UnsplashのEmile Perronが撮影した写真
Web3という言葉を耳にする機会が増えていますが、「結局なにが変わるのか」「自社に関係があるのか」が曖昧なままになりがちです。Web3は、ブロックチェーンを土台にした“分散型の仕組み”を活用し、データや価値のやり取りを中央の管理者に依存しにくくする考え方です。この記事では、Web3の基本、代表的な技術要素、ビジネスでの使いどころ、導入時に外せない注意点までを整理し、読了後に「自社で検討すべきテーマ」と「最初の一歩」を判断できる状態を目指します。
Web3は、ブロックチェーンなどの分散型技術を基盤にしたウェブの概念です。Web1が「読む」、Web2が「参加する(SNSやプラットフォーム中心)」だとすれば、Web3は「所有し、直接やり取りする」方向性を強めたものとして語られます。ただし、Web3は単一の製品や規格名ではなく、分散型台帳、スマートコントラクト、暗号資産(トークン)、分散型IDなどを組み合わせて実現される“設計思想”に近い点を押さえておきましょう。
Web3は、ブロックチェーン技術を基盤とした分散型のウェブを指します。従来のWeb(Web2)は、サービス提供者がユーザー情報や取引の記録を集中管理し、利用者はそのルールに従って参加する構造が一般的でした。一方でWeb3では、記録や資産の管理を分散させ、ユーザーが自分のデータや資産をより主体的に扱える状態を目指します。
ただし「中央集権が完全になくなる」というより、“どこまでを分散させ、どこを現実的に集中管理するか”の設計が重要です。たとえば、取引の記録はブロックチェーンに残して透明性を確保しつつ、個人情報はオフチェーンに置き、アクセス制御や暗号化で守る、といったハイブリッド構成も一般的です。
Web3を支える主要な技術はブロックチェーンです。ブロックチェーンは、分散型台帳技術であり、データの改ざん防止や透明性の確保に強みがあります。これにより、誰が・いつ・どのように資産や権利を移転したかといった履歴を、ネットワーク全体で合意しながら保管できます。
加えて、スマートコントラクト(条件に応じて処理を自動実行する仕組み)により、仲介者を介さずに一定の取引を実行できます。ただし、スマートコントラクトはプログラムである以上、実装不備があれば脆弱性になり得ます。Web3では「正しく作る」「監査する」「運用で守る」をセットで考える必要があります。
Web3は、価値のやり取り(送金、権利移転、収益分配)を“プラットフォームの外側”に持ち出しやすくします。代表例として以下が挙げられます。
一方で、これらは「必ず成功するモデル」ではありません。ユーザー体験、手数料、規制適合、セキュリティ、コミュニティ運営など複数要因が絡むため、導入前に“どの価値を、誰に、どの方法で提供するか”を具体化することが重要です。
| 観点 | 要点 |
|---|---|
| 透明性 | 取引履歴や資産移転の記録を検証しやすい(ただし、記録の解釈や周辺データは別途設計が必要) |
| 信頼性 | 改ざんが難しい仕組みを利用できる一方、スマートコントラクトや運用の脆弱性は残る |
| 所有権 | 資産・権利の移転をトークンで表現できる(鍵管理を誤ると取り戻せないリスクもある) |
| 課題 | スケーラビリティ、手数料、UX、規制、ガバナンス、鍵管理などの“現実要件”が大きい |
Web3は可能性が大きい一方で、導入の難所も多い領域です。「技術が新しいから」ではなく、「自社の課題や価値提供に対して、分散型の要素が本当に必要か」を軸に判断しましょう。
ブロックチェーンは、取引データをブロックにまとめ、前のブロックのハッシュ値と連鎖させて保存する仕組みです。ネットワーク参加者が合意(コンセンサス)しながら記録を更新するため、単一の管理者に依存しにくく、改ざんに強い構造になります。
ただし、ブロックチェーンの種類(パブリック/コンソーシアム/プライベート)や、合意方式(PoSなど)により、性能・コスト・分散性の度合いは大きく異なります。ビジネス利用では「公開性が必要か」「取引量はどれくらいか」「運用主体は誰か」といった要件から選定するのが現実的です。
スマートコントラクトは、ブロックチェーン上で動くプログラムです。条件が満たされると自動的に処理を実行できるため、仲介コストや手続きの手間を減らせる可能性があります。一方で、プログラムの不具合や設計ミスはそのまま事故につながり得ます。
実務では、監査(第三者レビュー)、テストと段階的リリース、権限設計(管理者機能の扱い)、事故時の停止・復旧手段など、運用面まで含めて設計してはじめて“使える仕組み”になります。
NFTは、代替できない識別子を持つトークンで、デジタルコンテンツや権利の“紐づけ”に利用されます。よくある誤解として「NFTにコンテンツ本体が必ず保存される」がありますが、実際にはトークンが指し示す参照先(メタデータやURL)をどこに置くかで、真正性や永続性の担保方法が変わります。
ビジネスでNFTを扱う場合は、権利範囲(利用許諾)、二次流通時のロイヤリティ設計、参照先データの保全、消費者保護や表示など、技術以外の論点が成果を左右します。
分散型ストレージは、データを複数のノードに分散して保持し、冗長性と可用性を高める考え方です。代表的なプロトコルとしてIPFSやFilecoinなどが知られています。Web3では、ブロックチェーン上には“重要な記録(ハッシュなど)”のみを置き、容量の大きいデータは分散型ストレージやクラウドに置く、といった役割分担が一般的です。
このとき重要なのは、「データをどこに置くか」だけでなく、「誰がアクセスできるか」です。個人情報や機密情報を扱うなら、暗号化・鍵管理・アクセス制御を含めた設計が不可欠です。
Web3の特徴は、価値のやり取りを“システムの外部”で完結しやすい点にあります。たとえば、プラットフォーム内ポイントのように発行主体に依存せず、トークンを介して参加者間で価値を移転できます。これにより、コミュニティを軸にした参加インセンティブ設計(貢献に応じた配布など)を組み込みやすくなります。
ただし、トークン設計は万能ではありません。投機性の高まり、価格変動、規制、会計処理、利用者の誤解といったリスクも同時に生まれます。「トークンがあるから伸びる」ではなく、「価値提供が成立した上で、トークンが効く場面か」を見極めることが重要です。
NFTやトークンにより、デジタル資産の所有や移転をプログラム可能な形で扱えます。創作者への還元、会員証やチケットの不正防止、限定特典の付与など、設計次第で体験価値を拡張できます。
一方で、所有権と利用権は別物です。トークン保有=著作権保有ではありません。権利関係は契約・規約で明確にし、ユーザーが誤解しない表示が必要です。
Web3では「ユーザーがデータを持つ」方向性が語られますが、企業の立場では、個人情報保護やコンプライアンスの責任をどう果たすかが焦点になります。分散型ID(DID)などを使えば、必要最小限の属性だけを提示する、といった設計も可能ですが、運用の難度は上がります。
プライバシーを保ちながら有用性を出すには、オンチェーン/オフチェーンの切り分け、暗号化、アクセス制御、監査ログ、キー紛失時の救済策などをセットで設計する必要があります。
ブロックチェーン自体は改ざんに強くても、実際の事故は別の層で起きます。代表例は、スマートコントラクトの実装不備、秘密鍵の漏洩、ウォレットや運用手順のミス、依存コンポーネント(オラクル等)の破綻です。
企業でWeb3を扱うなら、鍵管理(保管・権限分離・復旧)、監査とテスト、監視とインシデント対応、権限と承認フローを明確にし、責任範囲を曖昧にしないことが重要です。
導入の第一歩は「何を解決したいのか」を具体化することです。Web3は目的ではなく手段です。たとえば次のように、対象と価値を言語化します。
この整理が曖昧なままだと、技術選定やPoCが“作ること”に偏り、ビジネスの成果につながりにくくなります。
多くの企業システムは既存のID、権限、会計、CRM、基幹と連動しています。Web3を導入するなら、API連携やイベント連携を前提に、どの情報をシステム側で確定し、どの記録をチェーン側に残すかを設計します。
注意点として、オンチェーンは取り消しが難しい性質があります。誤記録や取り扱いミスが重大事故になりやすいため、承認フロー、二重チェック、署名ポリシー、権限分離(多署名など)を含めて設計しましょう。
Web3導入では、ブロックチェーン開発だけでなく、セキュリティ、法務・コンプライアンス、会計、UX、運用が密接に絡みます。社内育成を進めつつ、必要に応じて外部専門家の支援を組み合わせるのが現実的です。
社内で最低限そろえたい視点は、①技術選定とアーキテクチャ、②鍵管理と運用、③契約・規約・表示、④監査と事故対応です。PoC段階からこれらを外さないことが、手戻りを減らします。
Web3は“作って終わり”ではなく、運用とガバナンスが価値を左右します。推進体制としては、技術チームだけに閉じず、ビジネス側・法務・セキュリティ・運用の責任者を早期に巻き込みます。小さく始める場合でも、意思決定者と責任範囲は最初に決めておきましょう。
進め方の一例は次の通りです。
Web3は、ブロックチェーンを中心とした分散型技術を活用し、資産や権利、取引履歴の扱い方を拡張する考え方です。透明性やプログラム可能な取引といった利点がある一方で、鍵管理、スマートコントラクトの安全性、規制適合、ユーザー体験など、導入の難所も明確です。企業がWeb3を検討する際は、「何を分散させる必要があるのか」「運用と責任をどう設計するか」を軸に、PoCで実用性とリスクを検証しながら段階的に進めることが現実的です。
ブロックチェーンなどの分散型技術を使い、データや価値のやり取りを中央の管理者に依存しにくくするウェブの概念です。
同じではありません。Web3は概念で、ブロックチェーンはその実現手段の中核技術の一つです。
取引履歴の検証しやすさ、改ざん耐性、資産や権利の移転をプログラム可能にできる点が代表的です。
解決したい課題、対象ユーザー、オンチェーンに載せる範囲、運用責任を具体化することです。
実装不備が事故につながるため、監査・テスト・権限設計・停止手段まで含めた運用設計が必要です。
必ずしも保存しません。多くは参照先やメタデータを指し示すため、保全方法の設計が重要です。
スマートコントラクトの脆弱性、秘密鍵の漏洩、ウォレットや運用手順のミスが典型例です。
API連携などで、確定情報は既存システム、検証したい記録はチェーンに残す形で役割分担します。
良いとは限りません。公開性・性能・運用責任を踏まえ、分散と集中の境界を設計する必要があります。
ユースケース選定、リスク整理、最小構成のPoC、監査と運用設計を固めた上で段階的に展開します。