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SQDCとは? わかりやすく10分で解説

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目次

はじめに

製造業の現場では、「いま工場がうまく回っているか」を感覚ではなく、共通の物差しで見られる状態が大切です。そのときによく使われる考え方が、SQDCです。SQDCは、Safety(安全)Quality(品質)Delivery(納期)Cost(コスト)の4つの観点で、現場の状態と成果を整理します。

ただし、SQDCは「数字を並べるための枠」ではありません。数字を手がかりに、何が起きているかを説明できる次に何を優先して手を打つかを決められる、そして改善が続く状態を作るための道具です。

この記事では、SQDCの基本(意味・優先順位・関係性)を押さえたうえで、指標の考え方、分析・見える化の進め方、導入・運用のポイント、つまずきやすい課題と対策までを整理します。読み終えたときに、「自社の現場で、どの指標をどこまで見ればよいか」「どう回せば形になるか」を判断できる状態を目指します。

SQDCとは?

SQDCとは、製造現場の活動を4つの観点で整理する考え方です。

  • S(Safety:安全):人のけが・事故を防ぎ、安心して働ける状態を守る
  • Q(Quality:品質):不良やばらつきを減らし、要求品質を安定して満たす
  • D(Delivery:納期):約束した期日・数量で供給できる状態を作る
  • C(Cost:コスト):ムダやロスを減らし、利益を確保できる原価構造にする

この4つは独立しているように見えて、実際は強くつながっています。たとえば不良が増えると、手直しや再製作でコストが増え、納期も乱れます。安全が不安定だと、停止や人員不足が起きやすくなり、品質や納期にも影響します。だからこそ、SQDCはどれか1つだけを見ればよいという話ではなく、全体のバランスを見ながら運用する必要があります。

SQDCの順序(優先順位)

現場でよく言われるのは、安全が最優先という考え方です。事故が起きれば、人に取り返しがつかないだけでなく、操業停止・信頼低下・採用難など、事業そのものに大きな影響が出ます。そのため、実務では「S→Q→D→C」の順で優先度を置く運用が一般的です。

ここで注意したいのは、「安全が最優先=コストは見なくてよい」ではない点です。安全を守ったうえで、品質を安定させ、納期を守り、コストを適正化する――この順番で矛盾しない運用を作ることが、SQDCを使う意味です。

SQDCのメリット

SQDCを使う最大のメリットは、現場の状態を「共通言語」にできることです。部門や職種が違っても、同じ枠で話せるようになります。

  • 問題の早期発見:事故の兆候、不良の増加、遅延の前兆、コスト悪化などを数字で捉えやすい
  • 優先順位が決まる:いま最優先で手を打つべき領域(S/Q/D/C)を選びやすい
  • 改善が続く:改善前後の差が見え、やったことが“効いたかどうか”を判断できる
  • 説明できる:現場→管理職→経営層まで、同じ指標で状況を説明しやすい

SQDCによる可視化が重要な理由

SQDCは「測って終わり」にすると意味が薄くなります。重要なのは、見える化して、行動につなげることです。

たとえば、単に「不良率が2%」と出しても、現場は動きにくいことがあります。どの工程で増えたのか、どの不良が多いのか、再発なのか新規なのか、いつから悪化したのか――こうした情報が揃って初めて、改善の打ち手が決まります。可視化は、行動のために行います。

SQDCの指標と分析

ここでは、SQDCの4領域それぞれで「何を指標にしやすいか」「どう分析すると次の行動につながるか」を整理します。大事なのは、指標を増やしすぎず、現場が見て動ける単位にすることです。

安全(Safety)の指標

安全は「事故が起きていない」だけでは評価しにくい領域です。だから、結果指標(事故件数など)だけでなく、兆候や行動を表す指標もセットで持つと運用が安定します。

  • 結果指標の例:休業災害件数、度数率・強度率、労災件数、設備停止につながる重大ヒヤリの件数
  • 予防指標の例:ヒヤリハット報告件数、危険箇所の是正件数、安全パトロール実施率、保護具着用率、KY(危険予知)実施率

見える化は、「事故ゼロ」だけでなく「兆候の増減」がわかる形にします。たとえば、週次でヒヤリハット件数と是正完了率を並べると、「報告は増えたが是正が追いついていない」などの状態が見えます。

運用のコツは、月次の報告会だけで終わらせず、日次・週次で短く回すことです。安全は“毎日”の積み重ねで決まるため、共有の頻度がそのまま強さになります。

品質(Quality)の指標

品質は「どんな不良が、どこで、なぜ起きたか」を追える形にすると、改善が回ります。結果として、納期とコストにも効きます。

  • 基本指標の例:不良率、歩留まり、直行率、手直し率、返品・クレーム件数、工程内不良の検出率
  • 深掘りの例:不良の種類別件数(パレート)、工程別の発生比率、ロット・設備・作業者・時間帯との関係

見える化の定番は、パレート図工程別の推移です。たとえば「不良率が上がった」より、「A不良が工程2で増えた」のほうが、次の行動(条件変更・治具点検・教育)に直結します。

品質会議は大切ですが、会議そのものが目的にならないように、“次に何をやるか”が毎回決まる形にします。議事録の代わりに「不良トップ3/原因仮説/次アクション/期限/担当」を固定で残すだけでも、改善の定着度が変わります。

納期(Delivery)の指標

納期は「遅れた/遅れていない」だけでは改善につながりにくい領域です。遅れの原因は、前工程の不良、段取りの増加、部材欠品、設備停止、計画の過密など、複合になりやすいからです。

  • 基本指標の例:納期遵守率(OTD)、出荷遅延率、リードタイム、仕掛滞留日数、計画達成率
  • 補助指標の例:欠品件数、段取り替え回数、設備稼働率、異常停止時間、再計画の回数

見える化としては、ガントチャートや工程別の進捗ボードが有効です。ただし、細かいガントを作り込むほど、更新負荷が増えて形骸化しやすいです。まずは「遅れの兆候が出たときに気づける」粒度(工程別の遅れ、滞留、欠品)から始めると現実的です。

日次の朝会や立ち会いは、ただの読み合わせで終わることがあります。運用を効かせるには、“遅れの芽”をその場で潰す(優先順位の入れ替え、応援投入、段取り調整)までやることがポイントです。

コスト(Cost)の指標

コストは、製造現場が「利益」につながっているかを見える形にする領域です。ここで注意したいのは、コスト削減が安全や品質を壊す方向に働くと、結果的に全体が悪化する点です。コストは、SQDを守ったうえで改善します。

  • 基本指標の例:原価率、製造原価(材料費・労務費・製造間接費)、不良・手直しコスト、スクラップ費、エネルギーコスト
  • 運用指標の例:予実差(計画と実績の差)、ロス時間、稼働率、段取り時間、残業時間

見える化は、予実差ロスの内訳が基本です。たとえば「コストが上がった」ではなく、「手直し工数が増えた」「スクラップが増えた」「段取り替えが増えた」と分解できると、次の行動が決まります。

コストを共有するときは、数字を“詰める材料”にしないことも重要です。現場が数字を隠し始めると、改善が止まります。悪化を早く出せたことを評価する運用にすると、データが育ちやすくなります。

SQDCの導入と実践

SQDCは、導入の仕方で成否が決まりやすいテーマです。最初から完璧な指標体系を作ろうとすると、運用負荷が高くなり、定着前に止まりがちです。ここでは、現場で回りやすい進め方を整理します。

導入のステップ

導入は大きく4段階で考えると整理しやすいです。

  1. 現状の把握:事故・不良・遅延・ロスが「どこで起きているか」を事実として集める
  2. 指標の決定:S/Q/D/Cごとに、まずは“最小限”の指標を決める(増やすのは後から)
  3. 見える化の形を決める:誰が、いつ、どこで見るのかを決める(紙・ホワイトボードでもよい)
  4. 改善の回し方を決める:会議体ではなく、日次・週次で「見る→決める→動く」を回す

ここでのポイントは、「指標」よりも運用です。指標が正しくても、見られなければ意味がありません。逆に、指標が少し粗くても、毎週改善が回るなら価値があります。

SQDCによる改善活動(PDCAの回し方)

改善活動の基本は、SQDCの数値を“結果”として眺めるのではなく、原因を分解して打ち手に落とすことです。

  • Plan:悪化している指標を選び、原因仮説を立て、対策を決める
  • Do:対策を実行し、実行した事実(いつ・どこで・何を)を残す
  • Check:指標がどう変化したか、変化しないなら何が違うかを確認する
  • Act:対策を標準化するか、別案に切り替える

特に大事なのは、Checkを「会議の感想」で終わらせないことです。数字で効いたかどうかを見ます。効かなかった場合も「やり方が悪かった」のではなく、「原因仮説が違った」「条件が違った」など、次の学びに変えると改善が続きます。

SQDCによるパフォーマンス管理

SQDCは、現場の“働きぶり”を評価する枠としても使われます。ただし、人の評価に直結させすぎると、数字が歪みやすくなります。まずは、現場と管理職が同じ数字を見て、事実にもとづいて会話できる状態を作ることが先です。

運用の基本は、次の4つです。

  • 目標設定:S/Q/D/Cごとに、達成したい状態を短く言語化し、数字の目標を置く
  • 進捗把握:日次・週次で、現場が自分たちで見える形にする
  • 評価:結果だけでなく、改善の実行度(やり切ったか)も見る
  • フィードバック:次のアクションが決まる形で返す(叱責ではなく、次の改善へ)

SQDCを運用するポイント

定着させるには、次の3点が効きます。

  • 指標を増やしすぎない:最初は各領域2〜3個程度でもよい。回り始めてから増やす
  • 会議を増やさない:会議ではなく、日次・週次の短いリズムで回す
  • 経営の関与を“支援”にする:現場を責める場ではなく、障害を取り除く支援に使う

特に「経営陣のリーダーシップ」は重要ですが、前に出すほど現場が萎縮するケースもあります。最初は、現場が数字を正直に出せるように、悪化を出したことを評価する姿勢があると、データが育ちます。

SQDCの課題と対策

運用が難しくなる典型パターン

SQDCがうまく回らない原因は、指標そのものより「運用のズレ」で起きることが多いです。代表的なパターンは次の通りです。

  • 指標が多すぎる:集計・更新が追いつかず、見える化が止まる
  • 数字が“報告のため”になる:現場が動くための材料にならず、会議のための資料になる
  • 責任追及の道具になる:数字が悪いと叱責されるため、隠す・小さく見せる方向に働く
  • 部門最適でぶつかる:コストだけを見ると品質が落ちるなど、S/Q/D/C間の矛盾が出る

対策はシンプルで、「見える化→次の打ち手」が毎回つながる運用に戻すことです。指標を絞り、短い周期で、次アクションを決めていきます。

データ収集と分析の負荷

特に小規模の製造業では、専任の分析担当がいないことも多く、データ収集・分析が負荷になりがちです。ここで無理をすると止まります。

現実的な打ち手は次の通りです。

  • まずは“手で取れる”指標から:日報や検査記録、出荷記録など、既存データで回す
  • 頻度を分ける:日次で見るもの、週次で見るもの、月次で見るものを分ける
  • 粒度を揃える:部門ごとに定義が違うと比較できないので、定義を固定する

集計は「正確さ100点」より「継続して80点」が勝ちます。続く形にしてから精度を上げるほうが、結果として強い運用になります。

SQDCを上手に回すコツ

コツは、SQDCを“文化”にするのではなく、まず“習慣”にすることです。習慣は、短く・小さく始めると作りやすいです。

  • 週次でトップ1テーマだけ改善:いま一番痛いところに集中する
  • 改善の記録を短く固定する:「何を/いつまでに/誰が」だけでも残す
  • 成功より“再現”を重視:うまくいったら標準化し、同じ失敗を減らす

成功事例から学べる要点

うまくいく組織に共通しやすいのは、次の3点です。

  • 全員が同じ定義で数字を見る:指標の意味が揃っている
  • 数字を出しても責められない:悪化の報告が早く、対策も早い
  • 改善が標準化される:属人化せず、やり方が残る

SQDCは派手な施策ではありませんが、地道に回ると確実に現場の強さになります。

SQDCの今後

デジタル化で“見える化”が現実的になる

近年は、設備データや検査データ、出荷データなどが取りやすくなり、SQDCの見える化は以前より現実的になっています。紙で回していた現場も、段階的にデータ化することで、集計の手間を減らし、判断の速度を上げやすくなります。

ただし、システム導入が先行すると「入力が増えて現場が疲れる」ことも起きます。デジタル化は目的ではなく、意思決定を速くするために使います。

データ分析とAIの活用(やりすぎない)

データ分析やAIは、異常の兆候検知(不良の予兆、設備停止の予兆、安全上のリスク兆候)などで効果が出ることがあります。一方で、土台となるデータ定義が揃っていないと、分析結果が使いにくくなります。

現実的には、まずはSQDCの基本指標が継続して取れている状態を作り、そのうえで「品質の予兆」「設備停止の前兆」など、狙いを絞って活用していくのが安全です。

持続可能性との接続(無理なく広げる)

近年は、安全や品質に加えて、エネルギー効率や廃棄ロス削減など、持続可能性の観点も重要になっています。ただし、SQDCの枠に一度に詰め込みすぎると運用が重くなります。

まずは、コストの内訳として「エネルギー」「廃棄ロス」を見える化するなど、今ある枠の中で扱える形から始めると、運用を壊さずに広げられます。

まとめ

SQDCは、製造現場を安全(S)・品質(Q)・納期(D)・コスト(C)の4つの観点で捉え、共通言語として運用するための枠組みです。特に実務では「安全が最優先」という前提のもと、S→Q→D→Cの順で矛盾しない運用を作ることが重要になります。

SQDCの価値は、数字を作ることではなく、見える化して行動につなげることにあります。指標は増やしすぎず、日次・週次の短い周期で「見る→決める→動く」を回すと、改善が定着しやすくなります。

導入時は、現状把握→最小限の指標→見える化→改善サイクルの順で進め、続く形を作ってから精度や範囲を広げていくのが現実的です。SQDCを“続く習慣”として回せるようになると、現場の競争力は着実に上がっていきます。

Q.SQDCとは何ですか?

製造現場を安全・品質・納期・コストの4観点で整理し、管理と改善に使う枠組みです。

Q.SQDCはなぜ安全(S)が最初なのですか?

事故は人と事業の両方に重大な影響を与えるため、他の指標より優先して守る前提になるからです。

Q.SQDCの指標は最初から多く用意すべきですか?

いいえ。最初は各領域2〜3個程度に絞り、運用が回ってから必要に応じて増やす方が定着します。

Q.品質が悪化すると他の指標にも影響しますか?

はい。不良や手直しが増えるとコストが上がり、工程が詰まって納期も乱れやすくなります。

Q.納期の見える化でよく使われる指標は何ですか?

納期遵守率、出荷遅延率、リードタイム、仕掛滞留日数、計画達成率などがよく使われます。

Q.コストの見える化は何から始めるのがよいですか?

予実差とロスの内訳(不良・手直し・スクラップ・停止など)を分解して把握するところから始めます。

Q.SQDCが形骸化する原因は何ですか?

指標が多すぎる、報告のための数字になる、責任追及の道具になる、などの運用のズレが主な原因です。

Q.小規模の工場でもSQDCは運用できますか?

できます。既存の記録で取れる最小限の指標から始め、日次・週次の短い周期で回すと続きやすいです。

Q.SQDCの会議はどれくらいの頻度がよいですか?

日次は短く進捗と優先順位を確認し、週次で改善テーマを決め、月次で傾向と方針を振り返る形が回しやすいです。

Q.AIやデータ分析はSQDCに役立ちますか?

役立ちますが、まず指標の定義とデータ収集が安定していることが前提です。狙いを絞って段階的に導入します。

記事を書いた人

ソリトンシステムズ・マーケティングチーム