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金融DXとは? わかりやすく10分で解説

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目次

金融DXとは何か

この記事では、金融DXについて解説します。金融DXを理解するには、まず「DX」という言葉が何を指すのかを押さえておくことが大切です。

DXとは

DXは、デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)の略です。よく「デジタル化」と混同されますが、DXはそれより広い概念です。

たとえば、紙の申込書をWebフォームに置き換えるのは「デジタル化」です。一方でDXは、デジタル技術やデータを活用して、業務の進め方顧客との接点、場合によっては提供価値やビジネスモデルそのものを見直し、より良い形に変えていく取り組みを指します。

DXが進むと、顧客体験(カスタマーエクスペリエンス)の改善、新しいサービスの創出、業務の効率化などにつながります。具体的には、AI(人工知能)、クラウド、データ分析、API連携といった技術を活用し、早く・正確に・わかりやすくサービスを届けることが目標になります。

ただし、DXはツールを入れれば終わりではありません。現場の仕事の流れやルール、担当の役割分担、意思決定のしかたまで含めて見直す必要があります。つまり、DXは「技術の導入」ではなく、組織としての変化をともなう取り組みです。

金融業界におけるDXの意味

金融DXとは、金融機関や金融サービスがDXを進めることです。言い換えると、銀行・証券・保険などの分野で、デジタル技術やデータを活用し、サービスの出し方業務の進め方を変えていく取り組みを指します。

金融DXでは、AI、データ分析、クラウド、ブロックチェーンなどの技術が話題になりがちですが、目的は技術の採用そのものではありません。たとえば、次のような変化を通じて、金融サービスの価値を高めることが狙いになります。

  • 手続きのオンライン化による、申込・契約・照会の負担軽減
  • データ活用による、顧客に合った提案やサポートの実現
  • 不正利用の検知や審査高度化など、リスク管理の改善
  • 業務の標準化・自動化による、コスト削減と品質向上

こうした改革が積み重なることで、金融業界は「窓口中心」「書類中心」から、より柔軟でスピーディーな形へ移行しつつあります。

金融DXの背景

金融DXが求められる背景には、技術の進化だけでなく、消費者の行動変化、社会環境の変化が重なっています。ここでは、代表的な背景を整理します。

テクノロジーの進化の影響

テクノロジーの進化により、金融サービスの“当たり前”が変わりました。スマートフォンの普及やクラウドの一般化により、個人も企業も「いつでも・どこでも」手続きをしたいという期待を持つようになっています。

さらに、AIによる自動応答や不正検知、データ分析による与信モデルの改善など、従来は人手中心だった業務でも、デジタルの活用余地が大きく広がりました。こうした技術の進化が、金融DXの流れを強く後押ししています。

消費者ニーズの変化

消費者は、金融サービスにもわかりやすさ早さを求めるようになりました。たとえば、手続きが複雑で時間がかかる、本人確認が何度も必要、問い合わせがつながらない――こうした体験は、いまの利用者にとって大きなストレスになります。

また、資産形成や家計管理の関心が高まる中で、個々の状況に合った情報提供やサポート(パーソナライズ)のニーズも強まっています。そのためには、データを活用して顧客理解を深め、サービスにつなげる仕組みが欠かせません。

コロナ禍と金融DX

新型コロナウイルス(COVID-19)は、金融DXを加速させた要因のひとつです。対面を前提としていた手続きが難しくなり、非接触オンライン完結へのニーズが一気に高まりました。

その結果、DXは「便利にするため」だけでなく、業務継続(BCP)サービスの提供体制を守るための重要なテーマとして位置づけられるようになりました。

日本における金融DXの現状

日本の金融業界は、制度や規制、社会的責任の大きさもあり、変化のスピードが緩やかに見えることがあります。ただし実際には、スマホ普及やキャッシュレス拡大を背景に、デジタル化とDXは着実に進んでいます。

金融業界におけるデジタル化の進むスピード

日本ではインターネット利用が一般化し、モバイルバンキングやネット証券など、デジタルで完結するサービスが広がっています。利用者側も「来店して手続きする」ことを当然とは思わなくなりつつあり、金融機関はこの変化に対応する必要があります。

一方で、金融サービスは安全性・正確性が前提です。そのため、単にスピードを上げるだけではなく、本人確認、取引の正当性、内部統制などを担保しながら、利用しやすさも高める――この両立が重要になります。

主要な金融機関におけるDXの進め方

主要な金融機関では、DXを「システム刷新」だけで終わらせず、顧客接点や業務運用まで含めて見直す動きが増えています。例としては、次のような取り組みが挙げられます。

  • チャットやアプリを中心にした顧客対応(問い合わせの導線改善)
  • 手続きのオンライン化(口座開設、各種申込、住所変更など)
  • データ分析による、提案やリスク評価の精度向上
  • API連携などによる、外部サービスとの連動

こうした取り組みは、便利さだけでなく、業務のムダや属人化の解消にもつながります。結果として、現場が本当に必要な仕事に時間を使えるようになることが、DXの成果のひとつです。

キャッシュレス化への取組み

キャッシュレス化は、金融DXを考えるうえで外せないテーマです。スマホ決済、QRコード決済、タッチ決済などが普及し、以前よりも「現金以外で払う」場面が増えています。

キャッシュレスの広がりは、決済手段の変化にとどまりません。決済データが蓄積されることで、利用者の利便性向上や、加盟店側の業務改善、さらには新しい金融サービスの検討にもつながっていきます。

金融DXにおけるフィンテックの活用

金融DXを語るときに欠かせないのが、フィンテック(FinTech)です。金融機関単体では実現しにくかった体験を、技術と発想で形にしてきた存在とも言えます。

フィンテックとは

フィンテックとは、Financial Technologyの略で、金融とテクノロジーを組み合わせたサービス全般を指します。決済、送金、資産運用、融資、会計連携など、領域は幅広いです。

フィンテックの普及の影響

フィンテックの普及により、金融サービスは「営業時間に窓口で使うもの」から「スマホでいつでも使えるもの」へ変わりました。時間や場所に縛られずに取引や管理ができることは、利用者にとって大きな価値です。

また、利用のハードルが下がることで、これまで金融サービスを使いにくかった層にも、新しい選択肢が広がりやすくなります。

フィンテック企業と金融機関の協業

最近は、金融機関が新興のフィンテック企業と協業するケースが増えています。フィンテック企業はスピード感を持ってサービスを作りやすい一方で、金融機関は顧客基盤、信頼、運用ノウハウを持っています。両者の強みを組み合わせることで、より実用的なサービスを作りやすくなります。

金融DXは「全部を自社で作る」よりも、「役割分担しながら価値を出す」方向に進みやすい分野です。

顧客エンゲージメントの向上への取組み

デジタル化が進むほど、顧客との接点は“対面”から“画面”へ移ります。だからこそ、アプリの導線、説明のわかりやすさ、問い合わせのしやすさなど、体験の質が重要になります。

また、データを活用して顧客理解を深められる点も、デジタルの強みです。たとえば、必要なタイミングで役立つ情報を届けたり、状況に合った提案をしたりする取り組みは、顧客エンゲージメントの向上につながります。

金融DXにおける課題と可能性

金融DXには大きな可能性がありますが、同時に課題もはっきりしています。ここでは、特に重要な論点を整理します。

デジタル化によるリスクと対策

最も大きな課題のひとつが、セキュリティです。金融は個人情報や資産を扱うため、サイバー攻撃、不正送金、なりすましなどのリスクが常につきまといます。さらに、サービスがオンライン中心になるほど、障害や停止が与える影響も大きくなります。

そのため金融DXでは、利便性の向上と同時に、本人確認、アクセス制御、ログ管理、監視、運用ルールの整備など、複数の対策を組み合わせて“守り”を固める必要があります。

金融業のセキュリティ対策についての課題と対策は別のコラムで詳しくご紹介しています。
金融業のセキュリティ対策で把握しておきたい課題と対策

次世代金融サービスへの期待

一方で、技術の進化は次世代の金融サービスの可能性を広げます。AIやデータ分析を活用すれば、問い合わせ対応や審査、リスク評価などの業務を効率化しつつ、顧客体験の質を上げることもできます。

また、金融サービスは単体で完結するよりも、生活や事業活動の中に自然に組み込まれる形へ進みやすい分野です。だからこそ、金融DXは新しい価値の“入口”になり得ます。その実現には、継続的な投資と、現場の運用に落とし込む粘り強さが欠かせません。

まとめ

金融DXは、金融サービスや金融業務の提供方法を、デジタル技術とデータの活用によって見直し、より良い形へ変えていく取り組みです。背景には、技術の進化、消費者ニーズの変化、コロナ禍によるオンライン化の加速があります。

フィンテック企業との協業やキャッシュレスの進展などにより、金融DXは今後も進むと考えられます。一方で、金融は安全性と信頼が前提です。セキュリティ、プライバシー、運用の安定性といった課題を無視しては前に進めません。

課題と向き合いながら、利用者にとって「わかりやすく、安心して使える」サービスにしていくこと。これが、金融DXが目指す次のステージと言えるでしょう。

Q.金融DXとは何ですか?

金融機関や金融サービスがデジタル技術とデータを活用し、サービスの出し方や業務の進め方を見直して価値を高めていく取り組みです。

Q.DXとデジタル化は何が違いますか?

デジタル化は紙を電子に置き換えるなどの“形の変更”が中心です。DXは、データや技術を使って業務や顧客体験、場合によってはビジネスモデルまで変えていく取り組みです。

Q.金融DXが進む背景は何ですか?

技術の進化(スマホ・クラウド・AIなど)、消費者の「いつでもどこでも使いたい」ニーズの強まり、コロナ禍による非接触・オンライン化の加速などが背景にあります。

Q.金融DXで期待される効果は何ですか?

手続きのオンライン化による利便性向上、データ活用による提案の改善、不正対策や審査の高度化、業務の自動化・標準化による効率化などが期待されます。

Q.キャッシュレス化は金融DXと関係がありますか?

関係があります。決済がデジタル化することで利便性が上がるだけでなく、決済データを活用した新しいサービス検討や業務改善にもつながりやすくなります。

Q.フィンテックとは何ですか?

金融(Finance)とテクノロジー(Technology)を組み合わせたサービス全般のことです。決済、送金、資産運用、融資、会計連携など幅広い領域があります。

Q.なぜ金融機関はフィンテック企業と協業するのですか?

フィンテック企業はスピード感のある開発が得意で、金融機関は顧客基盤や信頼、運用ノウハウを持っています。強みを組み合わせることで実用的なサービスを作りやすくなります。

Q.金融DXで一番大きな課題は何ですか?

セキュリティと運用の安定性です。個人情報や資産を扱うため、不正利用やサイバー攻撃への備え、障害時の影響を最小化する設計が欠かせません。

Q.金融DXはツール導入だけで進みますか?

進みにくいです。業務の流れやルール、役割分担、教育、運用体制まで含めて見直し、現場で回る形にすることが重要です。

Q.金融DXは今後どうなりますか?

オンライン化や協業はさらに進むと考えられます。一方で、安心して使えることが前提なので、利便性とセキュリティを両立しながら、体験の質を上げていく方向がより重要になります。

記事を書いた人

ソリトンシステムズ・マーケティングチーム