建設現場では、監督員が現地に赴いて行う「段階確認」「材料確認」「立会」が欠かせません。一方で、人手不足や移動負担が重なり、従来のやり方だけでは回らない場面も増えています。そこで注目されているのが、映像と音声を使って現場確認をリモートで行う「遠隔臨場」です。
この記事では、遠隔臨場の概要と仕組み、導入によって得られるメリット、導入時に注意すべきポイント(費用・通信環境・セキュリティ)を、実務で判断できる粒度まで整理して解説します。
遠隔臨場とは、監督員が現場に赴かず、ウェアラブルカメラなどから送られてくる映像と音声によって臨場(現地での確認行為)を実現する取り組みです。段階確認・材料確認・立会を、Web会議システム等を介して遠隔で実施することを想定します。
遠隔臨場は便利ですが、何でも置き換えられるわけではありません。導入を検討する際は、まず「遠隔で成立する確認」と「現地でなければ成立しない確認」を切り分けることが重要です。
施工状況の目視確認(出来形の大枠確認、施工手順の確認)、材料・製品のラベル確認、現場の状況共有(危険箇所の指摘、段取りの確認)などは、映像と音声で成立しやすい領域です。
計測器による精密確認、触れて確かめる必要がある品質確認、周囲環境(騒音・振動・臭気など)を含む判断、電波状況が厳しい場所での長時間立会などは、遠隔だけでは難しいことがあります。遠隔臨場は「置き換え」ではなく「使い分け」として設計するのが現実的です。
遠隔臨場は、国土交通省を中心に公共工事での活用が進められてきました。背景には、建設業界のDX推進に加え、働き方改革や生産性向上(移動時間の削減、監督員・受注者双方の負担軽減)への期待があります。
ここで重要なのは、「遠隔臨場=便利なオンライン会議」ではない、という点です。公共工事では、確認行為の品質・記録性・公平性を確保しながら運用する必要があります。そのため、現場側での機器運用、記録の残し方、誰がいつ何を確認したかの整理など、運用設計が導入効果を左右します。
遠隔臨場は、現場の施工者がウェアラブルカメラやスマートグラス等で現場状況を撮影・配信し、監督員がPCやタブレットで映像・音声を確認して指示や確認を行う仕組みです。ポイントは「現場側が撮る」だけでなく、「監督側が見たいものを、見たいタイミングで、見える形で共有できる」状態を作ることです。
撮影・配信・通話が行えるデバイスとしてスマートフォンが利用されるケースもありますが、スマートフォンは手がふさがりやすく、作業安全と相性が悪い場面があります。そのため、体に装着できるウェアラブルカメラや、眼鏡型のカメラであるスマートグラスが選ばれることもあります。
ウェアラブルカメラやスマートグラスであれば、両手を自由に使いやすくなります。特にスマートグラスは施工者の目線に近い映像が共有されるため、監督員が状況を把握しやすい場面もあるでしょう。一方で、現場の動きが激しい場合はブレやすく、監督側が「何を見ているか分からない」状態になりがちです。導入時は、装着位置・撮影角度・ズーム操作の可否なども含めて選定します。
遠隔臨場はリアルタイム配信だけでなく、録画しておき後でチェックする運用も可能です。ここでの判断材料は、「リアルタイムが必須か」「記録が必須か」「記録は誰がどこまで残すか」です。
たとえば、監督員がその場で指示や是正を行う必要があるならリアルタイムが向きます。一方で、品質確認の裏付けとして「確認した事実」を残したい場合は、録画・静止画・メモ(時刻・確認対象・結論)を含めた記録設計が重要になります。
遠隔臨場を導入することで得られるメリットとしては、次のようなものが挙げられます。
遠隔臨場の価値は「オンラインで現場が見える」こと自体ではなく、「移動という制約を外して、確認の段取りを組み替えられる」点にあります。たとえば、従来は移動の都合で“まとめて短時間で見る”しかなかった確認を、“必要なタイミングで小分けに見る”形にできると、確認漏れや無理な段取りが減りやすくなります。
また、通常の臨場では、現場に赴ける日程が限られるため短時間で確認を進めなければならない場面もあります。限られた時間で対応していると、人的ミスや確認漏れが起きるリスクも高まります。遠隔臨場では確認の段取りを柔軟に組みやすく、結果として安全性の向上に寄与することも考えられます。
便利で業務を効率化できる遠隔臨場ですが、導入の際にはいくつか注意すべき点があります。ここは「導入できるか」だけでなく「運用が回るか」を判断するパートです。
遠隔臨場を実現するために、ウェアラブルカメラやスマートグラス等の機器、配信に必要なアプリ/サービス、通信回線(モバイル回線やルーター等)が必要になります。そのため、初期導入費用がかかる点は事前に見込んでおく必要があります。
また、費用は「買って終わり」ではありません。紛失・破損への備え、端末の予備、バッテリーや周辺機器、利用アカウントの追加、現場入替に伴う設定作業など、運用費用も発生します。導入判断では、次の観点で整理すると見積もりのズレが減ります。
遠隔臨場で課題として挙がりやすいのが通信環境です。山間部など電波が届きにくい場所が現場になることもあり、映像に遅延が発生したり、音声が途切れて意思疎通が難しくなったりするケースもあります。
ここで大事なのは、「電波が弱い=使えない」と決めつけることではなく、現場条件に合わせて“成立させる前提”を作ることです。具体的には、次のような設計判断が効いてきます。
導入前には、実際の現場に近い条件で“通信テスト”を行い、遅延や途切れがどの程度業務に影響するかを確認しておくことが重要です。通信が不安定なまま本番運用に入ると、確認品質が落ちるだけでなく、現場側の負担(やり直し)が増えて逆効果になりかねません。
遠隔臨場はインターネットを通じて映像・音声を扱うため、セキュリティ対策が欠かせません。第三者が不正アクセスできないように、利用するサービスやアカウント管理、認証、権限設計などを含めて対策することが重要です。
特に遠隔臨場は「現場の映像」が扱われるため、工事内容や設備情報、入退場の様子など、外部に出ると困る情報が映り込む可能性があります。セキュリティは“ネットワークの暗号化”だけでは不十分で、運用の穴を塞ぐ必要があります。
また、ネットワークが使えなくなると業務の継続に影響が出ます。セキュリティだけでなく、通信断やサービス停止に備えた“継続性”も含めて検討しましょう。
遠隔臨場は、機器を用意しただけでは定着しません。現場側・監督側が迷わず動けるように、最低限の運用ルールを決めることが導入効果を左右します。
こうしたルールがないと、「撮れているが確認に使えない」「記録が残らず後で説明できない」「誰が見たか曖昧で揉める」といった運用事故につながりやすくなります。導入時は“最初から完璧”を狙うより、まずは対象工程を絞って運用を回し、現場に合う型を作ることが現実的です。
遠隔臨場は、導入の意志だけでなく「現場の条件」と「運用の型」が揃って初めて効果が出ます。進め方としては、次の順番が安全です。
「まず機器を買う」から始めると、現場条件に合わずに使われなくなることがあります。遠隔臨場は現場の負担を減らす取り組みなので、現場に“追加の面倒”として受け取られないよう、最初の設計でつまずきを潰すことが重要です。
遠隔臨場とは、監督員が直接現場に赴かず、ウェアラブルカメラなどを利用して映像と音声で臨場を実現する取り組みです。公共工事をはじめとして導入が進み、移動負担の軽減や現場管理の効率化など、多くの効果が期待できます。
一方で、導入費用、通信環境、セキュリティ、運用ルールといった前提が揃わないと、かえって現場負担が増えることもあります。遠隔臨場を“便利な道具”として定着させるために、現場条件に合わせた設計と、小さく試して型を作る進め方で、導入を検討してみてはいかがでしょうか。
遠隔臨場とは、ウェアラブルカメラなどで撮影した映像と音声をWeb会議システム等で共有し、監督員が現場に赴かずに段階確認・材料確認・立会を行う取り組みです。
人手不足や移動負担の増加により、現地立会中心の運用だけでは回りにくい場面が増えているためです。DX推進や働き方改革の観点からも、効率化の手段として注目されています。
施工者がウェアラブルカメラ等で現場状況を撮影・配信し、監督員がPCやタブレットで映像・音声を確認して指示や確認を行う仕組みです。
移動や待機の負担軽減、確認日程の調整がしやすくなることにより、現場管理の効率化が期待できます。結果として、時間やコストの面で改善につながる可能性があります。
移動負担の軽減による人手不足の緩和、密の回避、移動コストの削減、安全配慮の強化、記録を残しやすくなる点などが挙げられます。
初期導入費用と運用費用、通信環境の整備、セキュリティ対策、運用ルールの整備が重要です。通信が不安定だと映像遅延や音声途切れが起き、確認品質に影響する可能性があります。
段階確認・材料確認・立会など、従来は監督員が現地で実施していた確認業務を、映像と音声で遠隔実施したい場面で活用されます。
遠隔臨場は、段階確認・材料確認・立会などの確認行為を映像と音声で遠隔実施する取り組みです。遠隔監視は、設備などの稼働状況を継続的にモニタリングする用途で使われることが多い点が異なります。
現場の通信条件、対象とする確認業務、機器とサービスの運用設計、アカウントや権限を含むセキュリティ、通信断時の代替手段までを総合的に見て判断することが重要です。
遠隔臨場は効率化や働き方の選択肢を広げる有効な手段になり得ます。一方で費用・通信・セキュリティの前提があるため、現場条件に合わせた設計を行ったうえで導入を検討することが現実的です。