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ネットワーク分離とは? 概要と必要性、導入のポイント

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目次

ネットワーク分離は、他のセキュリティ対策と組み合わせることで、サイバー攻撃が起きた場合の被害拡大を抑えやすくする、基本的な対策のひとつです。インターネットに接続する環境と、基幹システムや機密情報を扱う環境を分け、相互の通信を必要最小限に制御することで、外部侵入や情報漏えいのリスク、そしてランサムウェアなどが侵入後に社内の別システムへ広がる動き(横展開/ラテラルムーブメント)を抑えやすくなります。

本記事では、ネットワーク分離の定義と必要性、代表的な方式(物理分離・論理分離・境界分離)の違い、設計と運用で押さえるべきポイントを、現場でつまずきやすい論点も含めて解説します。

ネットワーク分離とは

ネットワーク分離とは、組織内ネットワークを用途や重要度に応じて区分し、区分間の通信を制限するセキュリティ対策です。典型的な例としては、Web閲覧やメールなどインターネット接続を前提とする情報系と、基幹システムや機密データを扱う基幹系を分け、適切に設計・運用された前提で、基幹系へ直接到達しにくくする構成が挙げられます。

重要なのは、「ネットワークを分けた」だけで安心しないことです。分離とは、到達経路を減らし、通れる通信を明確にし、監視可能な境界を作ることを指します。通信を許可する場合も、宛先・プロトコル・方向・認証条件・ログ取得をセットで設計し、例外が増えすぎない運用に落とし込む必要があります。

ネットワーク分離が必要とされる理由

ネットワーク分離が重視される最大の理由は、侵入後の被害拡大を抑える「防波堤」として機能しやすいからです。現在の攻撃は、単に入口を破るだけで終わらず、侵入後に認証情報を奪い、社内の別システムへ横展開し、最終的に重要データの窃取や暗号化まで到達するケースが多く見られます。

分離が効く場面は、次のように整理できます。

  • 入口が破られても、重要領域に到達しにくい:情報系端末がマルウェアに感染しても、基幹系への経路が閉じていれば、横展開の難易度は高まります。
  • 許可通信が限定され、異常を検知しやすい:境界で通す通信が少ないほど、「普段と違う動き」を見つけやすくなります。
  • 復旧の範囲を限定できる:被害が情報系に留まる設計であれば、基幹系の停止を避けられる可能性が高まります。

一方で、分離を導入しても、例外通信が増えすぎたり、共有アカウントや不適切な権限が残っていたりすると、分離の効果は急激に薄れます。ネットワーク分離は、「構成」だけでなく「運用の型」まで含めて成立する対策です。

ネットワーク分離の代表的な方式

ネットワーク分離は、「何を、どの粒度で、どう隔離するか」によって方式が分かれます。ここでは、企業で採用されやすい代表的なパターンを整理します。

物理分離

物理分離は、情報系と基幹系で端末や回線、スイッチ、ルーターなどの物理構成を分け、相互に接続しない(または厳格に制限する)方式です。物理的に経路を分断できるため、理屈として分かりやすく、他の方式と比べて高い隔離効果を得やすいのが特徴です。

一方で、端末が二重化しやすく、ユーザーの移動や作業の切り替え負担が増えがちです。さらに、印刷やファイル受け渡しなど「業務に必要な例外」が増えるほど、運用の負担と抜け道リスクが高まります。高い安全性が求められる領域で有効ですが、導入前に現場業務の流れを洗い出し、例外を増やしすぎない設計が欠かせません。

論理分離

論理分離は、物理的には同じ端末や基盤を使いながら、仮想化やリモートアクセスなどによって利用環境を論理的に分ける方式です。代表例として、端末側に業務データを残さない設計を前提としたVDI(デスクトップ仮想化)、RDS/リモートデスクトップ、仮想ブラウザ、セキュアブラウザなどがあります。

論理分離の狙いは、「基幹系のデータや処理を、情報系端末の外に置く」ことです。たとえば、画面転送型のリモート方式では、端末側にデータを残さずに業務を進めやすく、持ち出し抑止やログ取得とも相性が良い場合があります。一方で、基盤(サーバー・ストレージ・認証基盤・ネットワーク)の設計と運用が品質を左右し、容量設計や冗長化、監視、障害時の手順が弱いと、「止まる分離」になりやすい点には注意が必要です。

境界分離

境界分離は、ネットワークを用途別に分けたうえで、区分間の通信をファイアウォールやACL、プロキシ、踏み台などの境界で制御する方式です。VLANでセグメントを分け、L3でルーティングしつつ、境界で「通してよい通信」だけを明示的に許可する、といった設計が典型です。

この方式は、境界ルールを継続的に見直す運用が前提となるものの、既存ネットワークを大きく変えずに段階的に強化しやすい反面、境界ルールの設計が甘いと、実質的に分離が崩れてしまいます。「とりあえず全許可」「特定端末だけ例外」「共有アカウントで踏み台」といった状態が増えると、攻撃者にとっても通り道になります。境界分離は、許可通信の最小化と例外管理を徹底できる組織ほど、効果が出やすい方式です。

設計で押さえるべきポイント

ネットワーク分離の設計は、「何を守るか」と「何を許可するか」を先に決めるほど、破綻しにくくなります。ここでは、技術面の要点を整理します。

守る対象と分離単位を明確にする

分離は、目的が曖昧だと例外が増え、形骸化しやすくなります。まずは守るべき資産を洗い出し、重要度に応じて分離単位を定めます。基幹系と情報系の二分だけで足りない場合は、開発環境、OT/工場系、委託先向け、管理者用など、役割に応じた区分を追加したほうが、安全性と運用性を両立しやすいケースもあります。

通信はデフォルト拒否で「必要なものだけ許可」する

分離区分間は、原則としてデフォルト拒否とし、業務要件に基づいて必要な通信だけを許可します。許可する場合は、宛先、ポート、方向、認証条件、利用者、ログ取得をセットで定義し、後から見直せる形にしておくことが重要です。例外が増えたときに破綻しないためには、「誰が、何の理由で、いつまで」例外を認めるのかを明確にする運用が欠かせません。

東西トラフィックも意識し、粒度を上げる

侵入後の横展開は、社内の東西トラフィック(内部間通信)を使って進みます。ネットワーク分離を「外部との境界」だけで考えると、内部での拡大を止めきれないことがあります。重要なサーバー群はさらに細かく区分し、管理系通信やバックアップ経路も含めて制御するなど、段階的に粒度を上げる設計が有効です。

認証と端末状態を分離設計に組み込む

ネットワーク分離は、ネットワークだけで完結するものではありません。誰が接続できるのか、どの端末が接続できるのか、どの条件で接続を許すのかが曖昧だと、分離区分は形だけになってしまいます。802.1XやNAC、端末証明書、管理者の強固な認証、踏み台の厳格な運用など、認証と端末状態を前提として組み込みます。

踏み台と中継点は「最重要の攻撃対象」になる

分離区分をまたぐ運用で踏み台やリモート操作を使う場合、その中継点は攻撃者にとっても価値の高い場所になります。踏み台は最小権限、強固な認証、操作ログの取得、セッション記録、持ち出し制御などを組み合わせ、単なる中継PCにしないことが重要です。

運用でつまずきやすい課題と対策

ネットワーク分離は、導入時よりも運用で差が出やすい対策です。ここでは、現場で起きやすい課題と、代表的な対処の考え方を整理します。

ファイル受け渡しが煩雑になり、抜け道が生まれる

分離環境では、データの受け渡しが業務のボトルネックになりやすく、USBや個人クラウドなどの抜け道が発生する傾向があります。対策としては、分離環境向けのファイル転送基盤を整備し、持ち出し時の審査、マルウェア検査、無害化、ログ取得、期限付き共有などを組み合わせ、「正規ルートのほうが楽」な状態を作ることが重要です。

例外ルールが増え続け、分離が崩れる

例外は必ず発生します。問題は、「例外が増えたあとに戻せない」ことです。例外通信は棚卸しを前提に設計し、期限やオーナーを持たせ、定期的に削減する運用にします。例外が恒久化する場合は、分離設計そのものが業務要件に合っていない可能性があるため、方式や分離単位の再検討が必要です。

利便性低下が大きく、現場に定着しない

物理分離による二台持ち、リモート方式の遅延、認証の手間など、利便性は現場定着に直結します。UXを犠牲にしすぎると、抜け道利用や例外要請が増え、結果的に安全性が下がります。利用頻度の高い業務は論理分離に寄せる、重要な操作だけ追加認証にする、ネットワーク品質を先に整えるなど、負担を抑える工夫が必要です。

監視とインシデント対応が追いつかない

分離の価値は、「境界で見える」点にもあります。境界機器や踏み台、リモート基盤、ファイル転送経路のログを取得し、異常検知と対応手順を定めて初めて効果が発揮されます。ログを取るだけで終わらせず、見るべき観点と担当、エスカレーションを運用として定義します。

自組織に合う方式の選び方

方式選定は、セキュリティレベル、利便性、費用の単純な三択ではありません。重要なのは、「守る対象に対して、どの経路を閉じ、どの経路を管理可能な形で残すか」です。

  • 隔離強度を最優先:重要領域は、物理分離や強い境界制御が向いています。
  • 現場の運用を維持したい:論理分離や境界分離で、段階的に強化する設計が現実的です。
  • ファイル受け渡しが多い:受け渡し基盤を先に整え、抜け道を潰す設計が効果的です。

分離は、「導入したら終わり」ではありません。例外を増やさず、運用で戻せる構造にすることが成功の条件です。守る対象と業務の流れを起点に、最小権限の通信設計、認証強化、監視、ファイル受け渡しの整備まで含めて、自組織に合う分離の形を検討しましょう。

ネットワーク分離とは何ですか?

用途や重要度に応じてネットワークを区分し、区分間の通信を必要最小限に制御する対策です。情報系と基幹系を分け、重要領域に直接到達しにくい構造を作ります。

なぜネットワーク分離が重要なのですか?

侵入後に社内へ被害が広がるのを抑え、被害範囲を限定しやすくなるためです。

物理分離と論理分離の違いは何ですか?

物理分離は端末や回線など物理構成を分ける方式で、論理分離は仮想化やリモート操作などで利用環境を論理的に分ける方式です。

境界分離とは何ですか?

区分間の通信をファイアウォールやACL、プロキシ、踏み台などの境界で制御し、通してよい通信だけを明示的に許可する方式です。

分離すればサイバー攻撃を防げますか?

分離は侵入を完全に防ぐ対策ではありません。侵入後の被害拡大を抑えるのが主目的であり、認証強化や監視などと組み合わせて効果が高まります。

分離導入で一番つまずきやすい点は何ですか?

ファイル受け渡しや例外通信が増え、抜け道が生まれることです。正規の受け渡し手段を整備し、例外を棚卸しできる運用にすることが重要です。

踏み台はなぜ重要なのですか?

分離区分をまたぐ中継点になりやすく、攻撃者にとっても価値が高い場所だからです。強固な認証とログ取得、最小権限で厳格に運用する必要があります。

分離環境で安全にファイルをやり取りするにはどうすればよいですか?

専用の受け渡し基盤を用意し、マルウェア検査や無害化、期限付き共有、ログ取得などを組み合わせます。USBや個人クラウドに頼らない運用が重要です。

どの方式を選べばよいですか?

守る対象、許可すべき通信、運用体制、利用者の負担を踏まえて選びます。隔離強度を最優先する領域と、利便性を維持したい領域で方式を分ける考え方も有効です。

ネットワーク分離は今後も有効ですか?

侵入後に被害が拡大しやすい状況では、基本対策として有効です。運用で例外を増やさず、監視と認証を組み合わせる設計が重要になります。

記事を書いた人

ソリトンシステムズ・マーケティングチーム