RPOとは、Recovery Point Objectiveの略で、障害や災害が発生したときに「どの時点までのデータを復旧できれば業務を再開できるか」を示す目標値です。言い換えると、許容できるデータ損失(データロス)の上限を「時間」で表したものです。
例えば、障害が14:00に発生し、RPOを4時間に設定している場合、復旧できるデータは「10:00時点まで」を目指します。RPOは、事業継続計画(BCP)や災害復旧(DR)を設計するうえで、バックアップ頻度・復旧方式・投資判断を左右する基本指標になります。


RPOを定める目的は、障害時に「どの程度のデータ損失なら業務として受け止められるか」を明確にし、復旧戦略を具体化することです。RPOが決まると、バックアップの頻度、保存先、レプリケーション有無、復旧手順、運用体制などが現実的に設計できるようになります。
また、RPOは潜在的なビジネスリスクを見える形にする指標でもあります。データロスが発生したときの影響は「困る」では終わりません。再入力作業、取引・会計上の整合性、顧客対応、監査・法令対応など、影響の連鎖が起きます。RPOを決めることは、この連鎖をどこまで許容するかの意思決定でもあります。
RPOが効いてくる代表例は、災害や障害による復旧です。例えば、地震や水害でデータセンターが停止した場合、RPOが2時間であれば、復旧できるデータは原則として「障害発生の2時間前まで」を目指します。
同様に、サーバー障害やランサムウェア感染などでシステム全体が停止した場合も、RPOは復旧の起点になります。復旧にどれだけ時間がかかるか(RTO)とは別に、「どこまでのデータが戻れば、業務として成立するか」を合意しておくことが重要です。
RPOは「短いほど良い」わけではありません。短くすればするほど、バックアップの高頻度化やレプリケーションなどが必要になり、コストや運用負荷が上がります。逆に長すぎると、障害時の再入力・再処理が増え、業務が止まる期間が伸びる可能性があります。
そのため、一般には次の観点で設定します。
IT障害が起きると、業務が滞り生産性が落ちます。顧客向けサービスなら、売上機会の損失や信頼低下につながります。さらに、障害対応に現場の工数が吸われ、通常業務が止まりやすくなります。現代の企業ではITが事業の基盤であるため、この影響は軽視できません。
RPOは、業務再開に必要なデータの「最低ライン」を示します。RPOを設定することで、障害時にどこまでデータを戻すかが明確になり、復旧手順や担当範囲、判断基準がぶれにくくなります。
逆に、RPOが曖昧なままだと、障害時に「どこまで戻すか」の議論が発生し、復旧の意思決定が遅れやすくなります。RPOは平時の指標であると同時に、非常時の迷いを減らすための合意事項でもあります。
RPOはバックアップ設計と直結します。基本的には、バックアップ間隔がそのままRPOの上限になりやすいためです(厳密には復旧方式や障害点により変わります)。
たとえば、1日1回のバックアップなら、最悪で24時間分のデータロスが起こり得ます。RPOを4時間にしたいなら、少なくとも4時間以内の間隔でバックアップが取れる設計が必要になります。RPOは「願望」ではなく、実現可能な運用として設計する必要があります。
システム停止やデータ損失は、直接的な損失(復旧費用、対応工数、損害賠償)だけでなく、間接的な損失(機会損失、信用低下、取引停止)にもつながります。RPOを適切に設定し、達成できる対策を選ぶことは、損失の上限をコントロールする経営判断と言えます。
BCPやDRを設計するうえで、RPOと並んで重要なのがRTO(Recovery Time Objective)です。RPOが「どこまで戻すか」なら、RTOは「いつまでに戻すか」です。両者はセットで考える必要があります。
RTO(Recovery Time Objective)は、障害でシステムやサービスが停止した際に、どのくらいの時間内に復旧させるべきかを示す目標値です。たとえば、RTOが2時間なら、「2時間以内に業務再開できる状態」を目指します。
ただしRTOは目標であり、技術的制約やコスト、人員体制によって現実の復旧時間は左右されます。だからこそ、平時に訓練・検証を行い、実効性を高めることが重要です。

RPOとRTOの違いは次の通りです。
例えば、RPOが4時間でもRTOが24時間なら、「データは4時間前まで戻せるが、復旧自体は1日かかる」設計になり得ます。逆にRTOが1時間でもRPOが24時間なら、「すぐ復旧できても、データは前日までしか戻せない」可能性があります。業務の成立条件に合わせて、両者を揃えることが重要です。
RPOもRTOも短いほど理想的に見えますが、短縮するほど費用や運用負荷が増えます。現実的には、システムごとに次の順で整理すると決めやすくなります。
停止時間がそのまま損失に結びつく業種・サービスでは、RTOは経営指標になり得ます。RTOを短くするには、冗長化、ホットスタンバイ、復旧自動化などが必要になり、投資と運用の見直しが伴います。目標を「短く置きすぎる」と、実現できずに期待値だけが上がり、結果として信頼を損ねることもあります。到達できる現実値としてのRTO設計が重要です。
RPO設定は、単に「何時間」と決める作業ではありません。業務とデータの重要度を整理し、復旧可能な仕組みに落とし込むプロセスです。
ビジネス影響分析(BIA)は、「どの業務が止まると、どれだけ影響が出るか」を洗い出す工程です。RPOに直結するのは、重要業務と重要データの特定です。たとえば、取引データ・会計データ・顧客対応履歴などは、失うと復元が難しく、影響が大きくなりやすい領域です。
想定すべき脅威(自然災害、サイバー攻撃、人的ミス、機器故障など)を整理し、発生したときの影響範囲を評価します。ここで重要なのは、「どの障害で、どの復旧手段が無効になるか」を考えることです。例えば、同一拠点内のバックアップしかない場合、拠点障害では使えない可能性があります。
バックアップ計画では、次の点を具体化します。
なお、フルバックアップを頻繁に行うと、処理負荷やネットワーク負荷が大きくなり、業務影響が出ることがあります。逆に、フルバックアップの頻度が低すぎるとデータロスが増えます。差分・増分バックアップ、スナップショット、ジャーナリング、レプリケーションなどを組み合わせ、RPOと運用負荷のバランスを取るのが基本です。
実務では、次の流れで整理すると迷いにくくなります。
RPO(許容できるデータロス)を小さくするには、「より短い間隔でデータを保護できる仕組み」に寄せる必要があります。代表的な考え方を整理します。
フルバックアップだけに頼ると負荷が大きくなりがちです。差分バックアップ・増分バックアップ・スナップショットなどを使い、短いRPOを現実の負荷で回す設計にします。
RPOを「数分」や「ほぼゼロ」に近づけたい場合、バックアップだけでは限界が出ます。同期/非同期レプリケーション、継続的データ保護(CDP)など、更新を別系統に継続反映する仕組みが必要になります(その分コストと設計難易度も上がります)。
仕組みがあっても、手順が曖昧だとRPOは守れません。バックアップの成功/失敗を監視し、失敗時のリトライや通知、復旧手順の標準化を進めます。RPOは「設定値」ではなく、運用で守るものです。
RPOは机上で決めても、復旧できなければ意味がありません。定期的に復旧テストを行い、「実際にどの時点まで戻せたか」「そのときの判断が詰まらないか」を確認して更新します。
RPO(Recovery Point Objective)は、障害時にどれだけのデータ損失を許容するかを示す目標値です。RPOを明確にすることで、バックアップ頻度、復旧方式、運用体制を設計でき、非常時の迷いも減らせます。
RPO設定は、BIAで重要業務と重要データを押さえ、リスク評価で脅威と障害点を整理し、バックアップ計画と復旧テストに落とし込む流れが基本です。現実に回せる運用まで含めて設計して初めて、RPOは意味を持ちます。
短いRPOを掲げても、仕組みと運用が伴わなければ達成できません。逆に、長すぎるRPOはデータロスの影響が大きくなります。コストだけでなく、再入力や業務整合性の回復にかかる負担も含めて、バランスよく設定することが重要です。
RPOは、データ保護と業務継続の「現実値」を決める指標です。適切なRPOを持ち、検証を回し続けることは、障害時の損失を抑え、事業の安定と信頼の維持につながります。
障害時に、どの時点までのデータ復旧を目指すかを示す目標値です。
許容できるデータ損失(データロス)の上限を時間で表す指標です。
RPOは「どこまで戻すか」、RTOは「いつまでに復旧させるか」を示します。
RPOを満たすために必要なバックアップ間隔の基準になります。
短いほど対策コストと運用負荷が増えるため、業務要件に合わせて決めます。
すべきではありません。
ビジネス影響分析で重要業務と重要データを特定することです。
高頻度バックアップに加え、レプリケーションやCDPの導入を検討します。
復旧テストで復旧可能な時点を確認し、定期的に検証します。
達成できない目標を置き、バックアップ監視や復旧訓練を行わないことです。