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WAFとは? わかりやすく10分で解説

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目次

WAF(Web Application Firewall)は、Webアプリケーションを狙う攻撃を、HTTP/HTTPSの中身(URL、ヘッダー、パラメータ、ボディなど)まで解析して防ぐ防御機構です。ネットワーク境界のファイアウォールだけでは止めにくい攻撃をカバーできる一方、導入形態の選び方やルール運用を誤ると、誤検知や性能影響が目立つこともあります。この記事では、WAFの基本、守れる範囲と限界、導入・運用でつまずきやすいポイントを整理します。

はじめに

Webアプリケーションファイアウォール(WAF)は、Webアプリケーションへの攻撃を検知・遮断するために、HTTP/HTTPSトラフィックを解析するセキュリティ対策です。Webサイトや業務アプリを安全に運用するうえで有効ですが、「置けば安心」という種類の対策ではなく、守りたい対象と運用体制に合わせた設計が欠かせません。

Webアプリケーションファイアウォールの基本的な定義

WAFは、HTTP/HTTPSトラフィックを監視し、ルール(ポリシー)に基づいてフィルタリングや遮断を行います。典型的には、SQLインジェクションやクロスサイトスクリプティング(XSS)など、Webアプリケーションの入力や出力を悪用する攻撃を検知し、リクエスト単位で「通す/止める」を判断します。WAFが不審なトラフィックを検出した場合、遮断やアラート通知、ログ記録などの対応を行います。

WAFの働きとその役割

WAFの中心的な役割は、Webアプリケーションを攻撃トラフィックから守ることです。入力値に不審なパターンが含まれる、既知の攻撃シグネチャに一致する、といった兆候をもとにリクエストを遮断します。

また、WAFは「攻撃の入口になっている箇所」を可視化しやすい点も重要です。検知ログを分析することで、アプリ側に残っている脆弱性の疑いを把握し、改修や設定見直しの優先順位付けに役立てられます。ただし、脆弱性そのものを解消するのはアプリケーションの修正であり、WAFは「被害を抑えるための防御」と「気づきの材料」を提供する位置づけです。

WAFと他のセキュリティツールとの違い

WAFは、一般的なネットワークファイアウォールやIDS/IPSとは守る層が異なります。ネットワークファイアウォールは主にIPやポートなどネットワーク層の制御が中心で、IDS/IPSは不審な通信の兆候を検知・遮断します。一方でWAFは、HTTP/HTTPSのパラメータやヘッダー、ボディなど「アプリケーションに届く内容」を前提に、アプリ特有の攻撃(XSS、SQLインジェクションなど)に寄せたルールで判断します。

そのためWAFは、他の対策を置き換えるものではなく、補完関係で組み合わせて使われるのが一般的です。

WAFの技術的な背景

WAFが何を見て、どこで判断しているのかを理解するには、HTTP/HTTPSと、Webアプリを狙う典型的な攻撃の特徴を押さえておく必要があります。

HTTPとは

HTTP(Hypertext Transfer Protocol)は、WebブラウザとWebサーバーが情報をやり取りするためのプロトコル(通信規約)です。WebアプリケーションはHTTP/HTTPS上で動作し、URL、ヘッダー、Cookie、パラメータ、リクエストボディなどを通じてユーザー入力を受け取り、処理結果を返します。

SQLインジェクション攻撃とCSRF攻撃とは

SQLインジェクション攻撃

SQLインジェクション攻撃は、入力欄やパラメータに不正な文字列を混ぜ、意図しないSQLを実行させてデータベースを不正操作する攻撃です。情報漏えい、改ざん、削除などにつながる可能性があります。

CSRF攻撃

CSRF(Cross Site Request Forgery)は、ユーザーがログインしている状態を悪用し、ユーザー本人の意図しない操作を別サイトなどから実行させる攻撃です。設定変更や送金など「正規ユーザーとして成立してしまう操作」を狙われると被害が大きくなります。

WAFがこれらの攻撃をどのように防ぐか

WAFは、リクエスト内のパラメータやペイロードを解析し、不正なパターンや既知の攻撃シグネチャに一致するものを遮断します。SQLインジェクションでは、典型的な構文や不自然な文字列の並びが検知対象になりやすく、ルールが適切であれば早い段階でブロックできます。

一方でCSRFは、リクエスト自体が「見た目には正規」と判定されやすく、根本対策はアプリケーション側のCSRFトークン検証やSameSite属性などの設計に依存します。WAFがCSRFを完全に防げると考えるのは危険で、WAFは補助的な抑止策として位置づけ、アプリ側の対策とセットで考える必要があります。

また、WAFが機能するためにはルールセットの運用が欠かせません。攻撃手法は変化するため、ルール更新とチューニングを前提に運用設計を組み立てることが重要です。

WAFの購入と配置

WAF導入では、製品選定そのものよりも「どこに置き、どの単位で守り、どう運用するか」が成果を左右します。保護対象、通信量、運用体制を前提に、現実的な設計を詰めていきましょう。

保護対象の単位と必要なキャパシティ

必要なWAFの規模は、Webアプリケーションの数、トラフィック量、ピーク特性、暗号化終端(TLS終端)の有無などで変わります。アクセスが集中するサービスでは、WAFがボトルネックにならないように、冗長化やスケールアウトの方針を含めて検討が必要です。

また、製品によって「ドメイン単位」「アプリ単位」「リクエスト数単位」など課金・ライセンスの考え方が異なります。設計段階で守る単位を言語化しておくと、見積もりと運用のズレを減らせます。

WAFの配置場所

クラウド型の考え方

クラウド型WAFは、導入までの手間を抑えやすく、トラフィック増に合わせたスケールがしやすい点がメリットです。一方で、運用の自由度、ログの取り回し、通信経路、SLAなど、確認すべき前提が増えます。データの扱いをどこまで外部に委ねられるかも、組織の要件として整理が必要です。

オンプレミス型の考え方

オンプレミス型は、自社管理下で詳細な制御や連携がしやすい一方、初期投資、冗長化、保守、更新作業など運用負荷が増えやすい傾向があります。長期運用でのコストと体制を前提に、無理のない選択にすることが重要です。

WAFを運用するために押さえるべき前提

WAF導入にあたっては、まず自社のWebアプリケーションが、どの脅威にどの程度さらされているのかを把握する必要があります。すべての攻撃に一律で対応するのは現実的ではないため、リスクの高い経路や機能から優先順位を付けて守る設計が求められます。

また、WAFは設定して終わりではありません。ルール調整、例外設定、ログ監視、更新適用といった継続作業が前提になります。運用を担う担当者、ベンダー支援の範囲、障害時の切り分け方針まで、導入前に決めておくべきです。

WAFの設定と運用

WAFは「導入した瞬間から効果が最大化する」タイプの製品ではありません。正規トラフィックを止めないようにしながら、攻撃を確実に落とすために、段階的な設定と運用の磨き込みが必要です。

WAF設定の進め方

導入環境の確認

クラウド型であれば、連携方式(DNS切り替え、リバースプロキシ経由など)や証明書運用、ログ連携を確認します。オンプレミス型であれば、前段・後段のネットワーク構成、冗長化、性能見積もり、TLS終端の方針などを整理します。

デプロイと動作確認

WAFを配置したら、まずはアプリの正常系が想定どおり流れるかを確認します。ここで焦って厳しめのルールを入れると、正規トラフィックを止めやすくなります。

ポリシー設定と段階的な適用

デフォルトポリシーは「万能」ではありません。最初は監視中心(検知)で傾向を把握し、止めるべきものと通すべきものを整理したうえで、遮断(ブロック)へ段階的に移行するのが現実的です。

監視とチューニング

WAF運用の肝は、ログ監視とチューニングです。例外設定を増やしすぎると穴が広がり、厳しすぎると業務影響が出ます。アプリ側の改修や仕様変更も含め、継続的に調整する前提で運用します。

WAF運用に影響する要素

トラフィック量と性能

WAFはHTTP/HTTPSの中身を見て判断するため、トラフィック量が増えるほど負荷が増えます。ピーク時の性能、暗号化処理、ログ出力の設計まで含めて、ボトルネックを作らない構成が必要です。

アプリケーションの複雑さ

アプリが複雑になるほど、許容すべき入力や通信パターンも増え、ルール設計が難しくなります。機能追加やUI変更が頻繁な環境では、WAF側の調整作業も増える前提で体制を組むべきです。

脅威の変化

攻撃手法は変化します。ルール更新、シグネチャの適用、脆弱性情報の反映を止めると、WAFの効果は目減りします。更新の頻度と手順を運用ルールとして固定しておくことが重要です。

WAFのルール設定とメンテナンス

WAFは、アプリの振る舞いに合わせてルールを調整できます。ログイン、検索、ファイルアップロード、決済など、攻撃対象になりやすい機能ほど、入力値やリクエスト形式の把握が重要になります。

ルールメンテナンスは、単に「新しいルールを追加する」ことではありません。誤検知の原因を特定して例外を適切に切り、必要であればアプリ側の入力制御を強化する、といった両面の改善で精度を上げていきます。

WAFの課題

WAFは強力ですが、万能ではありません。導入効果を最大化するには、WAFが抱える課題を理解し、設計と運用で吸収する必要があります。

フォールスポジティブとフォールスネガティブ

フォールスポジティブは正規のトラフィックを誤って攻撃とみなす現象、フォールスネガティブは実際の攻撃を正規と誤認して通してしまう現象です。どちらもゼロにはできず、ルール精度、チューニング、アプリの仕様把握に左右されます。

フォールスポジティブが多いと業務影響が出て、結果的にWAFを緩めすぎる原因になります。逆にフォールスネガティブが多いと、WAFが入っていても被害が出ます。運用では「どちらに寄っているか」を継続的に点検する必要があります。

ルールとポリシーの管理負荷

WAFのポリシーは、アプリの変更と脅威の変化に追従する必要があります。大規模なWebアプリケーションでは、機能追加や仕様変更が頻繁に起こり、例外設定も増えやすくなります。結果として、更新とレビューに時間がかかる運用コストになりがちです。

WAF自体が狙われるケース

WAFバイパスのように、検知回避を狙う攻撃も存在します。設定ミスや更新遅延、例外の積み上げなどがあると、回避される余地が増えます。WAFを守るためにも、継続的なアップデートと、設定の棚卸しが必要です。

WAFの将来と予測

Webアプリケーションは、モノリシックからマイクロサービス、API中心の設計へと変化しています。それに合わせて、WAFの役割も「Webページ保護」だけでは足りなくなり、保護対象が広がっています。

WAFの技術とその進化

近年は、機械学習(ML)やAIを活用して異常傾向を捉えようとする仕組みが増えています。ただし、AI機能があっても誤検知や運用負荷が自動的に消えるわけではありません。ログの品質、アプリの仕様把握、運用の意思決定が前提になります。

また、APIがWebアプリケーションの中核になっている現状を受け、API保護(APIの利用状況の可視化、異常リクエストの検知など)を重視する流れも強まっています。

WAF市場の成長要因

DXの進展により、Webサービスやオンライン業務が増え、攻撃対象が広がっています。アプリがビジネスの中心になるほど、停止や情報漏えいの影響が大きくなるため、WAFを含むアプリ保護の需要は高まりやすい状況です。

WAFの次のステップ

今後は、自動化と統合が進み、「検知から対応までの時間を短くする」方向が強まると考えられます。一方で、統合が進むほど設計の前提も複雑になります。導入時点で、守る範囲、ログの扱い、運用責任の分担を明確にしておくことが重要です。

結論

WAFは、Webアプリケーションを狙う攻撃をHTTP/HTTPSレベルで検知・遮断し、被害を抑えるための有効な対策です。特に、ネットワーク境界だけでは止めにくい攻撃に対して、現実的な防御線になり得ます。

Webアプリケーションファイアウォールの需要と必要性

電子商取引やオンラインサービスが拡大し、Webアプリケーションが業務や顧客接点の中心になるほど、攻撃の対象も増えます。攻撃者は脆弱性や設定不備を狙うため、アプリの改修と並行して、被害を抑える防御線を持つことが重要になります。

WAFの採用で期待できる効果

WAFを適切に設計・運用できれば、攻撃トラフィックの遮断により侵入や情報漏えいのリスクを下げることが期待できます。加えて、検知ログを通じて攻撃の傾向や狙われやすい機能が見えやすくなり、アプリ改修や運用改善の優先順位付けにもつながります。

また、規制やコンプライアンスで求められる「Webアプリ保護の実施」を説明しやすくなる点も現実的なメリットです。ただし、要件を満たすかどうかは業種・規程に依存するため、「WAFがあれば満たせる」と短絡的に捉えず、必要な管理策として整理することが重要です。

WAFと組み合わせて考えるべきセキュリティ対策

セキュリティは多層で考える必要があります。WAFに加えて、ネットワーク境界の制御、侵入の兆候検知、エンドポイント対策、脆弱性診断、ログ監視などを組み合わせ、どの層で何を止めるのかを設計します。

そして、運用の現場では、セキュリティ研修や啓発活動を通じて、ユーザーや開発・運用担当者の意識と手順をそろえることも欠かせません。WAFは強い武器ですが、運用と組み合わせて初めて効果が安定します。

よくある質問(FAQ)

Q.WAFとは何ですか?

WAFは、Webアプリケーションを狙う攻撃を検知・遮断するために、HTTP/HTTPSトラフィックの内容を解析するセキュリティ対策です。入力値やリクエストの特徴を見て、通すか止めるかを判断します。

Q.WAFはネットワークファイアウォールと何が違いますか?

ネットワークファイアウォールは主にIPやポートなどネットワーク層の制御が中心です。WAFはHTTP/HTTPSの中身を前提に、アプリ特有の攻撃を狙ったルールで判断します。

Q.WAFはSQLインジェクションを防げますか?

ルールが適切であれば、SQLインジェクションに典型的なパターンを検知して遮断できます。ただし、すべての攻撃を完全に止められるわけではないため、アプリ側の対策と併用が前提です。

Q.WAFはCSRFも防げますか?

CSRFはリクエストが正規に見えやすく、根本対策はアプリ側のCSRFトークン検証などに依存します。WAFは補助的な抑止策として考え、アプリ側対策とセットで設計する必要があります。

Q.クラウド型WAFとオンプレミス型WAFはどう選べばよいですか?

クラウド型は導入とスケールがしやすい一方、ログや通信経路、運用の自由度などの前提確認が必要です。オンプレミス型は自社管理下で制御しやすい反面、冗長化や保守更新を含めた運用負荷が増えやすい傾向があります。

Q.WAFを入れれば運用は楽になりますか?

WAFは置くだけで安定するものではなく、ルール更新、ログ監視、チューニングが前提です。運用体制や手順を先に整えないと、誤検知や性能影響が負担になります。

Q.フォールスポジティブとフォールスネガティブとは何ですか?

フォールスポジティブは正規の通信を誤って攻撃とみなすことです。フォールスネガティブは攻撃を正規と誤認して通してしまうことです。どちらもゼロにはできず、運用でバランスを取る必要があります。

Q.WAFの導入で一番つまずきやすい点は何ですか?

アプリの仕様を十分に把握しないままルールを厳しくすると、正規トラフィックを止めてしまいがちです。最初は監視中心で傾向を把握し、段階的に遮断へ移行する設計が現実的です。

Q.WAFは攻撃者に回避されることがありますか?

検知回避を狙う攻撃は存在し、例外設定の積み上げや更新遅延があると回避されやすくなります。アップデートと設定の棚卸しを継続して、回避余地を増やさない運用が重要です。

Q.WAFを一言でまとめると何が重要ですか?

WAFはWebアプリをHTTP/HTTPSレベルで守る防御線ですが、効果は運用で決まります。守る範囲と限界を理解し、更新とチューニングを前提に設計することが重要です。

記事を書いた人

ソリトンシステムズ・マーケティングチーム