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複数のPCやサーバー、プリンターなどをネットワークでつなぐとき、ただ「つながればよい」という段階から、通信速度や安定性、セキュリティまで含めて設計を考える段階に移っている企業が増えています。そうした環境づくりの中心的な役割を担うのがスイッチングハブです。この記事では、スイッチングハブの基本的な仕組みから、ハブとの違い、選び方、ネットワーク設計での活用方法までを、はじめて担当する方でもイメージしやすいように解説します。
スイッチングハブは、ネットワーク上の各機器を接続し、データの送受信を制御する装置です。LANケーブルを差し込むことでPCやサーバー、IP電話、プリンターなどを同じネットワーク上に参加させ、次のような役割を担います。
特に、近年のスイッチングハブは単なる「分配器」ではなく、トラフィックの制御や優先度設定、ネットワーク分割(VLAN)など、運用管理の観点からも重要な機能を担う機器として位置づけられています。
一般に、業務用のスイッチングハブは「ネットワークスイッチ」とも呼ばれます。ネットワークスイッチは、接続された機器のMACアドレスを学習し、適切なポートだけにデータを転送します。これにより、不要なポートにフレームを流さずに済み、効率的なデータ通信が実現されます。
ネットワークスイッチは、以下のような動きをします。
このように、スイッチは単純に信号を全体に拡散するのではなく、「誰から誰へ」を意識した賢い中継器として働きます。
スイッチングハブと旧来の「ハブ」は、ともにネットワーク機器を接続する装置ですが、仕組みが異なり、性能やネットワークへの影響にも大きな差があります。
| スイッチングハブ | ハブ |
|---|---|
| MACアドレスを使用して必要なポートにだけデータを転送 | 受信したデータを全ポートへ一斉に転送 |
| フルデュプレックス通信により高速なデータ転送が可能 | コリジョンドメインが共有され、データ衝突が発生しやすい |
| ポートごとに帯域を分けられ、ネットワークの負荷を分散 | 帯域を共有するため、通信が集中すると速度低下を招きやすい |
現在の企業ネットワークでは、ほぼ例外なくスイッチングハブ(ネットワークスイッチ)が使われており、従来型のハブが選ばれることは少なくなっています。
スイッチングハブの性能を引き出すには、適切なLANケーブルを選ぶことも重要です。主なカテゴリと目安となる通信速度は以下の通りです。
社内ネットワークをギガビット化するのであれば、少なくともCAT5e以上、今後10Gbpsなどの高速化も視野に入れるのであればCAT6以上を選ぶとよいでしょう。スイッチングハブとLANケーブルの両方を適切に選ぶことで、安定した高速通信を実現しやすくなります。
スイッチングハブは、ネットワーク上のデータ通信を効率的に行うための重要な機器です。ここでは、スイッチングハブの基本構造や仕組み、代表的な機能について整理します。
スイッチングハブは、複数のポートを持つ装置です。各ポートには、PCやサーバー、プリンタ、無線LANアクセスポイントなどがLANケーブルで接続されます。内部には、次のような主要コンポーネントが備わっています。
これらのコンポーネントが連携することで、ネットワーク上のトラフィックを効率よく捌き、安定した通信を支えています。
スイッチングハブは、MACアドレスを使用してデータ(フレーム)を適切なポートに転送します。MACアドレスはネットワーク機器ごとに固有の識別番号で、スイッチはこれを手がかりに「どのポートにどの機器がぶら下がっているか」を学習していきます。
典型的な処理の流れは次のようになります。
この仕組みにより、不要なトラフィックの拡散が抑えられ、ネットワーク全体の効率が高まります。
多くのスイッチングハブは、ストアアンドフォワード方式でデータを転送します。この方式では、スイッチが受信したフレームをいったんバッファメモリに保存(ストア)し、エラーチェックを行ったうえで宛先ポートに転送(フォワード)します。
主な特徴は以下の通りです。
一部には、受信しながらすぐに転送を開始する「カットスルー方式」を採用したスイッチもありますが、企業向けネットワークでは信頼性や品質を重視してストアアンドフォワード方式が広く利用されています。
多くの業務用スイッチングハブは、VLAN(Virtual LAN)機能を備えています。VLANを利用すると、物理的には同じスイッチに接続されていても、論理的に独立した複数のネットワークを構築できます。
VLANを活用することで、次のようなメリットが得られます。
このようなスイッチングハブの仕組みと機能により、ネットワーク上のデータ通信が効率化され、安定したネットワーク環境が構築されます。企業ネットワークの運用・管理において、スイッチングハブはまさに基盤となる存在といえるでしょう。
スイッチングハブは、企業のネットワーク環境を構築するうえで重要な要素です。ここでは、導入時に押さえておきたいチェックポイントと、予算感に応じた選定イメージを紹介します。
スイッチングハブを選ぶ際は、次のようなポイントに注目すると検討がしやすくなります。
とくに、管理機能の有無(アンマネージドスイッチか、スマートスイッチ/フルマネージドスイッチか)は、運用のしやすさに大きく関わります。小規模構成でも、将来的にVLANやトラフィック制御を行う可能性がある場合は、初期段階から管理機能付きのモデルを選んでおくと安心です。
ポート数は、現状の接続台数だけでなく、今後数年の増加を見込んで少し余裕を持たせておくと、増設の手間を減らせます。一般的なオフィスであれば、フロアごとに24ポートまたは48ポートのスイッチを設置するケースが多く見られます。将来的な拡張も考慮し、常に数ポート分の空きを残せる構成にしておくことが賢明です。
転送速度については、ギガビットイーサネット(1000Mbps)対応はもはや標準と考えてよいでしょう。サーバーやストレージとの接続、コアスイッチ間の接続など、特に帯域が必要な箇所では10ギガビットイーサネット対応ポートを備えたモデルを用意しておくと、将来のボトルネックを避けやすくなります。
ネットワークの運用・管理を効率化するうえで、スイッチングハブの管理機能は非常に重要です。代表的な機能は次の通りです。
こうした管理機能を備えたスイッチングハブを選ぶことで、障害時の切り分けや、トラフィックの最適化、セキュリティ強化など、日々の運用負荷を大きく下げられます。
具体的な機種名は環境によって異なりますが、予算感に応じたモデルイメージは次のように整理できます。
| 予算 | モデルのイメージ |
|---|---|
| 5万円以下 | エントリーモデル(8〜24ポート、ギガビット対応、アンマネージドまたは簡易管理機能付き) |
| 5万円~10万円 | ミッドレンジモデル(24〜48ポート、ギガビット対応、VLAN・QoSなどの管理機能付き) |
| 10万円以上 | ハイエンドモデル(48ポート以上、10ギガビットアップリンク対応、高度な管理・冗長機能付き) |
価格だけで判断するのではなく、「いま必要な機能」と「あった方がよい将来機能」を整理したうえで、長期的な運用コストも含めて比較検討するとよいでしょう。
スイッチングハブは、企業ネットワークの構成要素として単体で考えるのではなく、「全体のアーキテクチャの中でどの役割を担わせるか」という視点で設計すると効果的です。ここでは、ネットワーク設計の際に押さえておきたいポイントと代表的な機能の設定イメージを紹介します。
効率的なネットワーク環境を構築するには、スイッチングハブの選定だけでなく、どこにどのクラスのスイッチを配置するかも重要です。代表的な考え方としては以下のようなものがあります。
このような階層構造を意識しながら、ネットワークの要件に適したスイッチングハブを選定・配置することが、安定したネットワーク環境の構築につながります。
冗長構成にしたネットワークでは、ケーブル配線の仕方によってはループが発生し、ブロードキャストストームによる通信障害を招くおそれがあります。スイッチングハブのループ防止機能を正しく設定することで、これらの問題を未然に防ぐことができます。
代表的な仕組みとして、STP(Spanning Tree Protocol)やRSTP、MSTP といったプロトコルがあります。基本的な考え方は以下の通りです。
ループ防止機能を有効化しておくことで、冗長化による可用性向上と、ループ障害の回避を両立できます。設定方法や細かなパラメータはメーカーや機種によって異なるため、実際の設定時には製品のマニュアルを確認しながら進めることが大切です。
VLANを活用すると、1台のスイッチを複数の論理ネットワークとして扱えるようになります。たとえば、同じフロアにある「営業部」「総務部」「来訪者用Wi-Fi」を、それぞれ別のVLANに分離するといった利用が一般的です。
VLAN設計と設定の基本的な流れは次の通りです。
これにより、部門ごとのネットワーク分割や、来訪者用ネットワークの分離などが可能になり、セキュリティと運用性の両面でメリットを得られます。
PoE(Power over Ethernet)対応のスイッチングハブを使用すると、LANケーブル1本でデータ通信と電力供給を同時に行えます。IPカメラや無線アクセスポイント、IP電話などを設置する際に、コンセントの位置に縛られずに機器を配置できる点が大きな利点です。
PoEを活用する際のポイントは以下の通りです。
PoE対応スイッチを導入することで、電源工事を減らしつつ、ネットワーク機器の一元管理がしやすくなります。監視カメラやアクセスポイントの設置台数が多い環境では、PoEの有無が運用コストと柔軟性に大きく影響します。
スイッチングハブは、ネットワーク上のデータ通信を効率化し、安定したネットワーク環境を構築するために欠かせない機器です。MACアドレスを用いて適切なポートにデータを転送し、ストアアンドフォワード方式などで信頼性を高めます。VLANによるネットワーク分割やPoEによる電力供給といった機能を組み合わせることで、セキュリティや運用性も向上させることができます。
導入にあたっては、ポート数や転送速度、管理機能、PoE対応の有無などを比較検討し、自社のネットワーク要件に合ったスイッチングハブを選ぶことが重要です。また、ループ防止機能や冗長構成を適切に設計することで、障害に強いネットワークを実現できます。
ネットワークの規模が大きくなるほど、スイッチングハブの選定と設計がシステム全体のパフォーマンスや安定性に直結します。本記事の内容を参考に、自社の現状と将来像を踏まえたスイッチングハブ選びとネットワーク設計を進めてみてください。
スイッチングハブはMACアドレスを見て必要なポートだけにデータを転送しますが、ハブはすべてのポートに一斉送信する点が大きな違いです。
あります。少数の接続であっても、スイッチングハブを使うことで通信品質が安定し、将来の拡張や機器増設にも柔軟に対応しやすくなります。
ギガビット通信を前提とするならCAT5e以上、将来10Gbpsなどの高速化も視野に入れるならCAT6以上を選ぶのが一般的な目安です。
VLANやトラフィック制御が不要なごく小規模環境なら管理なしでも構いませんが、部門分割や監視が必要な場合は管理機能付きスイッチを選ぶべきです。
現在の接続台数に対して、少なくとも数ポート以上の空きを確保できるモデルを選ぶと、将来の増設や一時的な接続にも柔軟に対応できます。
必須ではありませんが、部門ごとの分離や来訪者用ネットワークの分割などが必要な場合は、VLANを設定した方がセキュリティと管理性の面で有利です。
ループが発生するとブロードキャストストームなどでネットワーク全体が麻痺する恐れがあるため、STPなどのループ防止機能で冗長構成と安定運用を両立させることが重要です。
IPカメラや無線LANアクセスポイント、IP電話などを多数設置する場面で有効で、電源工事を減らしつつ柔軟な設置が可能になります。
サーバーやストレージとの大容量通信が多い場合や、コアネットワークが混雑している場合には10GbE対応スイッチの導入を検討する価値があります。
故障や性能不足が見えてきたときに加え、回線やサーバーの高速化、PoEやVLANなど新しい機能が必要になったタイミングが買い替えの目安になります。