事業やキャリアの意思決定で迷うとき、状況を「言語化して並べる」だけで、次の一手が驚くほど見えやすくなることがあります。SWOT分析は、強み・弱みといった内部要因に加え、機会・脅威という外部要因を同じ枠で整理し、戦略の方向性を考えるための代表的なフレームワークです。本記事では、SWOT分析の定義から手順、ありがちな落とし穴、他フレームワークとの使い分けまでを整理し、実務で「使える形」に落とし込みます。
SWOT分析とは、組織や個人の現状を整理し、次に取るべき方針や打ち手を検討するためのフレームワークです。Strengths(強み)、Weaknesses(弱み)、Opportunities(機会)、Threats(脅威)の4要素で構成され、内部要因(強み・弱み)と外部要因(機会・脅威)を分けて考えるのが特徴です。4象限に書き出して可視化することで、課題の見落としを減らし、意思決定の論点を揃えやすくなります。

SWOT分析は、「自分(自社)の内部要因である強み・弱みを整理し、外部環境の機会・脅威を評価したうえで、戦略の方向性を検討する手法」です。一般的には、4つの要素をマトリックスに記入して可視化し、状況を俯瞰しながら、どこに注力するべきかを判断します。
ポイントは、強み・弱み=自分で比較的コントロールできること、機会・脅威=自分ではコントロールしにくい外部の変化として分けることです。たとえば「技術力が高い」は強みになりやすい一方、「市場が伸びている」「競合が参入してきた」は外部要因なので機会・脅威として扱います。
SWOT分析は、20世紀後半に経営戦略の分野で広く用いられるようになった枠組みで、企業の戦略立案や事業評価の現場で定着してきました。背景には、「内部の実力(強み・弱み)」と「外部環境の変化(機会・脅威)」を一度に整理しないと、戦略が“理想論”か“場当たり”に寄りやすいという実務上の課題があります。
現在では、企業の事業戦略・製品戦略だけでなく、プロジェクト計画、営業戦略、採用・人材育成、さらには個人のキャリア設計など、幅広い場面で使われています。
SWOT分析は、4つの視点で状況を整理します。重要なのは、「良い/悪い」で雑に分類せず、内部要因と外部要因を混ぜないことです。各要素の考え方を押さえたうえで、自社(自分)の状況に合わせて具体的に書き出していきます。
強みとは、競合や他者と比べて優位になり得る内部要因です。たとえば、ブランドの信頼、顧客基盤、技術やノウハウ、特許・独自データ、供給網、提案力、運用体制などが該当します。
洗い出す際は、「自分たちが得意だと思うこと」だけでなく、顧客が評価している点や数字で確認できる優位性(継続率、解約率、粗利、平均単価、リード獲得効率など)も材料にすると、主観に寄りにくくなります。
弱みとは、改善が必要な内部要因、または競合と比べて不利になり得る要素です。人材不足、属人化、認知不足、コスト構造、品質ばらつき、開発スピード、サポート体制、意思決定の遅さなどが典型例です。
弱みは「恥ずかしいこと」ではなく、対策の優先順位を決めるための材料です。弱みを曖昧にしたまま戦略を立てると、実行段階でつまずきやすくなります。
機会とは、外部環境における追い風となる変化や状況です。市場拡大、顧客ニーズの変化、新技術の普及、法制度の改正、社会的トレンド、競合の撤退・弱体化などが含まれます。
機会は「良い話」だけではありません。たとえば規制強化は、守る側から見ると負担ですが、要件対応ができる企業にとっては差別化の機会にもなり得ます。機会は、誰にとっての機会かを明確にすると扱いやすくなります。
脅威とは、外部環境がもたらす逆風やリスクです。競合参入、価格競争、代替技術の台頭、市場縮小、景気変動、サプライチェーン不安、法規制の厳格化、炎上・評判リスクなどが該当します。
脅威を挙げるときは、「怖いこと」を並べるだけで終わらせず、起きた場合の影響と起きる確率を分けて考えると、対策の優先順位が決めやすくなります。
SWOT分析は、短時間で全体像を掴める一方で、やり方を誤ると「それっぽい表」だけが残ってしまうことがあります。メリットとデメリットを理解したうえで、運用の工夫で弱点を補うことが重要です。
SWOT分析の最大のメリットは、論点を4象限に揃え、関係者間の認識を合わせやすいことです。内部・外部の両面を同じ枠に整理するため、見落としや偏りが減り、議論の土台が作りやすくなります。
また、強み・弱み・機会・脅威を並べることで、「どこが伸びしろで、何が足かせか」が見えやすくなります。特に、複数人でのワークショップ形式にすると、部門ごとの情報が集まり、状況認識のズレが早い段階で表面化します。
一方で、SWOT分析には次のような注意点があります。
これらの弱点は、たとえば「根拠(データ・事実)を添える」「影響×確率で簡易スコアを付ける」「外部視点(顧客・営業・パートナー)を入れる」「後段でクロスSWOTに落とす」といった工夫で補えます。
SWOT分析は、4つの要素を洗い出すところで止まりがちですが、本来の価値は「次のアクションにつなげる」点にあります。ここでは、洗い出しから戦略化までを一連の流れとして説明します。
基本の進行は次のステップです。なお、実務では「強み・弱み(内部)」から始めるケースもあれば、「機会・脅威(外部)」を先に押さえるケースもあります。重要なのは、内部と外部を混ぜず、同じ基準で整理することです。
洗い出しの段階では、まず量を出し、その後に「根拠があるか」「重複していないか」「言い換えでないか」を整えると、議論が締まります。さらに、各項目に「根拠(事実・データ・観察)」を1行添えるだけでも、主観の混入を抑えやすくなります。
例として、カフェの新規出店を想定します。SWOTの洗い出しは次のように書けます。
| 強み | 特殊な豆の取り揃え/経験豊富なバリスタ/居心地の良い内装 |
|---|---|
| 弱み | 人通りが少ない立地/人件費が高い/オペレーションが属人化しやすい |
| 機会 | 近隣にオフィスビルが建設予定/テイクアウト需要が拡大/地域イベントが増加 |
| 脅威 | 大手チェーンの出店予定/原材料価格の高騰/SNSでの評判リスク |
ここで終わるのではなく、次に「クロスSWOT」で戦略の方向性に落とします。
この段階まで進めると、SWOT分析が「表」ではなく「行動のタネ」になります。
SWOT分析は、何かを決めたい場面で特に役立ちます。重要なのは、分析の目的(何を決めるのか)を最初に固定することです。目的が曖昧だと、項目が増えるだけで結論が出にくくなります。
SWOT分析は、新規事業や製品投入、価格改定、ターゲット変更、販路拡大など、戦略の選択肢を比較したいときに有効です。強みと弱みを棚卸しし、外部の機会と脅威を踏まえて、どの勝ち筋に張るべきかを整理できます。
たとえば新商品を企画する場合、「強み=独自機能」「機会=市場の伸び」「脅威=模倣されやすい」といった整理ができれば、差別化軸を機能だけに置かず、運用支援や導入体験など別の価値へ広げる検討がしやすくなります。
SWOT分析は、個人のキャリア設計にも応用できます。自分の強み(経験、スキル、実績、周囲からの評価)と弱み(不足領域、苦手、実務経験の穴)を整理し、外部の機会(成長市場、資格需要、社内異動、採用動向)と脅威(自動化、競争激化、スキル陳腐化)を踏まえて、学習計画や転職・異動の判断材料にできます。
このとき、弱みを「欠点」として扱うのではなく、機会と接続して「次の伸びしろ」として捉えると、行動計画に落とし込みやすくなります。
SWOT分析は万能ではありません。外部環境を深掘りしたいのか、競争構造を分解したいのかなど、目的に応じて他のフレームワークと組み合わせると、分析の解像度が上がります。
PEST分析は、マクロ環境を政治・経済・社会・技術の4観点で整理する手法です。SWOTが「自社(自分)起点で内部と外部を並べる」のに対し、PESTは「外部環境を広く洗い出す」ことに向いています。
実務では、まずPESTで外部要因を広く集め、その中から自社に影響が大きいものをSWOTの「機会・脅威」に落とすと、外部要因の抜け漏れが減りやすくなります。
Porter’s Five Forcesは、特定の業界や市場の競争状況を「5つの力」で分解するフレームワークです。SWOTが自社の内部要因を含めて整理するのに対し、Five Forcesは競争の圧力がどこから来るかを構造的に捉えるのが得意です。
競合状況や代替品、参入障壁などを深掘りしたい場合はFive Forcesを先に使い、そこで見えた圧力をSWOTの「脅威」や「機会」に反映すると、戦略検討が具体化しやすくなります。
SWOT分析は、状況を整理するだけでなく、戦略と行動に落とし込んで初めて価値が出ます。最後に、実務で成果につなげるための要点を整理します。
最初に、対象を明確に定義します。分析対象は、会社全体なのか、特定事業なのか、製品なのか、あるいは個人なのかで、項目の粒度が変わります。
次に、複数の視点を入れて洗い出すことが重要です。営業・サポート・開発・企画など、立場が違うほど見えている現実が違います。可能なら顧客の声や定量データも入れ、主観の偏りを抑えます。
最後に、クロスSWOTで戦略案を作り、優先順位を決めることです。SWOTは意思決定の材料であり、眺めるだけでは成果につながりません。影響の大きさ、実行可能性、期限(いつまでに)をセットで決めると、実行に移しやすくなります。
SWOT分析で特に重要なのは、次の3点です。
SWOT分析はシンプルだからこそ、運用次第で効き方が変わります。目的を決め、根拠を揃え、クロスSWOTで行動に落とす。この流れを押さえることで、SWOT分析は“考えたつもり”を防ぐ実務ツールになります。
強み・弱み・機会・脅威の4要素で状況を整理し、戦略の方向性を検討するフレームワークです。
強みと弱みは内部要因、機会と脅威は外部要因を指します。
事業戦略、製品企画、プロジェクト方針、自己分析やキャリア設計など意思決定が必要な場面で役立ちます。
強みは自分側の内部要因、機会は外部環境の追い風となる変化です。
弱みは内部の改善点、脅威は外部環境がもたらす逆風やリスクです。
クロスSWOTで戦略案に落とし込み、影響と実行可能性で優先順位を決めて行動計画にします。
重要度が表に出にくく、主観に寄りやすい点が欠点です。
データや事実を根拠として添え、複数部門や外部視点を入れて整理します。
外部環境や競争構造を深掘りしたい場合は併用するのが有効です。
事業環境や前提が変わったタイミングで更新し、少なくとも定期的に見直します。