UnsplashのJoel Rivera-Camachoが撮影した写真
近年、サイバー攻撃は巧妙化・複雑化し、従来の「攻撃を受けてから対応する」受動的な防御だけでは限界が見えてきました。この記事では、攻撃者の動きを先読みしながら能動的に防御する考え方である「アクティブ・ディフェンス」について、その概要や具体的な手法、導入・運用のポイント、期待される効果と課題を解説します。アクティブ・ディフェンスの基本的な考え方と現実的な取り組み方を押さえることで、高度化するサイバー攻撃に対して、自社のセキュリティ体制を一段引き上げるヒントを得られるはずです。
近年、ランサムウェア攻撃やサプライチェーン攻撃、標的型攻撃など、サイバー攻撃の手口は多様化しています。攻撃者は日々新しい手法を生み出しており、「既知の攻撃パターンをブロックする」だけの対策では、被害拡大前に気付くことや、初動で被害を最小限に抑えることが難しい状況になりつつあります。
こうした状況を背景に、「攻撃されること」を前提としつつ、侵入の兆候をいち早く察知し、内部での動きを監視・制御するアプローチとして注目されているのがアクティブ・ディフェンスです。従来の境界防御やシグネチャベースの対策と組み合わせることで、多層的な防御体制を構築しやすくなります。
アクティブ・ディフェンスとは、サイバー攻撃を未然に防いだり、早い段階で封じ込めたりするために、守る側が能動的に情報収集・監視・分析・対応を行うアプローチを指します。企業内ネットワークやシステムの範囲内で、防御側が主体的に動く「能動的な防御活動」と捉えるとイメージしやすいでしょう。
具体的には、次のような手法が代表的です。
ここで重要なのは、アクティブ・ディフェンスは攻撃者のシステムに侵入して反撃する「ハックバック」のような行為を必ずしも意味しない、という点です。企業における現実的なアクティブ・ディフェンスは、自社が管理するシステムやネットワークの範囲内で取れる能動的な防御を整理・強化する取り組みと考えるのが安全です。
サイバー攻撃の脅威が高まる中で、アクティブ・ディフェンスの重要性は年々増しています。侵入される前後の「早い段階」で攻撃者の動きに気付けるかどうかが、被害規模を大きく左右するためです。
能動的な監視・検知・封じ込めの仕組みを整えておくことで、以下のような効果が期待できます。
アクティブ・ディフェンスを導入するには、専門知識やツールへの投資が必要ですが、中長期的には「被害コストの削減」や「インシデント対応力の向上」といった形で、企業の競争力や信頼性の向上にも寄与します。
アクティブ・ディフェンスの中心にあるのが、攻撃の検知と分析です。ネットワークトラフィックや各種ログ、エンドポイントの挙動を常時モニタリングし、「いつもと違う動き」に着目して異常を検出します。
具体的には、次のような情報源を組み合わせて分析します。
これらをSIEM(セキュリティ情報・イベント管理)などの基盤で集約し、ルールベース検知と、機械学習による異常検知を組み合わせることで、攻撃の兆候を早期に見つけやすくなります。検知されたイベントはアナリストが精査し、「どのような目的の攻撃だったのか」「どこまで侵入されているのか」といった観点で分析されます。
攻撃を検知した後、防御側は攻撃元や攻撃経路の特定を試みます。IPアドレスやドメイン、使用されたマルウェアの特徴、侵入に悪用された脆弱性などを整理し、攻撃キャンペーンの全体像を把握することが重要です。
ただし、企業として行うべきなのは、自社環境に残された痕跡(ログやマルウェアサンプルなど)をもとにした分析や、外部の脅威インテリジェンスサービスの活用です。攻撃者側のサーバーに侵入して調査するような行為は、多くの国・地域で違法となる可能性が高いため、一般的な企業のアクティブ・ディフェンスの範囲からは外れます。
安全かつ合法的な範囲で攻撃情報を収集し、自社の検知ルールや遮断リスト(ブロックすべきIP・ドメインなど)に反映することで、将来の類似攻撃に備えることができます。
検知・分析の結果をもとに、次のステップである「阻止」と「被害の最小化」に移ります。アクティブ・ディフェンスでは、以下のような対策を組み合わせて被害を抑えます。
また、攻撃者を欺くために、ハニーポットや疑似データを用意し、攻撃の手口や興味の対象を観察する「欺瞞技術」を取り入れるケースもあります。これらは、攻撃者の時間とリソースを浪費させるとともに、追加のインテリジェンスを得る手段としても機能します。
アクティブ・ディフェンスは、一度ルールを設定して終わりではありません。継続的なモニタリングと、インシデント発生時の標準的な対応プロセス(インシデントレスポンス)の確立が欠かせません。
代表的な取り組みとしては、次のようなものがあります。
このように、アクティブ・ディフェンスは「監視 → 検知 → 分析 → 対応 → 改善」のサイクルを回し続ける運用型の取り組みであり、ツールだけで完結するものではありません。
アクティブ・ディフェンスを効果的に導入するためには、まず自社のリスクを把握し、どこまでを「能動的に守る範囲」とするのかを決めることが出発点になります。重要なシステム・データ・業務プロセスを洗い出し、どのような攻撃シナリオが現実的に想定されるかを踏まえて優先順位を付けることが大切です。
その上で、次のような観点から戦略を立てます。
最初から全てをカバーしようとせず、優先度の高い領域から段階的に導入する方が現実的です。
アクティブ・ディフェンスを実践するには、技術的なリソースと組織的な体制の両方が必要です。監視・検知・分析・対応を支える仕組みを整え、誰がどの業務を担うのかを明確にすることが重要です。
代表的なリソース・体制の例として、以下が挙げられます。
限られた人員で運用する場合、すべてを自前で賄おうとするのではなく、マネージドセキュリティサービス(MSS)を組み合わせて「少人数でも回せる運用設計」にすることがポイントです。
アクティブ・ディフェンスを支えるのは、最終的には人材です。ツール導入だけで安心してしまうと、検知されたアラートを正しく解釈できず、肝心なときに対応が遅れてしまうおそれがあります。そのため、最新の攻撃手法や防御技術に関する知識と、ログ・トラフィックを読み解くスキルを持つ人材の育成が欠かせません。
具体的には、次のような取り組みが考えられます。
「一部の専門家だけが頑張る」のではなく、組織全体でセキュリティリテラシーを高めていくことが、アクティブ・ディフェンスを継続可能な体制に育てる鍵となります。
アクティブ・ディフェンスの議論では、「攻撃者に対してどこまで能動的な対抗措置を取ってよいのか」という法的・倫理的な論点がしばしば話題になります。一般企業が実務として取り組むべきアクティブ・ディフェンスは、自社管理下の環境における監視・検知・遮断・隔離・欺瞞などに限定するのが安全です。
攻撃者のサーバーに侵入して破壊行為を行う、データを削除するなどの行為は、多くの場合、不正アクセス禁止法などに抵触しうる危険な行為です。防御側であっても、法的責任を問われる可能性があります。
したがって、次のような点を意識する必要があります。
法的・倫理的なラインをあいまいにしたまま運用を始めてしまうと、後から大きなトラブルにつながるおそれがあります。技術面と同じくらい、ガバナンス面の整備にも目を向けることが重要です。
アクティブ・ディフェンスの最大のメリットは、サイバー攻撃に対する「早期検知」と「被害の局所化」を実現し、防御力を高められることです。侵入を完全にゼロにすることは現実的ではありませんが、「侵入を前提とした前後の動き」を監視し、早い段階で封じ込めることで、業務停止や情報漏えいの規模を抑えやすくなります。
また、インシデントごとに得られた知見をルールや設定に反映していくことで、防御力を継続的に強化できる点もアクティブ・ディフェンスならではの特徴です。
アクティブ・ディフェンスの導入には、監視基盤や人材への投資が必要になりますが、重大インシデント発生時の復旧コストや、長期的な機会損失を抑えられるという意味で、費用対効果が高い投資になりうると言えます。
具体的には、以下のような観点からコスト削減効果が期待できます。
「何も起きなかった」こと自体が効果であるため定量化は難しい側面もありますが、リスクとコストのバランスを考える上で、アクティブ・ディフェンスは有力な選択肢のひとつです。
アクティブ・ディフェンスの取り組みは、顧客やパートナーに対して「情報を大切に扱っている企業である」というメッセージにもなります。とくに、個人情報や機密情報を扱う業種では、セキュリティ対策の水準が取引先選定の条件になるケースも少なくありません。
公表可能な範囲で、自社のセキュリティ体制やインシデント対応方針を情報発信することで、ステークホルダーからの信頼性を高める効果も期待できます。ただし、過度なアピールは逆効果になりかねないため、第三者認証の取得状況や、ポリシー・基本方針の公開など、客観的な情報を中心に伝えるのが現実的です。
一方で、アクティブ・ディフェンスには明確な限界と課題も存在します。どれだけ体制を整えても、全てのサイバー攻撃を完全に防ぐことはできないという前提は変わりません。
主な課題として、次のような点が挙げられます。
これらを踏まえ、アクティブ・ディフェンス単体で全てを解決しようとするのではなく、ゼロトラストや多要素認証、バックアップ・DR対策など、他のセキュリティ施策と組み合わせて全体のバランスを取ることが重要です。
アクティブ・ディフェンスは、サイバー攻撃の脅威が高まる中で注目される「能動的な防御」の考え方です。従来の受動的な防御だけに頼るのではなく、侵入の兆候を早期に検知し、攻撃の広がりを抑え込むための監視・分析・対応の仕組みを整えることで、防御力を一段引き上げることができます。
その実現には、ログやトラフィックの可視化・分析基盤、EDRやXDRといったツール、SOC・CSIRTなどの体制、そしてそれらを運用する人材が必要です。また、法的・倫理的な観点から、自社が取りうるアクティブ・ディフェンスの範囲を明確にしておくことも欠かせません。
アクティブ・ディフェンスは魔法の杖ではありませんが、「攻撃されること」を前提に、被害を最小限に抑えながら事業継続性を高めるための有力なアプローチです。自社のリスクやリソースに合わせて、段階的に導入・強化していくことが、これからのセキュリティ体制づくりの重要なステップになるでしょう。
アクティブ・ディフェンスは、攻撃を受けてから対応するだけでなく、常時の監視や脅威インテリジェンスを通じて侵入の兆候を早期に捉え、能動的に封じ込める点が特徴です。従来の受動的防御を置き換えるのではなく、補完して防御力を高める取り組みだと考えると分かりやすいです。
中小企業でも、監視対象を重要システムに絞ったり、マネージドセキュリティサービスを活用したりすることで、段階的にアクティブ・ディフェンスを導入できます。全てを自社運用で賄うのではなく、外部ベンダーとの役割分担を設計することが現実的です。
代表的なツールとして、ログを集約・分析するSIEM、端末の挙動を監視するEDRやXDR、ネットワークの異常通信を検出するNDR、脆弱性管理ツールなどがあります。自社のリスクと予算に応じて優先度の高いものから導入すると良いです。
SOCやCSIRTは、アクティブ・ディフェンスを実際に運用する組織的な役割を担います。SOCは常時監視と一次対応を行い、CSIRTは重大インシデントの対応や原因分析、再発防止策の立案を担当するのが一般的です。
一般企業が行うべきアクティブ・ディフェンスに、攻撃者のシステムへ侵入して破壊行為を行うような「反撃」は含まれません。そのような行為は法令違反となる可能性が高いため、自社管理下の環境での監視・遮断・隔離・欺瞞に限定するのが安全です。
最初のステップは、自社の重要情報資産と業務プロセスを棚卸しし、現状の監視範囲とログ取得状況を把握することです。そのうえで、優先度が高いシステムからログの可視化と監視ルールの整備を進めると効果的です。
専門人材が不足している場合は、マネージドSOCやマネージドEDRなどの外部サービスを活用しつつ、社内では基本的なインシデント対応フローとエスカレーション体制を整える方法が有効です。並行して、少人数でも継続的に学べる育成計画を立てると良いです。
ゼロトラストは「何も信用しないこと」を前提に認証・認可を厳格化する考え方で、アクティブ・ディフェンスは環境全体を監視しながら異常を検知・対応する運用の考え方です。両者を組み合わせることで、予防と検知・対応の両面から防御力を高められます。
自社システム外への侵入や攻撃者への報復行為は法令違反となる可能性が高く、実施すべきではありません。監視やログ取得についても、個人情報保護や就業規則との整合性を確認し、必要に応じて法務部門や専門家の助言を受けることが重要です。
代表的な指標として、インシデント検知までの平均時間、封じ込め完了までの時間、重大インシデント件数の推移、監視範囲の拡大状況などがあります。これらを定期的に確認し、改善のサイクルを回すことで、アクティブ・ディフェンスの成熟度を把握できます。