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働き方改革関連法とは?企業の課題や必要な対策などを徹底解説

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働き方改革関連法は、長時間労働の是正や多様な働き方の実現を目的に、2019年4月から段階的に施行された一連の法改正です。中小企業には一部の制度で猶予期間がありましたが、2023年4月以降は「月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率(50%以上)」など、対応が必須となる項目が増えています。この記事では、働き方改革関連法の概要と目的、2023年以降に注意すべきポイント、企業が取り組むべき実務対応を整理して解説します。

働き方改革関連法とは

働き方改革関連法とは、正式名称を「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」といい、労働者が働きやすい環境の整備や、企業が持続的に成長できる就業環境づくりを目的とした法改正の総称です。労働基準法、労働者派遣法、パートタイム・有期雇用労働法など複数の法律が改正され、長時間労働の是正、年次有給休暇の取得促進、雇用形態による不合理な待遇差の解消(同一労働同一賃金)などが進められてきました。

なお、施行は2019年から段階的に行われており、項目や企業規模、業種・業務によって適用開始時期が異なる点には注意が必要です。

法改正の背景・目的

法改正の背景には、少子高齢化による労働力人口の減少、長時間労働の常態化、雇用形態による待遇差など、日本の労働環境が抱える複合的な課題があります。働き方改革関連法は、ワーク・ライフ・バランスの確保や健康リスクの低減、多様で柔軟な働き方の選択肢を広げることを通じて、働く人が能力を発揮しやすい社会を目指すものです。

法改正による2023年以降のポイント

働き方改革関連法は2019年から順次適用が進みましたが、猶予期間が設けられていた項目の一部が2023年以降に本格適用となりました。ここでは、特に企業実務で影響が出やすいポイントを整理します。

中小企業における「月60時間超の時間外労働」の割増賃金率(50%以上)

法定労働時間(原則として1日8時間・週40時間)を超える時間外労働には割増賃金が必要です。時間外労働が月60時間以下の場合の割増率は原則25%以上ですが、月60時間を超える部分は50%以上の割増率が求められます。

大企業では先行して適用されていましたが、中小企業も2023年4月1日以降、月60時間を超える部分は50%以上の割増賃金を支払う必要があります。

深夜(22:00~5:00)に「月60時間超の時間外労働」を行った場合の考え方

深夜労働(22:00~5:00)は、原則として25%以上の深夜割増が必要です。これが時間外労働に該当する場合、時間外割増(60時間超部分は50%以上)と深夜割増(25%以上)が重なり、結果として割増率が高くなります。

実務上は、勤怠データの区分(時間外・深夜・休日)を正確に切り分けたうえで、就業規則や賃金規程の計算ロジックに沿って支給することが重要です。

休日労働の割増賃金率(35%以上)と「代替休暇」の位置づけ

法定休日に労働させた場合は、原則として35%以上の割増賃金が必要です。なお、「月60時間超の時間外労働」に対する50%以上の割増率は、主に時間外労働(法定外残業)に関する規定であり、休日労働の扱いは別の枠組みで整理します。

また、一定の要件のもとでは、割増賃金の一部に代えて有給の休暇(代替休暇)を付与できる制度があります。運用する場合は、対象範囲や付与手続き、取得方法を就業規則等で明確にし、労使双方が誤解しない形に整える必要があります。

一部業種・業務の猶予期限(2024年3月31日まで)と2024年4月以降

時間外労働の上限規制は、原則として大企業は2019年4月、中小企業は2020年4月から適用されています。一方で、建設事業、自動車運転の業務、医師など一部の業種・業務については、2024年3月31日まで適用猶予が設けられていました。

2024年4月1日以降は、業種・業務ごとに特例や経過措置を含む形で上限規制が適用されています。該当する企業は、一般則だけでなく、自社がどの枠組みに該当するかを確認したうえで、勤怠管理・人員計画・取引条件の見直しまで含めた対応が必要です。

働き方改革関連法の具体的な内容

働き方改革関連法は、主に「長時間労働の是正」「年次有給休暇の取得促進」「多様な働き方の推進・公正な待遇」の観点から制度が整備されています。ここでは代表的な内容を整理します。

時間外労働(残業)の上限規制

働き方改革関連法により、時間外労働には法律上の上限が設けられました。原則として、時間外労働は月45時間・年360時間までとされ、通常はこれを超えることができません。

やむを得ない臨時的な特別の事情がある場合でも、次の範囲内に収める必要があります。

  • 年720時間以内
  • 複数月平均80時間以内(休日労働を含む)
  • 月100時間未満(休日労働を含む)
  • 原則の月45時間を超えられるのは年6回まで

実務では、36協定(時間外・休日労働に関する協定)の締結・届出だけでなく、日々の勤怠データをもとに早期にアラートを出す仕組みが重要です。

年次有給休暇の取得義務(年5日)と時季指定

一定の要件を満たす労働者に対し、年次有給休暇が10日以上付与される場合、企業は年5日について取得させる義務があります。取得が進まない場合には、労働者の意見を踏まえたうえで時季指定により取得させる運用が求められます。

単に制度を設けるだけでは形骸化しやすいため、取得計画の作成、繁忙期の平準化、業務の属人化解消など、運用を支える仕組みの整備が欠かせません。

フレックスタイム制の拡充(清算期間の上限が3か月に)

フレックスタイム制では、一定期間の総労働時間を基準に、日々の始業・終業時刻を柔軟に調整できます。法改正により、清算期間の上限が1か月から3か月に拡大されました。

運用にあたっては、清算期間を長くすることで繁閑差への対応はしやすくなる一方、勤怠管理や人件費予測が複雑になるため、制度設計(コアタイムの有無、精算方法、超過・不足の扱い)を明確にしておくことが重要です。

勤務間インターバル制度の普及促進(努力義務)

勤務間インターバル制度とは、終業から次の始業まで一定時間以上の休息を確保する仕組みです。企業の努力義務として位置づけられ、長時間労働の抑制や睡眠確保、健康維持の観点で重要性が高まっています。

高度プロフェッショナル制度

高度プロフェッショナル制度は、一定の要件(職務内容や年収要件、本人同意、委員会決議など)を満たす労働者を対象に、労働時間・休憩・休日・深夜割増賃金などの規定の適用を外す制度です。その代わり、年間104日以上の休日確保や健康管理措置など、健康・福祉確保措置を講じることが求められます。

制度の性質上、対象範囲の誤りや同意の形式不備がリスクになりやすいため、「対象者の線引き」「同意・撤回手続き」「健康管理の運用」をセットで設計する必要があります。

同一労働・同一賃金(不合理な待遇差の禁止)

同一労働・同一賃金は、正社員と非正規(パートタイム、有期雇用、派遣など)の間で、職務内容や責任、配置転換の範囲などが同じ・類似しているにもかかわらず、不合理な待遇差を設けることを禁止する考え方です。手当、賞与、福利厚生、教育訓練など、待遇の根拠を説明できる状態にしておくことが重要です。

月60時間超の割増賃金率の引き上げ(中小企業は2023年4月から)

月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率は50%以上です。大企業では先行して適用されていましたが、中小企業も2023年4月1日以降は同様の対応が必要となりました。

産業医・産業保健機能の強化

法改正では、産業医が健康管理等を適切に行うための情報提供の義務や、労働者の健康相談体制整備など、産業医・産業保健機能の強化も盛り込まれています。メンタルヘルスを含む健康課題は生産性や離職にも直結するため、制度として整えるだけでなく、相談しやすい運用に落とし込むことが大切です。

働き方改革関連法による企業の課題や必要な対応

ここからは、働き方改革関連法に対応するうえで、企業が直面しやすい課題と、実務として必要になりやすい対応を整理します。

労働時間の管理・把握

上限規制や割増賃金の取り扱いが明確になったことで、企業には労働時間を正確に把握し、適切に管理する体制が求められます。自己申告に偏りすぎると乖離が生じやすいため、勤怠管理システムの活用、打刻ルールの徹底、PCログ等との整合確認、管理職による日常的なモニタリングなど、実態に即した管理が重要です。

残業の削減

残業の削減は、健康リスクの低減だけでなく、上限規制への適合という観点でも避けて通れません。対策としては、業務プロセスの見直し、会議体の整理、承認フローの短縮、属人化の解消、繁忙期の平準化など、業務設計そのものに踏み込む必要があります。

生産性向上(残業を減らして成果を落とさない)

残業を減らすだけでは現場の負荷が増えるため、生産性向上がセットになります。業務の自動化やデジタルツールの活用、情報共有の標準化、ナレッジ整備などによって、同じ成果をより短い時間で出せる状態を目指します。

また、テレワークと出社を組み合わせるハイブリッドワークは、柔軟性を高める一方で、評価や労務管理、情報セキュリティなど新たな課題も生みます。制度だけでなく運用ルール(勤務実態の把握、コミュニケーション設計、情報取り扱い)まで含めて整備することが重要です。

労働契約・待遇の見直し(同一労働同一賃金への備え)

雇用形態にかかわらない公正な待遇を確保するため、賃金体系や各種手当、福利厚生、教育訓練の扱いについて、「なぜ差があるのか」を説明できる状態に整えることが求められます。新たな雇用形態を導入する場合も、職務定義や評価制度、契約更新の考え方などを含め、トラブルが起きにくい設計にしておく必要があります。

どのような待遇差が不合理にあたり得るかを整理するために、以下のガイドラインも参照するとよいでしょう。

同一労働同一賃金ガイドライン」(厚生労働省)

就業規則・社内規程の整備

制度対応を実務として機能させるには、就業規則や賃金規程、勤怠ルール、休暇運用などを最新の法令と自社運用に整合させる必要があります。勤怠管理システムの導入・刷新と併せて、規程と実態のズレを解消することが重要です。

まとめ

働き方改革関連法は、長時間労働の是正、年次有給休暇の取得促進、同一労働同一賃金などを通じて、労働環境の改善と多様な働き方の実現を目指す重要な法改正です。段階施行の中で、中小企業には一部猶予がありましたが、2023年4月以降は「月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率(50%以上)」など、具体的に対応が必要な項目が増えています。

法令対応は「規程を直す」だけで終わりません。労働時間の見える化、業務設計の見直し、生産性向上、制度運用の定着まで含めて取り組むことで、企業の持続性と働く人の健康・納得感の両立につながります。

働き方改革関連法に関するFAQ

働き方改革関連法は、いつから施行された法律ですか?

2019年4月から段階的に施行された一連の法改正の総称です。項目や企業規模、業種・業務によって適用開始時期が異なります。

2023年以降に中小企業が特に注意すべき点は何ですか?

代表例として、2023年4月1日以降は中小企業でも「月60時間超の時間外労働」に対して割増賃金率50%以上の対応が必要になっています。

深夜に残業した場合、割増賃金はどう考えればよいですか?

深夜労働は原則25%以上の割増が必要です。深夜が時間外労働に該当する場合は、時間外割増と深夜割増が重なるため、割増率が高くなります。

休日労働の割増賃金率は何%ですか?

法定休日に労働させた場合は、原則として35%以上の割増賃金が必要です(時間外労働とは区分して整理します)。

時間外労働の上限規制は、どのような内容ですか?

原則として月45時間・年360時間までです。臨時的な特別の事情がある場合でも、年720時間以内、複数月平均80時間以内、月100時間未満などの範囲内に収める必要があります。

年次有給休暇の「年5日取得義務」とは何ですか?

年10日以上の年休が付与される労働者について、企業は年5日を取得させる義務があります。取得が進まない場合は時季指定による運用が求められます。

フレックスタイム制は、法改正で何が変わりましたか?

労働時間の清算期間の上限が、従来の1か月から3か月に拡大されました。制度設計や勤怠管理の整備が重要です。

勤務間インターバル制度は義務ですか?

企業の努力義務です。終業から次の始業まで一定の休息時間を確保する仕組みで、健康確保の観点から重要性が高まっています。

同一労働同一賃金では、何が求められますか?

正社員と非正規の間で、職務内容や責任などが同じ・類似している場合に、不合理な待遇差を設けないことが求められます。待遇差の根拠を説明できる状態に整えることが重要です。

企業がまず取り組むべき実務対応は何ですか?

労働時間の正確な把握(勤怠管理の整備)を起点に、残業削減の業務設計、生産性向上、就業規則・賃金規程の見直しを一体で進めることが現実的です。

記事を書いた人

ソリトンシステムズ・マーケティングチーム