IT用語集

リスクコミュニケーションとは? わかりやすく10分で解説

水色の背景に六角形が2つあるイラスト 水色の背景に六角形が2つあるイラスト
アイキャッチ
目次

サイバー攻撃や情報漏えいのニュースが日常的に流れるいま、情報セキュリティは「IT部門の仕事」ではなく、経営や事業の意思決定そのものと結びつくテーマになっています。ただし、どれほど正しい対策でも、関係者の理解や合意が得られなければ実行は進みません。そこで重要になるのが、リスクを適切に共有し、判断の材料をそろえるためのリスクコミュニケーションです。本記事では、情報セキュリティの基本から、リスクマネジメントの位置づけ、経営層・事業部門・CISOの役割、そして実務で使えるコミュニケーション手法までを整理し、読者が「自組織では何を優先し、どんな言葉で合意形成すべきか」を考えるための視点を提供します。

情報セキュリティとリスクコミュニケーション

近年、情報技術の進化とともに、情報セキュリティの重要性が高まっています。情報セキュリティは、組織や個人の情報資産を保護するための取り組みを指します。一方、リスクコミュニケーションは、リスクに関する情報を関係者と共有し、理解をそろえるためのコミュニケーション手法を指します。

情報セキュリティの重要性

情報セキュリティは、情報の機密性(見られてはいけない人に見られない)、完全性(内容が勝手に書き換えられない)、可用性(必要なときに使える)を守るための取り組みです。情報漏えい、改ざん、不正アクセス、サービス停止などのインシデントは、組織の信頼や業績に直接影響します。

たとえば、顧客情報が漏えいすれば、損害賠償や調査・連絡・再発防止といった対応コストだけでなく、取引停止やブランド毀損など中長期の影響が残ることがあります。加えて、サービス停止が発生すれば、売上機会の損失や復旧対応による現場負荷の増大にもつながります。そのため情報セキュリティは、単なるITの品質管理ではなく、事業継続や信用を支える経営テーマとして位置づける必要があります。

リスクコミュニケーションの役割

リスクコミュニケーションは、リスクの内容と影響、判断に必要な材料を関係者と共有し、理解をそろえるための手法です。情報セキュリティの分野は、技術的背景や前提条件が多く、「何がどの程度まずいのか」「どこまで対策すべきか」の認識がずれやすい領域でもあります。

そのため、リスクコミュニケーションでは結論だけを伝えるのではなく、影響範囲優先度代替案制約条件次の打ち手をセットで提示し、合意形成を前に進めることが重要です。これにより、組織全体でのリスク認識の共有と、実行可能な対策の選択が進みます。

リスクマネジメント体系の紹介

リスクマネジメントは、組織や個人が直面するさまざまなリスクを、体系的に把握し、優先順位をつけて管理するためのアプローチです。このセクションでは、基本概念と関連用語の違いを整理します。

リスクマネジメントとは

リスクマネジメントは、リスクの特定、評価、対応を行うプロセスを指します。具体的には、事業やプロジェクトにおける潜在的な問題や不確実性を明らかにし、それらに対して最適な対策を講じることを目的としています。

ここでいう「最適」とは、リスクをゼロにすることではありません。コスト、効果、運用負荷、業務影響を踏まえ、許容可能な水準にコントロールすることを意味します。セキュリティ対策は導入した瞬間に終わりではなく、運用して初めて効果が出るため、実行と定着までを含めて考える必要があります。

リスクアセスメントとの違い

リスクアセスメントは、リスクの評価や分析を行うプロセスです。一方、リスクマネジメントは、リスクアセスメントを含む、リスクの全体的な管理プロセスを指します。つまり、リスクアセスメントはリスクマネジメントの一部として行われる活動の一つです。

評価結果をもとに、どの対策を採用し、いつまでに、誰が、どの予算で実行し、運用として定着させるかまでがリスクマネジメントの射程になります。ここまで落とし込めて初めて、リスクの「管理」が現実のものになります。

投機的リスクと純粋リスク

リスクには大きく分けて、投機的リスクと純粋リスクの2つのタイプがあります。投機的リスクは、リスクを取ることで機会や利益が生まれる可能性があるリスクを指します。たとえば、新規事業への投資や株式投資などが該当します。一方、純粋リスクは、発生した場合に損失しか生じないリスクを指します。自然災害や事故などがこのタイプに該当します。

サイバー攻撃や情報漏えいは、一般に純粋リスクとして扱われやすく、意思決定の中心は「損失の回避・低減」になります。ただし、クラウド活用やデータ連携の推進など、事業成長のための施策と表裏一体になる場面も多いため、リスクだけでなく機会も含めたバランスで説明できることが重要です。

サイバーリスクと経営層の関わり

サイバーリスクは、情報技術の進化とともに経営の重要課題になっています。経営層がどのように関与し、何を決め、何を求めるべきかは、組織の成長と信頼の維持に直結します。

経営層の対応責任と説明責任

経営層は、サイバーリスクに対する対応責任と説明責任を持っています。対応責任とは、組織が直面するサイバーリスクに対して適切な対策を講じる責任を指します。一方、説明責任は、ステークホルダーに対して、管理状況やインシデント対応を透明性をもって報告する責任を指します。経営層がこれらの責任を果たすことで、組織の信頼性を高めることができます。

リスクコミュニケーションの観点では、経営層が「重要視する指標」や「許容するリスク水準」を明確にすることが重要です。たとえば、復旧目標時間(RTO)の水準や、守るべき業務・データの優先順位が共有されると、現場の判断基準がぶれにくくなります。

サイバーレジリエンスの認識

サイバーレジリエンスとは、サイバー攻撃やインシデントが発生した際に、迅速に復旧し、事業の継続性を確保する能力を指します。経営層は、サイバーレジリエンスを高めるための取り組みを推進することが求められます。これには、定期的なリスク評価、教育訓練、インシデント対応手順の整備などが含まれます。

ポイントは「防ぐ」だけでなく、「起きたときに止めない・戻す」備えを、経営課題として捉えることです。予防策に偏りすぎると、復旧体制や連絡体制が手薄になり、結果として損失が拡大することがあります。

事業部門とサイバーリスクの関係

IT技術の進化とデジタルデータの活用は、事業の成功の鍵です。一方で、導入・活用の過程にはサイバーリスクが伴います。事業部門がこのリスクにどう向き合うかは、成長と信頼の維持に直結します。

IT技術とデジタルデータ活用の重要性

IT技術は業務効率の向上や新しいビジネスモデルの創出を可能にします。デジタルデータの活用により、顧客ニーズを的確に捉えた商品・サービスの提供ができ、競争優位性につながります。しかし、データの活用には適切な管理と保護が不可欠です。

特に、事業部門主導でSaaS導入や外部連携を進める場面では、データの所在やアクセス権限が複雑化しやすく、リスクの把握が追いつかないことがあります。まずは「どのデータが、どこにあり、誰が触れるのか」を整理するだけでも、対策の精度が上がります。

セキュリティ対策の必要性

デジタルデータの増加とIT技術の進化に伴い、サイバー攻撃の手法も日々進化しています。事業部門が取り扱うデータの機密性や完全性を保護するためには、継続的なセキュリティ対策の導入と更新が必要です。これには、定期的なリスク評価、教育訓練、セキュリティポリシーの策定などが含まれます。

実務上は、「守るべき情報の優先順位」を事業側が整理し、IT部門と共通言語で議論できる状態にしておくことが重要です。守る対象が曖昧なままでは、対策も「とりあえず全部」で膨らみ、コストと運用負荷だけが先に増えがちです。

CISO/セキュリティ統括の役割

サイバーセキュリティの重要性が高まる中、組織内でセキュリティを統括する役割として「CISO(Chief Information Security Officer)」が注目されています。CISOは、組織全体の情報セキュリティを統括し、リスクを最小限に抑えるための戦略や方針を策定する役割を担います。

組織全体のセキュリティ対策

CISOは、組織全体のセキュリティ対策をリードします。これには、セキュリティポリシーやガイドラインの策定、教育・訓練の実施、セキュリティインシデントへの対応などが含まれます。特に、組織のビジネス戦略とセキュリティ戦略を連携させることで、ビジネスの成長を支えるとともに、セキュリティリスクを管理することが求められます。

また、現場感のあるリスクコミュニケーションを設計し、「何を、誰に、どの粒度で、どの頻度で共有するか」を整えることもCISOの重要な役割です。情報が届いていない、届いても判断に使えない、という状態を減らすほど、対策は実行されやすくなります。

サイバーレジリエンス向上の取り組み

CISOはサイバーレジリエンス向上の取り組みも推進します。具体的には、定期的なリスク評価、復旧手順の策定、スタッフの教育訓練などが行われます。加えて、復旧計画が「紙の上の手順」で終わらないよう、訓練結果をもとに更新していく運用設計が欠かせません。

リスクコミュニケーションの実践

リスクコミュニケーションは、組織内外のステークホルダーとの間でリスク情報を共有し、理解を深めるプロセスです。特にサイバーセキュリティの領域では、リスクの正確な認識と、その対応の優先順位づけが求められます。

リスクと収益のバランスの取り方

ビジネス活動には常にリスクが伴いますが、それと同時に収益機会も存在します。リスクと収益のバランスを適切に取ることは、経営の鍵です。サイバーリスクの場合、過度な対策はビジネス機会を逸失する原因になり得ます。一方で、対策を怠れば大きな損失を招く可能性があります。そのため、リスクの大きさと収益の期待値を評価し、バランスのよい判断を下すことが重要です。

判断材料としては、「発生確率」「影響額」「復旧に要する時間」「対策コスト」「業務影響」といった複数軸で整理すると議論が噛み合いやすくなります。さらに、複数の対策案がある場合は「どのリスクをどれだけ下げる代わりに、何を犠牲にするか」を明確にすると、意思決定が進みます。

サイバーリスクへの共通認識の醸成

組織内でのサイバーリスクへの共通認識は、効果的なリスク管理の基盤です。すべての部門・役職がリスクの性質と影響を理解することで、組織としての対応力が向上します。具体的には、定期的な教育やワークショップを実施し、最新のリスク情報を共有することが有効です。

また、インシデント事例やヒヤリハットを「責める材料」にせず、「学ぶ材料」として共有できる文化づくりが重要です。責任追及が先に立つと、現場は隠し、共有が遅れ、結果として被害が拡大しやすくなります。

リスクコミュニケーションの具体的な手法

リスクコミュニケーションは、単に情報を伝えるだけではなく、相手の理解と行動を促すことを目的とします。そのため、伝え方の型を持っておくと、実務で再現性が上がります。

情報の可視化

複雑なリスク情報をグラフや図表で表現することで、直感的に理解しやすくなります。特にサイバーリスクのように抽象的な内容を伝える際には、可視化が有効です。可視化の際は、細かい技術指標を並べるよりも、「影響範囲」「優先順位」「時間軸(いつまでに何をするか)」が一目で伝わる構成にすると、意思決定につながりやすくなります。

シミュレーションやワークショップの活用

実際にリスクシナリオを体験することで、重要性や影響を実感できます。定期的にシミュレーションやワークショップを実施し、対応の練習を行うことで、組織の対応能力を高められます。特に、経営層・広報・法務・事業部門など複数部門が関与するインシデント対応では、机上訓練でも「連絡経路」「意思決定のタイミング」「外部説明の方針」を確認するだけで効果があります。

フィードバックの収集

リスクコミュニケーションの効果を評価し、改善するためには、ステークホルダーからのフィードバック収集が不可欠です。アンケートやインタビューで、情報の伝わり方や理解度を確認し、必要に応じて手法を見直します。フィードバックでは「分かった/分からない」だけでなく、「次に何を判断すればよいかが見えたか」を確認すると、実務に直結する改善点が見えやすくなります。

リスクコミュニケーションの障壁とその克服方法

リスクコミュニケーションには、よくあるつまずきどころがあります。障壁を前提に設計することで、伝達のロスを減らせます。

技術的な用語の過度な使用

サイバーセキュリティやリスク管理は専門用語が多く、一般の人にとって理解しにくい場合があります。この障壁を克服するには、簡単な言葉での説明や具体例が有効です。言い換えの際は、正確さを損なわない範囲で「何が起きると、誰に、どんな影響が出るか」を中心に組み立てると伝わりやすくなります。

情報の過剰

リスク情報が多すぎると、受け手は圧倒され、本質が伝わりにくくなります。情報の絞り込みとポイントの明確化が有効です。実務では、詳細資料を別添にしつつ、本文は「結論」「理由」「選択肢」「推奨」「次アクション」の順で整理すると、過剰情報を抑えつつ判断に必要な情報を残せます。

信頼性の欠如

発信者が信頼されていないと、正確な情報でも受け手に届きにくくなります。信頼性を高めるには、透明性を保ち、根拠や出典を示すことが重要です。あわせて、制約や未確定事項など都合の悪い情報も共有する姿勢が、長期的な信頼の土台になります。

感情の影響

人はリスクに対して感情的に反応し、その感情が判断を曇らせることがあります。この障壁を克服するには、感情を尊重しつつ客観的な情報提供を心がけることが求められます。たとえば現場が「また負担が増えるのか」と感じる場合、負担の増減だけでなく、守る対象や優先順位を示し、納得の筋道をつくることが有効です。

まとめ

この記事では、情報セキュリティやリスクコミュニケーション、リスクマネジメント、サイバーリスクと経営層の関わり、事業部門とサイバーリスクの関係、CISO/セキュリティ統括の役割、リスクコミュニケーションの実践、そして障壁とその克服方法について解説しました。

デジタル化が進む社会において、サイバーリスクは日常の一部になっています。それに伴い、組織や個人が直面するリスクを適切に理解し、対応するためのコミュニケーションの重要性が増しています。

リスクコミュニケーションは、単にリスクを伝えるだけでなく、受け手の理解や行動を促すための手段としても機能します。そのため、目的と相手に合わせて、適切な方法でコミュニケーションを設計することが求められます。

最後に、この記事がリスクコミュニケーションの理解や実践に役立つ情報となることを願っています。安全で安心なデジタル社会の実現に向けて、組織内外での適切な対話と改善が積み重ねられていくことが期待されます。

Q.リスクコミュニケーションとは何ですか

リスクの内容や影響、対応方針を関係者と共有し、共通理解を作るためのコミュニケーションです。

Q.情報セキュリティが経営課題と言われるのはなぜですか

インシデントが信頼失墜や事業停止などの経営リスクに直結するためです。

Q.リスクマネジメントとリスクアセスメントはどう違いますか

リスクアセスメントは評価工程で、リスクマネジメントは対応の実行や見直しまで含む全体プロセスです。

Q.サイバーレジリエンスとは何を意味しますか

攻撃や障害が起きても復旧し、事業を継続できる能力を指します。

Q.経営層に求められるサイバーリスク対応とは何ですか

対策の意思決定と、管理状況や対応を説明できる体制づくりです。

Q.事業部門がセキュリティで意識すべき点は何ですか

守るべき情報の優先順位を整理し、運用できる対策を選ぶことです。

Q.CISOは具体的に何をする役割ですか

組織全体のセキュリティ方針を統括し、経営と現場の合意形成を進める役割です。

Q.リスク情報を分かりやすく伝えるコツはありますか

影響範囲や優先度、次アクションが一目で分かる形で可視化することです。

Q.専門用語が多くて伝わらないときはどうすればよいですか

「誰にどんな影響が出るか」を中心に、平易な言葉と具体例で説明します。

Q.リスクコミュニケーションは一度やれば十分ですか

環境や脅威が変化するため、継続的に認識を更新し続けることが重要です。

記事を書いた人

ソリトンシステムズ・マーケティングチーム