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ゼロトラストとは?意味・考え方・必要性をわかりやすく解説|導入の進め方と注意点

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目次

ゼロトラストとは、社内ネットワークにいることやVPN接続済みであることを安全の前提にせず、アクセス要求ごとに利用者、端末、権限、利用状況を確認して可否を決める考え方です。特定の製品名ではなく、認証、端末管理、権限管理、監視を組み合わせて運用する設計思想として扱います。

要点は三つあります。第一に、社内か社外かではなく条件で判断すること。第二に、許可する範囲を必要最小限まで絞ること。第三に、侵害や誤操作は起こり得る前提で、横展開を抑え、早く検知できる状態を作ることです。クラウド利用、テレワーク、委託先連携が増えた環境では、この発想のほうが実態に合いやすくなります。

ゼロトラストとは

NIST SP 800-207では、ゼロトラストを「信頼を暗黙に与えず、継続的に評価する」考え方として整理しています。ネットワークの内側にいるから安全、社給端末だから安全、VPNに入ったから安全、といった固定条件を信頼の根拠にしない点が中核です。

そのため、ゼロトラストは「何か一つ導入すれば完成する仕組み」ではありません。アクセス判断に使う材料を集め、その判断を実行し、例外や変更を運用で管理する枠組みです。認証基盤、端末状態の把握、権限設計、ログ監視のどれか一つだけでは成立しません。

歴史的な位置づけ

一般にゼロトラストという名称は、Forresterが2009年に提示したモデルに由来すると整理されます。その後、GoogleのBeyondCorpは、社内ネットワークへの接続を前提にしない運用例として参照されることが増えました。さらにNIST SP 800-207が公開され、製品名ではなくアーキテクチャとして議論する土台が整いました。

境界型セキュリティとの違い

従来の境界型セキュリティは、社内ネットワークを比較的安全、社外を危険とみなし、境界で守る考え方です。この方式は、業務システムが社内に集まり、働く場所も端末も比較的そろっていた時代には機能しやすい設計でした。

一方、現在はSaaSやIaaSの利用、委託先からの接続、BYOD、モバイル端末の利用によって、境界だけで安全性を判断しにくくなっています。ゼロトラストは、場所よりも「誰が」「どの端末で」「どの権限で」「何にアクセスするか」を基準にするため、業務の実態と合わせやすい構成です。

ただし、ゼロトラストはネットワーク対策を不要にする考え方ではありません。ネットワークは引き続き重要ですが、信頼の根拠ではなく、通信制御と可視化の基盤として位置づけ直されます。

なぜゼロトラストが必要なのか

認証情報の侵害が直接被害につながりやすい

クラウド利用が増えるほど、攻撃者はネットワーク機器の突破だけでなく、IDと認証情報の窃取を狙います。アカウントが侵害されたときに被害を抑えるには、MFAで本人確認を強化するだけでなく、到達できる範囲を絞り、異常な操作を監視する必要があります。

利用端末と利用場所が多様化している

在宅勤務、出張先、委託先、スマートフォン、私物端末など、利用条件はばらつきます。社内からの接続かどうかだけで判定すると、実態とずれやすくなります。ゼロトラストでは、端末が管理下にあるか、更新されているか、危険な挙動が出ていないかといった条件を判断材料にできます。

内部不正や誤操作も前提に置く必要がある

悪意のある持ち出しだけでなく、共有設定の誤りや権限の付け過ぎでも被害は起こります。そこで、最小特権の原則、分離、監視を組み合わせ、事故が起きても影響を広げにくい設計にしておく考え方が重要になります。

ゼロトラストが向いている場面と、進め方を誤りやすい場面

ゼロトラストを検討しやすいのは、SaaS利用が多い、社外からの接続が多い、委託先やグループ会社との連携がある、特権操作や機密データの保護を見直したい、といった場面です。境界だけで統制しにくい環境ほど、条件ベースの判断へ移した効果が出やすくなります。

逆に、進め方を誤りやすいのは、守る対象の整理なしに製品比較から始める場合です。認証基盤だけ先に入れても、権限が過剰なままなら被害範囲は残ります。ログを集めても、監視担当と対応手順がなければ改善にはつながりません。ゼロトラストは「全部を一度に入れる計画」より、「どこから管理可能な状態へ変えるか」を決める計画のほうが実行しやすくなります。

ゼロトラストで確認する主な判断材料

ゼロトラストでは、ログイン成功だけで許可を確定させません。アクセス判断では、少なくとも次のような材料を組み合わせます。

  • 利用者本人であることを示す認証条件
  • 端末が管理下にあり、暗号化や更新などの基準を満たしているか
  • アクセス先が一般業務用か、管理画面か、機密データを含むか
  • 操作が通常の利用傾向から大きく外れていないか
  • 例外を認める場合、その理由、範囲、期限が定義されているか

この「材料をどう集め、どう判定し、どう例外管理するか」が設計の中心です。製品カテゴリの名前だけ先に並べると、導入したのに判断が設計されていない状態に陥りやすくなります。

関連用語との違い

IDaaS・IAM・SSO・MFAの違い

IDaaSは、認証やSSO、アカウント連携をクラウドで提供する仕組みです。IAMは、認証だけでなく、権限の付与・変更・剥奪まで含めた管理の考え方を指します。MFAは、その中で本人確認を強化する要素です。つまり、IDaaSは実装手段、IAMは管理の枠組み、MFAは認証強化の方法として整理すると混同しにくくなります。

ZTNAとVPNの違い

ZTNAは、条件を満たした利用者と端末を、必要なアプリケーションやリソースへ個別に到達させる構成を取りやすい仕組みです。これに対し、VPNはネットワークへ接続させる発想になりやすく、設計によっては接続後の到達範囲が広くなります。VPNが直ちに不適切という意味ではありませんが、ゼロトラストの文脈では、到達単位を細かくしやすいZTNAが比較対象として挙がりやすくなります。

SASEとの違い

SASEは、ネットワーク機能とセキュリティ機能をクラウド側で統合して提供する考え方です。ゼロトラストはアクセス判断の原則であり、SASEはその実装を進める際に採用される構成の一つです。同じ言葉として扱うと話がずれるため、原則と実装方式を分けて理解したほうが整理しやすくなります。

ゼロトラストを支える代表的なソリューション

ゼロトラストは単体製品ではないため、役割ごとに必要な部品を選びます。代表例を役割別にまとめると次のようになります。

  • 認証とアクセス制御:IDaaS、IAM、SSO、MFA、ZTNA
  • 端末状態の把握:MDMEDREPP
  • クラウド設定と権限の点検:CSPMCIEM
  • 利用中の制御:CASBDLP
  • 監視と対応:SIEMSOCMDRSOAR

重要なのは、これらを全部そろえることではなく、自組織で何を判断したいのかを先に決めることです。たとえば、SaaSの利用統制が課題ならCASBやDLPの優先度が上がり、クラウド権限の肥大化が問題ならCIEMの優先度が上がります。

ゼロトラストのメリット

クラウド前提の業務と合わせやすい

場所に依存した例外を減らしやすくなり、在宅勤務と出社、社給端末と持ち込み端末、SaaSと社内システムといった違いを、同じ判断枠組みで扱いやすくなります。

侵害時の影響を広げにくい

認証強化、最小権限、分離、監視を組み合わせることで、一つのアカウント侵害や設定ミスがそのまま全体被害につながる状況を減らしやすくなります。

許可の根拠を説明しやすい

どの条件で許可したかをポリシーとログで追いやすくなるため、監査、事故調査、ルール見直しで説明しやすくなります。属人的な例外運用を減らしたい組織では、この点も大きな利点になります。

ゼロトラストのデメリットと注意点

設計と運用の負荷が大きい

ゼロトラストは、製品導入よりも設計と運用に工数がかかります。守る対象の整理、権限の棚卸し、例外管理、ログ監視の流れが曖昧なままだと、導入後に整合が崩れやすくなります。

認証強化だけ先に進めると反発が起きやすい

SSOやMFAだけを急いで導入し、権限整理や例外管理が後回しになると、利用者の負担だけが先に増えることがあります。共有アカウントの再利用やローカル保存など、回避行動が広がると本来の狙いから外れます。

ログを集めても対応できなければ意味が薄い

監視対象を広げるほどログ量は増えます。重要イベントを決めずに集め続けると、見えているのに対応できない状態に陥ります。優先度の高い操作から監視基準を作る進め方のほうが安定しやすくなります。

どこから始めるべきか

最初の着手点として選ばれやすいのは、認証統合、権限棚卸し、端末管理の三つです。特に、外部公開のSaaS利用が多い組織では、IDまわりから整えると効果が見えやすくなります。

  1. 重要なデータ、システム、管理画面を洗い出す
  2. 誰が、どこから、何を使うのかを整理する
  3. SSOとMFAで認証経路を集約する
  4. 権限を棚卸しし、過剰権限を減らす
  5. 端末状態を把握できる最低限の基準を作る
  6. 例外に期限、理由、承認者を付けて管理する
  7. 重要イベントから監視を始め、段階的に広げる

全社一斉に理想形を目指すより、効果が見えやすい範囲から始め、運用として維持できる形を作ってから広げたほうが失敗しにくくなります。

まとめ

ゼロトラストは、ネットワークの内外を基準に安全性を決めるのではなく、アクセス要求ごとに条件を確認して判断する設計思想です。クラウド利用、テレワーク、委託先接続が増えた環境では、この考え方のほうが実態に合いやすくなります。

ただし、ゼロトラストは製品名ではなく運用の枠組みです。認証、権限、端末、監視をばらばらに導入しても、判断条件と例外管理が設計されていなければ形だけに終わります。導入時は「何を入れるか」よりも、「何を材料に、どの条件なら許可し、例外をどう見直すか」を先に言語化したほうが、後の運用が安定しやすくなります。

FAQ:ゼロトラストの基礎と進め方

Q.ゼロトラストとは何ですか?

A.ゼロトラストは、アクセス要求ごとに利用者、端末、権限、利用状況を確認し、必要最小限の範囲だけ許可する考え方です。社内外という場所を安全性の根拠にしません。

Q.境界型セキュリティと何が違うのですか?

A.境界型は社内と社外を分けて境界で守る考え方です。ゼロトラストは場所ではなく条件で判断し、アクセス要求ごとに可否を決めます。

Q.ゼロトラストは製品を一つ導入すれば実現できますか?

A.できません。認証、権限管理、端末管理、監視を組み合わせ、例外も含めて運用する設計思想として扱います。

Q.ゼロトラストでは何を確認するのですか?

A.ID、端末状態、アクセス先の重要度、利用状況、例外条件の有無などを判断材料にします。ログイン成功だけで判断を終えない点が特徴です。

Q.IDaaSとIAMはどう違いますか?

A.IDaaSは認証やSSOを提供する実装手段です。IAMは権限の付与・変更・剥奪まで含めた管理の枠組みです。

Q.MFAはなぜ重要なのですか?

A.認証情報が漏れた場合でも、追加要素で本人確認を強化しやすくなるためです。ただし、MFAだけで到達範囲や権限管理の問題までは解決しません。

Q.ZTNAとVPNはどう違いますか?

A.ZTNAは必要な対象へ個別に到達させやすく、VPNはネットワークへ接続させる発想になりやすい仕組みです。設計次第ですが、ゼロトラストではZTNAが比較対象として挙がりやすくなります。

Q.SASEとゼロトラストは同じ意味ですか?

A.同じではありません。ゼロトラストはアクセス判断の原則で、SASEはネットワーク機能とセキュリティ機能を統合して提供する構成の考え方です。

Q.導入で失敗しやすいのはどんなパターンですか?

A.認証強化だけを急ぎ、権限整理、例外管理、ログ運用が追いつかない状態です。利用者の負担だけが増えると回避行動が広がりやすくなります。

Q.最初に着手しやすい領域はどこですか?

A.認証経路の集約、権限棚卸し、端末管理の整備は着手しやすい領域です。重要システムと重要データを先に絞ると、優先順位も決めやすくなります。

記事を書いた人

ソリトンシステムズ・マーケティングチーム