュリティと運用の両立につながります。
アンダーレイは「基盤を守る」色が強く、オーバーレイは「通信と到達性を守る」色が強い、と整理すると理解しやすくなります。どちらか片方ではなく、組み合わせて設計し、監視・運用で崩れないようにすることが重要です。
オーバーレイのセキュリティ対策は、技術だけでなく運用設計の影響も大きくなります。最低限、次の観点を押さえることで、インシデントにつながりやすい要因を減らせます。
ポリシーは一般論ではなく、誰が・どこから・何に・どの条件でアクセスできるかを明文化するのが肝です。特に、到達性(ネットワーク的に届く範囲)を広げすぎないことが重要です。
終端装置(VPN/SD-WANゲートウェイ等)の脆弱性は影響が大きいので、パッチ適用、設定監査、不要機能の無効化、証明書/鍵の更新などを定期運用に組み込みます。外部診断や診断ツールの活用も有効です。
単一対策に頼らず、レイヤードで実装します。
オーバーレイは設定変更の影響が広いので、変更管理と監視が重要です。ログは集約し、異常検知の基準(ベースライン)を作り、定期的に設定レビューを行うことで「いつの間にか崩れていた」を防げます。
クラウド、ゼロトラスト、SASE/SD-WANの普及により、オーバーレイはさらに一般化しています。今後は、ネットワーク機器の設定だけでなく、ID・端末状態・アプリと連動したポリシーが中心になり、通信セキュリティは暗号化に加えてアクセス制御と可視化の比重が高まる流れが続くと見られます。
普及が進むほど、終端装置の集中リスク、設定の複雑化、ログ量の増大、サプライチェーン(製品脆弱性)への依存が増えます。対策としては、標準化(テンプレ化)、自動化(IaC的運用)、監査可能性(ログ・変更履歴)をセットで整備することが現実的です。
多様な端末がどこからでも接続する時代には、場所に依存しない論理制御が重要になります。オーバーレイは、その前提となる「論理的に安全な道」を作る役割を担います。
IoTは台数が多く、端末の更新も難しいため、到達性を絞る・監視する・分離する設計が重要です。オーバーレイで論理分離を作り、影響範囲を限定する発想は相性が良い一方、運用の簡素化(テンプレ・自動化)がないと破綻しやすい領域でもあります。
次世代ネットワークでは、暗号化は「前提」になり、差が出るのは「誰に」「何を」「どの条件で許すか」の設計です。オーバーレイはその実装基盤として、引き続き中心的な役割を担うでしょう。
オーバーレイネットワークは、物理網の制約を超えて論理設計を柔軟にし、暗号化やポリシー制御を組み込みやすい技術です。クラウド・多拠点・リモートが当たり前になった今、重要性は増しています。
ただし、オーバーレイは導入すれば終わりではなく、アンダーレイの健全性、認証と最小権限、鍵管理、ログと監視をセットで設計しないと、期待した安全性は得られません。両者の役割分担を理解し、組み合わせて運用することが、結果として堅牢で、現場でも扱いやすいネットワークにつながります。
物理ネットワーク(アンダーレイ)の上に、別の論理ネットワークを重ねて構築する仕組みです。物理構成を大きく変えずに論理的な分離や制御を実現できます。
VPNはオーバーレイネットワークの代表例の一つです。オーバーレイは概念としてより広く、SD-WANやVXLANなども含みます。
物理回線やネットワーク機器、L2/L3の実ネットワークなど、基盤となるネットワーク全体を指します。オーバーレイはこの上で動作します。
物理網に大きく手を入れずに論理ネットワークを追加・変更でき、拠点追加やポリシー適用を柔軟に行いやすい点です。暗号化や分離も組み込みやすくなります。
カプセル化により可視化や障害切り分けが難しくなり、ヘッダ追加や暗号化処理によるオーバーヘッド(MTU問題やCPU負荷)も起きやすい点です。
いいえ。遅延・ロス・ジッタなどアンダーレイの品質はオーバーレイに影響します。アンダーレイの健全性を確保した上でオーバーレイを設計するのが基本です。
十分ではありません。暗号化に加えて、強い認証(MFAや証明書)、最小権限(到達範囲の絞り込み)、鍵管理、ログと監視を組み合わせる必要があります。
暗号方式よりも、認証が弱い、到達範囲が広すぎる、端末の信頼性が担保されていない、ログが追えない、といった設計・運用の問題が原因になりやすいです。
オーバーレイだけでDDoSを無効化できるわけではありません。終端装置が狙われることもあるため、DDoS保護、入口でのフィルタリング、冗長化、監視と自動対応が重要です。
設定の標準化(テンプレ化)、変更管理、鍵/証明書の更新運用、ログ集約と監視、そしてアンダーレイとオーバーレイを分けた切り分け手順を整えることです。