近年、個人情報の適切な取り扱いが強く求められる一方で、データの利活用によって新たな価値を生み出すことも重要になっています。こうした中で注目されているのが「仮名加工情報」です。仮名加工情報とは、個人情報を一定の基準で加工し、他の情報と照合しない限り特定の個人を識別できないようにした情報のことです。本記事では、仮名加工情報の基本的な概念から、企業における活用方法、関連する法律や制度までを整理し、自社システムの改善やデータ活用を検討している方に向けてわかりやすく解説します。
まずは、仮名加工情報の基本的な考え方を押さえます。個人情報を「そのまま」使うのではなく、一定のルールに従って加工したうえで、プライバシー保護とデータ利活用の両立を図るための仕組みが仮名加工情報です。
仮名加工情報とは、個人情報を一定の措置により加工し、他の情報と照合しない限り特定の個人を識別できないようにした情報を指します。具体的には、次のような措置が代表的です。
これらの措置により、データ単体では誰の情報か分からない状態にしつつ、分析や検証には活用できる情報として残すことができます。
よく混同される概念として「匿名加工情報」があります。両者は似ているようで、法的な位置づけや利用のされ方が異なります。違いを整理すると、次のようになります。
| 項目 | 仮名加工情報 | 匿名加工情報 |
|---|---|---|
| 個人情報との紐付け | 作成した事業者内部では、対応表などを用いて紐付けが可能な場合がある | 元の個人情報との紐付けは不可。誰の情報か特定できない |
| 法的位置づけ | 個人情報の一形態として、内部での利活用を前提に整理されている | 個人情報とは別枠で扱われ、統計データ等としての利活用を想定 |
| 加工方法 | 特定の個人が分からないよう削除・置換などの措置を実施 | 誰の情報か分からないレベルまで極度に加工し、復元できない状態にする |
| 主な利用場面 | 自社内部での分析、業務改善、サービス品質向上など | 統計データとしての公開、外部研究機関との共同研究など |
仮名加工情報の特徴は、「作成した事業者内部に限り、一定の条件のもとで元データとの関係を保持しながら活用できる」点にあります。一方、匿名加工情報は元の個人情報へ戻せない状態まで加工するため、より広範な利活用を前提とした仕組みです。
仮名加工情報を活用することで、次のようなメリットが期待できます。
適切に仮名加工情報を活用することで、個人情報保護とデータ活用のバランスを取りながら、事業の改善・高度化につなげることができます。
仮名加工情報を作成・活用する際には、次のような点に注意が必要です。
これらを踏まえ、法律やガイドライン、社内規程と整合する形で仮名加工情報を作成・管理することが重要です。
仮名加工情報を適切に活用するには、やみくもに加工するのではなく、一定のステップに沿って検討・実施することが大切です。ここでは、典型的な進め方をステップごとに整理します。
最初のステップは、「仮名加工の対象とする個人情報を特定すること」です。どのシステムやファイルに、どのような個人情報が含まれているのかを洗い出し、仮名加工情報として活用したいデータセットを選定します。
その際には、個人情報保護法や社内の個人情報管理規程に照らし、どこまでを対象とするのか、どこから先は別のルールが必要かといった線引きも検討します。
対象が決まったら、「どのような方法で加工するか」を検討します。代表的な加工方法の例は次の通りです。
加工後のデータから個人を推測できないことはもちろん、業務利用上「どの程度の粒度まで残せば分析に耐えられるか」という観点も併せて検討する必要があります。
加工方法の案が固まったら、実際に仮名加工情報を作成する前に、リスク評価を行うことをおすすめします。主な確認ポイントは次のようなものです。
リスク評価の結果を踏まえ、必要に応じて加工方法や運用ルールを見直し、リスクを許容できる水準まで下げることが重要です。
仮名加工情報は「作って終わり」ではなく、継続的な管理が重要です。主な管理ポイントは次の通りです。
適切な管理体制を構築し、定期的な点検・監査を通じて運用状況を確認することで、仮名加工情報の安全性と有効性を両立させることができます。
仮名加工情報は、「個人を特定しないこと」と「データとしての有用性を保つこと」を両立できるため、さまざまな分野で活用が進んでいます。ここでは代表的な活用イメージを紹介します。
マーケティング分野では、購買履歴やWebアクセスログ、アプリ利用履歴などを仮名加工し、個人を特定せずに分析するケースが増えています。
例えば、会員IDを別のIDに置き換えたうえで、購買傾向やキャンペーン反応率を分析することで、プライバシーに配慮しながらターゲット別のプロモーションやパーソナライズされたおすすめ表示を実現できます。
新サービス開発の場面では、ユーザーの行動データや問い合わせログを仮名加工情報として分析し、潜在ニーズや利用上の課題を把握することができます。
例えば、「どの画面で離脱が多いか」「どのプランへの乗り換えが多いか」といった傾向を個人を特定せずに把握することで、ユーザー体験(UX)の改善や新機能の企画に活かすことが可能です。
医療、教育、金融などの分野では、仮名加工情報を用いたデータ分析や研究が重要なテーマになっています。
医療分野の例では、患者を直接特定できないよう加工した診療情報を用いて、疾病の傾向や治療効果の検証、安全性評価などを行うことができます。教育分野でも、学習履歴やテストデータを仮名加工することで、学習効果の分析や教育手法の改善に活用できます。
仮名加工情報は、外部の研究機関や企業との共同研究・実証実験においても利用されます。自社が保有するデータをそのまま渡すのではなく、事前に仮名加工を施したうえで連携することで、プライバシー保護とデータ利活用の両立を図ることができます。
ただし、外部提供に関しては法令やガイドライン上の制約があるため、委託・共同利用など許容されるスキームを前提に、契約や管理体制を含めて慎重に設計する必要があります。
仮名加工情報は、単なるテクニックではなく、個人情報保護法上の概念として位置づけられています。ここでは、関連する法律・制度のポイントを整理します。
個人情報保護法の改正により、「仮名加工情報」という概念が新たに導入されました。法律上は、他の情報と照合しない限り特定の個人を識別できないよう、一定の基準に従って個人情報を加工して得られる情報として定義されています。
この仕組みにより、事業者が自社内部でデータを活用しやすくする一方で、個人情報保護の水準を維持することが期待されています。
個人情報保護委員会は、「仮名加工情報・匿名加工情報の適正な利用・提供に関するガイドライン」を公表し、具体的な運用ルールを示しています。主な内容は次の通りです。
仮名加工情報を導入・運用する際には、これらのガイドラインの内容を確認し、自社の実務に落とし込むことが重要です。
仮名加工情報を取り扱う事業者には、通常の個人データと同様に安全管理措置が求められます。代表的なポイントは次の通りです。
仮名加工情報は「加工済みだから安全」と考えるのではなく、再識別リスクや漏えいリスクを踏まえたうえで、適切な安全管理措置を講じることが求められます。
仮名加工情報は、本来「事業者内部での利活用」を前提として制度設計されています。そのため、第三者提供については厳格なルールや制限が設けられており、原則として禁止されているケースもあります。
一方で、委託や共同利用など、一定の枠組みの中で外部とデータをやり取りすることは想定されています。その場合でも、利用目的の明確化・契約上の義務づけ・安全管理措置の確認など、事前の調整とガバナンスが不可欠です。
自社で仮名加工情報の外部提供を検討する場合は、最新の法令・ガイドラインや専門家の意見も踏まえながら、慎重に設計することが重要です。
仮名加工情報は、個人情報の保護とデータ利活用の両立を目的として導入された仕組みです。本記事では、仮名加工情報の定義や匿名加工情報との違い、メリット、作成時の注意点を整理するとともに、具体的な活用手順や企業での活用例、関連する法律・ガイドラインの概要を紹介しました。
自社のシステム改善やサービス高度化のためにデータを活用したいものの、個人情報保護の観点から一歩踏み出せずにいる企業にとって、仮名加工情報は有力な選択肢のひとつになり得ます。まずは、自社の保有データと活用ニーズを棚卸しし、仮名加工情報として扱える範囲や加工の方針を検討してみてはいかがでしょうか。法令・ガイドラインを踏まえた適切な運用ができれば、プライバシーに配慮しながらデータの価値を最大限に引き出すことができるはずです。
仮名加工情報とは、個人情報を一定の基準に従って加工し、他の情報と照合しない限り特定の個人を識別できないようにした情報のことです。氏名や住所などの識別子を削除・置換することで、プライバシーに配慮しながらデータを活用できるようにします。
仮名加工情報は、作成した事業者内部では元の個人情報との対応関係を管理しながら利用することを前提とした仕組みです。一方、匿名加工情報は、誰の情報か特定できないレベルまで加工し、元の個人情報へ復元できない状態にした情報を指します。
仮名加工情報を利用すると、個人を直接特定せずにデータ分析ができるため、プライバシーやコンプライアンスに配慮しながらサービス改善や業務効率化に役立てることができます。また、通常の個人データに比べて社内での利活用を進めやすくなる場合があります。
仮名加工情報は本来、事業者内部での利活用を前提とした制度であり、第三者提供には厳しい制約があります。委託や共同利用など限られたスキームを除き、安易な外部提供は避けるべきであり、法令やガイドライン、契約上の取り決めに沿って慎重に判断する必要があります。
代表的な方法として、氏名や住所などの識別情報の削除、IDや会員番号のトークン化・ハッシュ化、生年月日や金額のレンジ化・一般化、自由記述欄のマスキングなどがあります。加工後のデータから個人が推測されないよう、複数の方法を組み合わせることが一般的です。
はい、推奨されます。加工後のデータから個人が再識別されるリスクや、他データとの突合せによるリスクを評価し、必要に応じて加工方法や管理方法を見直すことで、適切な安全性を確保することが重要です。
仮名加工情報と元の個人情報、そして両者を結びつける対応表を分離して管理することが重要です。また、アクセス権限の限定、ログの取得・監査、社内規程の整備と教育などを通じて、不正利用や漏えいを防ぐ必要があります。
マーケティング、金融、医療、教育、製造など、多くの分野で活用されています。顧客データや行動履歴、診療情報、学習履歴などを仮名加工し、個人を特定せずに分析することで、サービス改善や研究開発に役立てるケースが増えています。
まずは、自社が保有する個人情報の棚卸しを行い、「どのような目的で、どのデータを仮名加工情報として活用したいか」を明確にすることが第一歩です。そのうえで、法令・ガイドラインの確認と、加工方針や社内ルールの検討を進めるとスムーズです。
本人への連絡・契約管理など、個人を特定する必要がある業務には通常の個人データを用い、個人を特定する必要がない分析・統計・サービス改善などには仮名加工情報を用いる、といった使い分けが有効です。目的ごとに必要な粒度とリスクを整理して判断するとよいでしょう。