テレワークの普及などを背景に、社外から社内システムへアクセスする「リモートアクセス」の重要性が高まっています。すでに自宅や外出先から社内ネットワークへ接続し、業務を進めている方も多いでしょう。
一方で、リモートアクセスを実現する方法はいくつかあり、「どれを選べばよいのか」「安全性は十分か」と悩むケースも少なくありません。そこで本記事では、リモートアクセスの基本と、代表的な4つの方法(VPN/リモートデスクトップ/セキュアブラウザ/VDI)を整理し、導入・運用で押さえるべきポイントを解説します。
リモートアクセスとは、遠隔地からネットワークを介して社内システムや社内端末へアクセスすることを指します。例えば、自宅のPCやスマートフォンからインターネット経由で社内LAN内の業務システムや自席PCに接続して作業する、といった利用形態です。
ただし、社外から社内へ接続するということは、通信の盗聴やなりすまし、端末のマルウェア感染などのリスクと隣り合わせになります。そのため、リモートアクセスでは「通信経路の保護」だけでなく、「認証」「端末の安全性」「利用ルール」まで含めた多面的な対策が欠かせません。
リモートアクセスの方法は複数ありますが、ここでは代表的な4つの方式を取り上げます。方式によって、守りやすいポイント(例:端末にデータを残さない)と、注意すべきポイント(例:アカウント乗っ取りに弱い)が異なるため、特徴を理解して選定しましょう。
VPNは、通常のインターネット回線を使いながら、拠点間に仮想的な専用回線を構築する技術です。「Virtual Private Network」の略で、日本語では「仮想専用通信網」と訳されます。
VPNでは、特定の拠点間に仮想的な“トンネル”を作る「トンネリング」や、データを別の形式に包んでやり取りする「カプセル化」などの仕組みにより、通信経路を保護します。加えて、通信内容は暗号化されるため、盗聴リスクの低減にもつながります。
なお、VPNにはインターネット回線を使うタイプのほかに、より閉じたネットワーク(閉域網)を使う「IP-VPN」などもあります。求める要件(安全性、コスト、運用負荷、拠点数)に応じて使い分けが必要です。
リモートデスクトップは、遠隔地から社内のPC画面を操作する方式です。利用者は手元の端末から、社内にあるPC(またはサーバー)へ接続し、画面転送により操作します。
操作対象が社内側にあるため、基本的に手元端末に業務データを残しにくい点は大きな利点です。一方で、認証情報が漏えいした場合は、第三者が別端末から“社内PCを操作できてしまう”リスクがあるため、認証強化が重要になります。
セキュアブラウザは、情報漏えいや不正利用を抑えるための制御機能を備えたブラウザを利用し、Webアプリ(クラウドサービスや社内Webシステム等)へ安全にアクセスする方式です。
例えば、ファイルのダウンロード禁止、コピー&ペーストの制限、印刷の制限、キャッシュや履歴を端末に残しにくい設計などにより、端末側への情報残留を抑えられます。BYOD(私物端末利用)を含む運用で、端末を完全に管理しにくい場合の現実的な選択肢になることもあります。
VDIは、サーバー上に構築した仮想デスクトップ環境へ接続し、その画面を端末に転送して操作する方式です。「Virtual Desktop Infrastructure」の略で、日本語では「デスクトップ仮想化」と呼ばれます。
VDIでは、業務環境(デスクトップ)を集約しやすく、端末にデータを残しにくい運用を実現できます。オンプレミス型とクラウド型があり、クラウド型を選べば自社で基盤を抱えずに導入できる場合もあります。
※本文中の誤記になりやすい点として、正しくは「仮想デスクトップ環境」です(「仮想デスクチップ」ではありません)。
どの方式にもメリット・デメリットがあり、「これを選べば絶対に安全」というものはありません。導入では、方式選定だけでなく、運用面も含めて“事故が起きにくい形”に整えることが重要です。
リモートアクセスでは、認証情報の漏えいがそのまま侵入につながりやすいため、ID/パスワードだけに依存しない設計が望まれます。多要素認証(MFA)の導入に加え、アクセス元端末を制限する、端末に証明書を配布して“許可端末だけ接続できる”形にするといった対策が有効です。
とくに社内ネットワークへ到達できる構成では、「誰が」「どの端末で」「どこから」接続しているかを判定できる仕組みを組み込み、入口を堅くすることが重要です。電子証明書によるネットワーク認証で不正端末を排除する仕組みとして、「NetAttest EPS」のような製品があります。
手元端末がマルウェア感染していた場合、方式にかかわらず情報漏えいリスクは高まります。OSやソフトウェアの更新、EDR/アンチウイルス、端末暗号化、画面ロック、紛失時のリモートワイプなど、端末側の基本対策もセットで検討しましょう。
VPN方式のように端末側へデータが残りやすい方式では、持ち出しや紛失リスクが増えます。逆に、リモートデスクトップ/VDI/セキュアブラウザのように“端末に残しにくい設計”を採りやすい方式もあります。自社の取り扱い情報の重要度に応じて、データの所在を明確にしましょう。
リモートアクセスは「導入して終わり」ではありません。異常なログイン試行、普段と違う国・地域や時間帯からのアクセス、過剰なダウンロードなど、兆候を拾う仕組みが重要です。あわせて、従業員教育やルール(私物端末の扱い、作業場所の注意、画面の覗き見対策等)も整備しましょう。
テレワーク環境のセキュリティ対策を検討する際は、ガイドラインも参考になります。
厳密には異なります。テレワークは「働き方」を指し、リモートアクセスは「遠隔から社内環境へ接続する技術や手段」を指します。テレワークを実現するための要素のひとつがリモートアクセスです。
VPNは通信経路を保護するうえで有効ですが、それだけで安全が担保されるわけではありません。認証情報の漏えい、端末のマルウェア感染、設定不備など別の要因で侵害される可能性があります。
端末にデータを残しにくい点は利点ですが、認証が弱いとアカウント乗っ取りにより社内PCを操作されるリスクがあります。多要素認証や端末制限、アクセス制御などの対策が重要です。
どちらも画面転送で操作しますが、VDIはサーバー上に用意した仮想デスクトップ環境へ接続する方式です。リモートデスクトップは社内の特定PC(物理PC)へ接続して操作する形が一般的です。
Webアプリ中心で業務を進められる企業や、BYODなどで端末を完全に統制しにくい企業で検討されやすい方式です。端末へのデータ保存やコピー等の制御により、情報残留リスクを抑えやすくなります。
可能であれば避けるのが望ましいです。リモートアクセスは外部からの到達点になりやすいため、ID/パスワードに加え、多要素認証(MFA)や端末証明書などで認証を強化すると安全性が高まります。
許可した端末のみが社内ネットワークへ接続できるようにする考え方です。端末証明書の配布、デバイス登録(資産管理)、条件付きアクセス(OSバージョンや管理状態)などの方法があります。
一概には言えませんが、認証情報の漏えい(フィッシング等)や設定不備、端末の感染・管理不足が典型例です。技術対策と運用(教育・ルール・監視)をセットで考えることが重要です。
改善する場合があります。画面転送型(リモートデスクトップ/VDI)は回線品質の影響を受けやすい一方、クラウド利用やWeb中心の構成に寄せると体感が改善することもあります。ただし、業務要件との整合が前提です。
ログ監視と定期点検、権限の棚卸し、利用者教育(覗き見・持ち出し・私物端末の扱い)、障害時手順の整備などです。リモートアクセスは継続運用で安全性が左右されます。