現代社会は、デジタル技術の発展により、さまざまな領域で情報化が進展しています。情報化社会とも言えるこの時代において、情報資産は価値を高め、企業の競争力や個人の生活品質を左右する重要な要素となっています。
私たちの生活は文字通りデジタル化され、人間関係からビジネス、ショッピングまで、あらゆる活動がオンライン上で行われるようになりました。特に、COVID-19の流行期には、リモートワークやオンライン教育など、ネットワークを通じた活動の重要性が一段と高まったと言えるでしょう。
その一方で、不正アクセス、情報漏洩、改ざんなど、情報に関連した犯罪やトラブルも増えています。便利さの裏側にあるリスクを正しく理解し、必要な対策を取ることが、今の時代には求められています。
情報セキュリティは、情報資産を保護し、不正アクセスや情報漏洩などのリスクから守るための仕組みや取り組みです。情報セキュリティが確保されると、ユーザーや顧客からの信頼が得られ、ビジネスやサービスの信頼性を支える基盤にもなります。
逆に、ひとたび事故が起きれば、金銭的損失だけでなく、信用の低下、業務停止、法令対応など、影響が連鎖的に広がることもあります。だからこそ、多くの組織や個人が情報セキュリティを重視し、継続的に対策を見直しています。
情報セキュリティを確保するためには、基本となる要素を理解することが重要です。代表的には「機密性」「完全性」「可用性」「真正性」「責任追跡性」「否認防止」「信頼性」の7要素が挙げられます。
この記事では、この7要素のうち「真正性」に焦点を当て、その意味や重要性、確保のための技術や考え方を整理します。
デジタル環境では、送受信される情報が「正しい相手から届いているか」「発信者や内容が偽装されていないか」を確認する必要があります。そこで重要になるのが真正性です。

具体的にどのような概念なのか、その重要性や背景、具体例を見ていきましょう。
真正性とは、情報が信頼できる出所から発生していること、また、その情報を発信した主体(人・組織・システム)が偽装されていないことを指します。言い換えれば、「その情報が“本物”である」ことを確認できる状態です。
インターネット上で商取引を行う場合や、重要な情報をやり取りする場合、相手や情報が偽物であれば、判断そのものが崩れてしまいます。だからこそ、真正性は、情報の受け手が安心して行動するための前提になります。
デジタル社会では、情報は瞬時に広まり、コピーや改変も容易です。発信源や発信者が曖昧なまま情報が流通すると、偽情報に基づく誤解や混乱、詐欺、なりすましなどのリスクが増大します。
しかし、現実には膨大な情報が日々送受信され、すべてを人手で確認するのは非現実的です。だからこそ、真正性を自動的・仕組みとして確認できる技術や運用が求められています。
例えばオンラインショッピングでは、「表示されている販売者が本当にその事業者なのか」「提示されている商品情報が改ざんされていないか」が重要です。仮に、販売者が詐欺目的の偽装アカウントだったり、商品説明が意図的に改変されていたりすれば、購入判断は簡単に誤らされます。
デジタルの情報は、文字や画像、動画として提示されるだけで、その背後にいる人や組織を直接確認することはできません。だからこそ、情報そのものと、情報を提供する主体の真正性を確認する仕組みが欠かせません。
情報の真正性を確保するためには、さまざまな技術的手段が用いられます。ここでは代表的な技術として、デジタル署名、認証、暗号技術を取り上げます。
デジタル署名は、情報の正当性を保証する技術の一つです。データの作成者(署名者)が誰であるか、そしてデータが改ざんされていないことを確認するために用いられます。
一般にデジタル署名は公開鍵暗号方式を利用し、署名者が秘密鍵でデータに署名し、受け手が公開鍵で署名を検証します。検証に成功すれば、「その秘密鍵を持つ主体が署名したこと」と「署名後に改ざんされていないこと」を確認できます。
認証は、通信の参加者が正しい人物またはシステムであることを確認するプロセスです。パスワード、デジタル証明書、生体認証など、本人性を確認できる情報を使ってアクセス主体を確かめます。
認証が適切に機能すると、なりすましを抑え、情報や操作の出所を追いやすくなります。結果として、情報の真正性を守る土台にもなります。
暗号技術は、情報を第三者に読まれない形に変換する手段であり、主に機密性を確保する目的で用いられます。ただし、通信途中の盗聴や改ざんを抑え、正しい相手と安全にやり取りするためのプロトコル(例:TLS)に組み込まれることで、真正性の確保にも間接的に役立ちます。
また、デジタル署名の仕組みそのものが暗号技術を基盤としているため、暗号技術は真正性を支える重要な前提技術でもあります。
真正性は単独で働くものではなく、他の要素と組み合わさることで、情報セキュリティ全体としての効果が高まります。ここでは7要素の視点から関係性を整理します。
機密性は「許可された者だけが情報にアクセスできる状態」を指します。暗号化やアクセス制御により達成されます。一方、真正性は「その情報や主体が偽装されていないこと」を保証します。例えば、暗号化だけでは“誰が送ってきたか”は保証できませんが、デジタル署名や証明書を組み合わせることで、送り手の確認につながります。
完全性は「情報が不正に変更されていない状態」です。真正性は「その情報が本物であること」、完全性は「その本物の情報が壊れていないこと」を支えます。デジタル署名は、真正性(署名者の確認)と完全性(改ざん検知)を同時に補強できる代表例です。
可用性は「必要なときに利用できる状態」です。情報が真正であっても、必要な場面で使えなければ意味がありません。逆に、可用性だけを重視して真正性が崩れると、偽の情報を“いつでも使える状態”にしてしまう危険もあります。両者はバランスが重要です。
責任追跡性は、誰が何をしたかを追跡できる状態です。真正性が確保され、主体の偽装が抑えられているほど、ログや監査証跡は意味を持ちやすくなります。逆に、なりすましが容易だと、記録が残っても「本人がやった」と言い切れません。
否認防止は、送信者や受信者が後から行為を否認できないようにする考え方です。真正性により主体が正しく特定でき、さらに署名や記録が適切に残ることで、否認防止の実効性が高まります。
信頼性は、システムが正しく動作し続ける能力を指します。真正性が守られている環境では、なりすましや偽装による誤作動・誤判断が起きにくくなり、結果としてシステム運用の信頼性にも寄与します。
情報の真正性を確認する方法は、大きく自己証明と第三者証明に分けられます。どちらが適切かは、相手との関係性や用途、求められる保証レベルによって変わります。
自己証明とは、情報が本当にその発行者から発行されたものであること、または情報が指定した内容を含んでいることを、発行者自身が証明する方法です。
典型例として、発行者がデジタル署名を用い、送信したデータが自身のものであることを示します。署名は秘密鍵で生成され、受け手は公開鍵で検証します。これによりデータが改ざんされていないこと、発行者が実際に署名したことを確認できます。
第三者証明とは、情報が真正であることを、信頼できる第三者機関が証明する方法です。代表例は認証局(CA)が発行するデジタル証明書です。
双方に直接の信頼関係がない場合でも、第三者機関を介して本人性や組織の正当性を確認しやすくなります。インターネット規模の通信や取引では、この仕組みが前提となっている場面が多くあります。
真正性は、社会や組織の情報セキュリティを支える重要な要素です。確実に保つための対策は、技術だけでなく運用や人の行動も含めて考える必要があります。ここでは、ハードウェア的対策、ソフトウェア的対策、人的対策の3つに分けて整理します。
ハードウェア的対策は、物理的な安全を確保するためのものです。重要なデータを保存しているサーバーやストレージの物理的な保護、端末の盗難防止、持ち込み機器の制御、ネットワーク機器の適切な設置・管理などが該当します。
物理的に改ざんされると、ソフトウェアだけでは検知が難しい場合があります。物理面の対策は地味に見えますが、真正性の土台として重要です。
ソフトウェア的対策は、真正性を維持するための仕組みを導入・運用することです。ウイルス対策ソフト、EDR、ファイアウォール、脆弱性対策(パッチ適用)、アクセス制御、ログ管理などが含まれます。
また、データの改ざんを検知できる仕組み(監査ログ、整合性チェック、権限分離、承認フロー)を組み込むことで、「いつ、誰が、どのデータを扱ったか」を追える状態を作りやすくなります。
人的対策は、利用者が真正性を守る行動を取れるようにすることです。フィッシング対策の教育、怪しいリンクを開かない、送信元の確認を徹底する、アカウント共有を避ける、パスワード管理を適切に行う、多要素認証を利用するなどが代表例です。
技術的に対策していても、人の判断で突破されるケースは少なくありません。だからこそ、教育を「一度きり」にせず、短い頻度で継続的に行うことが現実的です。
以上の3つを組み合わせ、継続的に見直すことで、情報の真正性をより確実に保ちやすくなります。
ここまで、情報セキュリティの7要素のうち、真正性について解説してきました。最後に、真正性が私たちの生活やビジネス、そして未来社会でどのような意味を持つのかを整理します。
個人情報やクレジットカード情報、SNS上の発信内容など、私たちが扱うデータもまた真正性の対象です。もし偽情報やなりすましが広がれば、金銭被害だけでなく、人間関係や生活基盤が破壊される可能性もあります。だからこそ、個人にとっても真正性の確認は現実的な自衛手段になります。
現代のビジネスでは、情報やデータが活動の中心にあります。その情報が偽装されていたり、主体がなりすまされていたりすれば、取引や意思決定は簡単に崩れます。真正性の確保は、企業の信用や価値を支える「見えないインフラ」だと言えるでしょう。
フィッシング詐欺、ビジネスメール詐欺、偽サイトなど、サイバー犯罪の多くは「本物に見せかける」ことで成立します。真正性を確認できる仕組みと習慣があれば、こうした攻撃の成功率を下げ、安全なデジタル社会に近づけます。
AIやIoTが進化し、デジタル社会がさらに発展するほど、データに依存する領域は増えます。そのとき、データや主体の真正性が担保されていなければ、テクノロジーを安心して活用することができません。
真正性の確保は、単なる技術論にとどまらず、社会全体の信頼を守るための基本テーマです。安全で信頼性の高いデジタル社会を作るために、私たち一人ひとりが真正性とその保証方法を理解し、できるところから実践していくことが求められます。