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DHCPとは? 役割・仕組み・機能をわかりやすく解説

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目次

私たちの日常生活は、インターネットに接続されたさまざまなデバイスによって支えられています。スマートフォン、パソコン、テレビなど、これらのデバイスがネットワークに接続し通信を行うためには、IPアドレスを含む適切なネットワーク設定が必要です。企業だけでなく一般家庭でも、複数のデバイスがネットワークに接続され、その数は年々増え続けています。
こうした多様なデバイスがスムーズに通信を行うために、裏方として重要な役割を果たしている技術があります。それが、DHCP(Dynamic Host Configuration Protocol)です。目立つ存在ではありませんが、私たちがインターネットに接続する際には欠かせない技術であり、多くの人が気づかないうちに利用している可能性が高いものです。
本コラムでは、このDHCPについて、概要から誕生の背景、標準化規格、主な利用シーン、通信シーケンス、技術的優位点、利用時の注意点まで幅広く解説していきます。

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DHCPとは

ネットワークに接続するデバイスに、IPアドレスなどの情報を自動的に割り当てるプロトコルが、DHCP(Dynamic Host Configuration Protocol)です。この技術は、IPアドレスに加え、サブネットマスク、デフォルトゲートウェイ、DNSサーバーアドレスなど、通信に必要な設定情報をまとめて端末に割り当てます。英語表記を直訳すると、「動的ホスト設定プロトコル」となります。
インターネットプロトコル(IP)による通信では、デバイスを一意に識別するために、IPアドレス、MACアドレス、ポート番号の3つの情報が利用されます。MACアドレスは各端末に固有で、製造時に設定されています。ポート番号は、通信するアプリケーションやサービスを識別するための番号で、ソフトウェアによって自動的に管理されます。そしてIPアドレスは、ネットワーク上で端末を識別するために使われ、これを動的に割り当てる役割を担うのがDHCPです。
DHCPを利用することで、ネットワーク管理者はデバイスごとに手動でネットワーク設定を行う手間を省けます。また、ユーザーは新たなデバイスをネットワークに接続する際、特別な設定をしなくても自動的にインターネットにアクセスできるようになります。
このようにDHCPは目立たない存在ではありますが、私たちが日常的にインターネットを利用するうえで、なくてはならない技術となっています。

DHCPが生まれた背景

DHCPが登場する以前、1980年代後半のインターネット黎明期では、IPアドレスの管理は主に手作業で行われていました。ネットワーク管理者が各デバイスに固定的にIPアドレスを手動で設定し、その情報を台帳で管理していたのです。しかし、ネットワークが大規模化し、デバイスの数が増加するにつれて、この作業は非常に煩雑で時間のかかるものとなりました。
こうした状況のなか、1993年に提唱されたRFC 1531により、IPアドレスを自動で割り当てる新たなプロトコルとしてDHCPが登場しました。これは、前身であるBootstrap Protocol(BOOTP)を拡張したもので、IPアドレスだけでなく、デフォルトゲートウェイやDNSサーバーなど、ネットワーク接続に必要な設定情報すべてをデバイスに動的に割り当てることができるようになりました。
DHCPが提供するIPアドレスの自動割り当て機能は、それまでの手作業によるIPアドレス設定と管理を大幅に効率化し、設定ミスによるネットワーク障害のリスクを低減しました。また、DHCPではIPアドレスを時間限定で割り当てる「リース」概念を導入し、IPアドレス資源の効率的な再利用も可能にしました。
これらのDHCPの機能により、大規模なネットワークの管理が簡素化され、デバイスのネットワーク接続も迅速化され、ネットワークの運用コスト削減に大きく貢献しました。

DHCPの標準化規格

DHCPは、IETF(Internet Engineering Task Force)によって標準化されています。IETFは、インターネット技術の標準仕様を策定する国際的な組織であり、その規格は「RFC」(Request For Comments)という形式で公表されます。ここでは、DHCPの主要なバージョンとその変更点について解説します。

RFC 1531(1993年)

DHCPの最初の規格であり、前身であるBOOTP(Bootstrap Protocol)を拡張する形で開発されました。IPアドレスの動的割り当てやリースの概念が導入されました。

RFC 1541(1993年)

RFC 1531を軽微に修正したバージョンです。特定の問題への対応や、文書中の表記修正などが行われました。

 RFC 2131(1997年)

現在もIPv4 DHCPの主要な規格となっているバージョンです。この改訂では、DHCPの動作や通信シーケンスがさらに明確化され、DHCPサーバーとクライアントの役割や通信タイミングに関する詳細なガイドラインが提供されました。また、オプション機能の拡張も行われ、柔軟なネットワーク設定が可能となっています。
(※本コラムではIPv4におけるDHCPを対象としています。IPv6に関するDHCP(DHCPv6)については、別途RFC 8415(2018年)などにより規定されています。)

以上のように、DHCPの標準化規格は時代のニーズに応じて進化を続け、現代のインターネット環境においても効率的なIPアドレス管理を支える重要な技術となっています。

DHCPの仕組み

家庭内で利用するWi-Fiルーターや有線ルーターには、通常「DHCPサーバー機能」が搭載されています。これにより、ネットワークに接続されたデバイスに対して、IPアドレスなどの情報が自動的に割り当てられます。一方、企業ネットワークの場合、独立したサーバーをDHCPサーバー専用として運用するケースも一般的です。
IPアドレスの割り当て方法には、「静的」と「動的」の2種類があります。このうち、DHCPが割り当てるのは動的IPアドレスです。動的IPアドレスは、DHCPサーバーが管理するアドレスプールの中から未使用のIPアドレスを選び、クライアントに割り当てる仕組みです。割り当てと同時に、サブネットマスクやデフォルトゲートウェイなどの情報も自動的に設定されます。
DHCPによって割り当てられるIPアドレスは、常に同じとは限りません。デバイスの接続と切断を繰り返すたびに変更される場合があります。これは、IPアドレスに「リース期間」が設定されているためです。リース期間が終了すると、DHCPサーバーはそのIPアドレスが引き続き使用中かどうかを確認し、未使用であればアドレスプールに戻します。
一方、静的IPアドレス(固定IPアドレス)は、ネットワーク管理者が特定のアドレスを手動でデバイスに設定する方式です。再接続した場合も、常に同じIPアドレスを利用し続けることができます。なお、静的IPアドレスを設定するデバイスでは、DHCPを利用する必要はありません。

DHCPの構成要素

DHCPについてより深く理解するために、構成要素を整理しておきましょう。基本は「DHCPサーバー」と「DHCPクライアント」ですが、これらを異なるネットワーク間でつなぐ「DHCPリレーエージェント」も重要な役割を果たします。

DHCPサーバー

DHCPサーバーは、ネットワーク上のデバイスに対して、IPアドレス、サブネットマスク、デフォルトゲートウェイ、DNSサーバー情報など、ネットワーク接続に必要な設定情報を動的に提供します。DHCPプロトコルに基づき、適切な情報を割り当てます。通常、1つのネットワークには1台のDHCPサーバーが存在します。複数のDHCPサーバーが存在すると、IPアドレスの重複や管理ミスが発生する可能性があるため注意が必要です。

汎用サーバーに導入するDHCPソフトウェア

LinuxやWindows Serverなどの汎用OS上にインストールして動作させる形式です。IDC DHCPやProDHCPといった製品が該当します。大規模かつ柔軟なネットワーク構築に向いています。


商用DHCPでインターネット回線の安定化を実現。「ProDHCP」 開発の背景や従来のDHCPとの違いに迫る|NetAttest20周年特別企画 | ネットアテスト

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ネットワーク製品に付随する機能

無線APやルーター、UTM(Unified Threat Management)などのネットワーク機器には、多くの場合、DHCPサーバー機能が組み込まれています。特に小規模ネットワークやSOHO(Small Office/Home Office)環境では、この機能がよく利用されます。

専用のアプリアンス製品

DHCPクライアントは、DHCPサーバーからIPアドレスなどのネットワーク設定情報を受け取るデバイスを指します。ネットワーク上には複数のDHCPクライアントが存在します。


DHCP/DNSサーバーアプライアンス NetAttest D3 | ネットワークソリューション | ソリトンシステムズ

NetAttest D3(ディースリー)はDHCPサーバー、DNSサーバー、DynamicDNSサーバーの機能を搭載したアプライアンス製品です。D3はMACアドレスに基づいたIPアドレス割当て制御によって不正PCの接続を防止するなど、セキュリティ面を強化したDHCP/DNSサーバーです。

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DHCPクライアント

DHCPクライアントは、ネットワークに接続するために必要な情報(IPアドレスなど)をDHCPサーバーから割り当てられるデバイスを指します。DHCPサーバーとの関係は1対多であり、ネットワーク上には複数のDHCPクライアントが存在します。

  • パーソナルコンピューター(PC)
  • スマートフォン
  • オフィス内の複合機(プリンター・スキャナー)
  • IoT機器(スマートスピーカー、カメラなど)

これらのデバイスは、ネットワークに接続する際に自動的にIPアドレスや他のネットワーク情報を取得するためにDHCPを使用します。これにより、ネットワーク管理者が手動で各デバイスにIPアドレスを割り当てる必要がなくなり、大幅な効率化とエラー削減が可能となります。

DHCPリレーエージェント

DHCPリレーエージェントは、DHCPサーバーとDHCPクライアントが異なるネットワークに存在する場合に、両者を橋渡しする機能を担います。通常、DHCP通信はブロードキャストで行われますが、ブロードキャストは異なるネットワークを越えて届きません。このため、ルーターやL3スイッチ、ファイアウォールなどに搭載されたDHCPリレーエージェント機能が、ブロードキャストを受け取り、ユニキャストに変換して転送します。異なるネットワーク間でDHCP通信を成立させるためには、リレーエージェント機能の活用が不可欠です。

DHCPの通信シーケンス

DHCPでは、IPアドレスをデバイスに割り当てる際、4つの基本的な通信ステップを経て処理が行われます。これらは、DHCPクライアントとDHCPサーバー間で交わされるメッセージの流れによって構成されています。

  1. DHCPDISCOVER
    DHCPクライアントがネットワークに接続すると、最初に「DHCPDISCOVER」メッセージをブロードキャスト送信します。これは、ネットワーク上のDHCPサーバーに「どこにいるか?」を問い合わせるものです。
    この段階ではクライアントはIPアドレスを持っていないため、送信元IPアドレスは0.0.0.0、送信先IPアドレスは255.255.255.255(ブロードキャストアドレス)となります。
  2. DHCPOFFER
    DHCPサーバーはDHCPDISCOVERを受信すると、管理しているIPアドレスプールから1つのIPアドレスを選び、クライアントに提供する「DHCPOFFER」メッセージを返します。
    このメッセージには、提案するIPアドレス、サブネットマスク、デフォルトゲートウェイ、リース期間などが含まれています。通常、ブロードキャストで送信されます
  3. DHCPREQUEST
    DHCPクライアントは、複数のDHCPOFFERを受け取った場合、その中から1つを選び、希望するIPアドレスの割り当てをリクエストする「DHCPREQUEST」メッセージを送信します。
    このメッセージもブロードキャストで送信され、選択したDHCPサーバーの情報を指定します。
  4.  DHCPACK
    選ばれたDHCPサーバーは、クライアントのDHCPREQUESTを受け取ると、正式な割り当ての完了を知らせる「DHCPACK」メッセージを返します。
    このメッセージには、最終的なIPアドレス、サブネットマスク、デフォルトゲートウェイ、DNSサーバー情報などが含まれています。これによって、クライアントはネットワーク接続を確立します。

これら4つのステップにより、DHCPはデバイスに対して自動的かつ効率的にIPアドレスなどの必要な設定を割り当てます。なお、クライアントとサーバーが異なるネットワークに存在する場合は、DHCPリレーエージェントが間に入ることで通信を中継します。リレーエージェントはクライアントからのブロードキャストを受け取り、ユニキャストに変換してDHCPサーバーへ転送します。同様に、サーバーからの応答もクライアントへ中継します。この仕組みにより、ネットワーク規模が大きくなっても、効率的なIPアドレス管理が可能となっています。

DHCPで払い出される情報

DHCP(Dynamic Host Configuration Protocol)は、ネットワーク上のデバイスに対して、IPアドレスやその他のネットワーク設定を自動的に提供するプロトコルです。

ここでは、DHCPによって払い出される主な情報とその意味について紹介します。

設定概要
IPアドレスネットワーク上でデバイスを識別するための一意のアドレスです。
サブネットマスクネットワークとホスト部分を分離するためのビットマスクです。
デフォルトゲートウェイデバイスがローカルネットワーク外へ通信する際のデフォルトの経路です。
DNSサーバードメイン名をIPアドレスに変換するサーバーのアドレスです。
ドメイン名デバイスが所属するドメイン名です。
NTPサーバーネットワークタイムプロトコルを提供するサーバーのアドレスです。
リース時間DHCPによって割り当てられたIPアドレスの有効期限です。
DHCPサーバー識別子IPアドレスを割り当てたDHCPサーバーを識別します。
ブートサーバーネットワークブートをサポートするサーバーのアドレスです。
タイムオフセットクライアントがある地域の標準時からのオフセットを示します。

これらの他にも、ベンダー固有情報やスタティックルート、SLPサービススコープ、ディレクトリエージェント、リソースロケーションサーバーなど、特定の状況や用途に応じた情報を払い出すことが可能です。これらの追加設定は、ベンダーやシステム管理者によって必要に応じて定義されます。オプション情報を活用することで、ネットワーク管理をさらに効率化し、デバイスの迅速な接続設定を実現できます。

DHCP環境で端末のIPアドレスが固定されるケース

DHCPによって割り当てられるIPアドレスは、通常、一定の期間(リース期間)だけ利用可能です。しかし、いくつかの理由により、端末が同じIPアドレスを継続的に使用するケースもあります。

リースの延長

DHCPクライアントがIPアドレスを取得すると、同時にリース期間が設定されます。リース期間が半分を経過すると、クライアントはDHCPサーバーに対してリースの更新(延長)を自動的にリクエストします。これにより、クライアントは継続して同じIPアドレスを使用し続けることができます。もしサーバーから応答が得られなかった場合、クライアントはリース期間の残りが1/8に達したタイミングでもう一度リクエストを試みます。この仕組みにより、ネットワークに接続し続けているデバイスは、同じIPアドレスを比較的安定して使用し続けることが可能となっています。

固定アドレスの設定

一部のデバイス(プリンターや社内サーバーなど)では、常に同じIPアドレスを割り当てる必要があります。この場合、DHCPサーバー側で「固定アドレス(fixed address)」設定を行います。固定アドレス設定では、デバイスのMACアドレスとIPアドレスの対応を事前に登録しておき、DHCPサーバーはそのMACアドレスからのリクエストに対して常に同じIPアドレスを払い出します。これにより、ネットワーク上でそのデバイスに対するアクセス経路が安定し、運用上の管理が容易になります。

DHCP環境で端末のIPアドレスが変更されるケース

DHCPクライアントが、以前に使用していたIPアドレスから別のアドレスへ変更されるケースについて解説します。代表的なシナリオは以下のとおりです。

異なるネットワーク環境への移動

クライアントが異なるネットワークに接続すると、そのネットワークに応じたDHCPサーバーから新しいIPアドレスが割り当てられます。たとえば、ユーザーがオフィスの有線LANから会議室の無線LANに接続する場合、それぞれ別のネットワークセグメントに属しているため、異なるIPアドレスが払い出されます。

リース期間経過後の再接続時

DHCPクライアントが一時的にネットワークから切断され、その間にリース期間が満了してしまった場合、再接続時には新たなIPアドレスが割り当てられることがあります。特に、元のIPアドレスが別のデバイスに再割り当てされていた場合は、必ず新しいアドレスが与えられます。

DHCPサーバーの設定変更時

DHCPサーバーの管理者によって設定が変更された場合にも、クライアントのIPアドレスが変更されることがあります。たとえば、割り当て対象のIPアドレスプールが変更された場合や、特定デバイスの固定アドレス設定が解除された場合などがこれに該当します。

このように、クライアントの接続状況、リース期限、ネットワーク構成、DHCPサーバー側の設定変更といった要素により、IPアドレスが変更されることがあります。これらの状況を把握しておくことは、ネットワークの運用やトラブルシューティングを行う上で非常に重要です。

IPアドレスの重複を回避する仕組み

DHCPは、IPアドレスの重複割り当てを防ぐために、いくつかの工夫を施しています。
その中心となるのは、DHCPサーバーがリース情報を管理し、同じIPアドレスを他のクライアントに再割り当てしない仕組みです。さらに、追加の重複防止策として、以下の手法が広く用いられています。

GARP (Gratuitous ARP)による存在確認

GARPは、ARP(Address Resolution Protocol)の一種であり、自身のIPアドレスとMACアドレスの対応情報を、ブロードキャストによってネットワーク全体に通知する仕組みです。
DHCPクライアントが新たにIPアドレスを取得した際、GARPを送信することで、自分が使おうとしているIPアドレスがすでに別のデバイスに使われていないかを確認します。もし同じアドレスを使っているデバイスが存在すれば、そのデバイスから応答があり、重複を検知できます。これにより、IPアドレスの衝突(アドレスコンフリクト)を未然に防ぐことができます。

ICMP(Ping)による存在確認

DHCPサーバー側でも、IPアドレス割り当て前にPing(ICMP Echo Request)による存在確認を行う場合があります。
具体的には、割り当て予定のIPアドレスに対してPingを送信し、応答があるかをチェックします。応答が返ってきた場合、そのIPアドレスはすでに使用中と判断し、別の未使用アドレスを選択して割り当てます。この手法は、特にリース情報が一時的に失われた場合や、ネットワーク内に手動設定された固定IPデバイスが存在する場合に有効です。

これらの重複防止策により、DHCPはIPアドレス管理を安定させ、ネットワーク全体の正常な運用を支えています。

DHCP環境で行われる攻撃手法の例

DHCPはネットワーク上のデバイスが通信を行うための重要なプロトコルですが、悪意ある攻撃者からの標的となるリスクも抱えています。ここでは代表的な攻撃手法について紹介します。

DHCPスプーフィング (DHCP Spoofing)

DHCPスターベーションは、偽のDHCPクライアントから大量のIPアドレス要求を送信し、正規のDHCPサーバーが管理するIPアドレスプールを枯渇させる攻撃手法です。"DHCP Starvation"は「DHCPの飢餓状態」を意味します。
この攻撃によって、正規のクライアントがIPアドレスを取得できなくなり、ネットワークに接続できない事態が発生します。さらに、IPプールが枯渇したタイミングで攻撃者が偽のDHCPサーバーを立ち上げることで、ネットワークを乗っ取る危険性もあります。
この攻撃への対策としては、一つのMACアドレスあたりに割り当てられるIPアドレス数を制限したり、MACアドレスの異常な振る舞いを検知する仕組みを導入することで、攻撃の兆候を早期に察知し防止することが効果的です。

DHCPスターベーション (DHCP Starvation)

DHCPスターベーションは、偽のDHCPクライアントから大量の払出し要求を送出しすることで、正規のDHCPサーバーが管理する全てのIPアドレスを埋め尽くします。その結果、正当なクライアントがIPアドレスを取得できなくなる攻撃手法です。"DHCP Starvation"は直訳すると"DHCPの飢餓"となります。
この攻撃によって、ネットワークに新たに接続しようとするデバイスはIPアドレスを取得できず、ネットワークサービスが利用できなくなる可能性があります。これはサービス拒否(DoS)攻撃の一形態と考えることができます。また、正規のDHCPサーバーを沈黙させ、偽のDHCPサーバー(後述の、ローグDHCPサーバー)からの払出しに誘導させやすくします。
対策としては、一つのクライアントが要求できるIPアドレスの数を制限したり、特定のMACアドレスからの異常な要求を検出するシステムを設けたりすることが考えられます。

ローグDHCPサーバーアタック (Rogue DHCP Server Attack)

ローグDHCPサーバーアタックとは、攻撃者が不正なDHCPサーバーをネットワーク内に設置し、クライアントに偽のネットワーク情報を配布する攻撃手法です。英語の“Rogue”は「ならず者」「不正な」という意味を持ちます。
この攻撃によって、クライアントは攻撃者が管理するネットワークに接続させられ、通信内容の傍受やフィッシングサイトへの誘導といった深刻な被害を受ける可能性があります。
対策としては、ネットワーク上で動作しているDHCPサーバーを適切に管理し、不正なサーバーが存在しないかを定期的に監視することが重要です。加えて、DHCPスヌーピング機能を活用して、信頼できるサーバーからの応答のみを許可することで、リスクを低減できます。

このように、DHCPは利便性の高いプロトコルである一方で、適切な防御策を講じなければ深刻なセキュリティリスクに晒される可能性があります。ネットワーク管理者は、こうした攻撃手法と対策について十分に理解し、日常的に監視と防御を行う必要があります。

DHCPサーバーの重要性

一般家庭向けのインターネット回線では、ほとんどの場合、動的IPアドレスが利用されています。一方、社内LANでは従来、固定IPアドレスを用いることが主流でした。これは、社内に設置されたWebサーバーや、クラウドサービスへのアクセス制限、リモートアクセスやVPN通信などにおいて、固定IPアドレスが有利だったためです。
しかし、近年ではオフィス環境においても、ノートPC、スマートフォン、タブレットなどのモバイル機器の利用が拡大しています。これにより、柔軟なネットワーク環境を構築する必要性が高まり、企業でも動的IPアドレスの採用、あるいは固定IPアドレスとの併用が一般的になりつつあります。
DHCPは、こうした柔軟な運用を支える非常に便利な仕組みです。しかし、DHCPサーバーに不調が発生すると、IPアドレスの割り当てに支障をきたし、ネットワーク全体の利用に重大な影響を及ぼすリスクがあります。また、セキュリティ対策も十分に施さなければなりません。
企業環境では、信頼性の高いDHCPサービスが求められます。大量のデバイスに迅速かつ安定してIPアドレスを配布できる性能、ワイヤレス・ワイヤード両方のアクセスに柔軟に対応できる機能、障害時にも迅速に復旧できる設計などが重要です。
既存のルーターやWindowsサーバーに搭載されている標準的なDHCP機能だけでは、こうした高負荷・高信頼性要求を満たすことが難しい場合があります。そのため、近年では、より高度な機能を備えた専用のDHCPアプライアンス製品も登場しています。

たとえば「NetAttest D3」は、DHCPおよびDNSサービスを統合して提供する法人向けアプライアンス製品です。高速なIPアドレス配布に加え、万一の障害発生時でもDHCPサービスの停止を最小限に抑え、迅速な復旧を実現する機能を備えています。


DHCP/DNSサーバーアプライアンス NetAttest D3 | ネットワークソリューション | ソリトンシステムズ

NetAttest D3(ディースリー)はDHCPサーバー、DNSサーバー、DynamicDNSサーバーの機能を搭載したアプライアンス製品です。D3はMACアドレスに基づいたIPアドレス割当て制御によって不正PCの接続を防止するなど、セキュリティ面を強化したDHCP/DNSサーバーです。

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DHCPは普段あまり意識されることがない裏方の技術ですが、とくに企業内ネットワークでは、その安定稼働が業務継続に直結する重要な役割を担っています。ネットワークの信頼性を高めるためにも、DHCPについて正しく理解し、適切な環境設計と運用管理を心がけることが重要です。

DHCPサーバーの冗長構成

企業ネットワークにおいては、DHCPサーバーが単一障害点(SPOF: Single Point of Failure)となるリスクを回避するため、冗長構成が求められます。ここでは代表的な冗長方式を紹介します。

スプリットスコープ構成

2台のDHCPサーバーでアドレスプールをあらかじめ分割して運用する方式です。
通常、各サーバーはアドレス範囲の一部(例:80%と20%など)を担当し、片方のサーバーが故障しても、もう一方が最低限のIPアドレス配布を継続できる設計となっています。設定や管理は比較的シンプルですが、アドレス割り当てのバランス調整やリース情報の一貫性確保に注意が必要です。

アクティブ-スタンバイ構成(Act-Stby)

1台のDHCPサーバーがアクティブ(稼働状態)、もう1台がスタンバイ(待機状態)として待機する構成です。
アクティブサーバーが故障した場合、スタンバイサーバーが引き継ぎ、IPアドレス配布を継続します。復旧までに若干の時間がかかる可能性はありますが、シンプルな設計で管理しやすいという利点があります。

アクティブ-アクティブ構成(Act-Act)

2台のDHCPサーバーが同時に稼働し、IPアドレスリース情報をリアルタイムで相互同期しながら運用する方式です。
どちらか一方に障害が発生しても、もう一方が即座にリース管理を引き継ぐことができ、ダウンタイムを最小限に抑えることができます。構成は高度で、専用のDHCPフェイルオーバープロトコル(RFC 3074)や、専用アプライアンスのサポート機能を利用することが一般的です。

DHCPとゼロタッチプロビジョニング(ZTP)

近年、ネットワーク運用において「ゼロタッチプロビジョニング(Zero Touch Provisioning:ZTP)」という概念が注目されています。

ZTPとは、新しいネットワーク機器を現地に設置するだけで、手作業による初期設定を行わずに自動的にセットアップを完了させる仕組みを指します。このZTPを支える重要な基盤技術のひとつが、DHCPです。
ZTP対応のデバイスは、初回起動時にまずDHCPサーバーからIPアドレスやネットワーク情報を取得します。さらに、DHCPオプション機能を利用して、設定ファイルやイメージファイルを提供するサーバー(TFTPサーバーやHTTP/HTTPSサーバーなど)の情報も同時に通知されます。これにより、デバイスは指定されたサーバーに自動的にアクセスし、必要な設定やファームウェアをダウンロードして適用することができます。
特に、DHCPのOption 66(TFTPサーバー名)やOption 67(ブートファイル名)などがZTPの実現に広く利用されています。これらの情報を組み合わせることで、現地での作業を最小限に抑えつつ、迅速かつ標準化されたネットワーク機器の導入が可能となります。
このように、DHCPは単なるIPアドレス配布の役割にとどまらず、現代のネットワーク自動化・効率化に不可欠な存在へと進化しています。
ZTPとDHCPをうまく活用することで、大規模なネットワーク展開やリモート拠点への迅速な機器導入が、より容易に、より確実に行えるようになります。

まとめ

本コラムでは、DHCPについてさまざまな視点から解説してきました。

DHCP(Dynamic Host Configuration Protocol)とは、ネットワークに接続されたデバイスに対して、IPアドレスやその他のネットワーク設定情報を動的に割り当てるプロトコルです。
その成り立ちは、かつて手動で行われていたIPアドレス管理の負担を軽減し、自動化を目指す取り組みから始まりました。DHCPはその後、標準化を経て進化を続け、現在ではIPv6に対応する仕様(DHCPv6)も整備されています。

DHCPの仕組みは、DHCPサーバー、DHCPクライアント、そしてDHCPリレーエージェントという3つの主要な要素によって構成され、これらが特定の通信シーケンスを通じてIPアドレスなどの情報をやり取りします。割り当てられたIPアドレスは「リース期間」によって管理され、期間終了後には更新や再割り当てが行われる仕組みです。

また、端末の接続状況やネットワーク環境の変化に応じて、IPアドレスが変更される場合がある一方、MACアドレスを基に特定デバイスに常に同じIPアドレスを割り当てる「固定アドレス設定」も可能です。さらに、IPアドレスの重複を防ぐために、GARPやICMPによる存在確認といった安全対策も実施されています。

DHCPの実装方法には、汎用サーバーに導入するソフトウェア型、ネットワーク機器に内蔵された機能、そして高性能な専用アプライアンス型などがあり、利用シーンや規模に応じた選択が求められます。

一方で、DHCPにはセキュリティリスクも存在し、DHCPスプーフィング、DHCPスターベーション、ローグDHCPサーバー攻撃といった脅威に対して、適切な防御策を講じる必要があります。

DHCPは、普段意識されることの少ない裏方の存在ですが、現代のネットワーク運用においては欠かすことのできない基盤技術です。その仕組みやリスクを正しく理解し、最適な設計・運用を行うことが、安定したネットワーク環境の構築に直結します。

本コラムを通じて、DHCPに対する理解を一層深め、日々のネットワーク管理や運用に役立てていただければ幸いです。

ご参考


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記事を書いた人

ソリトンシステムズ・マーケティングチーム