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自社のシステムが障害やサイバー攻撃に遭遇したとき、サービス停止をどこまで抑え、どのくらいの時間で復旧できるかは、ビジネスの信頼性を左右する重要なポイントです。止まらないシステムを追い求めるだけでなく、「問題が起きても立ち直れる力」をどう備えるかが問われています。
この記事では、ITの文脈におけるレジリエンスの基本概念から、それを高めるためのポイントやアーキテクチャ、企業としての取り組み方までを整理して解説します。読み終えたときには、「自社のどこから手を付けるべきか」「どのような観点でレジリエンスを強化すべきか」を判断できる状態になることを目指します。
レジリエンスとは、システムやネットワークが障害や攻撃に遭遇した際に、その影響を最小限に抑え、許容できる時間内に復旧できる能力を指す概念です。近年、ITシステムが事業そのものを支える基盤となる中で、「止めないこと」だけでなく「止まってもすぐ戻れること」への注目が高まっています。
レジリエンスという言葉は、ラテン語の「resilire」に由来し、「跳ね返る」「立ち直る」という意味を持ちます。もとは心理学や防災の分野でも使われてきた概念で、「逆境に対する回復力」を表す言葉です。
ITの分野では、障害や攻撃、設定ミス、外部サービスの障害など、さまざまなトラブルに直面しても、速やかに復旧し、サービスを継続できる能力を指します。完全に障害をゼロにすることは現実的ではないため、「問題が起きることを前提に、どれだけ素早く・安全に立ち直れるか」を設計・運用の軸に据える考え方がレジリエンスです。
現代社会において、ITシステムは企業活動や日常生活に欠かせない存在となっています。ECサイトやオンラインバンキング、業務システムが止まれば、売上機会の損失だけでなく、取引先や顧客の信頼を損なう可能性もあります。
加えて、自然災害や大規模停電、クラウドサービスの障害、ランサムウェアなどのサイバー攻撃など、リスク要因は多様化・複雑化しています。サイバー攻撃の脅威が高まる中、システムの脆弱性を突いた攻撃から守ることに加え、「被害を受けても事業を継続する力」を備えることも重要な課題となっています。こうした背景から、レジリエンスの確保が経営レベルのテーマとして注目を集めています。
レジリエンスを実現するためには、単に機器を二重化するだけでは不十分で、設計・運用・組織体制を含めた複数の要素が必要です。代表的な要件は次の通りです。
これらの要件を組み合わせることで、システムは障害や攻撃に対する耐性を高め、事前に決めた目標復旧時間内での復旧(RTO)を現実的なものにします。
レジリエンスとセキュリティは密接に関連していますが、焦点が異なる概念です。セキュリティは、システムへの不正アクセスや攻撃を防ぐことを目的とし、「起きないようにする」ための予防的なコントロールが中心です。
一方、レジリエンスは、セキュリティ対策や可用性対策を施してもなお発生し得る障害や攻撃に対して、システムが機能を維持し、速やかに復旧できる能力に焦点を当てます。つまり、「起きてしまった後にどう立ち直るか」を扱う概念です。
両者は補完的な関係にあり、どちらか一方だけでは十分ではありません。セキュリティでリスク発生の確率を下げつつ、レジリエンスによって発生時の影響を抑えることで、安定したシステム運用と事業継続が可能になります。
ここでは、レジリエンスを高めるために押さえておきたい4つのポイントを紹介します。いずれも、技術要素だけでなく、運用や組織面の工夫とセットで考えることが重要です。
レジリエンスを高めるためには、システムの冗長化と分散化が欠かせません。冗長化とは、サーバーやネットワーク機器、ストレージなど、システムの重要な部分を複数用意し、一部に障害が発生しても他の部分で機能を維持できるようにすることです。
分散化とは、システムの機能を複数のサーバーやデータセンター、クラウドリージョンに分散させ、単一障害点(Single Point of Failure)を減らすことを指します。クラウドサービスを活用する場合も、単一リージョン依存になっていないか、ネットワーク経路が一箇所に集中していないかを確認することが重要です。これらの施策により、障害発生時の影響範囲を限定し、サービス全体の停止を防ぎやすくなります。
レジリエンスを確保するには、障害発生時にもサービスを継続できる体制をあらかじめ整えておくことが重要です。そのためには、次のような準備が役立ちます。
これらの準備を平常時から行っておくことで、障害発生時の混乱を最小限に抑え、決められた優先順位に沿って速やかにサービスを復旧できます。
障害発生時には、原因調査と復旧作業を「いかに素早く・迷いなく進められるか」が鍵になります。そのためには、以下のような仕組み作りが有効です。
| 仕組み | 内容 |
|---|---|
| モニタリング | システムやネットワーク、アプリケーションの状態を常に監視し、閾値を超えた異常を早期に検知する |
| 自動化 | フェールオーバーやリスタートなど、復旧作業の一部を自動化し、人的ミスと復旧遅延を減らす |
| ドキュメント整備 | 復旧手順や連絡先、判断基準を文書化し、担当者の不在時でも再現性のある対応ができるようにする |
| 訓練の実施 | 定期的に障害対応訓練やシミュレーションを行い、スキルや部署間の連携を向上させる |
これらの仕組みを整えることで、障害発生時に「何から手を付けるべきか」に迷う時間を減らし、迅速かつ的確な復旧が可能になります。
レジリエンスを維持・向上させるには、定期的にシステムの脆弱性を診断し、リスクを評価することが欠かせません。脆弱性診断では、OSやミドルウェア、アプリケーションの設定やコードの弱点を洗い出し、優先度を付けて対策します。
リスク評価では、想定される障害や攻撃のシナリオを整理し、影響度や発生確率を見積もったうえで、どのレベルのレジリエンスを目指すか(目標復旧時間・復旧ポイントなど)を決めていきます。これらの活動を通じて、レジリエンスに関する課題を早期に発見し、計画的に改善を続けることができます。
ここでは、レジリエンスを高めるために有効とされる4つのアーキテクチャや考え方を紹介します。自社の規模やシステム構成に照らし合わせて、取り入れられる部分から検討するとよいでしょう。
マイクロサービスアーキテクチャは、システムを小さな独立したサービスに分割し、それぞれのサービスが独自のプロセスで動作するアプローチです。各サービスは、API を通じて相互に通信します。
このアーキテクチャの利点は、一部のサービスに障害が発生しても、他のサービスへの影響を最小限に抑えられることです。たとえば、決済系サービスに問題があっても、閲覧系サービスを継続するといった「部分的な提供」がしやすくなります。また、サービスごとにスケーリングや更新が可能なため、柔軟性や拡張性にも優れています。
イミュータブルインフラストラクチャは、一度デプロイしたインフラストラクチャを現場で書き換えず、更新が必要な場合は新しいインスタンスや環境を構築して差し替える手法です。
この手法では、設定変更の履歴が追えなくなる「構成ドリフト」や、ログインしての手作業変更など、ヒューマンエラーによる障害リスクを減らすことができます。また、インフラストラクチャの状態をコードとして管理できるため、バージョンごとの比較や迅速なロールバックがしやすくなり、結果としてレジリエンス向上につながります。
カオスエンジニアリングは、本番に近い環境で意図的に障害を発生させ、システムのレジリエンスを検証する手法です。たとえば、特定のサーバーやネットワークをあえて停止させることで、フェールオーバーが正しく機能するか、監視やアラートが想定どおりに動作するかを確認します。
事前に障害シナリオを準備し、制御された方法でシステムに負荷や障害を与えることで、平常時には気づきにくい弱点を発見できます。また、実際のインシデントに備えたチームの訓練にもなり、障害対応に関する習熟度を高めることにもつながります。
ゼロトラストセキュリティモデルは、ネットワーク内外を問わず、すべてのアクセスを「信頼せずに検証する」ことを前提としたセキュリティアプローチです。ユーザーやデバイスのアイデンティティを都度確認し、コンテキスト(場所・端末状態・アクセス先など)に応じてアクセス制御を行います。
このモデルを採用することで、社内ネットワーク内の端末が侵害された場合でも、攻撃者の横移動や権限の不正取得を抑えられます。結果として、インシデント発生時の影響範囲を限定できるため、レジリエンス向上にも寄与します。クラウドサービスやリモートワーク環境が普及する中で、ゼロトラストに基づいたアクセス管理は、今後ますます重要になる考え方です。
最後に、企業が組織としてレジリエンスを高めるために取り組むべきポイントを4つに整理して紹介します。技術的な対策だけでなく、経営やガバナンスの観点も含めて検討することが重要です。
レジリエンスを実現するためには、全社的な意識改革が不可欠です。経営層から現場の担当者まで、レジリエンスが「コスト」ではなく「事業継続のための投資」であることを共有し、自らの役割を認識することが求められます。
たとえば、経営層がレジリエンス強化を明確な方針として示し、IT部門だけでなく業務部門も巻き込んだ教育や啓発活動を継続的に実施することで、障害や攻撃が「他部署の問題」ではなく「自分ごと」として捉えられるようになります。
レジリエンス対策を継続的かつ一貫性をもって進めるためには、組織としてのガイドラインを策定することが有効です。ガイドラインでは、レジリエンスに関する基本方針や目標、優先度、具体的な対策項目、評価指標などを定めます。
各部門や担当者は、ガイドラインに沿ってシステム設計や運用を行うことで、「担当者ごとの判断」に依存しないレジリエンス強化が可能になります。また、定期的にガイドラインを見直すことで、クラウド活用の進展やビジネスの変化にも対応しやすくなります。
障害や攻撃が発生した際には、迅速かつ適切なインシデント対応が求められます。そのためには、以下のような体制整備が推奨されます。
これらの体制を整えることで、インシデント発生時の混乱を最小限に抑え、関係者間の情報共有と意思決定をスムーズに行えるようになります。
レジリエンスを高めるためには、サービスの稼働状況を常に監視し、異常を早期に検知することが重要です。また、監視データやログを分析することで、潜在的な問題を発見し、予防的な対策を講じることができます。
これらの監視と分析を可能なかぎり自動化することで、人的な工数を削減しつつ、高い精度での異常検知と迅速な対処が可能になります。たとえば、メトリクスやログを収集・可視化するツール、しきい値を超えた際に自動でアラートを発報する仕組み、機械学習を用いた異常検知などの活用が考えられます。自社の規模やシステムに合ったツールの選定と運用ルールの整備がポイントです。
自社のシステムを障害や攻撃から守り、万一の際も迅速に復旧できるようにするうえで、レジリエンスの確保は欠かせません。レジリエンスを高めるためには、冗長化や分散化の実現、サービス継続のための準備、迅速な復旧体制の整備、定期的な脆弱性診断とリスク評価といった技術・運用面の取り組みが必要です。
さらに、マイクロサービスアーキテクチャやイミュータブルインフラストラクチャ、カオスエンジニアリング、ゼロトラストセキュリティモデルなどの考え方・アーキテクチャを取り入れることで、システムの構造そのものからレジリエンスを高めることができます。企業としては、全社的な意識改革、ガイドラインの策定、インシデント対応体制の整備、監視と分析の自動化に継続的に取り組むことが重要です。
自社の現状を客観的に振り返り、「どの障害ならどこまで耐えられるのか」「どれくらいの時間で復旧すべきか」という目標を定めるところから、レジリエンス強化を進めていきましょう。
可用性は「どれだけ止まらず動き続けるか」に着目し、レジリエンスは「止まったときにどれだけ早く立ち直れるか」まで含めた概念です。
企業規模にかかわらず、システム停止は売上や信頼に影響します。バックアップや連絡体制の整備など、規模に合ったレジリエンス対策が必要です。
代表的な指標として、復旧目標時間(RTO)や復旧目標時点(RPO)、サービス停止回数や平均復旧時間(MTTR)などが用いられます。
クラウドはレジリエンスを高めるための機能を提供しますが、構成や運用次第で単一障害点が残ることもあり、自動的に高まるわけではありません。
事前の計画と影響範囲の制御が前提であり、適切なガードレールを設けたうえで段階的に実施することが安全性の確保には不可欠です。
まず重要システムを洗い出し、停止した場合の影響と許容できる停止時間を整理したうえで、バックアップとインシデント対応手順の整備から着手する方法が有効です。
ゼロトラストは侵害を前提にアクセスを最小化する考え方であり、侵害時の影響範囲を限定することでレジリエンス向上に寄与します。
高度な冗長構成にはコストがかかりますが、運用手順の整備や訓練、バックアップ検証など、比較的少ない投資で始められる対策も多くあります。
インシデント対応は障害や攻撃に対処するプロセスであり、その有効性がレジリエンスの高さに直結するため、密接に関連しています。
指標や改善状況を定期的に可視化し、経営層や関係部門に共有することで、継続的な投資と協力体制を維持しやすくなります。