写真の出典:UnsplashのAxel Richterが撮影した写真
スマートフォンやパソコンが正常に動かないとき、その原因の一つとして、内部で使うトランジスタの不具合が関わることがあります。トランジスタは、電気を増幅したり、電流のオンとオフを切り替えたりする部品です。いまの機器や半導体チップは、この部品なしでは成り立ちません。
この記事では、トランジスタの役目、しくみ、主な種類、使われ方、故障時の見方、歴史、微細化が進んだ今の課題までを順に見ていきます。しくみを知っておくと、機器がどう動くかをつかみやすくなり、トラブルシューティングでも見当を付けやすくなります。
トランジスタは、いまの機器で広く使われている半導体の部品です。主な役目は二つあります。ひとつは小さな信号を大きくすること、もうひとつは電流を流すか止めるかを切り替えることです。小さく作れて、たくさん並べても場所を取りにくいため、スマートフォン、パソコン、通信の機器、家電まで幅広く使われています。
代表的なバイポーラトランジスタは、エミッタ、ベース、コレクタの三つの端子を持ちます。ベースに流す小さな電流をきっかけにして、エミッタとコレクタの間を流れる、より大きな電流を調整します。この性質によって、信号を大きくしたり、電流を切り替えたりできます。
一方、FETでは、ゲートに加える電圧で電流の通り道の開き方を変え、ソースとドレインの間を流れる電流を調整します。バイポーラトランジスタが電流をきっかけに動くのに対し、FETは電圧をきっかけに動く点が大きな違いです。
バイポーラトランジスタは、ベース電流でコレクタ電流を調整する方式です。やや大きな電流を扱いやすく、音を大きくする回路や一部の高速な回路で使われます。ただし、入力側にもある程度の電流が必要です。
FETは、入力側へほとんど電流を流さずに使える点が特徴です。その代表例がMOSFETです。MOSFETは電力を抑えやすく、たくさん並べて使う回路と相性がよいため、CPUやメモリなどの半導体チップで広く使われています。
| 種類 | 主な特徴 |
|---|---|
| バイポーラトランジスタ | 電流をきっかけに動く。増幅や、やや大きな電流を扱う場面に向く。 |
| FET | 電圧をきっかけに動く。入力側へ電流がほとんど流れず、電力を抑えやすい。 |
同じトランジスタでも、得意な使い方は異なります。どちらがよいかは、回路で何を重視するかで決まります。
トランジスタは、音声や電波のような弱い信号を扱いやすい大きさまで引き上げるために使われます。たとえば、マイクで拾った小さな音の信号や、アンテナで受けた弱い信号を後段の回路で扱えるようにします。
トランジスタは、電流を流すか止めるかをすばやく切り替える部品としても重要です。コンピュータの中では、この切り替えを大量に繰り返すことで、計算や記憶の処理を進めています。
ICは、多数のトランジスタを一枚の小さなチップへまとめたものです。CPU、メモリ、センサー、通信の機器、家電の制御用の回路まで、ほとんどの機器がこの形でトランジスタを使っています。
トランジスタは、電力を変えたり制御したりする回路でも使われます。モータの制御、スイッチング電源、インバータなどでは、耐圧や流せる電流の大きさが大きいパワートランジスタが使われます。EVや再エネの分野でも重要な部品です。
トランジスタが故障すると、回路の役目に応じて症状が変わります。
こうした症状は他の部品でも起こりますが、トランジスタが原因の一つになっていることがあります。
実際の切り分けには回路図の理解や測定器の扱いが欠かせません。ただ、トランジスタがどんな役目を持つかを知っておくと、原因の当たりを付けやすくなります。
トランジスタが広まる前は、信号を大きくしたり制御したりする役目を真空管が担っていました。真空管は大きく、電力を多く使い、熱も出やすいという弱点がありました。
1947年、ベル研究所でジョン・バーディーンとウォルター・ブラッテンが最初の動作を示し、その後ウィリアム・ショックレーも含めた三人がトランジスタの発明で広く知られるようになりました。トランジスタは小さく、電力を抑えやすく、機器の小型化を大きく後押ししました。
1958年にはジャック・キルビー、1959年にはロバート・ノイスがICの実用化につながる発明を示し、たくさんのトランジスタを一つのチップへまとめる流れが進みました。
1965年にゴードン・ムーアが示した見通しは、のちにムーアの法則と呼ばれるようになりました。一般には、チップ上のトランジスタ数が、およそ二年ごとに倍になるという経験則として知られています。
トランジスタを小さくしていくと、同じ面積の中へ、より多くの素子を置けます。その結果、処理の速さを上げたり、使う電力を下げたりしやすくなりました。
ただし、近年の「5nm」「3nm」といった呼び方は、トランジスタのゲート長そのものをそのまま示すとは限りません。製造プロセスの世代名として使われる場合が多く、実際の寸法は別に見る必要があります。
素子が小さくなるほど、オフのはずなのに流れてしまう電流や、電流の切れが悪くなる現象が問題になりやすくなります。こうした現象は、発熱や無駄な電力、動きの不安定さにつながります。
この対策として、ゲート絶縁膜の材料を見直したり、回路側で不要な部分の電源やクロックを止めたりする工夫が進んできました。モバイル機器やIoT機器では、とくに重要な論点です。
平面型のMOSFETでは小型化が進むにつれて電流の制御が難しくなり、そこでFinFETが広く使われるようになりました。FinFETは、チャネルをひれのような形に立ち上げ、ゲートで三方から包む構造です。
さらに先の世代では、GAAが有力な候補になっています。GAAはチャネルを全方向から取り囲む形に近く、より細かく電流を制御しやすい構造です。FinFETやGAAは、短チャネル効果を抑えながら性能を上げるための工夫として重要です。
小型化が進むほど、製造ばらつき、時間とともに進む劣化、高温や高電界による傷みが無視しにくくなります。このため、材料の見直し、製造時の条件の詰め、故障の解析、設計時の余裕の取り方がいっそう重要になっています。
また、シリコン以外の材料として、化合物を使う半導体、カーボンナノチューブ、グラフェンなども研究されています。すぐに一気に置き換わる段階ではありませんが、次の世代を支える候補として注目されています。
トランジスタは、電気を大きくしたり、流したり止めたりする役目を持つ、回路の基礎となる部品です。バイポーラトランジスタとFETでは動き方が異なり、用途に応じて使い分けられています。
機器の進化は、トランジスタをより小さく、より多く、より安定して使えるようにしてきた歴史でもあります。今は微細化の限界、リーク電流、信頼性、新しい構造や材料への移行が大きなテーマです。
電気を大きくしたり、流したり止めたりするための半導体の部品です。いまの回路では基本となる要素です。
バイポーラトランジスタは電流をきっかけに動き、MOSFETは電圧をきっかけに動きます。使いやすい場面も変わります。
同じ面積により多くの素子を置けるため、処理の速さを上げたり、使う電力を下げたりしやすくなるからです。
チップ上のトランジスタ数が、およそ二年ごとに倍になるという経験則です。長くこの業界の目安とされてきました。
音が出ない、切り替わらない、電圧が安定しないといった形で現れることがあります。回路の役目で症状は変わります。
高い電圧や大きな電流に耐えられること、そして電力を無駄なく切り替えられることが求められます。
オフのはずのときにも少し流れてしまう電流です。発熱や無駄な電力の原因になります。
小さくした素子でも電流をより細かく制御しやすく、性能を上げながら電力を抑えやすいからです。
スマートフォン、ウェアラブル端末、IoT機器のように電池で動く機器では、とくに重要です。
三つの端子をどう使うか、そして増幅とスイッチの二つの役目をまず押さえると理解しやすくなります。