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シフトレフトとは? 10分でわかりやすく解説

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ソフトウェア開発におけるセキュリティ対策や品質確保に悩んでいませんか?従来のように「開発が一通り終わってからまとめてテストする」スタイルでは、修正コストが高くつくだけでなく、リリース延期やセキュリティ事故のリスクも高まります。この記事では、開発の上流工程からテストやセキュリティ対策を組み込む「シフトレフト」という考え方について、基本から実践方法、導入時の課題と効果までをわかりやすく解説します。

シフトレフトとは何か?

シフトレフトとは、ソフトウェア開発プロセスにおいて、テストやセキュリティ対策などの品質保証活動を、できるだけ早い段階から実施することを指します。ウォーターフォール開発では「実装が終わった後にまとめてテストする」ことが一般的でしたが、シフトレフトでは要件定義や設計の段階から品質を作り込むことを重視します。これにより、バグや脆弱性を早期に発見し、修正コストや手戻りを大幅に削減することができます。

シフトレフトの定義と概要

シフトレフトは、ソフトウェア開発プロセス上の「テスト・セキュリティ・レビュー」の位置を、タイムラインの左側(上流側)に寄せるという考え方です。具体的には、以下のような活動を開発の早い段階から計画・実行します。

  • 要件定義段階でのテスト観点・品質要求・セキュリティ要求の整理
  • 設計段階でのテスト設計・レビュー(設計レビュー、アーキテクチャレビュー)
  • コーディング段階でのユニットテスト・静的解析の実施
  • セキュリティ要件を反映した設計・実装・コードレビュー

このように品質保証活動を前倒しすることで、下流工程での不具合修正や仕様の作り直しを減らし、全体としての開発効率と品質を高めることができます。

シフトレフトが注目される背景

シフトレフトが注目される背景には、次のような要因があります。

  1. ソフトウェアの複雑化・大規模化に伴い、従来型の後工程テストだけでは品質を担保しづらくなった。
  2. クラウドやモバイル、マイクロサービスの普及により、開発スピードとリリース頻度が格段に上がった。
  3. サイバー攻撃の高度化・巧妙化により、セキュリティを「後から付け足す」やり方ではリスクが高すぎる。

特に、近年ではソフトウェアの脆弱性を狙った攻撃が増加しており、セキュリティ対策はビジネス継続の前提条件となっています。シフトレフトを導入することで、セキュリティ要件やテスト観点を開発の早い段階から組み込み、潜在的な脆弱性を早期に発見・修正できるようになります。

シフトレフトがもたらすメリット

シフトレフトを導入すると、開発チーム・ビジネスにとってさまざまなメリットが期待できます。

メリット説明
品質の向上要件・設計の段階からテストやセキュリティ対策を考慮することで、仕様上の抜け漏れや設計レベルの不具合を早期に洗い出せる。
コストの削減下流工程や本番環境で発覚した不具合は修正コストが高くつきがちだが、上流での発見によって修正コストを抑えられる。
開発期間の短縮大きな手戻りやリリース直前の駆け込み修正が減り、リリーススケジュールの見通しが立てやすくなる。
セキュリティの強化セキュア設計・セキュアコーディング・脆弱性検査を早期に行うことで、本番環境に重大な脆弱性を持ち込むリスクを減らせる。

これらのメリットを最大化するには、開発・テスト・セキュリティ・運用など、関係者の連携が不可欠です。シフトレフトを成功させるためには、開発チームとテストチーム、セキュリティチームが一体となって「品質とセキュリティを最初から組み込む」意識を持つことが重要です。

シフトレフトの適用領域

シフトレフトは、さまざまな開発領域に適用可能です。

  • ウェブアプリケーション開発
  • モバイルアプリケーション開発
  • 組み込みソフトウェア開発
  • クラウドサービス・SaaS開発
  • マイクロサービスやAPIベースのシステム開発

特に、インターネットに公開されるウェブアプリケーションやモバイルアプリケーションでは、セキュリティ対策が必須です。シフトレフトを導入することで、要件定義・設計の段階からセキュリティ要件を織り込み、安全で信頼性の高いアプリケーションを開発しやすくなります。

また、クラウドサービスやマイクロサービスでは、多数のコンポーネントが連携して動くため、性能や可用性の確保も重要なテーマです。シフトレフトの考え方を適用し、性能テストや負荷テストを早い段階で実施することで、ボトルネックや設計上の問題を早期に発見することができます。

このように、シフトレフトは「特定の開発モデル専用の手法」ではなく、さまざまな開発プロジェクトで応用できる汎用的な考え方と言えます。

シフトレフトの実践方法

シフトレフトを実際のプロジェクトで機能させるには、単純に「テスト開始日を前倒しする」だけでは不十分です。開発プロセスの見直し、ツールの活用、組織内の役割分担の再設計など、複数の取り組みを組み合わせる必要があります。

開発プロセスの見直しとシフトレフトの導入

まず重要なのは、開発プロセスそのものを「品質とセキュリティを前提にしたプロセス」に作り替えることです。具体的には、次のような取り組みが考えられます。

  • 要件定義段階で、品質要求・セキュリティ要件・非機能要件(性能・可用性など)を明文化する。
  • 設計段階で、テスト観点を洗い出し、テストケースの雛形やカバレッジ目標を検討する。
  • コーディング段階で、ユニットテスト・結合テストの自動化を進める。
  • アーキテクチャ設計時に、脅威モデリングやセキュリティレビューを実施する。

このようにプロセスを再設計することで、「開発がひと段落してからテストを考える」のではなく、「最初からテストとセキュリティを前提に設計する」スタイルに移行できます。

セキュリティテストの前倒し

シフトレフトの中でも、セキュリティテストの前倒しは特に重要です。開発の最終段階でまとめて脆弱性診断を行うと、発覚した問題の修正が大規模になり、場合によっては設計からやり直しになるリスクがあります。

シフトレフトの考え方に基づき、次のようなセキュリティテストや確認を早期に取り入れることが推奨されます。

  • 静的コード解析(SAST)による脆弱性チェック
  • 依存ライブラリの脆弱性スキャン(ソフトウェアコンポーネント解析:SCA)
  • セキュアコーディングガイドラインに基づくコードレビュー
  • 必要に応じたペネトレーションテスト・脆弱性診断

これらをCI/CDパイプラインに組み込み、自動的かつ継続的に実行することで、「実装した瞬間に問題を検知する」状態を目指すことができます。

自動化ツールの活用

シフトレフトでは「テストやセキュリティ確認の量」が増えるため、手作業のままでは現場の負荷が高くなり、かえって品質が下がってしまうこともあります。そこで重要になるのが、自動化ツールの活用です。

代表的な自動化ツールの例は次の通りです。

  • テスト自動化ツール(ユニットテスト、APIテスト、UIテストなど)
  • 静的コード解析ツール(コーディング規約違反や潜在バグの検出)
  • 脆弱性スキャンツール(アプリケーションやコンテナイメージの脆弱性チェック)
  • CI/CDツール(コード変更時に自動でビルド・テスト・解析を実行)

これらのツールをパイプラインの中に組み込むことで、開発者がコードをコミットしたタイミングで自動的にテストとチェックが走り、結果を即座にフィードバックできるようになります。これにより、テストやセキュリティ対策の効率化と品質の向上を同時に実現できます。

開発チームとセキュリティチームのコラボレーション

従来は「作る人(開発)」「テストする人(QA)」「守る人(セキュリティ)」が縦割りで動くケースが多く、コミュニケーションの遅れが問題になりがちでした。シフトレフトを成功させるには、これらのチームが協力して動く体制が重要です。

具体的には、次のような取り組みが効果的です。

  • 開発とセキュリティ、QAが参加する定期的なレビューや勉強会の開催
  • セキュリティ要件や脅威情報を、開発チームが理解しやすい形で共有する
  • セキュリティ専門家が開発チームの相談役として入り、設計段階から支援する
  • インシデント事例やヒヤリハット事例を共有し、次のプロジェクトに活かす

このようなコラボレーションを通じて、「セキュリティや品質は別チームの責任」という意識から、「チーム全員の共通の責任」という意識への転換を進めることができます。

シフトレフト導入の課題と対策

シフトレフトは、多くのメリットが期待できる一方で、導入にあたってはいくつかのハードルも存在します。ここでは、代表的な課題とその対策を整理します。

組織文化の変革

最初のハードルは、組織文化やマインドセットの変革です。長年、後工程でのテストに慣れてきた開発者やマネージャにとって、「上流から品質に時間をかける」アプローチは、当初は余計な負担に見えるかもしれません。

この課題に対処するには、次のような取り組みが有効です。

  • シフトレフトの目的(品質向上・コスト削減・リスク低減)を経営層から明確にメッセージとして発信する。
  • 小さなプロジェクトや一部チームでパイロット導入し、成果を数値と事例で示す。
  • 成功体験や「やってよかった点」を社内で共有し、横展開していく。
  • 現場の声を聞きながらプロセスを改善し、「押しつけ」ではなく「一緒に作る」形にする。

このようにして、組織全体でシフトレフトの意義とメリットを共有し、「最初は負担に見えるが、結果として楽になる」ことへの理解を広げていくことが重要です。

セキュリティスキルの向上

シフトレフトを本格的に進めると、「開発者自身がセキュリティを意識してコードを書く」ことが求められます。しかし、現場にはセキュリティに自信がない開発者も多く、ここがボトルネックになることがあります。

この課題に対処するためのポイントは次の通りです。

  • OWASP Top 10など、基本的な脆弱性と対策の教育を継続的に実施する。
  • 社内向けのセキュアコーディングガイドラインを整備し、具体例とともに共有する。
  • セキュリティ専門家がコードレビューや設計レビューをサポートし、現場で学べる機会を増やす。
  • ツールの検出結果に対して丁寧なフィードバックを行い、「なぜ問題なのか」を理解してもらう。

これらを通じて、開発者のセキュリティスキルを少しずつ底上げし、「セキュリティは難しい」という心理的ハードルを下げていくことが大切です。

ツール選定とコスト最適化

シフトレフトでは、テスト自動化ツールや静的解析ツール、脆弱性スキャナなど、さまざまなツールが必要になります。しかし、ツール導入には費用や学習コストが必要であり、「何から導入すべきか」「本当に費用対効果があるのか」といった悩みが生じます。

この課題に対しては、次のような進め方が有効です。

  • まずは「カバレッジが低く、リスクが高い領域」から優先的にツールを導入する。
  • オープンソースツールやクラウドサービスも候補に含め、費用対効果を比較検討する。
  • パイロット導入で、検出された不具合件数、リリース前後のトラブル件数などを指標として効果を測定する。
  • ツール導入だけで満足せず、ルール設定や運用プロセスも含めて継続的にチューニングする。

このように、「一気にすべてを入れ替える」のではなく、優先順位をつけて段階的に導入することで、コストを抑えつつ効果的にシフトレフトを進めることができます。

継続的な改善と評価

シフトレフトは、一度導入して終わりではなく、継続的な改善と評価が不可欠です。最初に設計したプロセスやルールが、すべてのプロジェクトに完全にフィットするとは限りません。

継続的な改善のためには、次のような活動が役立ちます。

  • リリースごとに、「不具合がどの工程で発見されたか」「どの工程で防げたはずか」を振り返る。
  • プロジェクト間でベストプラクティスを共有し、標準プロセスに反映する。
  • 開発者やQA、セキュリティ担当から改善提案を集め、試行的に取り入れてみる。
  • PDCAサイクル(Plan-Do-Check-Act)を明確にし、定期的に見直しの場を設ける。

こうした取り組みを通じて、シフトレフトの取り組み自体を継続的にアップデートし、自社の開発スタイルに合った最適な形へと育てていくことができます。

シフトレフトの推進で企業が得られる効果

最後に、シフトレフトを継続的に推進することで、企業全体としてどのような効果が期待できるのかを整理します。

セキュリティ脆弱性の早期発見と対処

開発の早い段階からセキュリティテストや脆弱性チェックを組み込むことで、重大な脆弱性を本番環境に持ち込むリスクを大幅に減らすことができます。結果として、インシデント対応に追われる時間やコストが減り、セキュリティインシデントによるブランド毀損のリスクも低減されます。

開発コストの削減とリリースサイクルの短縮

下流工程や本番環境で発見された不具合は、設計から見直しが必要になることもあり、修正コストが大きくなりがちです。シフトレフトにより、バグや不具合を仕様・設計・実装の早い段階で発見できれば、手戻りが減り、結果として開発コストを抑えながらリリースサイクルを短縮しやすくなります。

製品・サービス品質の向上

品質保証活動を上流から組み込むことで、ユーザーが実際に触れる前に多くの問題を取り除くことができます。これにより、リリース直後の障害やクレームを減らし、「最初から安定している製品・サービス」を提供しやすくなります。結果として、ユーザー体験の向上やサポートコストの削減にもつながります。

企業ブランドと信頼性の強化

高品質で安全なソフトウェアを安定的に提供できる企業は、ユーザーや取引先からの信頼を得やすくなります。セキュリティインシデントや大規模障害が少ないことは、「このサービスは安心して使える」「この会社は品質とセキュリティを重視している」というブランドイメージの向上にも直結します。

このように、シフトレフトは単なる開発テクニックではなく、ビジネス全体の信頼性や競争力に直結する取り組みです。自社のシステムやサービスをより良くしたいと考える企業にとって、シフトレフトは十分に検討に値するアプローチと言えるでしょう。

まとめ

シフトレフトとは、ソフトウェア開発においてテストやセキュリティ対策といった品質保証活動を、従来よりもずっと早い段階から実施する考え方です。要件定義や設計の段階から品質とセキュリティを意識し、ユニットテストや静的解析、脆弱性スキャンなどをCI/CDパイプラインに組み込むことで、バグや脆弱性を早期に発見・修正できます。

その結果として、開発コストの削減やリリースサイクルの短縮、製品・サービス品質の向上、セキュリティリスクの低減、企業ブランドと信頼性の強化など、さまざまなメリットが期待できます。一方で、組織文化の変革やセキュリティスキルの向上、ツール導入コストなどの課題も存在しますが、段階的に導入し、継続的に改善していくことで、自社に適した形へと育てていくことが可能です。

ソフトウェアがビジネスの中核を担う時代だからこそ、「後からテストする」のではなく、「最初から品質とセキュリティを組み込む」シフトレフトへの取り組みが、今後ますます重要になっていくでしょう。

Q.シフトレフトとは具体的に何を指しますか?

シフトレフトとは、ソフトウェア開発プロセスにおけるテストやセキュリティ対策などの品質保証活動を、開発の早い段階から実施する考え方を指します。

Q.なぜ開発の後半ではなく上流でテストやセキュリティ対策を行う必要があるのですか?

上流で問題を見つけた方が修正範囲が小さく、コストやリードタイムを抑えやすいためです。後半や本番で発覚すると、設計からやり直しになる場合もあり負担が大きくなります。

Q.シフトレフトはアジャイル開発やDevOpsと相性が良いのですか?

はい、相性が良いとされています。短いサイクルで継続的に開発・リリースするアジャイルやDevOpsでは、早期かつ継続的なテストとセキュリティ確認が重要になるためです。

Q.小規模な開発チームでもシフトレフトの導入は有効ですか?

有効です。小規模チームほど一人あたりの負荷が高くなるため、早期に不具合を潰して手戻りを減らすメリットは大きく、シンプルなツール構成からでも効果が期待できます。

Q.シフトレフトを始める際、最初に取り組むべきことは何ですか?

まずは現行プロセスの見える化を行い、「どの工程で不具合が見つかっているか」「どの工程に前倒しできそうか」を整理することが第一歩として有効です。

Q.セキュリティテストのシフトレフトは具体的に何をすればよいですか?

静的コード解析や依存ライブラリの脆弱性スキャン、セキュアコーディングガイドラインに基づくコードレビューなどを、実装直後やCIのタイミングで実行することが代表的な取り組みです。

Q.ツール導入にはコストがかかりますが、費用対効果は見込めますか?

下流や本番での障害対応コストや、ブランド毀損リスクを考えると、適切なツール選定と運用により費用対効果を得やすい場合が多いです。まずは限定的な範囲で導入し、効果を測定するのがおすすめです。

Q.開発者にセキュリティスキルを求めると負担が増えませんか?

一時的には学習負荷が増えますが、長期的にはセキュリティ起因の手戻りやトラブルが減るため、結果として負担軽減につながることが多いです。教育やガイドライン整備で支援することが重要です。

Q.シフトレフトと「シフトライト」との違いは何ですか?

シフトレフトは上流での品質保証活動の前倒しを指し、シフトライトは本番環境でのモニタリングやカナリアリリースなど、運用側での検証強化を指します。両方をバランスよく組み合わせることが推奨されます。

Q.シフトレフトの効果をどうやって測定すればよいですか?

不具合の発見工程の比率、リリース後の障害件数、修正コストやリリースリードタイムの変化などを指標にし、導入前後で比較することで効果を評価できます。

記事を書いた人

ソリトンシステムズ・マーケティングチーム