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BIMとは? わかりやすく10分で解説

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BIM(Building Information Modeling)とは?

「BIM(Building Information Modeling)」とは、建築・エンジニアリング・建設業界で採用されている設計・建設・運用・メンテナンスを一元管理するプロセスや手法のことです。今回は、BIMの特徴やメリット・デメリット、未来の展望などについて詳しく説明します。

定義と機能

BIMは「コンピュータ上に作成した主に3次元の形状情報に加え、室等の名称・面積、 材料・部材の仕様・性能、仕上げ等、建築物の属性情報を併せ持つ建築物情報モデルを構築するもの」と定義されます(BIM標準ガイドライン, 国土交通省)。BIMを用いれば、建築物の設計・建設・運用・メンテナンスなど、ライフサイクル全体を通じての情報共有・管理が可能です。

BIMの主な機能は、3Dモデル(BIMモデル)の生成です。一般的な3Dモデリングツールと比較して、さらに詳細な情報を組み込み、管理・共有できます。例えば、BIMは建設材料の種類、量、コストなど、建設に関連するさまざまな情報を記録可能です。

BIMの特徴

BIMの最も顕著な特徴は、視覚化した建築物の3Dモデルに、時間(4D)・費用(5D)・持続可能性(6D)を含めた多面的な情報を追加できる点です。

また、BIMで管理する情報は関係者(建築家・エンジニア・施工者・オペレーター)間で共有できるため、プロジェクト全体の効率が向上し、意思決定プロセスを加速できます。これにより、時間とコストの削減、生産性と品質の向上、そしてリスク低減が期待できます。

BIMの採用により、建築物のライフサイクル全体の見通しをはっきりと把握できます。結果的に計画の精度を向上させ、事前に問題を特定・解決することができ、後から変更するためのコストと時間を大幅に節約できます。

BIMの歴史・背景

BIMの歴史と背景を知ることで、BIMがなぜ重要なのか、そして建築業界にどのような影響を及ぼしているかを理解できます。ここでは、BIMが登場した背景や、どのように進化してきたかを簡単に見ていきましょう。

BIMの登場背景

まずBIMの登場背景について掘り下げていきます。BIMは20世紀の終わりごろ、初めて業界で使われるようになったといわれています。その背景には、建設産業の労働生産性の低迷がありました。建築プロジェクトがますます複雑化し、さまざまな情報の一元管理や関係者間での共有が困難となったことが要因であるとされています。

従来の図面ベースの設計では、建築物の形状や構造だけでなく、電気配線や配管などの情報も同時に管理しなければならず、これが大変な作業となっていました。特に大規模なプロジェクトでは、関連する情報が多数存在し、その管理が一層難しくなっていました。

これに対してBIMは、3Dモデルにさまざまな情報を付加することで、建築物の全体像を把握でき、情報の一元管理が可能になりました。BIMの登場により、設計者は建築物のデザインをより忠実に表現できるだけでなく、効率的にプロジェクトを推進できるようになりました。

BIMの進化

次にBIMの進化について見ていきましょう。BIMの発達は、情報技術(IT)の進歩とともに加速しました。初期のBIMは静的な3Dモデリングが中心でしたが、現在では動的で時間の経過に応じた変化を含む4Dモデリングを可能にしました。更にはコストや維持管理情報を追加する5Dモデリングにも対応しています。

また、近年ではクラウド技術の発展により、複数の利害関係者がリアルタイムでBIMデータにアクセスし、共有できるようになりました。設計者・施工者・オーナー・運用者など、建築プロジェクトに関わる全ての関係者が一元的に情報を管理・共有することが可能となり、効果が一層増しています。

このように、BIMはこの20年程度で大きく進化し続けており、建築業界における情報管理のスタンダードとなりつつあります。そして進歩は止まらず、今後も多くの可能性を秘めています。

BIMの役割と活用例

BIMは建築、設備、土木など建設業界全般で利用されていますが、ここでは特に建築分野に焦点を当て、その役割と具体的な応用例について詳しく見ていきましょう。

建築分野でのBIMの利用

まずはBIMが持っている建築分野における役割から見ていきましょう。BIMの最大の特徴はその「3Dモデル」を用いて建物を可視化し、その情報を共有することです。これにより、計画から設計・施工・運用・メンテナンスに至るまでのライフサイクル全般を通じて情報の共有ができます。

さらに、BIMは建物の構造や配管、電気設備まで詳細にモデル化できるため、設計者は実際の建設が始まる前にさまざまなシミュレーションができます。これにより、建築物の性能評価やエネルギー消費の予測、建設工程のシミュレーションなどが可能になり、問題の予防や業務効率の向上が期待できます。

事例:BIMを活用した建物プロジェクト

続いて、具体的な事例を通じてBIMの活用の実態を見ていきましょう。有名な例としてはロンドンのヒースロー空港が挙げられます。

このプロジェクトでは、BIMを利用してあらゆる情報を一元化し、設計プロセスを効率化しました。建築物の設計図、設備の細部までを詳細に再現でき、またその情報を全ての関係者が共有できました。結果、施工の際の問題や遅延を大幅に減らすことができ、プロジェクトを成功に導く一助となりました。

さらに、運用フェーズではメンテナンス情報などをリアルタイムで反映できるため、設備の状態を常に把握し、必要に応じて迅速な修繕ができます。これにより、維持管理の効率化と、長期的な運用コストの削減が実現されました。

このように、BIMはその高度な情報共有と可視化の能力を活かして設計者・施工者・運用者に大きな利益をもたらします。そして、その活用の可能性は建築分野だけでなく広範な建設業界に広がっています。

BIMのメリット・デメリット

建設業界においては各種プロジェクトや業務プロセスの効率向上を求められる中、BIMの存在は重要な役割を果たしています。しかしながら、全てがメリットだけというわけではなく、デメリットも存在します。ここでは、BIMのメリットとデメリットについて詳しく解説します。

BIMのメリット

最初に、BIMのメリットについて見ていきましょう。

第1のメリットとして、BIMは3D情報を含む全ての建物情報を一元管理できるという利点が挙げられます。これにより、設計変更や施工の進行状況など、リアルタイムでの建物情報の共有でき、情報の齟齬や誤解を極力減らし、業務の効率化を実現できます。

第2のメリットは、コストとスケジュール管理の効率化です。BIMでは、建物のモデル化と同時に、工期やコストに関する情報も紐付けられるため、事前に精密な工期計画やコスト予測ができます。

第3のメリットは、設計エラーの早期発見と改善です。BIMを使用すると、3Dモデル上で施工時の問題点や設計ミスをあらかじめシミュレートすることができます。これにより、現場で発生するトラブルを最小限に抑えられます。

BIMのデメリット

続いて、BIMのデメリットについて考察します。

第1のデメリットは、導入初期のコストや人材教育が必要となる点です。BIMを効果的に活用するためには、対応ソフトウェアの導入や操作方法の習得が必要であり、時間や費用が掛かかります。

第2のデメリットとしては、全ての情報が一元化されることによる、情報の管理やセキュリティの問題が挙げられます。プロジェクトに関わる全ての情報が1つのモデルに集約されるので、その情報の取扱いやセキュリティには十分な配慮が必要です。

第3のデメリットは、既存の施設に対するBIMの適用が難しい点です。新築の場合は設計段階からBIMの使用が可能ですが、既存の建物の場合、詳細な情報を取得してBIMモデルを作成するのは困難である可能性があります。

これらのメリットとデメリットを理解し、BIMを適切に利用することが、より効果的な建築物の開発に繋がると言えるでしょう。

BIMと他のバーチャルデザイン手法の比較

建築設計や情報モデリングといった分野において、技術の進化はとてつもなく、その使い方や目的に基づいてさまざまな手法が存在します。このセクションではBIMと現在広く利用されている他の主要なバーチャルデザイン手法、具体的にはCADと3Dプリンティングとの比較を中心に説明します。

CADとの比較

まずに、BIMとCADの違いについて見てみましょう。CAD(Computer-Aided Design)は、建築設計や製品設計などの分野で使用されるコンピュータ支援設計ソフトウェアで、2D図面の作成や、3Dモデルの構築に使われます。

一方、BIMはその名前が示す通り"情報"を"モデリング"するための手段であり、3Dのビジュアルだけでなくタイムラインやコストなどのデータも含まれる複雑さが特徴です。さらに、BIMでは建物全体のモデルを作り、全ての関連情報が一箇所にまとめられるため、設計段階から施工、そしてメンテナンスフェーズに至るまで一貫したデータの管理を可能にします。

この点において、CADよりもBIMの方が視覚的な情報だけでなく、実装や運用に関わる詳細な情報を提供するため、より現実的なシミュレーションと予測が可能となります。

3Dプリンティングとの比較

次に、BIMと3Dプリンティングにはどのような違いがあるのか説明します。3Dプリンティングは、デジタルモデルを基にして物理的なオブジェクトを層状に生成する技術であり、主に製品のプロトタイピングや小規模な製造に使用されることが多いです。

BIMと3Dプリンティングとを比較すると、3Dプリンティングは製品形状の直観的な理解に重点を置いた、迅速なプロトタイプの製造が主な目的です。一方、BIMはその3Dモデルの中にさまざまな情報を詰め込むことで、設計の変化に応じてコストや時間、資源の予測が可能なため、より広範に計画・実装・評価のフェーズをカバーできます。

これらのバーチャルデザイン手法がそれぞれ何に重きを置いているかを理解することで、その特性を最大限に活用しながらプロジェクトに適切な手法を選択できます。

BIMの現状と未来

ここでは、近年のBIMの動向、そしてこれからの展望について掘り下げていきます。

BIMの日本における現状

現在、日本でのBIMの利用は、建設業界内で着実に増加しています。建築プロジェクトにおける設計や施工の段階でのBIMの活用が一般化し、大手ゼネコンでは多くのプロジェクトでBIMが導入されています。これにより、設計情報がまとめられて効率的に利用でき、設計図面からの情報取得や見積もり作成等の工程が大幅に短縮されています。

しかし、全体としてみると、BIMを導入している企業はまだ一部だと言えます。特に中小企業では導入率が低く、その原因としてはBIMソフトウェアの導入コストやスキルの育成が課題となっています。

BIMの未来の展望

BIMの技術は日々進化を続けており、AIIoTの技術と組み合わせることで、より詳細な情報を提供し、建築物全体のライフサイクルをサポートする道具としての可能性が広がっています。

また、データの共有と連携を可能にする"オープンBIM"の取り組みが広まることで、さまざまなソフトウェア間でのデータの互換性が向上し、より一層の効率化と品質向上が期待されています。

BIMの普及に向けた課題と解決策

BIMをより広く普及させるためには、まずは導入コストの問題を解消する必要があります。ソフトウェアのライセンス料が高いことや、適切な教育・トレーニングの費用がかかるため、一部の大企業だけが利用でき、中小企業では導入が難しいのが現状です。

また、BIMはただソフトウェアを導入するだけでなく、それを効果的に活用するための知識やスキルが求められます。したがって、人材育成や教育の場でのBIMの教育も重要な課題となっています。

これらの課題を解決する一つの解決策は、政策の推進です。BIM導入を後押しする政策を活用し、補助金によるライセンス費用やコーディネーター等人件費の負担を低減できます。。

また、BIMの普及は建設業界だけの課題ではなく、社会全体の効率性と持続可能性を向上させるための重要なツールであるとの認識を広めることも必要です。

BIM関連ソフトウェアとスキル

BIMに関係するソフトウェアと必要な技術にはさまざまなものがあります。ここでは主要ソフトウェアと需要の高まっているスキルについてご紹介します。

代表的なBIMソフトウェアの紹介

現在、市場で広く利用されているBIM関連ソフトウェアは、AutodeskのRevit、GraphisoftのArchiCAD、Bentley SystemsのMicroStationなどがあります。AutodeskのRevitは建築、構造、電気配線などさまざまなBIMデータを扱えるのが特長で、世界的に広く使用されています。

一方、GraphisoftのArchiCADは直感的な設計と視覚化機能を備えており、建築家やデザイナーから支持されています。そしてBentleyのMicroStationはインフラ関連の大規模プロジェクトで広く採用され、高度な3Dモデリングと図面生産機能が魅力です。

BIM業界で求められるスキルとは

BIM業界での必須スキルには3DモデリングスキルBIMソフトウェアの操作スキル、そしてコミュニケーションスキルが挙げられます。さらに、建築やエンジニアリングの専門知識、プロジェクトマネジメントの経験が求められることもあります。

先ほど挙げたソフトウェアの使い方を習得するだけでなく、それらを使って複雑な3Dモデルを作成したり、現実的なビジュアライゼーションを作り出したりするためのスキルが求められます。これらは、設計から建築までのプロセス全体を効率的かつ正確に進行するために必要です。

そしてなんといっても、BIMはチームで実施される作業が多いため、チームメンバーや他の関係者と効果的にコミュニケーションをとる能力も必須です。

BIMはただソフトウェアを使うだけでなく、それらを駆使して効果的なデザインを作成するスキルや、関係者と連携するコミュニケーションのスキルが求められます。今後、この領域はますますの発展を遂げるでしょう。

まとめ

BIMの導入は、建築・設計業界に革新的な変化をもたらしました。 BIMは、建築物のライフサイクル全体を通じて情報を共有し、効率化を図ることで、将来的なコスト削減や時間の節約、そして設計ミスの削減に大いに貢献します。

また、BIMは従来の3Dモデリング技術よりも進化した手法です。単にデジタル上で建物を描くだけでなく、それぞれの建築要素に、その性能・寸法・コストなどの詳細な情報を含む点で、他の一般的デザインツールとは一線を画しています。

もちろん、BIMの全面的な理解と実際の応用には一定の専門的スキルと時間を必要としますが、将来の建築業界で必要不可欠なものになるでしょう。設計者・エンジニア・コンストラクションマネージャーは全て、進化するBIMに適応していく必要があります。

日本におけるBIMの普及はまだ進行中で、全ての建築プロジェクトがBIMを利用しているわけではありません。しかし、その先進的な機能と広範な利点を鑑みれば、近い未来にBIMがデファクトスタンダードとなることは間違いないでしょう。

記事を書いた人

ソリトンシステムズ・マーケティングチーム