近年、柔軟な働き方を実現する方法としてテレワークが普及しました。さまざまな業界・業種で導入が進み、現在もテレワークを継続している企業・従業員も少なくありません。
本記事では、これからテレワークを導入・拡大したい企業や、テレワークの基本を整理したい方に向けて、テレワークの概要、種類・形態、メリット・デメリット、導入の流れとポイント、活用できる補助金・助成金の考え方を解説します。
テレワークとは、tele(離れたところ)とwork(働く)を合わせた造語であり、ICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)を活用して、場所や時間にとらわれずに働く形態を指します。従来はオフィスに出社して働くことが一般的でしたが、インターネットやクラウド、業務アプリの普及により、オフィス以外の場所でも業務を進められるようになりました。
テレワークを適切に設計・運用できれば、業務効率化や生産性向上に加え、育児・介護などで出社が難しい人でも働き続けられる環境づくりにつながります。
「リモートワーク」はオフィス以外の場所で働くことを指す一般的な言い方で、明確な定義がないケースが多い言葉です。一方「テレワーク」は、ICTの活用を前提とした働き方として説明されることが多く、公的機関や大企業の文脈で用いられやすい傾向があります。
実務上はほぼ同義で扱われることが多いものの、社内規程・制度設計では「テレワーク」を用いた方が、ICT活用・勤務管理・情報セキュリティなどの要件を整理しやすい場合があります。
テレワークは「どこで働くか」「どれくらいの頻度で行うか」によって、いくつかの形に分けて考えると整理しやすくなります。
自宅で業務を行う形態です。通勤時間を削減でき、時間の有効活用や負担軽減が期待できます。育児・介護などで出社が難しい人が継続して働ける点もメリットです。一方で、自宅のネットワーク環境・作業環境の整備、情報漏えい対策が重要になります。
サテライトオフィスは企業が別途用意するオフィススペース、コワーキングスペースは外部に公開されたワークスペースを指します。自宅では集中しづらい場合や、通勤負担を下げつつ対面コミュニケーションも取りたい場合に有効です。公衆Wi-Fi利用時の対策や、覗き見(ショルダーハック)対策も必要です。
移動中(電車・新幹線・飛行機など)や、移動の合間のカフェ等で働く形態です。出先から必要なデータにアクセスできることで業務効率化が期待できますが、紛失・盗難、覗き見、公衆Wi-Fiなどのリスクが相対的に高くなります。
work(働く)とvacation(休暇)を組み合わせた言葉で、リゾート地などで仕事と休暇を組み合わせる形態です。制度として導入する場合は、勤務時間・費用負担・情報セキュリティ・労務管理を明確にしておく必要があります。
原則出社せず、テレワーク中心で業務を遂行します。採用可能地域が広がる一方、オンボーディング、チームビルディング、評価制度、セキュリティ設計をより丁寧に整備する必要があります。
オフィス勤務とテレワークを組み合わせる形態です。対面でのコミュニケーションと、集中しやすい環境を両立しやすい反面、端末持ち運びの機会が増えるため、端末・データ保護の対策がより重要になります。
テレワークは「働き方改革」の流れの中で注目されてきましたが、社会的に急速に普及したきっかけとして、新型コロナウイルス感染症への対応が挙げられます。感染拡大防止や事業継続の観点から、短期間で導入が進んだ企業も多くありました。
一方で、感染症対応が落ち着いた後も、BCP(事業継続)や人材確保、オフィスコストの見直しなどを背景に、テレワークを一定程度継続・再設計する企業が見られます。国土交通省の「テレワーク人口実態調査」でも、雇用型テレワーカーの実施状況などが継続して調査・公表されています。
テレワークは「導入する」だけでは効果が出ません。業務・制度・セキュリティをセットで設計し、継続的に改善することが重要です。
テレワークでは、社外ネットワークから社内資産へアクセスする機会が増えます。従来の境界型対策だけでは不足しやすいため、次の観点で対策を設計します。
VPNやクラウドサービス利用時の不正アクセスを防ぐために、多要素認証(MFA)や条件付きアクセス(端末状態・場所・リスクに応じた制御)を検討します。
端末の紛失・盗難に備え、ディスク暗号化、リモートワイプ、EDR、資産管理(MDM/EMM)などを組み合わせて、侵害時の影響を最小化します。
持ち運び端末に機密データを極力残さないために、画面転送方式(VDI/リモートアクセス)や、クラウド上での共同編集、権限管理を活用します。併せて、ファイル共有のルールやログ取得、DLP(情報漏えい対策)の考え方も整理しておくと運用が安定します。
公衆Wi-Fiは「なりすましアクセスポイント」などのリスクがあります。社内規程で利用可否を定め、利用を許可する場合はVPNの利用、端末のセキュリティ設定、DNS/通信の保護などを組み合わせます。
テレワークでは、メールだけでは情報共有が追いつかないケースが多いです。ビジネスチャット、Web会議、オンラインホワイトボード、タスク管理などを組み合わせ、情報の置き場(ナレッジ)と意思決定のプロセスを明確にします。
テレワークは成果主義に寄りやすい一方、成果だけを追うと業務プロセスの課題が見えにくくなる場合があります。勤怠管理(打刻・休憩・時間外の把握)に加え、目標設定・進捗共有・評価面談の運用を整えることが重要です。
テレワークでは、業務時間が曖昧になり「隠れ残業」が起こりやすくなります。上長の声かけ、通知ルール、時間外作業の申請フロー、システム面での利用時間制御など、複数の対策を組み合わせて防止します。
「BCPのため」「人材確保のため」「オフィスコストの見直し」など、目的により設計が変わります。目的を先に固定し、評価指標(例:生産性、離職率、セキュリティ事故件数など)も設定します。
いきなり全社展開するのではなく、対象業務・対象部門を絞って段階導入するのが現実的です。ヘルプデスク体制、端末配布・管理、教育計画も合わせて整備します。
業務プロセス、社内規程、セキュリティ要件(データ分類、持ち出し可否、ログ取得の範囲)を洗い出し、対策の優先順位を付けます。
勤務時間、連絡手段、会議体、機密情報の取り扱い、端末の利用ルール、インシデント時の連絡手順などを規程化し、例外運用を最小化します。
ネットワーク(VPN/ゼロトラスト)、認証(MFA)、端末(暗号化/EDR/MDM)、コミュニケーション基盤、勤怠管理などを整備します。
小規模に運用し、通信品質、業務影響、セキュリティ運用負荷、問い合わせ傾向を確認します。
定期的に状況を測定し、ルール・運用・ツールを改善します。運用が回り始めた後に見つかる課題も多いため、継続的な改善が前提になります。
テレワーク導入にはネットワーク整備、端末準備、セキュリティ対策、勤怠管理などのコストがかかります。費用面が課題になる場合は、国・自治体の補助金や助成金の活用を検討しましょう。
自治体独自の制度は年度ごとに変わることが多く、募集期間・対象経費・上限額が更新されます。自社の所在地(都道府県・市区町村)で利用可能な制度を、必ず最新情報で確認してください。
テレワークはICTを活用した、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方です。メリットが大きい一方で、勤怠・評価・コミュニケーション・情報セキュリティなど、設計すべき点も増えます。
導入の成否は「目的の明確化」「段階導入」「ルール整備」「セキュリティ設計」「継続的な改善」にかかっています。本記事の内容を参考に、自社に合ったテレワークの導入・運用を検討してみてください。
実務上はほぼ同義で扱われることが多いです。テレワークはICT活用を前提に説明されることが多く、社内規程や制度設計では要件整理に向いています。
目的(BCP、人材確保、コスト見直し等)と対象範囲(どの部門・どの業務から始めるか)です。目的が曖昧だと、評価指標も対策優先度も定まりません。
社外からの不正アクセス、端末の紛失・盗難、クラウド利用の設定不備(権限・共有範囲)などです。対策はMFA、端末暗号化、EDR、権限管理、ログ取得を組み合わせます。
リスクがあるため、社内規程で利用可否を定めるのが前提です。許可する場合はVPN利用、端末のセキュリティ設定、機密情報の取り扱い制限などをセットで行います。
十分とは言い切れません。VPN自体が狙われることもあるため、MFAや端末状態の確認、権限の最小化、ログ監視などを組み合わせることが重要です。
可能です。画面転送方式(VDI/リモートアクセス)や、クラウド上での共同編集・権限管理を活用し、端末内に機密データを極力保存しない設計を検討します。
端末の持ち運び機会が増え、紛失・盗難・覗き見のリスクが上がります。ディスク暗号化、画面ロック、リモートワイプ、持ち出しルールの徹底が重要です。
チャットと会議だけでなく、情報の置き場(ナレッジ)や意思決定の手順を整備することが有効です。定例の1on1や、進捗の見える化(タスク管理)も効果があります。
時間外作業の申請フロー、通知ルール、上長の声かけ、勤怠の可視化などを組み合わせます。「働きやすい」だけでなく「働きすぎない」設計が必要です。
制度によって対象・要件・期間が異なります。IT導入補助金や、助成金(テレワーク関連コース)などがありますが、年度で更新されるため必ず最新要件を確認してください。