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Hotspot 2.0とは? わかりやすく10分で解説

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目次

公衆Wi-Fiは「SSIDを選んで、パスワードや利用規約を入力して……」という手続きが当たり前でした。しかし端末と利用者が増えた今、その“ひと手間”が混雑・誤接続・セキュリティ不安を増幅させています。Hotspot 2.0(Passpoint)は、この接続体験を自動化しつつ、企業ネットワーク並みの認証と暗号化を公衆Wi-Fi側でも実現するための枠組みです。この記事では、仕組み・セキュリティ・導入運用の勘所を押さえ、どんな場所で価値が出るかを判断できるようにします。

Hotspot 2.0とは

Hotspot 2.0は、公衆Wi-Fiなどのネットワークへ安全に、なめらかに接続するための技術仕様です。端末が周囲のアクセスポイント(AP)の情報を取得し、利用条件に合うネットワークを選別したうえで、802.1X/EAPによる認証で接続します。結果として、利用者はSSID選択や手入力に頼らず、条件を満たすネットワークへ自動的につながりやすくなります。

なお、Hotspot 2.0はWi-Fi Allianceの認証プログラムであるPasspointと一体で語られることが多く、実務上は「Passpoint対応=Hotspot 2.0対応」と理解して差し支えない場面が多いです(厳密には、Passpointは相互接続性や運用要件を含めた“認証”の枠組み、Hotspot 2.0はその技術仕様という位置づけです)。

Hotspot 2.0で何が変わるか

SSID選択から条件選択へ

従来の公衆Wi-Fiは、利用者が見える情報の中心がSSIDでした。しかしSSIDだけでは「運営者は誰か」「どの認証方式か」「課金や利用条件は何か」を十分に判断できません。Hotspot 2.0では、端末がAPから事業者情報や提供条件を取得し、接続前に評価してからネットワークを選びます。これにより、利用者の操作を減らしつつ、意図しないネットワークへの接続リスクを下げやすくなります。

接続の自動化と継続性

Hotspot 2.0の狙いは「一度設定したら、条件が合う場所で自動的につながる」体験です。駅・商業施設・空港のようにAPが多数ある環境でも、端末側は登録済みの事業者(または提携事業者)の条件に合うAPを選び、接続し直す手間を減らせます。

ただし「常に途切れない」「どこでも必ずつながる」といった表現はできません。実際の挙動は、端末OSの実装、プロファイル(設定情報)、電波状況、AP側の設計(帯域・収容・認証方式)に左右されます。運用設計では“体験を安定させる条件”を明確にし、期待値をそろえることが重要です。

Hotspot 2.0の仕組み

802.11uとANQPによる事前情報取得

Hotspot 2.0の中核の一つは、IEEE 802.11uを利用した事前情報のやり取りです。端末は未接続の状態でも、APに対してネットワークの提供者情報や利用条件などを問い合わせ、候補を評価できます。ここで使われる代表的な仕組みがANQP(Access Network Query Protocol)です。

この“接続前の評価”があることで、端末は「とりあえず接続してから認証画面を見る」のではなく、条件に合うネットワークを選びやすくなります。公衆Wi-Fiで起きがちな、誤接続・誘導ポータルの混乱・接続試行の渋滞を抑える狙いがあります。

802.1X/EAPでの認証と暗号化

Hotspot 2.0は「パスワード不要」を強調されがちですが、正確には「手入力に依存しない」が本質です。認証は802.1X/EAPを前提にし、暗号化はWPA2-Enterprise / WPA3-Enterpriseといったエンタープライズ向けの方式が中心になります。典型的には、AP(認証要求の中継)とRADIUS(認証サーバ)が連携し、EAPで利用者や端末を認証します。

EAPの方式は複数あり、たとえば証明書を用いるEAP-TLS、ID/パスワードをトンネル化して使うEAP-TTLS、PEAPなどが代表的です。どの方式を選ぶかで、運用負荷(証明書配布の要否)やセキュリティ強度、端末互換性が変わります。

Passpointが担う運用要件

技術仕様だけでは、端末ごとの相性や運用のばらつきが残ります。Passpointは、Hotspot 2.0を“実際に使える形”に整えるための認証・運用要件の役割を担います。提供者情報の扱い、認証方式の整合、端末が期待通りに振る舞うための要件が整理されることで、利用者体験の再現性が上がります。

セキュリティの考え方

オープンWi-Fiの課題をどう減らすか

公衆Wi-Fiで問題になりやすいのは、(1)通信の盗聴、(2)偽AP(なりすましSSID)への誤接続、(3)ポータル誘導によるフィッシング、(4)暗号化の不備や設定ミスです。Hotspot 2.0は、802.1X/EAPとエンタープライズ暗号を軸にすることで、少なくとも“暗号化なしでつなぐ”状態を避けやすくし、利用者の手作業を減らすことで誤接続の余地も減らします。

それでも残るリスクと運用上の注意

Hotspot 2.0は万能ではありません。たとえば、端末側のプロファイルが不正に書き換えられれば、意図しないネットワークへ誘導される可能性があります。また、認証は強くても、接続後の通信がアプリ側で適切にTLSを使っていなければ、サービス利用時のリスクは残ります。

運用では、(1)プロファイル配布の信頼性(公式配布経路、MDM、証明書管理)、(2)RADIUSログによる監視と異常検知、(3)AP設定の標準化(暗号・EAP方式・証明書チェーン)をセットで考える必要があります。「仕組みを入れたから安全」ではなく、「仕組みを使って安全を保ちやすくする」という位置づけです。

導入と運用のポイント

提供側に必要な要素

提供側(公衆Wi-Fi運営者・事業者)がHotspot 2.0を成立させるには、主に次の要素が必要になります。

  • Passpoint/Hotspot 2.0対応のAP/コントローラ(802.11u/ANQP等に対応した設定)
  • 802.1X認証基盤(RADIUS)(冗長化やログ設計を含む)
  • クレデンシャル(証明書、SIM/加入者情報、ID/パスワードなど)と発行・失効・更新の運用
  • 端末プロファイル配布(Web配布、アプリ、MDM、事業者連携の仕組み)
  • 提携を行う場合はローミング/相互接続の設計(識別子、課金、ポリシー、監査)

コストはAP更改だけでは終わりません。認証基盤とクレデンシャル運用まで含めて“継続費”が発生します。逆に言えば、ここを設計できれば、利用者体験とセキュリティの両立が実現しやすくなります。

利用者側で必要になる設定

利用者側は「何もしなくてよい」と表現されがちですが、初期状態ではプロファイル(事業者の設定情報)が必要になるケースが一般的です。配布されたプロファイルにより、端末はどの事業者のネットワークを優先するか、どの認証方式を使うかを理解し、自動接続が可能になります。

企業や学校のように管理端末が多い環境では、MDMでの一括配布が現実的です。公衆Wi-Fiの提供であれば、配布経路を“利用者が迷わない”形で用意することが、普及のボトルネックを下げます。

つながらないときの切り分け観点

Hotspot 2.0で不具合が出た場合、原因は「無線(電波)」ではなく「認証(EAP/RADIUS)」に寄りやすいのが特徴です。切り分けは次の3点を同時に見ると早く進みます。

  • RADIUSログ:EAP方式不一致、証明書期限、ユーザー属性、拒否理由
  • 端末側ログ:プロファイルの有無、証明書ストア、選択されたEAP方式
  • AP/コントローラ設定:暗号設定、証明書チェーン、ANQP情報、VLAN/ポリシー

「端末が候補として認識していない」のか、「認証で落ちている」のか、「接続後の通信が通らない」のかで対処が変わるため、現象の層(事前評価→認証→通信)を分けて確認します。

普及が進みにくい理由

導入側の障壁

Hotspot 2.0は体験価値が分かりやすい一方、導入側には“運用が増える”側面があります。APの対応に加えて、RADIUSの設計・監視、クレデンシャル管理、プロファイル配布、問い合わせ対応が必要です。既存の「オープンWi-Fi+ポータル」から移行する場合、認証方式やネットワーク分離(来訪者・一般利用・業務用)の再設計も発生します。

利用者側の障壁

利用者側では、プロファイルのインストールや端末要件の理解が障壁になり得ます。ここが分かりにくいと、せっかく対応スポットがあっても使われません。普及のためには「手順の短さ」だけでなく、「何が変わって、何が安全になるのか」を短い言葉で伝える工夫が必要です。

それでも価値が出やすい場面

人が密集し、接続試行が多く、利用者が入れ替わる環境では、Hotspot 2.0の価値が出やすい傾向があります。たとえば、交通機関、空港、イベント会場、商業施設、大学・病院などです。ここでは“接続の手間”が満足度に直結しやすく、同時に“安全に使わせたい”要件も強いため、投資の説明がしやすくなります。

5G時代とIoTでの位置づけ

5Gと競合ではなく補完になりやすい

5Gは高速ですが、屋内深部や地下、混雑時の品質など、現実の利用環境では課題が残る場面があります。Hotspot 2.0は、公衆Wi-Fiを“使える形”に整えることで、モバイル回線の補完として機能しやすくなります。特に、施設側が一貫した接続体験を提供したい場合、利用者の操作に依存しない設計は大きな意味を持ちます。

IoTでは「人の操作がない」前提が効く

IoT機器は「画面がない」「入力ができない」ものも多く、人がSSIDを選んでパスワードを入れる前提がそもそも成立しません。Hotspot 2.0はクレデンシャルに基づく認証を中心に据えられるため、機器接続の設計で有利に働く場合があります。ただし、IoTの現場は機器の互換性・更新停止リスクも大きいため、EAP方式の選定と更新運用(証明書更新、失効、機器入替)を最初から設計しておく必要があります。

まとめ

Hotspot 2.0(Passpoint)は、公衆Wi-Fiの「つながりにくい」「不安」「手間が多い」を、接続前の評価(802.11u/ANQP)802.1X/EAP認証+エンタープライズ暗号で改善する枠組みです。導入には認証基盤とクレデンシャル運用が不可欠ですが、混雑環境や利用者入れ替わりが多い場面では、体験と安全性の両面で投資価値を説明しやすくなります。自組織・自施設で必要なのは「自動接続」なのか「安全なWi-Fi提供」なのか、目的を先に置いたうえで、方式と運用を選ぶことが成功の近道です。

Q.Hotspot 2.0とは何ですか?

公衆Wi-Fiなどで、端末が条件に合うネットワークを選別し、802.1X/EAP認証で安全に自動接続しやすくする仕組みです。

Q.PasspointとHotspot 2.0は同じ意味ですか?

実務上はほぼ同義で扱われます。PasspointはWi-Fi Allianceの認証枠組みで、Hotspot 2.0の仕様を相互接続性まで含めて運用可能にします。

Q.オープンWi-Fiと何が違いますか?

Hotspot 2.0は802.1X/EAP認証と暗号化(WPA2-Enterprise/WPA3-Enterpriseなど)を前提にしやすく、盗聴や誤接続のリスクを下げやすい点が違います。

Q.なぜSSID選択が不要になるのですか?

端末が接続前にAPの提供者情報や利用条件を取得し、登録済みプロファイルの条件に合うネットワークを自動的に候補として扱えるためです。

Q.Hotspot 2.0の中核技術は何ですか?

802.11u/ANQPによる事前情報取得と、802.1X/EAPによる認証、エンタープライズ暗号化が中核です。

Q.利用者は何を設定すれば使えますか?

多くの場合、事業者が配布するプロファイルの導入が必要です。導入後は対応スポットで自動接続しやすくなります。

Q.提供側は何を用意すればよいですか?

Passpoint対応AP/コントローラ、802.1X認証基盤(RADIUS)、クレデンシャル運用(証明書など)、プロファイル配布の仕組みが必要です。

Q.一度つないだら常に途切れませんか?

常に途切れないとは言えません。OS実装、プロファイル、電波状況、ネットワーク設計に左右されますが、条件が整えば切替の手間を減らせます。

Q.つながらないときは何を確認すべきですか?

RADIUS認証ログ、端末側のプロファイル/証明書/接続ログ、AP/コントローラの暗号・EAP・ANQP設定をセットで確認します。

Q.どんな場所で導入効果が出やすいですか?

人の出入りが多く混雑しやすい場所(交通機関、空港、イベント会場、商業施設、大学・病院など)で、接続の手間と安全性を同時に改善しやすいです。

記事を書いた人

ソリトンシステムズ・マーケティングチーム